28 陰謀
こちらは本日2話投稿の2話目になります。
真っ白に光る輪はあっという間に大きくなり、森を真昼のように照らす。突然の眩しさに戸惑い、こちらに迫る足を止めたオーガの群れが眩しそうに天を仰ぐと――
「ドオォォォォォォォォ!」
轟音を伴って上空の輪から光の奔流が地面に降り注いだ。それはただの光ではない。光の粒子一粒一粒が信じられない程の質量を持っていた。
まるで星が落ちて来たかのような圧倒的重量に、巨体を誇るオーガと言えども抗う術もなく瞬時に圧し潰される。光の奔流が容赦なくオーガもろとも地面を抉っていく。それは五秒ほどで収まった。地面には直径十五メートル、深さ二十メートルの穴が出来ていた。その範囲にいたオーガは跡形もない。
光の境い目にいた数匹のオーガは、身体の一部や半分以上を失っていた。光の奔流が収まると同時に地面に崩れ落ちる。その範囲外にいた五匹のオーガはその場に立ちすくんでいた。
隙だらけのオーガを見逃す筈がない。ペネドラとヒューイは左右に分かれ、それぞれの武器を揮う。ペネドラが拳につけたナックルを顔面に叩き込むと、オーガの頭が爆発したように爆ぜる。ヒューイは二本のショートソードを左右に振り抜き、オーガの首を刎ねる。残ったオーガはわずか一分ほどで倒された。
馬車の前に立ち塞がった三十匹のオーガは、戦闘が始まって二分もかからず殲滅された。
後方から迫って来ていた二十匹のオーガは、ネネが雷撃槍で先制し、それで倒しきれなかったやつをアレスとモニカが片付けていた。こちらも三分もかかっていなかった。
「アイナ、大丈夫だった?」
後方からモニカが駆け寄って来る。その後ろから、周囲を警戒しながらアレスとネネが付いて来た。真ん中の馬車を守っていた騎士たちが、ほぅっ、と安堵の息を吐いている。
「モニカお姉ちゃん……やっちゃった……」
アイナは、自分の目の前に出来た大穴を呆然と見ていた。道の幅いっぱいに広がる深い穴。これでは馬車が通れない……
「ん、大丈夫。これくらいなら土魔法で――」
言いかけたネネが穴の縁に転がっている物に目を留めた。
「ん……?」
両手の掌くらいの大きさで、金属のようなもので出来た円盤状の物体。真ん中には透明な丸い石が嵌め込まれている。全体がひしゃげているため石はひび割れていた。
「ネネ、それが何か分かるのか?」
「んー、実物を見たことがないから確かじゃない。けど、多分『魔物寄せ』の魔道具だと思う」
「それがっ!? さっき言ってたやつ?」
円盤状の物体を拾い上げたアレスとネネの所にモニカもやって来た。アイナ、ペネドラ、ヒューイも集まる。
「魔道具か……問題は、誰が誰を狙って仕掛けたか、だな」
アレスがミリアナとマリウスが乗る馬車を見ながら口にした。『銀獅子団』を狙った可能性もない訳ではないが、それよりも、二人の王族のどちらか、または両方が狙われたと考える方が自然だろう。
「これが一定の間隔で埋められているんだと思う」
ネネの言葉に一同が頷く。魔物は魔物同士でも争う。むしろ人間を襲うよりそちらの方が頻繁だ。離れた間隔で魔物寄せを使えば、そこに集まった魔物の中でより強い力を持つものが残り、そこに縄張りを作る。『銀獅子団』一行は、意図的に作られた強力な魔物の縄張りに突っ込んでいたのだ。ここまで六回も。
「この先にもある、と考えた方が良いんだろうな……」
「ん、当然。それに引き返すのも危険」
これまで通ってきた道に魔物寄せが残されているなら、既に新たな魔物が集まってきているだろう。まだ縄張りは形成されず、魔物同士が争っている最中かも知れないが、危険度は変わらない。
「逆に考えれば、魔物寄せが設置されていない区間は比較的安全とも言えるな」
「そうだな。んじゃ、一時間ほど先に進んで、一旦休憩にすっか!」
強力な魔物の縄張りには、他の魔物は迂闊に近付かない。ここにいたオーガの縄張りはなくなったので、次の縄張りに近付いた方がより安全と判断した。
出発の前に、発見した他に魔物寄せがないか、アレスが『心眼』で調べる。魔素が濃いこの森の中では、そうと知らなければ発見は難しかっただろう。先程見付けた場所の反対側に、無傷の魔物寄せが埋まっているのを見付けた。地面から妙な気が立ち昇っているのに気付いたのだ。
掘り返してみると、完全な円盤状で、真ん中の石がほのかに光っている状態だった。ヒューイがナイフの先を使って石を取り外す。すると石の光が消えた。
「これで効果が消えた、はずだよな?」
ヒューイの問いにネネが頷く。アレスも『心眼』で見て、湯気のように立ち昇っていた気が消えたのを確認した。
馬車の外にいた騎士たちに簡単に状況を説明し、休憩の際に二人の王族に詳しく話すことにする。ネネが土魔法で大穴を修復し、一行はその場から出発した。
* * * * * * * *
アンドール侯爵は貴族街の中心部にある「サロン」の一室に来ていた。ここは王族や貴族が他に知られたくない会合を秘密裏に行う場所。どんな話がされたのかはもちろん、ここに誰が来て誰と会ったのか、その一切が外に漏れる心配はない。高い会費を払う必要があるが、それに見合う価値はある。
「それで、首尾の方は?」
目の前に座る人物が焦れたように問うた。
「はっ。護衛にはまた『銀獅子団』がついたようですが、今回は前の三倍の数を設置しております。『銀獅子団』と言えどもさすがに守り切ることは不可能かと」
「証拠は残してないな?」
「もちろんでございます。あの魔道具は何人もの手を経て仕入れました。関わった者も既にこの世に居りません」
「そうか。森の中で不幸に見舞われるのは致し方ないこと。姫には悪いが、大義には犠牲が付き物であるしな」
「左様でございます。万が一森を抜けることが出来たとしても、奴らを控えさせて居ります故、心配はご無用かと」
「うむ。無傷で森を抜けることなど不可能。万が一抜けても、満身創痍で疲れ果てた所を奴らにとどめを刺させる、ということだな」
「はい。彼らがキルアの街に辿り着くことはございません」
「それを聞いて安心した。後は任せたぞ」
そう言って目の前の人物は部屋を後にした。アンドール侯爵はしばらくしてから出るつもりだ。一人残された部屋で、侯爵はワインを傾けながらほくそ笑む。
(あと一歩で我がアンドール家も安泰だな)
随分と骨を折り金も遣ったが、後々十分な見返りが見込める。しかし、もし失敗すれば全ての責任を負わされるだろう。アンドール侯爵がこれほどまでに危険な橋を渡るのは、決定的な弱みを握られているからだった。
失敗は許されない。今度こそ、マリウス第四王子には死んでいただかなくては。
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