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星のアスクレピオス  作者: 面沢銀
後半パート  星まで届く本戦編
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それは乙女の一大事。

 その28

 それは乙女の一大事。




「それで、お願いは何かしら? 千鶴は家族の復活だとして、あさぎはもう叶っちゃったし。それと共通のお願いも。あ、そうだ忘れてた!えっと、この戦いの参加者の復活とルールの変更や戦いの進行に関わる事はお願いできないからね」


 ミライはとてもじゃないけど丁寧とは言えない説明で、お願いについての注意を俺達に伝える。

 形式的なものなのだろうけど、俺達が聞きたいのはそういう事じゃなかった。

 聞きたいというよりも確認したいのだけど。


「ミライちゃんさ、それ以外の条件とか規約とか注意は無いの?」


 あさぎが質問するも、ミライはいまいちそのあさぎの言葉の意味を理解していないようだった。


「えっと、世界征服とかそういうのは難しいかな?全人類に防人あさぎを頂点にした思考みたいな事は植え付ける事はできるかもしれないけど、人間の心は変わっていくものだからすぐに反対派みたいなのが生まれるだろうし。そもそも防人あさぎを知ってるって事が条件になるから。そうだね偶像崇拝って形なら可能かな」


「い、意外と融通が利くうえに現実的な着地点で叶うのね……」


 俺も意外だった、そういう事も広域的に叶えられるのか。

 変に現実的な叶い方する割には死者復活ってのは大丈夫なんだよな。


「死んだ人の復活を望んだらどうなるんだ?」


「復活するよ、死亡者に関わった人は死亡者がいなかった間の記憶を改竄されるし。死亡者も死亡期間に見合った生きていた場合における無理の無い記憶や状況が付加される」


「すげぇ現実的だな」


「そこらはサービスよ」


「お前は玉から出てくる龍か!」


「近いちゃ近いのかもね」


 まぁ、地球ではあるけど神様みたいなもんだからな。

 するとお父様とやらはダジャレ好きの武術の神様みたいな?

 それはそれで嫌である。


「不老不死は?」


「可能だけど……お勧めはしないよ。というかあさぎって割と俗っぽいお願いする気?」


「いや、しないけどさ。ちょっと興味があっただけ。じゃあもう一つ」


「ん?」


 ここであさぎは本題を切り出すように告げた。


「今は地球意志じゃなくて、星乃ミライとして水島さんから命をもらったわけだけどさ。このお願いの後はどうなるの?」


 この質問にミライは頭をかしげた。

 そういえばそうだというような感じなあたり、本気で考えてなかったようだ。


「多分だけど、サキの事を考えると肉体が死ぬまではこのままここに居るんじゃないかな。厳密には肉体的な器に閉じこめられているって感覚だからさ。実際、言わなかったけど食事も睡眠もいらないのよ」


 ミライは多分といった様子で告げる、これは俺達の予想とちょっとだけ違っていた。


「じゃあ、何も変わらなかったの?」


 あさぎの質問にミライは首をぶんぶんと横に振った。


「いや、かなり違うよ。まずここ以外の場所に出入りするようになれた。あとは味とかそういうのを感じるようになれたって事かな」


 感じるという言葉に俺もあさぎもピンと来る。

 それなら、もしかして。


「質問なだけどミライ、今まで何も感じてなかったのか?」


「そうだよ、感じるっていうか何というか……。今回に私がこの形に形成されて。人間と同じ目線になってこういう物なのかなって思う事はあったよ。この戦いも楽しめたっていうか……いろいろあるんだなって思えたし。まぁ、それも今回でおしまいだけどね。ああ、この肉の器が朽ちるまではここに幽閉か。そうだ、千鶴さ。この前の話、千鶴もここで暮らすってお願いしてよ。きっと楽しいよ」


 感情はある、だけどあくまで地球なのだ。

 人の気持ちはわからず。

 生命の想いわからず。


 自身がもまた一つの命だと知っていない。

 前に社長と社員みたいな例えをミライはしていたけど、上がだめなら会社は崩壊する。

 それを本人が自覚していない。

 それがこの戦いの原因ならば、その原因を治すしかない。

 前回からの宿願である。


「ミライの問題の解決って願えるか?」


「私の問題って何さ?」


 やっぱりな。

 説明を聞くと人の想い関わる事は、叶え難いって事なのだろう。

 説明に無い裏ルール。

 もっともそうでなければ前の戦いで問題は解決してるしな。

 なら、一つ願いは使わなくても大丈夫かもしれないな。


「じゃあ、願いは決まった。あさぎも良いよな?」


「何を今更! さぁ最後の戦いだ!」


 あさぎは腰を落として膝をパンと叩いて気合いを入れた。

 きっとお父様とやらもこれを望んでいたのだろう、だから俺達には最初からその想いが見えていた。

 サキの存在そのものが、この願いを促していたのだ。

 だから、最初からその想いの上に立っていた、立たされていた。

 きっと、この絵が見えていたからアイツは最後の予想がつくといった。

 最後の望みの予想がついていた。


「最後の戦い? それってどういうお願いなの?」


「私のお願いは星乃ミライのこの戦いの参加よ、さぁ! かかってこい!」


 その言葉にミライは目を白黒させながら言葉を失っていた。

 金魚みたいに口をパクパクさせている。


「いや……条件としては……えっと、サキの例もあるから可能よ。でも、お願いと一緒でね私の一存じゃできないお願い。そもそも私のマスター端末ももう機能してないし、パートナーもいないから」


「なら、その条件を満たせば大丈夫なんだな?」


「えっ?」


 ミライの顔芸は続く。


「俺の願いは残っている端末と、それを利用したエミュレーションを使用しての戦闘管理だ。さぁ、叶えてくれ!」


「何を言ってるの?」


 ミライの言葉を俺は無視する。


「願いを叶えるのはお前じゃなくて、お父様とやら何だろう。おい、親父! お前の求める条件は揃えてやったぜ! さぁ、早く叶えてみせろよ! お前のバカ娘を治してやるからよ!」


 俺は白い白い天に向かって啖呵を切った。

 そして、それに続くように。


「うひゃあ!」


 天才女子高生、牧村加々美ちゃんが空から尻もちをつきながら降ってきた。

 それでも手にしたパソコンを離さないあたり、さすがである。


「どうもです! あ、初めまして牧村です!」


「ど、どうも星乃ミライです」


「ちゃんと挨拶できて偉いですよ!」


「この前、天童に挨拶はちゃんとしないとって怒られたから……って違う !誰っ!? いや……あなたはそういえば……東のパートナーの!」


 どうやら思い出したようだ。

 そして、間が抜けていても察しの良いミライはその意味を理解した。


「端末はここにまだ残っています!」


 そう、無事だった端末はここにあるのだ。

 そして加々美ちゃんはこれまでずっと研究をしていたんだ、この瞬間のために、孤独の戦いを続けてきたんだ。

 それがヨアンナさんの旦那さんを救ったりもした、東と同じようにこの戦いの陰の立役者なのだ。

 最初からこの戦いのために戦っていたのだ。


「おおっ! 解析できなかった部分が! ああー、そういう事ですか!」


 コンピューターの画面をのぞき込みながら加々美ちゃんは微笑む。

 それはわからなかった部分が解けたという類の微笑みではなかった。


「やっぱりマスター端末に皆のデータが残ってた……。というか取り込まれていたんだ。これまでの全員がこんなにも。きっと次の戦いまでのライフラインになるんだね」


 最後に『そっか』と言って加々美ちゃんは立ち上がった。


「そういうわけで、よろしくね!」


 加々美ちゃんはミライにウィンクを決めながら元気いっぱいに宣言するが、ミライはいまいち状況を把握できていないようだった。


「よろしくって言われても端末は……あれ、動く!」


「今は私のこのコンピュータを使って疑似的な戦闘プログラムで続行を計ってるのよ。本当は普通に続行できればよかったんだけど、やっぱり戦いが終わると同時に動かなくなっちゃったから二次的な手段でね。お父様は中立な立場って言ってたから予想はしてたけどね。だから、残っていた私の端末を解析してこの戦いのエミュレーションをできるようにしたの」


「できるようにしたのって……そんな簡単にできる事なの?」


「天才ですから!」


「そんなバスケ漫画の主人公みたいな事を言われても!」


 加々美ちゃんは簡単にそう言うけれど、実のところこの戦いが始まってからずっとこの作業に時間を費やしてきたのだ。

 東の言っていた、最後の予想とはこの事だったのだろう。

 どこまでも俺達を信頼した、どこまでもいけすかない作戦だ。

 穴だらけの、作戦とも呼べないものだ。

 だから確実だったわけじゃない、このエミュレーターだってヨアンナさん達の協力が無ければできなかった。

 きっと、この戦いに関わった全員が少なからずこの瞬間を迎える遠因になっているのだ。

 それを運命と呼ぶのか、導きと呼ぶのか、そんな事はどうだって良い。

 ただ、間違いなく東は憎たらしいって事だけだ。


「だって私、星座も無いし。急にあなたがパートナーって言われても……戦えって言われても、それに勝っても願いとか叶えられるわけじゃないし、そもそも願いなんてないし」


「ふふふ、二人分の願いがまだ残っているじゃないですか! 戦闘が残っている時点でそれが繰り上げですよ。それに叶えたい願いはあるんじゃんですか?」


「な、何よ……」


 明るく天真爛漫な普通の女子高生の言葉の勢いに、天童さんとは別な意味で押され気味のミライ。

 というか、今になって気がついたけどミライは押しに弱いな。

 人に言いくるめられる神様って何なんだ?

 いや、考えてみれば神様なんてそんなもんだな。

 人間に言いくるめられて、喧嘩してみたり、一緒になって笑ってみたり、人間よりよっぽど人間らしい存在だよな。


「瀬賀さんと一緒に居たいっていうお願いなら、私も一緒にお願いしてあげますよ。いいですかミライちゃん、女の子にとって恋は戦いです!」


「なななななななななな!!」


 白い顔を真っ赤にしながらミライは言葉にならない声をあげる。


「それにミライちゃんは居てくれるだけでいいですよ。私の能力はミライちゃんがパートナーだからこそとってもロマンチックな能力になるんですから!」


 覚悟の足りないミライを置き去りにして加々美ちゃんは話もそこそこに、俺達に向き直る。


「さぁ、行きますよ瀬賀さん、あさぎさん!ミライちゃんはラスボスらしく、いつものように振る舞ってください。それでミライちゃんの能力は発動するはずです」


「いつものようにって……よ、よくここまできたわね……みたいな?」


 そう、ミライが言葉にした途端、ゴゴゴと地鳴りが響く

き世界が揺れる。

 それはもちろん地震ではなく、俺達の足下からソレが浮上する音だった。

 思えば、神様を気取っていたミライが。


 いや、実際に神様なんだろうけど。

 それを恋と呼ぶには幼すぎる感情を持ってしまってから消えてしまっていたソレだった。

 人に近くなってしまったから、条件がつけられてしまったのか、その詳細は不明だしどうでもいい事だが、水島が言っていた八十九番目の星座が浮上する。


 そう、俺達は最初から見ていたのだ。

 気がつけなかっただけで、ミライもまた星の加護を最初から受けていたのだ。

 羅針盤座、船尾座、帆座、竜骨座という四つに分離してしまった星座、日本からでは全容を見る事さえかなわない巨大な星座の集合体。

 その偉大さは、雄大さは、俺達という生物を乗せる地球という惑星を思わせる。

 俺達がミライの世界に呼び出される度に立っていた、その船。


 アルゴ号座が浮上したのだ。


「こ、これっていつも私が居た場所じゃない」


「そう、ここはミライちゃんの場所よ。視線を変えれば世界が変わるでしょ」


「これって……私はこれでどうしろって……」


「言ったじゃない、ミライちゃんは居てくれるだけでいいって。さぁ、お披露目してませんでしたね。恋した加々美ちゃんの星座、乙女座の能力。自分のパートナーの能力をコピーする能力! スピカ!」


 言って加々美ちゃんは微笑む。


「言っておきますけど千鶴さん、あさぎさん。これはミライちゃんの端末能力のコピーなんで、アルゴ号座の能力じゃないですよ。そして、言っておきますがチート能力です」


 そう一言、加々美ちゃんは宣言して呪文を唱える。

 それはどこのアルゴ号座でも乙女座でも、どの星空にも輝いていない言葉。


「リザレクション!」


 言葉と同時に、SF映画のワープのようなフラフープ大の円形の光がブーンという音と共に俺達の前で上下する。

 そして、その光の中からは言葉の復活の意味そのままに居なくなった者を呼び出した。

 呼び出された痩躯の背の高い人影は、頭は白髪まじりであり、顔には眼鏡をかけており、そして俺達の良く知った人物だった。

 実に小憎らしい笑顔を湛えた男だった。

 相変わらずの様子で、相変わらずの声をあげる。


「いやぁ、よくここまでこれたね君達。いや、ちゃんと期待はしていたよ。だいたい僕の予想通りだったね偉い偉い」


 どこまでが本当なのか、東一樹はそう言った。


「まさか、こういう展開が来るとは思ってなかったぜ」


「いやいや、この事態は僕も予期してなかったよ。本当だよ? 僕が君達に嘘をついた事があるかい?」


 東一樹はそう言った。

 そう、これも本当なのだろう。東は人をバカにする事はあっても嘘をつく事はないのだ。


「復活させないっていう縛りは、ミライに吸収されているって事なのだろうとは思ってたからさ。出し入れ自由だとは思わなかったよ。事実として、死んでる間は……。いや、僕は今も死んだ人間なのだろうけどさ。なんだかいろいろな人の物の考えが頭の中に流れこんでくるような感覚っていうのかな。五匹入ってる人に吸収された寄生生物の言ってた感覚っていうのはこういう事だったんだろうね」


「……東さん」


「おや? あさぎちゃんはちょっと見ない間に随分と印象が変わったね。うん、そっちの方がずっといいよ。もっとも僕の好みの問題なんだけどね。髪を切った理由は聞かないでおこうかな。女の子が髪を切る理由は人間だったら誰しも通る経験か、もしくは戦場に赴く決意を決めた時くらいしかないからね」


「二つめは滅多にないだろ!」


「千鶴君は相変わらず良いツッコミをするね、確かにあまりは無いけれど。残念な事にここは戦場だろう?」


 東はニヤケ顔でそう言った。

 その表情は後ろで控える加々美ちゃんと似ている、似たものしかパートナーとして組む事がないのだから当然と言えば当然だ。


「それと、君達は僕には勝てなかったんだよね。これは敗者復活からで申し訳ないけど僕達の優勝かな?」


「何を言ってるんだよ、俺にしたらアンタを越えるチャンスが来たって喜んでるよ」


「やれやれ、でも残念だったね。僕は強いよ?」


 相変わらず小憎らしい話し方だ。

 それでこそ東一樹だ。

 こっちまで笑っちまうよ。


「さぁ、それじゃ世界を救う気はサラサラ無いけど。一人の女の子を救う戦いを始めようじゃないか。来いよ星のアスクレピオス、お姫様は目の前だぜ」


 東が構える。

 そして俺も構える。

 この戦いが始まって、俺は初めてあさぎの前に立って敵と向かい合う事になったのだった。


「さぁ、ミライ。これが本当の最後だぜ。いや、最初かな。自分が初めて当事者になるんだ。景気の良い言葉を頼むよ」


 東に言われてミライは未だに困惑顔のままだったが、俺達四人の顔を一人一人じっと見ると。

 少し考えこんで、ふさわしい一言を発して戦闘開始の合図とした。


「アルゴ号発進!」




 エクストラマッチ


 瀬賀千鶴&防人あさぎVS星乃ミライ&牧村加々美(東一樹)


 戦闘開始

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