君へと一歩踏み出す、君へと一歩踏み外す。
その17
君へと一歩踏み出す、君へと一歩踏み外す。
「……ミライ?」
何が起きているのかわからず、俺はただ固まるだけだった。
ミライに会うのは夢の中だけだと思っていた。
思っていたからこそ、今現実にミライがいるという事の意味がわからなかった。
ミライはそもそもこっちの世界に出て来れたのだろうか?
単に出てこなかっただけなのか、それとも出てこれるようになったのかどちらなのだろうか。
本戦が始まった時にいろいろな事が規制解除されたのだから、もしかしたらそのタイミングでミライの外出が可能になったのか。
前回の顔合わせでミライが現れなかった事と何か関係があるのだろうか。
いや、今はそれらは重要ではない。
何をしにミライが現れたのか、それと別れ際のアレだ。
アレがあったから、俺はそもそも決勝までミライと会う事はないと思っていたんだ。
ミライは存在はともかく、精神的には普通の少女だ。
普通の夢見る少女だ。
なら、何の意図があって。
「あ、神様だ」
グルグルと一瞬の間に考えを巡らせる俺とは違って、あさぎの反応はシンプルだった。
ミライはというとあさぎの事は想定していなかったのかビクッと体を震わせた。
「まぁ、上がりなよ」
いや、ここは俺の家なんだけど……。
そう言いたいのはやまやまだったけど、さすがにこの目立ちまくる少女を家の前に立ったままにするのはご近所の手前よろしくない。
こういった時だけ、水島さんの『そういうのもどうでもいい』発言や境地が少しだけ羨ましく思えるのだから俺も調子がいいもんだ。
「で、どうしたのさ?ってかミライちゃん裸足じゃないよのさ」
「よのさって何さ……」
前も使ったあさぎの謎の語尾にミライが突っ込みを入れた。
思えばこの娘は俺以外とあまり喋らないし、俺も他の人と喋っているところをあまり見た事ないからわからなかったけど突っ込みができる子なんだな。
「で、どうしたのさ?」
グイグイ来るあさぎ。
何とも押しが強い、あさぎも俺には従順だけどこの性格だから俺以外にはイケイケなんだな。
例外があるとしたらヤッ君と君子ちゃんだろうか、自分で思っていて何だけど俺には従順って何かエロイな。
直後にミライが俺を睨んできた、こんな時だけ心を読むなよ。
「ちょっと千鶴に謝ろうと思ってさ……」
「えぇっ!?ちょ……ちょっと千鶴……もしかしたら都条例に引っかかるような事をしたの……?」
「この娘に本当に手を出したら都条例じゃなくても駄目だろ」
「あ、でもでも実年齢は私たちより年上だから大丈夫なのかな?やったね!」
言いながらウィンクとしつつ舌をペロリと出して、親指を突き立ててバチコーンと腕を突き出す。
やったね!じゃないよ、コイツは俺を何だと思ってるんだ。
「話が進まないだろ。そもそも俺じゃなくてミライが謝りたいって言ってるわけだし。でもミライ、俺は謝られるような事はしてないぞ」
俺の言葉にミライは黙ってしまう、俯いてしまう。
あさぎがいる前じゃ話難い事だしな、どうせ心を呼んでるんだろ。
なら、あさぎを言いくるめてこの状況から脱した方がいいと思う。
大丈夫、あさぎは驚くほど単純だ。
「なんか良くわかんないけどさ、ところミライはその服以外には持ってないの?」
あさぎは驚くほど関係ない話を振ってきた。
俺たちが話を変える前に、自分で全く関係ない話にしやがった。いや、まぁ好都合といえば好都合なんだけど自由すぎるだろ。
「いえ、私は気がついたらこの格好だったんで」
「ふーん、やっぱ地球ってなるとそんな感じなのかな。私たち今から外に行く予定だったんだけどさ、ついでに服を買ってあげるよ」
どうしてそんな話の流れになるんだ、という突っ込みを我慢する。
何にせよこの状況よりはマシだろう。
そんなわけで俺達は灰山さんの待ち合わせの時間までの時間つぶしをかねて近くのアウトレットに来たわけだが。
何ていうかもう、あさぎの生き生きとした様子がもうね。
この前まで中身とアンバランスな地味な格好をしていて、今は自分を取り戻したように性格らしい格好をしているあさぎ。
そもそもお洒落が好きだったのだろう、あんなのでも女の子なわけだし、考えてみれば部屋やファミレスでダラダラと喋ってばかりいたから性格も趣味も知ってはいるけどこういう一面は知らなかったな。
普通の女の子といえば普通の女の子のような気がするが、きっと気のせいだろう。
ちなみにあさぎとミライの買い物の様子を抜粋するとこうだ。
「ほらこれも可愛いよ!」
「ぎゃあああああああ!」
「ほらこれも似合うんじゃない!」
「うわあああああああ!」
「いいよいいよ! 可愛いよ!」
「ひぃぃいいいいいい!」
「いいぜぇ! コレいいぜぇ! 風送っていいぜぇ!」
「ぬわぁぁぁぁぁぁぁ!」
それにしてもこのあさぎノリノリである。
最後はあさぎはカメラマンみたいな事になってたし、ミライも最後には断末魔をあげていたし。
それにしても最近のアウトレットはどんな服でも揃うんだな、学生服とか御子服とか普通のアウトレットでは置かないと思うのだけど。
そんな店を知ってるあさぎもどうかと思うが、そんなあさぎの渡した服をちゃんと律儀に着ているあたりなんだかんだでミライも付き合いが良い。
何にしてもミライもあさぎも楽しそうで何より。
「ちょっと千鶴も可愛いミライのために一緒に服を選びましょうよ!」
「えー……俺はいいよ」
「何よノリが悪いわね、ほらミライちゃん、今度はコレを……」
「いや、あのさ」
断ったものの、たまりかねて俺は声をかけた。
「あさぎの選んでるそれさ、どう考えてもコスプレであって一般的な服じゃないだろ?」
「……ん? 何の事かな?」
「しらばっくれるな、それをミライに着せてどうしようってんだお前は!?」
「可愛いは正義!」
「開き直った!?」
「うわ……ようじょかわぃぃ……」
「お前が都条例に引っかかれ!」
言ってもミライは幼女ってほど幼くはないけどな、まさしく少女くらい。
思えば少女の定義ってどこまで何だろう、高校生くらいは少女とはもう言わないような気がするんだけどな。
青年があるから青女?
なら聖女か、ヴァルキリーかよ。
「それは無い」
「ミライも急に人の心を読むな! 恥ずかしくなるだろ!」
「ん、なになに?何を思ったの?」
それにしてもあさぎは本当にグイグイ来るな、別にいいっちゃいいけど。
「というか、お前ばっかり選んで肝心のミライが選んでないだろ、ミライはどんな服がいいんだ?」
「とりあえず、このコスプレショップには無い事だけは確かね」
「「もっともな話だ」」
あさぎまで同意してんじゃねぇよ。
っていうか、やっぱりコスプレショップなのかよ。どういうアウトレットなんだよここ。家族連れには厳しすぎるだろ。
そんなふざけた店を当然後にして、なんだかこじゃれた女性服の店に移動する。
その隣がどこぞの何百人もいるアイドルグループ風の衣装を扱っている店なのがとても気になるが、もう突っ込むのも面倒なので見ない事にする。
ともかくこっちは普通の店で良かった、ミライは言われるままに自分で服を選ぶとワンピースを持ってきた。
シンプルな淡いグリーンで、ミライのもとの素材が良いからどこかのお嬢様のように見える。
「どう……かな?」
「ぐへへ……」
スパーンという音を鳴らしながら、俺はあさぎの頭をひっぱたいた。
「何をするのかね!?」
「こっちの話だ、お前はいったい今日からどういう方向に進みたいんだよ」
「可愛いを正義!」
「重ね……てはいないな。いや、そういう問題じゃねぇよ」
「ど……どうなの?」
しまったミライを置いてきぼりにしてしまった。
どうと言われても、ぐへへとは人道的にならないけど可愛いとは思う。
もともと無地の白いワンピース姿だったから、色があるだけで随分と違って見える、見えるけども。
「似合うし可愛いと思うけど、もともとワンピースだったから代わり映えがしない気がするな」
「そ……そう……」
あ、凹んです。
生真面目に駄目だしなんてするんじゃなかった、こういうところで俺の男子力の低さを路程する事になろうとは。
「ぬっふっふ、あさぎさんの目は誤魔化せないのよ。ミライちゃんは私と同じで本当は活発な子だってのはお見通しなんだから」
あさぎの目は節穴と同じ意味を持つと辞書にありそうだが、今回に限ってはそうではないらしい。
あさぎがいるから……ってわけではいつもの厨二病の様子を見る限り無いだろうけど、俺と話ている時と比べたら今日のミライは別人のように萎縮してしまっている。
もしかすると、こっちの世界に出たから緊張でもしているのだろうか。
するってぇと、引きこもりの厨二病か。何だかミライが可愛そうに見えてきた。
「そんなわけであさぎさんのスーパーチョイスを着てみてー!」
今まであさぎさんのスーパーチョイスとやらで痛い目を見てきたミライだけど、素直に従う。
以外とミライは可愛いところがあるよな、いやいや速攻で赤くなってんじゃねぇよ。
心を読むな、俺まで恥ずかしくなるわ!
そんなまさしく無言のやり取りをしながら、あさぎのスーパーチョイスを着てみるミライ。
あさぎのスーパーチョイスはオーバーオールだった。
「どうよ!」
「いや、俺じゃなくてミライに聞けよ」
「どうよ!」
「どうかな?」
「結局俺に戻ってくるのかよ!」
何コレ、俺はいったいどんな罰ゲームをしてるんだよ。
どうと言われても、俺は女の子の服にとやかく言うようなセンスは持ち合わせていないんだぞ。
さっきは駄目出しをして失敗したんだから、今回は誉めちぎってしまう。
「うわー! まじ可愛い! 天使みてーだー! もっとも神様さんんだから同じなのかー!」
「駄目だったかー!」
「違うのにしよう!」
どうしろってんだよ!
何だろう、おまけにいつの間にかあさぎとミライが同調してってないか?
女のコミュニティは根が深すぎるだろ、怖い!
「なら千鶴が選んだらいいじゃない?」
「ん?」
あさぎの言っている事が理解できずに、俺は思わず聞き返してしまった。
「あーだこーだと文句を言うなら千鶴が選んでみせろって話、どぅーゆーあんだすたん?」
「無理に英語を使うな、ミライはそれでいいのか?」
「いいよ」
「いいのかよ……」
「許すよ」
「あれっ、立場が逆になってね!?」
困った神様だ、こういう場合、宇宙をまたにかける赤い全身タイツを着た葉巻を加えたダンディーならもっと気の利いた事をいえるのだろうけど、残念な事に俺にそんな甲斐性は無い。
「つってもな、ミライはこれからちょくちょくこっちに来るのか?」
「……いや、何か緊張するし。自分もこっちに来れるかもって発想が思い浮かんでやってみたらできちゃった感があるだけだから」
「だったらそのまま帰れば良かったような……まぁ、いいや。それじゃあの船からあんまり出ないんだな。それならばっと……」
結局あさぎと同じような方向性になるんだけど、こっちにこないならもっと動き安い方がいいだろう。
暑さ寒さが無いような場所だから、かさばるような服じゃないほうがいいし、だからといってジャージってわけにはいけないしな。
歳相応ならこんなところか?
そんなわけで小さめのTシャツにホットパンツ、サスペンダーでそれをとめておいて、足は縞のハイソックスを持ってきた。
あそこから出ないならこれでいいだろうし、出るにしても適当なジャケットをみつくろえばいいだろうし。
「まぁ、こんな感じだ。気に入らないだろうけ……」
「気に入った! これを買う! あさぎ!!」
「支払いは任せろー! バリバリー!」
「やめて! 別にお前の財布はマジックテープ式じゃないだろ!」
マジックテープ式の財布を使う女子大生がパートナーとか、ミライの服の前にそっちから変えるよ。
いったんお会計を済ませてミライは再び試着室に戻っていった、早速着替えてくるらしい。
「しっかし、いいのかね。甘やかすってわけじゃないんだろうけどさ」
「いいんでないの、我らが地球様が喜んでるし。ただ救うだけじゃあじけないでしょ?」
「そういうもんかね?」
「そういうもんよ、それにあの服じゃなくても。千鶴が選んだものならきっとあの子は何でも喜んだわよ」
「どういう意味だよ?」
「そういう意味よ、私も伊達に十年以上も純愛を通してきたわけじゃないよのさ」
「いつも思うけど、その語尾は何なんだよ」
「さぁね」
さぁね、に二つの意味をこめてあさぎは手を頭の後ろに組んで天井を見ながら口笛を吹くというマンガ誤魔化しを現実でやってみせた。
「ま、だからかな。私はあの子の気持ちがちょっとわかるのよ。どうやったって叶わない。そういう想いもある。逆にあの子の場合はまさにそれを学んでいるんじゃないの。誰の気持ちもわからないっていうのは、ワガママなんかじゃなくて自分が無いって事なんだしさ」
「なら、俺はお前も心配だよ。結局、お前は自分でいいって言って誤魔化してるだけで、何の望みも叶わないって事だろ?だから、今でもああも自分を捨てられる。そりゃ嬉しいけどさ、この前の戦いはさすがに引いたよ」
「別に望みが無いわけじゃないよ、新しい望みもある。けど、それは願って叶えるもんじゃないだけ。それに気がついたってだけの事かなー。翼子さんの場合は全部自分の力で叶えられるから望みが無いんだと思うけど、本当はさ何かの対価で叶えるもんじゃないでしょ、夢でも望みでも、願いでもさ」
あさぎはあさぎでいろいろと考えていた。
戦いの流ればかり考えていた俺には、それは表現しがたい感銘になって心に響く。
「私ってバカだからさー。そこはもう変わらないと思うし、だから悪いんだけどそうなった時は止めておくれよ相棒」
「心配だけど、そうなったら止めてやるよ相棒」
「そういう意味じゃ私も心配してるのよ、結局さ自分の願いもあるけど優先順を前から自分より他人にできる千鶴の事が、そこは尊敬してるとこでもあるんだけど。それって言うなら自分に興味が無いって事じゃん。それこそ、水島さんみたいにね」
瞬間、ドクンと心臓が大きく鼓動した。
あっけらかんと指摘された言葉が強く響いた、きっとわかっていた事なんだろう。
あさぎの言う通り、天童さんは出来すぎる故に自分を無くした、水島さんは出来なさすぎるゆえに自分を無くした。
最終的に自分に価値は無いと判断したから天童さんは死のうとしたし、水島さんは現在進行形の自殺だ。
なら、俺は。
俺も。
俺も、ミライも、自分に興味が無いのだ。
今のミライを救う作戦だって、元を考えれば東の物だ、戦いに関しても俺が支持を出しているだけで引っ張っていくのは相変わらずあさぎだ。
俺は今現在も、引きこもっていた頃のままじゃないのか。
いや、そんな事は無い。
無いはずだ、天童さんだってそう……言ってなかったな。
本当はどんな奴だったか、それに戻るだけだと、そうなるだけだと。
俺はどうなった、今の俺はハッキリ言って東の模造品じゃないのか。
この戦いが終わって、終わったら。
戦いって目的が無くなったら、俺はどうするのだろうか。
「お、千鶴。水着コーナーがあるぜ。もうすぐ夏だからなー。でも、夏になる頃にはお別れなんだよね、それがちょっと残ね……。大丈夫、千鶴。何か顔色悪くない?」
「大丈夫、平気だよ」
先の事を考えても仕方が無い、ただ戦う事を考えよう。
まずは生き残らないと話にもならない。
「着たよ」
すると服を着替えたミライが出て来た。
あさぎは体を立ち上がった毛虫のように身悶えさせながら『かわいー』と言っていた。
さっきも同じ格好を見ただろうに、生粋のアホの子がここにはいた。
そんなあさぎの様子など気にもとめずに、ミライは俺の袖を掴んだ。
「戦いが終わっても千鶴は大丈夫だよ。でも、私はどうなるのかな……」
地球意志。
今回は知覚できるように、ルールが強いられている。
では、知覚できなくなったらどうなるのだろうか。
地球意志の塗り変えでの正常化といった事が可能ならば、このままなのだろうか。
考えもつかないが、俺の成長とか戦いの後とかそんな細かい事なんてどうでもいい。
東の意志でも別にかまいはしない。
「今度は靴だな、俺のサンダルじゃぶかぶかだ」
「うん!」
この可愛そうな少女の笑顔を守れればいいだろう、今はそれだけで十分だ。
ミライと別れて、その後に灰山と会った。
何かを期待していたけど、御礼を言う事くらしかできなかった。
俺も、あさぎも、ミライも、水島さんも灰山さんも、誰だって、この戦いに参加していない人だって何かを抱えているんだ。
全く、こんな考えなんてミライの厨二病が移ったんだろうか。
そんな不安も、心配も勝たなければできやしない。
「それじゃ、行くか千鶴」
「ああ、行こうあさぎ」
本戦第三回戦
瀬賀千鶴&防人あさぎ VS 水島麻理&灰山秀隆
開始。




