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星のアスクレピオス  作者: 面沢銀
後半パート  星まで届く本戦編
41/66

世界の合い言葉はLから始まる四文字の単語。

 その13

 世界の合い言葉はLから始まる四文字の単語。



「……………というわけだと思う」


「ナルほどネ、しっかしアノ娘。まァあの年頃ならシ方ないとイウか。でも、キットそうなのでしょう」


「難しい事はわかんないけどさ、千鶴……」


「どうしたあさぎ怖い顔し……あっがああああ!折れる!折れるぅ~~~!」


「それ以上いけない」


 この戦いの原因と予想、そして今後の展開を説明した途端に俺はあさぎにアームロックをかけられる。

 ちょっと、どうしてなの!?っていうか間接技ってこんなに痛いのか!?

 悲鳴をあげる俺を加々美ちゃんが救出してくれた、ヨアンナさんは……笑ってんじゃねぇよ!


「いきなり何をするんですかあさぎさん!」


 あまりの痛さから思わず敬語になってしまった。

 加々美ちゃんは捻られた腕の手首をさすってくれている、心配してくれるのは嬉しいけどアームロックはそこが痛くなる技じゃないんだ。


「私のためにわざと負けようかとか、たわけた事を少しでも考えたからよ」


「だからっていきなりアームロックはないだろ、俺はどこかのラーメン屋か!?」


「ま……まぁ、私のために考えたってところはありがとう……ございます」


「何だそのデレ顔は気持ち悪いわ!」


 こんなショートコントを挟んでいる場合ではないのだ、話をもっと進めないと。

 約束通り、今日はヨアンナさんと加々美ちゃんとあさぎと俺で作戦会議だ。

 これまでの会議で情報を共有したのはサキの正体の存在。

 この件はやはりヨアンナさんは知らなかった。

 より厳密に言うならば人型になれる事は知っていたし、ミライの面影がある事もうっすらと気がついていたというのが正しい。

 どうして人型になれるのを知っていたのかと言うと、実に単純な事で戦う時はサキの姿になっていたからだ。

 ちなみに星座の加護は山羊座、攻撃手段は呪文と同時に腕にドリルを装着して殴りつけるというカッコいいものらしい。

 くそぅ、超見たい。


 ついでにヨアンナさんの星座は鳩座で、戦闘というよりも索的などに長けているらしい。

 この話はそこでおしまいになった、いずれ戦う事にもなるという事は忘れてはいない。

 出来レースにはせず、もしも戦う事になったら純粋に強い方が残るという事で話をつけたからだ。

 それにここで話をヨアンナさんに聞いてもらう事には大きな意味がある。

 仮にヨアンナさん達が勝ち残ってハチ、いやサキが嘘をつくかあるいは『病気の身内を楽にしてあげたい』などという願いをしていたならばヨアンナさんは利いてしまうだろう。

 お互いの願いを叶えるというのはここで抑止力に繋がるのだ。

 しかし、あのサキがこれくらいで願いを変更するほど無策とは思えないから何か仕掛けてくるだろうが。

 そういった観点から、ヨアンナさんはサキの正体に気がついていないようにという事にしてもらった。

 それも心が読めるサキにどこまで通じるかわからないが。

 そして俺が気がついたこの戦いについて出した答えを皆に説明した。

 加々美ちゃんは断片的に東から聞いていたらしく、この答えで間違いなさそうだった。

 だから、俺の今後の方針は固まったのだ。


「でも、凄いですね。一樹さんの出した答えに本当にたどり着いちゃうなんて」


「その誉められかただとどうしてか素直に喜べないな」


「予想外だったのはあさぎさんの願いが途中で叶ってしまった事ですね、この計画は共有の願いを使えば可能なので」


「あ、私の残った願いに関しては別に使うからいいよ」


「何を願うんですか?」


「ん、ちょっと状況にもよる。というか、私よりも問題なのはヨアンナさんよ」


 そうなのだ、ヨアンナさんの場合は勝ち残った場合はパートナーの共有の願いで使う作戦を自分の願いとして発動してしまうため自分の願いを使えない。つまり旦那さん達を助けられないのだ。


「うーん……でもショウガ無いよ。星にはかえラれなイしネ。そレに、ダーリン達が捕まテるのは技術確保の問題ダかラ。それ以上の事を出す事ガできレバ交換条件にできルしネ。その時は加々美ちゃんお願イよ」


「それは勿論ですよー!」


 普通の女の子にしか見えないけど、この子はこの子で天才らしいからな、油断はできない。


「ただ私の場合ハですネ、能力が戦闘向きじゃないのでソウなった時ニ、果たして地球を相手どて戦えルかが問題でス」


「あ、それには心配及びません。そのための私なんですよ。そもそも電話じゃなくてここに呼び出したのもそのせいなんですけどね、地球意志は電気媒体で私達の情報を知るわけです」


「そういえばサキも似たような事を言ってたな」


「つまりですね、その特性を逆手にとってですね……」


 と、加々美ちゃんはとんでもない事を言いだし。

 それが可能ならば、確かに星を相手にしてもどうにかなりそうだと確信する。

 最後まで残った上で一度しか使えないびっくりどっきり技だ、このためのアメリカへの一ヶ月の新婚旅行だったのか。


「それナラ、私モ安心デス。ってか凄いネ、加々美ちゃん」


「んじゃあ、話をまとめましょう。ちょっとこんがらがってきた。よろしく千鶴」


 あさぎのキラーパス。

 まぁ、あさぎが話をまとめる事なんてできないからな。


「現状ではミライを守ろうとする、俺とあさぎ。ヨアンナさんはこっちの勢力だけど、ヨアンナさんのパートナーのサキはミライを殺そうとする日下部と烏丸の勢力。そしてこれが一番問題なんだけど未だに勝つビジョンが浮かばない天童さんと地蔵院さんの無所属勢力」


「バサ子さんは事情を話せば仲間になってくれないかな?」


「それは俺も考えた、ただ大和も似たような事を言ったわけで、それであのぶった切りだからね。天童さんは意識してないだろうけどお父様の力や意志が働いているっぽいから。お父様は介入はすれど何もせずみたいなものだしね。天童さんの願いも無いって言ってたあたり。天童さんイコールお父様が勝った場合は今の特殊状況のリセットで戦いは続くって事じゃないかな。ただ、ミライが危険な状況らしいからあと何回これが行えるかはわからない。前もって言って機嫌を損ねるのもリスクが大きいし、説得は俺たちのどっちかが天童さんと戦う時でいいとは思うけど……まぁ、失敗の前例もあるし難しいんじゃないかな」


 考えてみると大和はつくづく不憫だったな、大凶をピンポイントで引き当てたというか、意図せず地雷源に落ちてしまったというか、本来ならこの話し合いに出席しててもおかしくなかったのにな。


「今後の方針が決まったところで」


「そうネ、次の戦いヲ勝たないと意味がナイものネ!」


「おっし、じゃあ地球を救いますか!」


 言って円陣を組むように四人で拳を合わせた。



 

 二日後。

 本戦初日と同様、俺の部屋で呼び出されるのを待つ。


「それにしても、とんでもない事に巻き込まれたけど地球を救う事になるとはね」


 あさぎの言葉を聞いて、そうなんだよなと相づちをうちながらもあさぎ同様に、そんな使命の大きさを俺は感じるわけではなかった。


「勝てばまたこの前の空間に飛ばされるのか、それともあの時だけだったのか。今の俺はあそこじゃないともうミライに会えないからな」


「おっ、惚れちゃったの?」


 あさぎはイタズラ気味に笑うけど、それ勿論本気で言ってるわけじゃない。


「そういうんじゃないけど、ま。ほっとけないんだよね、今となっては似たものどおしだったんだなって思うし」


「なあ、私もそうだったのかね?」


「お前はむしろ真逆だ」


「そうかい?」


「防人あさぎが主人公だとしたら俺もミライもヒロインポジションだよ」


「ミライちゃんはともかく、千鶴は違うっしょ?」


「ん?」


「主人公なんて誰かがどう見るかって事だよ、へへへ」


 そう言ってあさぎは、少し照れたように笑う。


「じゃ、地球を救うっていうか。馬鹿な女の子をちょっと助けると思ってやりますか!」


「右に同じく」


 そして世界が反転する。

 星を巡る戦い、二回戦。


 

 瀬賀千鶴&防人あさぎ対尾野克彦&原田義徳。



 予想していた通り、灰山さんに病院送りにされていた二人だったが、ここでは全快のようだった。

 ただ、格好は身体の様子そのままらしく入院患者よろしく病院特有のパジャマみたいな物を着用している。


「お前、今回は助けには誰もこ……」


 サングラスをしていた方の男が話かけてくるも、その言葉を飲み込んだ。

 それはきっとあさぎの様子を見たからだろう。

 あさぎは何も言ってないし、俺も隣のあさぎをまだ見ていない。

 つーか、見たくない。

 この異常異質なプレッシャーを仲間の俺でも感じるんだ、それを敵意として向けられる尾野と原田の恐怖といったら無いだろう。

 二人の半分以下の体格のこの女は二人の目にはいったいどのように映っているのだろうか。


「その節はよくもうちの千鶴を可愛がってくれたわね……」


 決して大きな声ではないというのに腹に響く、重くまがまがしい声。

 息を飲む。


「酷い目にあったようだけど、アンタ達はもうそれ以上に酷い末路しかないわよ。アンタ達は……いいや、脅す価値もねぇよ。死ね!!」


 目的が達成されたから心がブレるとか、そんな生ぬるい事はない。

 見ているこっちが寒気がするほど、あさぎは頑なで純粋だった。

 純粋すぎた。

 純粋は言うなれば白痴と同じで、白痴とは狂気と一緒だ。

 どうしても、どうしてもこのあさぎの様子は灰山と被ってしまう。

 あさぎの性格は知っている、だから今ならああはならないはずだ。

 いいや、させない。

 俺がさせない。

 俺は救うべき女が二人になった。

 対峙した二人の男の結末など、もはや語る必要も無いだろう。

 結局、最後までどちらが尾野でどちらが原田なのかはわからず終いだった。




 本戦二回戦終了。

 瀬賀千鶴、防人あさぎ。 三回戦進出。

 尾野克彦、原田義徳   両名共に死亡。 



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