星空同盟
その30
星空同盟
星空同盟
まず最初に船体が大きく傾き俺達は船外に吹き飛ばされた、半ば宙に浮いている形となっているミライは影響を受けない形。
白い空間の地面に転がりながら、ミライの駆けるアルゴ号を見据える。
大型ヨットくらいの大きさはあるのだろうか、車だったら四トントラックよりやや大きいくらいだろうか。
地面に着水しているうように、アルゴ号は船体を浮かばせている。
地面に対して着水とはこれいいかにといった感じだけど、今更になってこんなところでそんな矛盾にツッコミを入れている場合ではない。
ミライと戦う事になるのは、むしろ当初の目的だったのだから覚悟していたけど、まさかよりによって船そのものと戦うという事までは考えていなかった。
とはいえ、この状況は考えてみれば悪い方ばかりではない。
ミライが正気を失ってしまった以上、東や加々美ちゃんとも一緒に戦える。
文字通りに規格外の相手と戦うにあたって、東の頭脳から思い浮かぶであろう作戦は的確にアルゴ号の弱点を見いだすはずだ。
「これはさすがの僕も想定してなかった、どうやって戦えばいいんだこれ?」
最後の最後で役にたたない細い体の中年がそこには居た。
困った事に東は嘘をつかないのだから、この途方の暮れ方も演技じゃないはずだ。
「リゲエエエエエエエエエエル!!!!」
考えあぐねている俺と東を尻目に、お馴染みのあさぎの雄叫びが響く。
この状況でこの判断は愚かを通りこして、勇ましい通り越して、神がかった判断だ。
「キィィィィィィィィィィック!!!!」
そして船の横っ腹めがけてキック!
そして慣性の法則によって吹き飛ばされるあさぎ。
いや、まぁそりゃそうなるわな。
「くそう! 何てこった!」
見事に着地を決めるけれど、どうやら今の結果は予想していなかった。
そうだ、この娘っ子から学ぶ事が多かったからついうっかり忘れてたけど、基本的にあさぎはアホの子だったんだ。
それともう一つ忘れてた、さっきの東の時はともかく俺達は俺が考えてあさぎが動くっていうスタンスで戦っていたんだ。
一人で戦うってわけじゃないんだ、これはそれも学ぶ戦いでもあったんだ。
ならこれもまた縮図だ、強大な力を持ってしても一人で戦うミライに対して、俺達はこの場にいる全員が協力できるのだから。
「そうだ! 加々美ちゃん。召還ってまだできるの?」
俺の質問に加々美ちゃんは答える。
「できますけど、データとしてはミライちゃんが持っているんです。それを呼び出すってなると数が膨大なんですよ。この戦いだけじゃなくて今までに亡くなった方の分が全部あるみたいで。せめて、検索する手だてがあれば」
「俺の端末を介して検索とかできないかな?」
「つまり出会った情報を元にって事ですか? 時間はかかるけどできると思います!」
「じゃあ、それで! ケバルライ!」
とりあえずあさぎを強化して、俺は加々美ちゃんに端末を投げ渡す。
「誰を呼び出せばいいんですか?」
「とにかく、俺の端末に入ってるデータで目についた奴を!」
「結構無茶な要求ですよそれ!」
そしてそれと同時にアルゴ号が動き出す。
速度としては四十キロはでているだろうか、船体が大きいから速度を感じないが、船として考えるならかなりの速度だ。
そしてこんな物にぶつかられたらそれだけでアウトだ。
そもそも、これが動き出した時点でこちらからの攻撃もままならないんじゃないか。
上にいるミライに攻撃さえできれば。
いや、ミライを倒してしまってもやはり問題だ。
とにかくこのアルゴ号の攻略を……。
考えを巡らせているところに、アルゴ号の側面にいくつも穴が開く。
その穴からは筒上の物が姿を覗かせて……って大砲だ!
ドンという鈍い音とともに大砲が火を吹く。
実弾ではなく、ドッジボールくらいの大きさの光の玉だった。
かなりの速度で飛んでくるそれを俺は避ける事ができず、顔面に直撃してしまう。
「うがっ!」
直撃と同時に爆ぜた光の玉、結構な衝撃ではあったけどなんとか倒れずに踏ん張る。
即死級の攻撃ではないのが幸いだろうか、それでも砲頭は十門以上あるし、片側にだけという事もないだろうから側面からの攻撃は難しくなったか。
そして船の移動のおかげで、その船体に阻まれてあさぎと東と分断されてしまう。
さらに砲撃は続く。
「危ない!」
よりにもよって加々美ちゃんに砲撃が向いてしまい、その弾丸から加々美ちゃんを庇った。
「千鶴さん!」
「くっそ……大丈夫か!」
「私は大丈夫ですけど……」
「早く援軍を!」
現状では援軍くらいしか、このアルゴ号に勝つビジョンは浮かばない。
ってかアルゴ号って大砲なんてうつ機能がついてたのか?
確か大冒険を繰り広げた船ってくらいは調べたから知ってるけど、海戦まで想定していたとは。
いや、今そんな事を考えてもしょうがない。
すると、俺の目の前に二つの和が浮かんでくる。
誰かの転送が始まった、誰が現れるのか。
「あれっ、何だよコレ!? 何なんだよコレ?」
「あら……また、合う事になるとはね」
現れたのは水島と土田だった。
この状況でも落ち着いている水島は相変わらず、もっとも水島はこのミライの空間に着た事があるからかもしれないが。
いや、でも死んだっていう記憶があるはずなのにこの落ち着きはどうなんだろうか。
「マジ何だよ、ってかあれなんだよ! ふざけんなよ!」
土田も相変わらずのようで何より。
「ぎゃあああ!」
狼狽する土田に光の玉が当たる。
「痛い……! 痛ぇよぅ……!」
土田は顔を押さえてうずくまってしまい。
「ぴっ!」
直後、短い悲鳴をあげてアルゴ号に潰されてしまった。
やはり、あの船体の進行に巻き込まれては命は無いっていう事だな。
ありがとう、その事実を体を張って教えてくれた土田というデッカイ男がいた事を俺は忘れないよ。
「あれってあの子の船よね。何が起きたかは知らないけれど、ふーん。あの子も良いように不幸になってるみたいね。最もあの子の場合は最初から不幸だったのかしら?」
嬉しそうに水島はそう言う。
「それでどうするの?」
「決まってる、ミライを助けるんですよ」
「そう、頑張って。残念だけど私は力になれそうにないわ」
ですよねー。
「痛ぇ! 近づけねぇ!」
向こうからあさぎの苛立った声が聞こえてくる。
思えばこの戦いの参加者で敗北した人を呼び出すって事だよな。ならば現状を打破する事ができる参加者なんていないのじゃないか。
天童さんがパッと頭に浮かんだけど、天童さんは敗北者ではないから呼び出せない。
そもそも、この呼び出しも自由に呼び出しって事ってわけじゃない。
もしかして、この戦いで出会った順番なんだろうか。
思い出せ、なら次に出てくるのは。
考えている間に、再び光球が飛んでくる。
「ラス・アルゲティ!」
その光の球を幼い拳が弾き飛ばした。
「必殺! 天元突パンチ!!」
そして青い巨大なドリルがガリガリとアルゴ号の船体に傷をつけた。
そう、ほとんど同時に出会った二人。
「健太君! ハチ!」
「これと戦えばいいんだよね、それともう一度会えて嬉しいよ!」
「私は本当は出てきちゃいけないんだけどね。ま、二人は気に入ってるし、それに可愛い妹のために戦ってくれてるんだからね」
そう言うハチは以前の黒い服ではなく、白と青を基調にした爽やかな服を着ていた。
その配色はまるで。
「ま、あと一発くらいはお父様も許してくれるでしょ。そういえばこの英雄王の戦いを目にするのは千鶴は初めてよね」
「お前、キンピカだったのか!」
「何よ、いい展開なんだからツッコミとか止めてカッコいい台詞にしてよっと!」
青と白のドリルは再びアルゴ号の船体に大きく傷をつける。
それと同時に心なしか、アルゴ号のスピードが遅くなったようだった。
「じゃ、私ができる事はここまで。最後にはかっこよく締めるのよ」
言ってハチは最初から呼び出されていなかったかのようにスッと消えてしまう。
感謝するしかない、本来ならここまで対等の立場の存在が関わってはいけない事だろうに。
「健太君、さっきみたいに球を弾けるかい?」
「大丈夫だと思う、じゃあ加々美ちゃんを守ってあげて。俺はちょっとやる事がある」
そう言って俺は走り出す。
呼び出される順番が、俺達の出会った順番で正しいというのなら、次はあの二人が来るはずだ。
それならミライに届くはずだ。
大周りで船を避けてあさぎのところにたどり着く。
先ほど俺が加々美ちゃんを庇ったように、そこには東があさぎを庇っていてくれていた。
「ちくしょう、さっきよりは遅くなった気がするけど。今の状態でも蹴りをきめても効かなそうなんだけど。何か良い案は浮かんだ!?」
「ああ、あるぜ。次の助っ人が来れば解決する」
「助っ人?」
噂をすれば影。
事実、影があさぎを覆った。
「お待たせしました」
空を駆ける天馬。
それに跨った、俺達が仲間として共に戦うと誓った存在、そしてそれはついぞ叶う事は無く、無いであろうと思ったが。
「つくしちゃん!」
「あさぎさん、ペガサスに乗せるって約束、今頃になっちゃってごめんなさい」
「そんな事いいのよ!」
目に涙を浮かべながらあさぎはその再会に涙を堪えていた。
「アレを倒せばいいんスよね、わかりやすいじゃないですか!」
「そう、しかも言うなれば悪い存在に少女が操られてるって感じな設定が近いかな」
「マジすか!じゃあ、俺達って完璧に正義の味方じゃないっすか!」
「だぜ、だから気合いを入れてくれよ。當麻君!」
早々に脱落してしまった當麻君もかけつけてくれた、西村さんと一緒に戦おうって言った事が昨日の事のように思い出される。
それにそこまで昔って事もないのだしな、そう考えると実に濃い時間だったんだろうな。
こういった日々の積み重ねが、先を示すのだ、未来を作っていくのだ。
「じゃあ、やらないと!せっかくだしやりましょうよ!」
當麻君が生き生きとした顔を見せ、そういう事にだけは察しが良いあさぎは『やろうやろう!』と促す。
正直、俺と西村さんは乗り気じゃないのだけど……。
「どうする西村さん?」
「四人でやる最初で最後だと思えば……」
じゃあ、まぁ。
しょうがないな、つき合うか。
ミライもこういうの好きそうだしな、よく見ておけよ。
帰ってきたぜコンチクショウ!
「「「「星空同盟参上!!!!」」」」
最初で最後の正義チームの名乗り向上を終えると、西村さんの許可も待たずにあさぎはペガサスの背に飛び乗った。
「ちょっと上の様子を見てくる」
「頼んだぜ!」
宙を舞うペガサスを目で追いながら、アルゴ号の進路を考える。
上空は攻撃が届かないとはいえ、この船をどうにかしないといけないという問題は未だに残っているのだ。
「アンタレス!」
すると當麻君が呪文をアルゴ号にかける。
するとどうだろう、さらにアルゴ号の速度が遅くなったではないか。
「船にも毒って効くんすね!」
「お前も驚くのかよ!」
ツッコミをいれたものの、毒はどちらかというとミライにかかって、そのミライの操る船に影響が出ているって事なんだろうな。
そして弱ったからだからか、ハチのドリルで削った痕に明滅する赤い光が見えるようになった。
船の傷の奥は黒くて見えなかったのだが、それは光の加減ではなく、どうやらミライの背中から吹き出した黒い何かと同じ類の物のようだ。
「千鶴ー! 聞こえるー!」
「何だー!」
「船の船室みたいなとこが赤く光ってんだけど?」
やはりか、都合よく考えれば船の心臓ってところなんだけど。
いや、きっとそうだ。
マンガやアニメが大好きなミライが、こういった弱点をつけておかないはずがない。
「そこが弱点だ、あさぎいけるか!」
「ダメ、まだちょっと速すぎる」
あさぎの言葉に呼応するように、一つの呪文が船の前に板となって衝突する。
「プレセペ!」
それは名前も知らない小学生女子だった。
幾重にも張られたその光の板は砕けこそするが、船の速度を確実に奪っていく。
「この子が頑張ってるんだからはやくしなさいよ!」
「ひぃ、あの女だ! 怖い!」
木田成美が檄を飛ばし。
「セイファート」
よく知った響く重低音の声が耳に届く。
そこには、着流しの上をはだけて腰を深く落とした地蔵員さんがいた。
勢いが落ちたとはいえ、それでも巨大すぎる質量に変化は無い。
それを正面から止めるように地蔵員さんは身構え。
「へぇ、てぇしたもんだな。この端末って奴はよ。あの跳ねっ返りが気に入って遊ぶわけだぜ」
振っていなかっただけで、最強と同じ能力値はもっていた地蔵員さん。
ついに戦う事などなかった地蔵員さんが、その本来あるべき全ての力を駆使して船にがっぷりと食らいついた。
セイファート星団、確か鯨座だっけか。いちいちスケールの大きな地蔵員さんにふさわしい星座であり。
そして、超人かのごとく船の進行を大きく妨げる。
「さすがにちっとキツイな……お嬢ちゃん。とっとと決めちまえ」
今なら狙えると、あさぎはペガサスの上で構える。
「天童さん並に最強で最大で最高の一発で決める!」
おそらくチャンスは一度だろう。
全員の視線があさぎに集中し、それに応えるようにあさぎは宣言した。
「リゲル!」
「あさぎさん!」
加々美ちゃんが叫ぶ。
「リゲル!!」
「お姉ちゃん!」
健太君が祈るように声をかける。
「リゲル!!!」
「あさぎ君!」
東もまた声をあげる。
しかし、ちょっと待て。
これで三回がけだぞ、この前ここまで重ねてあさぎはどうなった。
「リゲル!!!!」
「防人さん!?」
ユニコーンの背で近くであさぎの様子を見ている西村さんは、あさぎの異変に気がついたのだろう。
それでもなお、あさぎは止まらない。
「リゲル!!!!!」
「あさぎさーーーん!」
當麻君が良く響く声で応援する。
「リゲル!!!!!!」
「あのお姉ちゃん光って……」
少女が不安そうな声をあげる。
あさぎは黄金色に輝くように、発光をはじめているのだ。
「リゲル!!!!!!!!」
「だ、大丈夫なのアレ……」
木田成美もまた、そのあさぎの異変を尋常ならざるものだと感じたのだろう。
だけど、ここまできたらもうあさぎを止められない。
誰が止められる。
誰があさぎを止められる。
あさぎの星座は暴走の果てに名を残した星座であり、やはりあさぎ自身を表している。
ただ一つだけ、星座の逸話と違う部分があるとすならば。
いつだって。
いつだってあさぎは誰かのために。
「いいよ、止めねぇよ!」
勝手にしてくれ! 俺は止めない!!
「エェェェェェェリィィィィィィダァァァァァァァァヌゥゥゥゥゥスぅぅぅぅぅぅぅぅ……」
「やっちまえあさぎぃぃぃぃぃぃぃぃ!!!」
「キィィィィィィィィィィィィッッッッッック!!!!!!!!!」
アルゴ号の心臓をめがけて落下する光の矢と化したあさぎの蹴りは、さながら流星のようであり。
この願いを叶える星を巡る戦いの最後にふさわしい光かがやく一撃は天高く舞い上がるのではなく、地に落ちる。
その光景は隕石のようにも思わせ、船体を貫通し吹き飛ばしてみせた。
そして船の中の黒い靄のような物は、ミライの体から吹き出したものと同じようだった。
行き場を失ったもやは、まとわりつくようにミライを覆い隠してしまう。
アルゴ号は完全に沈黙するも、それでもミライを倒すにはいたっていない。
今やミライの全身を覆い、黒い翼を持った少女の人影にしか見えないそれは俺の眼前に立ちふさがる。
崩れたアルゴ号の瓦礫に埋もれてあさぎの安否はわからないが、それでも戦闘継続中って事はまだ無事だろう。
ミライを止めればどんなに重傷だったとしても全快するのだ。
それに俺の前に立つミライだった怪物と化したソレを前にしても俺は不思議と落ち着いていた。
ラスボスが形態変化するのは当然だし、最後は俺が決めないといけない予感があったからだ。
ここまでお膳立てしてもらったんだ、かっこいいところを見せないとな。




