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星のアスクレピオス  作者: 面沢銀
後半パート  星まで届く本戦編
45/66

死闘

 灰山さん、水島さんと対峙しながら思う、この裏で行われているもう一つの戦いの行方を。

 昨日の夜、三人から電話があった。


「ちっーっす、千鶴元気?明日は三回戦だよな、腕が鳴るぜ。まぁ翼子さんは負けるとは思ってないけどさ。でも、どうなんだろうね。それも人相手だったからな、星の補正があるならともかくさ、漫画じゃないんだから生身だったらさすがの翼子さんも北極熊には勝てそうにないからね。そういう意味じゃ北極熊でも釣り合いがとれない奴を相手にするのかね?にししし。ま、それだけ。翼子さんは約束を守るからね。決勝で会うか、準決勝で会うかしらないけどさ。私と当たるまで負けんなよ」


「こんバンわ。今、大丈夫デスか?なんてイウか、戦いの前ハいつモ緊張シますけど。それデも今回は特別デスね。サキが地球意志ト言わレテもピンとキませんが、テンドーが人類サイキョーと言われるト納得しマスよネ。テンドーの戦イを目ニした事ハないですガ、話を聞クと戦力的ニは劣テるような気ガしまス。準決勝の時モ顔ガ見られたラいいですネ。デモ、まあ私ハ千鶴達ガいるから少シ安心デスね。お互イにベストを尽くしまショウ」


「もしもし、サキよ。この前はうちのミライと遊んでくれたんですってね。……ありがとう、それだけ」



 地蔵院さんからの連絡はさすがに無かった、あっても何か嫌ではあるけれど。

 俺の視点から見れば三者三用に死亡フラグを立てたようにしか見えないが、それでも地蔵院さんを含めて誰かは必ず死に至る。

 

 そして、それは俺達も同じなのだが。

 死。

 そう……この戦いは常に死がついてまわる戦いなのだ。

 戦う俺達はもとより、俺達が戦いに身をいた理由でもあり、俺達が戦い続ける理由でもある。

 だから、だからこそ、因果として手を汚す事を受け入れた。

 その重圧を飲み込んだし、責任を背負った。

 それが痛いほどにわかっていたから、それを痛々しいまでに納得していた。


 いるつもりだった。


 だから、この状況は異常事態だ。

 尋常ならざる状況だ。

 もしも本当に地獄があって、それが永遠に死に続ける苦しみだというのなら。

 永遠に殺し続ける事もまた地獄だ。

 

 涙が止まらない。

 吐き気が止まらない。

 手が震える。

 眩暈がする。

 負としか言えない感情の螺旋に平衡感覚を奪われる。

 

 狂気を相手にするのなら、自分も狂気に支配されるしかないというのか。

 ならばここは地獄であり。

 俺達とは違い、その地獄を受け入れる水島麻理は。

 すでに、存在そのものが地獄と同じ意味を持っていた。


 死にたくて、死にたくて、死にたくてたまらない女、水島麻理。

 皮肉にも、逆にあえて、と表現するべきなのだろうか。

 どちらにしても当然のように、これしか無いと言わざるを得ないように、彼女の狂気を体言する星座の加護は彼女らしく、自分も周りも不幸にする。


「これで……何回目かしら……早く、早く、早く、早く、早く、早く、私を死なせてよ」


 炎に包まれて水島は懇願する。


「何回……何回……何回、殺したらいいのよ……」


 涙に顔を汚しながらあさぎも懇願する。

 お互いに救いはない。

 殺され続け、殺し続ける。

 精神が疲弊していく。

 死闘。

 まさに、死闘。

 だが辞書にあるような、実力がお互い拮抗している中での削りあいという戦いではない。

 一方的に水島が死に続ける戦い。

 死してなお、灰の底から蘇る。

 眼前の其処で蘇る不死鳥の加護。

 鳳凰座、水島麻理フェニックスの能力だった。




 その18

 死闘



 落ち着け、落ち着くんだ瀬賀千鶴。

 この想定外すぎる水島の能力を看破、攻略するにあたって最初から状況を整理するんだ。



 俺達が当初から考えていた作戦はシンプルなものだった。

 戦闘要員は灰山であろう事は予想するまでも無い事なのだ、だからシンプルに水島を狙う。

 戦わない、戦えない、存在は弱点足り得るし、弱い方から狙うというのも定石だ。

 水島の性格も事情も知っていたし、俺個人が灰山さんに少なからず恩を感じているところも有ったからこそ、戦いが長引けば情が沸いてきてしまう。

 もう、グリフォンマスクと健太君の時にしたような苦い想いは御免だった。

 俺も、あさぎもそう思ったからこそ、灰山さんに後で何と思われようとも、最初から不意をつく予定だった。

 始まると同時に、始まったと気持ちが切り替わる前に、最速で、最強の一撃を決める。

 決着をつける。

 この闘技場とも何ともいえない空間に四人揃ったと同時に、俺もあさぎも動いた。


「リゲル!」


「ラス・アルゲティ!」


 俺達の詠唱に灰山さんも、水島さんも、驚いた顔を見せようとした。

 つまり、そんな顔を二人が見せるよりも早く。


「キィーーーーーーーーーック!!!」


 あさぎの必殺の蹴りが水島さんの腹部を打ち抜いた。

 ランキングの地力では水島さんの方が上ではあったけど、それでも威力が通らないという事はない。

 土田と戦った時は、あさぎの蹴りでほとんど昏倒していた。

 今の俺達が出しうる最大火力を受けて、トラックと正面衝突したダミー人形のように、無機質に生命感もなく吹き飛び転がっていく水島さんを見て俺もあさぎも勝利を確信した。

 胸の奥には様々な罪悪感や後ろめたさが渦巻いていたが、それを押し殺した。


「酷い事しますね。いや、水島さんにとっては幸福な事なのかもしれませんが」


 灰山さんが事も無げに呟く。

 その自然な様子に。

 その不自然な状況に、俺達は固唾を飲む。

 何とも無かったというように、水島は立ち上がったのだ。

 状況がつかめないまでも、俺達はまだ平静だった。

 死は絶対だが、だからといって死が一度訪れたからといって、それだけで勝敗が決まるとは限らない。

 ヒドラの伝説になぞらえて十の首の代わりに十の命を持っていた木田がいる。

 その木田だって、天童さんの前には蹂躙されるままだった。

 戦力差が変わらないのなら、俺達の作戦は変わらない。


「あさぎ! 殺しきれるか!?」


「やるしかないんだから殺しきれって言い切れよ!」


「じゃあ、殺し切れ!」


「千鶴の方が殺されないでよ!」


 俺の役割はもう一人の狂人を押さえ込む事。

 形振りさえかまわなければ、サバンナマスクを一時的とはいえ押さえ込めたのだからできないはずはない。

 痛みはもとから覚悟のうえだ。

 目線をあさぎにむければ、強烈な右拳を水島に打ち込んだ。

 女性が女性の横顔を思い切り殴りつけるという光景だけで十分に衝撃的だというのに、あさぎに殴られた水島の首は鈍い音を立てながらおかしな方向によじれる。


 これで二回目だ。

 もし、水島の加護がそのまま海蛇座だとしたら残りの命のストックは八個か。

 良いペースかどうかはわからないが、水島が命のストックを使いきるのにそこまでの時間はかからないだろう。

 それにしても本戦が始まってからもあさぎは能力を攻撃に降り続けて、カンストこそはしていないようだけど、今なら天童さんにも届くんじゃないのか。


「行かせませんよ」


「行く気は無いよ、行くべきなのだろうけどね。君達にはどう映るかわからないが、こんなに美しい光景に水を差すような野暮な真似はできない」


 灰山が静かに頬を緩ませながら語る。

 それは笑っているようで、泣いているようで。

 喜んでいるようで、懺悔をしているようでもあった。


「彼女の話を聞いたかい?」


「話っていうと……生きるのが辛いって事ですか?」


「確かにそれも正しい、でもそれだけではない」


 俺の言葉を認めたうえで、灰山は否定する。


「何度も自殺を図ったのは間違いないのだから、だからこそ彼女は今の境地に立ったのだろうな。幸福が辛いと、不幸でないと落ち着かないと」


 ……確かに死ねなかったと残念がりはしたけど、進んで死にたいとは言っていなかった。

 でも、そんなの屁理屈じゃないのか。その言葉の違いに何の意味があるというんだ。


「聞きたいが、君の願いは何だ?」


 何か関係があるのか、灰山は聞いてくる。

 俺は素直に答えた。


「奪われた家族を取り戻すためです」


「なら私と一緒だな」


 淡々と灰山は続ける。


「私はもともと刑事でね、大きな事件を追っていたりもした。そして逆恨みされて女房と子供をね……。俺は警察を辞めてそれからは月光仮面の真似事さ。今だって続けてる。悪党をぶちのめしている間は全部忘れられるのさ。見ただろう、あの時だけが俺は幸福を感じるんだ」


 あの狂気には何か理由があるのではと思っていたけど、そんな過去があったとは思わなかった。

 何かを忘れるというよりも、何かに取り付かれたように、自分に言い聞かせるように。

 自分に陶酔するように叫び続けていた。

 ただあんな姿を本当に幸福と呼べるのか、俺は言葉に詰まってしまった。


「もっとも、とっくの昔に俺は正気じゃないのだろうな。俺の価値観なんて誰にもわからん。そもそも誰にも人の価値観なんて理解できないだろう。じゃなければ世の中の趣味はこんなに多様化しないんだからな、それを踏まえたうえで彼女は、水島は言ったよ。『何にせよ、幸せを感じたりできるなら。幸せを苦痛だと思わないのなら私よりも幾分マシよ』とね」


 そんな話の間もあさぎは殴り、蹴り、叩きつけ、水島の体を蹂躙し続けた。

 果たしてこれで水島は何度目の死を迎えたのか、少なくても予想していた十回はとっくに越えている。

 ここで、鬼と変わらぬあさぎの様子に陰りが見えてきた。


「何……なのよ……」


 あさぎの手が止まる。

 止まってしまう。

 肉体的にはお互いに無傷にしか見えないというのに、明らかに俺達が押されていた。

 それは体力的なものではなく、精神的なもので。

 普通に考えれば、死なないといっても殴られ続ければ痛みに耐えかねるだろう。

 痛みだけは、例え正座の加護があったとしても切り離す事はできないはずだ。

 仮にそういう能力もあったとして、防戦一方というのは精神を追いつめる。

 ゲームで何回もコンティニューできたとしても、同じところで躓き続ければやる気が殺げていくのと同じ理屈だ。

 そんな理屈で語るのなら、それよりも精神的な負担は大きいはずだ。

 なのに、それを水島は苦にしていなかった。

 それどころか笑っていた。

 いつか見た。

 忘れられない、忘れる事のできない、負という物が満ち満ちた気持ちの悪い笑顔だった。

 天童さんが言っていた『アイツの存在がそもそも気持ち悪い』という言葉をどうしても思い出してしまう。


「さぁ……どうしたの? 私はまだ死んではいないわよ……」


 水島が笑い、比例するようにあさぎの顔から余裕が無くなった。

 不幸でないと落ち着かない。

 すなわち苦痛が苦痛ですらなく、そして幸福でさえない。充実感が意味を持たないからこそ何も感じない、この戦いにさえ意味を持っていない。


 目的も意味も何もないというところでは天童さんに似た部分があるのかもしれないが、戦うことに意味を見いだしていた天童さんとは明らかに意味が違っている。


 だから思う、思ってしまう。

 ならばなぜ、意味さえないのに水島は立ち上がり続けているのか。

 死を良しとするならば、戦う事に意味などないではないか。


 矛盾だ、大きな矛盾だ。

 水島のその様子を目のあたりにしてしまっては生きる事を諦めた方が幸福のように思えてしまう。

 生きろと俺達は言ったのに、死んだ方がいいと感じてしまう。

 だから二つの意味で思ってしまうのだ『何故、彼女は死なないのか?』と。

 死にたくてたまらないであろうに何故と。


「死なない能力とか……そんなの反則じゃないの……」


 蹴って転がし、そして倒れた水島をあさぎは睨みつける。

 睨んではいるものの、その瞳に力強さは無く。まるで捨てられた子犬が助けを求めているかのようだ。

 代わるか、だけど今更代わって何になる。

 代わってもきっと状況は変わらない。


「殺しても死なない……不死鳥……そうか、不死鳥ね……あなたの能力。千鶴、不死鳥の伝説とかしらないの? それが倒すヒントになるかも」


 俺だってそうとしか考えられないが、だとしても伝説の話にしても俺の知る限りじゃ不死鳥を殺しきったなんて話は知らない。

 存在があやふやだ、神の使いと呼ばれたりするわりには確かソロモンの七十二の悪魔の一つでもあるんだろ確か。


 確かに今の水島は悪魔のようにも見えるけど、そんなに単純なものなのだろうか。

 もっと現実的な事を考えろ、殺しても死なないなんて能力が果たしてこの戦いに採用されるだろうか。

 今の状況にしても存在がチート級だ、無尽蔵を相手取って消耗戦をやらされている状況だぞ。

 こんなの天童さんでさえ、底が見えてくる戦いだ。神でも悪魔でもどっちでもいいけどそんな馬鹿な話があるだろうか。


 幾度目の復活だろうか、そんな事を考えているとついに水島の体に異変が生じ始めた。

 それは不死鳥である事を裏付けるように指先から発火を始めたのだ。

 確実に状況は変化してきていた。

 だが、そこがあさぎの限界だった。

 ついに、手が止まってしまったのだ。


 ここが地獄の終着点。


 俺達にはもうどうする事もできない。振り返るように、灰山さん、水島さんと対峙しながら思う、この裏で行われているもう一つの戦いの行方を。

 はたして天童さんとヨアンナさんはどちらが勝のだろうか、ヨアンナさんが勝てばミライはまだ何とかなるかもしれないが。


「これで……何回目かしら……早く、早く、早く、早く、早く、早く、私を死なせてよ」


 炎に包まれながら水島は懇願する。


「何回……何回……何回、殺したらいいのよ……」


 涙に顔を汚しながらもあさぎも懇願する。

 お互いに救いはない。

 殺され続け、殺し続ける。

 考えてみれば、殺されれば普通は終わりだ。

 そこで終わりだ。

 殺されなくても、死んだら終わり。

 だけど、彼女は死してなお終わらなかった。

 燃え上がる彼女を見て、灰山さんは呟く。


「なんと美しい……あれが命の炎だ。彼女は今……いつ以来なのかわからないが命を燃やしている」


 灰山さんは泣いていた。

 涙がとめどなく溢れていた。

 対照的に水島さんは笑っていた、それは優しい笑顔だった。


「ねぇ、瀬雅君、防人さん。少し話をしましょう」


 笑顔のまま水島は俺に向き直る。

 見入ってしまうほどの笑顔に気を取られ、俺はワンテンポ気がつくのが遅れてしまったが、水島が笑うっていう事実に凄く違和感を感じる。


「どういう理由かは今でも想像ができないんだけどね、あなた達は私を土田から助けようとした。そもそもその考えが私からは見当違いなのだけど、見当違いだと思うからこそ理由を想像したのよ。でも、やはり答えは出ないのよ」


 だけど、と前おいて水島は続けた。

「よくテレビで子供がゲームや漫画に影響を受けてなんていうけど、もともと興味が無ければそういった物から受ける影響なんてないと思うのよ。もし、本当にそうだとしたら道徳の無意味を認める事と同じじゃない。世の中にはどうしたって覆らないものがあるの。資質というか本質というか、つまり私はこういう奴だったって事。これ以上長く話をしたら懺悔にもとられるから止めておくけどね。結局のところ私は人生を振り返るにあたって不幸だったと思うわ。同じくらい幸福があったなんて言葉は野良犬にでも食べさせればいい。だって、幸福と不幸は比例しない。別に全員不幸だと言う気はないわ。幸福のが多かった人もたくさんいるでしょうし。私は不幸であったし、そんな人生は御免だとも思ったけれど、どういうわけか死ねなかった。自分で思いとどまる事もあったし、他人に止められたり、単に死にぞこなった事もある。さて、これは幸福なのかな? 私は不幸だと思っているけどね、止める自由が無いなんて不幸だとは思わない?」


 燃え続けながら、水島は続ける。

 いつからか炎は彼女の身体全体を焼いていた。


「土田から助けようとした事と、あの子から話を聞いてやっと私の能力の使い道がわかったのよ。それについては私は幸福なのか不幸なのかわからない。やっぱり客観的に見れば不幸なのかな。今となっては私は死のうが生きようが関係ないしね。関係ないというかどっちでもいいのよ、生きようとする意志もないのにダラダラしてただけなんだから。もっとも食事や睡眠をとっていたのだから意志はあったのかもね。それを捨てきれなかったのも私の不幸かな」


 水島は燃え続ける。

 その炎がおかしいぞ、と感じた時にはもう手遅れだと思った。

 もっとも水島という存在は最初から手遅れだったのかもしれない。


「ダラダラしようが何しようが、何が起きていても案外死ななければ幸福なのかもね? 起きた事は戻ることはないけれど、別に立ち止まってもいいわけだし。別の目標に歩きだせばいいのかもしれないし。それだけで案外幸福なのかもしれないわね。少し残念だと思うのは東、死が約束されていた中で動き続けたあの人とはもう少し話をしてみたかった。東が目をかけたのがあなた達っていうのなら納得ね。だから、あなた達二人はどうしたって不幸ではないのかもしれないわね。千鶴君は引きこもっても死にはしなかったし、あさぎさんは友達が死んじゃったとしても自分を罰するだけで死ぬ事はしなかったでしょうし。もしかしたら、いつか別の考えに思い至ったかもしれない。でも、千鶴君はもっと自分で歩いた方がいい」


 そこで水島は大きくニヤリと口を歪めた。

 それは今までに見せた最高の気持ち悪さだった、なまじちゃんと整えれば美人であろう顔立ちだから余計に空恐ろしいものがある。


「だから、あなた達ね。とんだお人好しだから、私みたいな奴に狙われるのよ。不幸を売り物にする人に優しさを見せてはいけない。そう考えると嫉妬なのかもね? 私には無い物を持っているって事に対しての。だから私のようになれと呪いをかけられる。私の呪い、でもきっと効果はないのだろうけどね。最初に戻るけどそんなものがあってもなくても結局は本質は変わらないんだろうし。それでも、いい教訓になるんじゃないかしら」


 炎が水島の身体を蝕み、末端から消えていく。


「それじゃ最後に答え合わせ、私の星座は確かに鳳凰、ご名答よ。でも、無限に復活できるってわけでもない。これがその代償ね。つまり死後に一定の時間を貰える能力。死人を相手にしたんだから殺せるわけないじゃない? もっとも、私はいつ死んでいたのかわからないけどね。ただ、厳密に死んだのは昨日よ。私のもう一つの能力、他者に自分の命を譲与する能力。死にたいなら生きようとする人に命をあげる、完璧な自殺よね。さて千鶴君、防人さん。あなたは最後は幸福かしら不幸かしら。どんな終わりか楽しみね。それと今回の星座の数は八十八じゃないわ。八十九番目がある、気がついているかしら?」


 言葉の意味がまるでわからないが、そうやって言うだけ言って彼女は最後に残した。


「結局お腹の子は連れて行くのか……こんな不幸なら悪くはないかもね」


 そして燃え尽きた。

 狐に摘まれたような感覚しか無かったが、水島麻里は消えた。

 塵一つ残さずに消滅した。


「どういう事……なの?」


 満身創痍のあさぎが呟いた。

 その疑問にはすでに消えてしまった水島の代わりに灰山が答える。


「彼女はやっと幸福を受け入れたのさ」


「いや、そういう事じゃなくて……」


 あさぎが食い下がる、俺も同じ思いだ。

 灰山の言う幸福は死だ、それを良しと俺は言い切れない。

 だが悪しと言い切る事もできないと、水島を見ると思ってしまう。

 

「言った通り、彼女の星座は鳳凰座で能力は自分の代わりに命の付与。それと一定時間の延命。彼女はその二つを同時に使ったんだよ。だから彼女は既に死亡していた。だからもう私ではどうする事もできなかった。だから私は戦わないと言っただろう」


「確かにそう言っていましたけど、それがどうして。そもそも誰に水島さんは命を与えたんですか?」


「君達ならわかるだろう、本来は存在できない者が命として実体を持つ。細かいところはわからないよ、私はオカルトには詳しくない」


 それでハッと気がつく。

 もしかしたら本人さえも気がついていないのかもしれない、水島の置きみやげ。

 彼女の言葉を使うなら呪いだろうか。


「まさか、水島さんは命を!?」


「そう。あの少女、星乃ミライに譲与した。だから君達とこちらで会えただろう?」


 俺達に会えた理由はそういう事なのか。

 でも、それはどういう事なんだ?

 そんなのが呪いとして成立するのだろうか。


「千鶴、いったいどういう事なの?」


「俺だってわかんねぇよ……」


 何か、想定外の事態が進行している予感めいた事は感じるけれど、それが何なのかはハッキリしない。


「灰山さん、何か知っているんですか?」


「知る事じゃなく、感じる事だ。彼女の最期を見て感じないか? 命を燃やすとはああいう事なのだと。不幸を受け入れ幸福を拒絶し、死んだも同然で生き続けた彼女の生き様。人生は迫る不幸と戦うというのなら、彼女の人生は死闘そのものだったのだろう。君達も私も、何か辛い事があったから戦う事になった、この戦いに選ばれた。でも、それはある意味逃避だ。無かった事にしようとした、目を背けた。でも、彼女だけは最初からそれを受け入れていた。いや、彼女が言うには東もか。私も彼と話したが事実ならば彼もまた凄い男だ。……私も最期は彼女のようにありたいよ。そして君達はそうは思わなくていい」


 狂人達にしか理解できない、何か痛烈なメッセージがあったのだろう。

 俺達にだって、彼女の最期の話は心そのものに語りかけてくるような力を感じはした。

 だけど、その力の正体がわからない。

 謎というほどでもない。

 謎だというなら、どうして水島はミライに命を与えたのかという点と、八十九番目の星座あるという事くらいだ。

 まだまだ灰山に聞きたい事はあったが、そこで時間切れになった。






 視界は暗転し、いつもの机のある空間へと強制転移する。

 長引いたからか、四つある席は既に二つ埋まっていた。

 勝ち残り者は前回優勝者の日下部阿左美、烏丸慧。

 そして、モデルのような女の人と、田舎の女学生のような凸凹な印象の、天童さんと何か因縁があるらしい芝村淳子と稲見友里。

 そして俺達。


「どうしたの勝ち残ったっていうのに辛気くさい顔して、ウザぁイわねぇ」


 いつものように皮肉を日下部は飛ばしてくるものの、俺もあさぎも対応する余裕は無い。

 特にあさぎは、殺し続けたという重圧と実感の無い勝利で疲弊しきっていた。

 勝ったというのに安心感さえ沸いてこないのだ、これを水島は狙っているのなら呪いとは良く言ったものだ。

 勝ったけど、完全に敗北した心境なのだから。


「無視するの?ウザぁイわねぇ、何があったのか知らないけど二人とも五体満足なんでしょ?もっとも勝った時点でそうなるけどね、それでいいじゃない。あと二回勝てばオシマイなんだからさ」


 ……まったく、どっちがウザぁイんだって話だ。

 その言葉も無視してやると、さすがの日下部も黙った。

 それからしばらく無言。

 誰も話そうとはしなかった。

 まだ、彼女が現れないからだ。


 最強、天災、天童翼子。


 俺とあさぎは相手が地球であるという事を知っているからそれもやむなしと思うけど、この二組としたらそんなのを相手取っているとは予想もしていないだろう。

 正直、俺もサキが残ったとしても驚きはしない。


 静寂。

 静寂。

 静寂。


 そして、その静寂を破るように高らかに声が響いた。


「っだーーー! 勝ったーーーーー!!」


 この空間に天童翼子が現れた。

 勝ち残ったのは天童さん、天災は地球さえも容赦なく飲み込む。

 地球規模の天災ならもう、隕石の衝突のレベルなのだろうかこの人は。

 俺達はともかく芝村、稲見組と日下部、烏丸組からしてみれば下馬評通りの勝ち上がりという事になるのだろうか。


「う゛ぁ~~~~、くたびれた~~~。お、千鶴とあさぎも勝ってるね。オッスオッス。後はウザ子か、お前も勝ったかよしよし」


「天童!」


「お前は……誰だっけ? まぁ、いいや。おーい、ミライちゃーん。私今回はめっちゃ疲れたからさ、とっとと戻して欲しいんだけど。ひとっ風呂あびたくてさ」


「天童ッ!!」


 天童さんの振る舞いに芝村さんが声をあらげて、そんな芝村さんを稲見ちゃんが諭す。

 それでもしばらくは元には戻らなかったが、今になって会話という会話も無く。

 俺達も話ができる心理状態ではなかったから、特にこれといった会話も無く。

 ミライも現れる事なく、やがて俺達は自分の部屋にと戻された。

 自室で一人になって、やっと勝ったというか。

 三回戦が終わったんだという実感が沸いてくる。

 結局、水島は俺達に何をしたかったのか、何を伝えたかったのかはまだわからない。

 とりあえず、一度寝て頭を休めよう。

 そう思ったと同時に端末が震えたのだった。





 準決勝戦

 天童翼子&地蔵院源蔵 対 瀬雅千鶴&防人あさぎ





 決勝で合おうなんて事を天童さんが言ってたような、言ってなかったような気がするが、その夢は叶う事は無かった。

 いつかは来ると覚悟していた天童戦は、ついに次回と迫ったのだ。

 なのに、俺もあさぎも水島のせいで覇気は無かった。

 相手が相手なのに恐怖も緊張も今は感じない。

 とにかく、一度寝たかった。








 本戦三回戦終了

 瀬雅千鶴、防人あさぎ 勝利 準決勝進出

 灰山秀隆       敗北 戦闘放棄

 水島麻里       死亡

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