29 アイナ、夢を見る
本日も2話投稿です!こちらは1話目です。
「私たちが狙われてる可能性があるですって!?」
アレスとネネが、ミリアナ姫とマリウス王子に「魔物寄せ」と思われる魔道具を発見したことを伝えた。魔物の襲撃に見せかけて、二人のいずれか、または両方を亡き者にしようと誰かが画策したのかも知れない。そう言ったアレスの言葉にミリアナが鼻息を荒くした。
「何という不敬! お父様に言い付けてやりますわ!」
地竜との戦闘の後ずっと馬車に閉じ込められ、ようやく外でのびのび出来ると思った矢先に聞かされた気分の悪い話。温室育ちのミリアナは、王族を狙う不届き者がいるなど考えたこともなかった。
ガルシア王には後で思う存分言い付けてくれ。アレスはそう思いながら話を続けた。
「今は犯人探しをしている場合じゃない。生きて森を抜けることだけを考えなきゃならない」
「っ!?」
アレスの言葉に、ミリアナにも事態の深刻さがじわじわと伝わってくる。
「この先さらに森が深くなる。今までよりも危険な状況になるかも知れない」
ウラヌス大森林では森の中心部付近に最も強力な魔物が生息している。それらが人を襲うことは滅多にないが、魔道具で道の近くに誘き寄せられていれば戦闘は避けられないだろう。
「ミリアナ様、マリウス様。お二人とも、アイナの力は理解されたと思います。この先はアイナの力がなくては全滅も免れません」
そうネネに言われた二人が、少し離れた所で仲間と共にいるアイナをちらりと見る。そしてネネに向き直り頷いた。
「魔物寄せは馬車で二時間おきくらいの距離に埋められているようです。本来、この森は昼夜を問わず走り続け、一刻も早く抜けるのが良いとされていますが、これから先は敢えてゆっくりと進みます。戦闘の合間に休憩を挟み、アイナの魔力を回復させます」
今、『銀獅子団』の最大火力はアイナである。そのスキルから繰り出される攻撃は、数が多い相手を倒すのに最適だった。しかし、威力が半端ない分魔力の消費も半端ないのだ。もし戦闘の途中でアイナが魔力切れを起こしたら、かなりの苦戦を強いられる。護衛対象の二人を守り切れないかも知れない。
魔力は時間が経てば自然に回復するが、眠っている間が最も効率よく回復する。
この旅に出る前の実験で、アイナが一度の戦闘で『神の怒り』や『地獄の炎』を放てるのは二発が限界だった。つまり、一発放つと魔力の約半分を消費していることになる。魔力は三時間ほど眠ると八割回復すると言われている。ちなみに全回復には六時間以上の睡眠が必要だ。
戦闘の合間に三時間眠ることが出来れば、魔力は九割まで回復する計算になる。これはアイナがギリギリ二発放てる魔力量だとネネは考えている。二発目は威力が落ちるかも知れない。
今発現している派生スキルの『降臨』や『終焉』はさらに威力が高いのだが、一発でほぼ全ての魔力を消費するほどだ。連戦となる今の状況には向かなかった。
ネネが『叡智』を使って立てた、生存率が最も高い作戦。それは、この場にいる一番年下の少女に頼ったものだった。そのことに、ネネの小さな胸が大いに痛む。心から愛しているアイナに無理をさせることに。
「……僕のせい、かも知れません」
それまで黙っていたマリウスが小さな声で呟き、それにアレスが反応する。
「マリウス、確証があるのかい?」
「いえ。ただ、噂を聞いたことがあります。ただの噂だと思っていたのですが」
「なら、今は考えなくていい。責任や罪悪感を感じるのも後回しだ。そもそもそんなもの感じる必要もないが。とにかく、今は生き抜くために出来ることをしよう」
アレスがマリウスの肩を叩く。それにマリウスは「はいっ」と応じた。
焚き火を囲み、モニカの膝枕でアイナが横向きに眠っていた。モニカはアイナの銀髪を撫でてご満悦である。キュイックはアイナの胸元で丸くなっていた。
アイナはネネから作戦を聞いていた。アイナ以外の全員がその作戦を聞いて眉をしかめた。作戦を立てた本人のネネも心苦しそうだった。
しかし、アイナは嬉しかった。だから素直にそうみんなに伝えた。
二年以上前、ニーズヘッグ・ダンジョンで出逢ってから、アイナはいつかみんなの役に立ちたいと思い続けていた。『銀獅子団』のみんながいなかったら、自分がどうなっていたか分からない。それだけでなく、みんなのことが大好きになったからだ。
一方『銀獅子団』もこれまでずっとアイナに助けられてきたのだ。彼らにとっても、アイナは欠かすことの出来ない存在だった。それは出逢ってからずっとそうなのだ。いつの間にか、アイナが『銀獅子団』の中心になり、冒険者の集まりから「家族」へと変化したのだった。
アイナはもう、ただ守るべき小さな女の子ではない。大切な仲間であり家族だからこそ、その力を認めて頼ってもいいのだ。アレス、ヒューイ、ネネ、モニカ、ペネドラの五人はそれに気付かされた。アイナの言葉で『銀獅子団』はこれまでより数段強くなった。
ネネから作戦を告げられたアイナはこう言ったのだ。「私も『銀獅子団』の一員。だからみんなの役に立ちたい」と。
眠りこけるアイナをアレスが抱きかかえ、馬車の座席に横たえる。向かい側の座席にモニカ、ネネ、ペネドラの三人が座る。キュイックは相変わらずアイナの胸元で丸くなっていた。三人はアイナの寝顔を見てほわわわんと癒されていた。もっと座席に奥行があったら、誰が添い寝するかで血を見たかも知れない。
アイナは夢を見ていた。
『銀獅子団』の五人がいた。今の屋敷よりもずっと小さな家でテーブルについて楽しそうに笑っている。みんなが優しい笑顔でアイナを見ている。みんなが幸せそうだからアイナも自然と笑顔になる。
奥の部屋から男女が現れた。男の方は顔が陰になって見えない。女の方は誰だかすぐに分かった。今では顔もおぼろげになったお母さんだ。だとすれば、男の方はきっとお父さんだろう。
二人から、とても温かい雰囲気を感じる。『銀獅子団』のみんなに囲まれて幸せそうなアイナを見て、とても喜んでくれていることが伝わってくる。アイナの目から涙が零れる。
『アイ――よか――だいじょう――が――からね』
途切れ途切れの声が聞こえた。それは、とても若い――いや、小さな男の子のような声だった。知らない声なのに、初めてじゃない気がする。
『――イナ、ぼく――らず――んして――』
なんだか安心する声。ちゃんと聞き取れないのがもどかしい。
『アイナ――』
アイナは「はっ!」と目を覚ました。
「アイナっ! 大丈夫?」
目の前にモニカの顔がある。その隣でネネとペネドラが心配そうにこちらを見ていた。
「あ、あれっ?」
「もう、心配したわよ。寝ながら泣いてたから」
「ほんとっすよ」
「ん。悲しい夢?」
「ううん。とってもいい夢だった」
「ん……なら良かった」
アイナが身を起こし、三人が座席に座り直したとき、御者席のアレスから声が掛かった。
「来たぞ。準備してくれ」
馬車が停まると同時に、中にいた四人が外に飛び出す。御者席の二人も飛び降りた。その目には、数百メートル先で完全に道を塞いでいる、小山のような何かが見えていた。
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