第73話「映画」
ある週末、僕はアイノを映画に誘うことにした。
どの映画を観ようかしばらく迷っていたけれど、ようやく一本の映画に決めた。タイトルが気に入ったのだ。
その映画の名前は「愛と雪」。
面白そうだと思ったので、僕はチケットを買った。けれど、そのときは映画のあらすじを確認することさえしなかった。あとになって、それがちょっとした失敗だったと気づくことになる。
僕たちは駅の近くで待ち合わせ、一緒に映画館へ向かった。
「ねえ、今日はどんな映画を観るの?」とアイノが尋ねた。
「『愛と雪』っていう映画だよ」
「きれいなタイトルだね。私、好きだな」と彼女は笑った。
「僕もそう思ったから、この映画にしたんだ」
アイノはそれ以上何も聞かなかった。
やがて僕たちは映画館に着いた。ポップコーンと飲み物を買い、席を見つけて上映が始まるのを待った。
館内が暗くなり、大きなスクリーンに最初の映像が映し出された。映画が始まった。
最初から、それが恋愛映画だということはすぐに分かった。
主人公は普通の少女と不死身の戦士だった。ある日、二人は出会い、少しずつ惹かれ合っていく。
僕は少し驚いた。
どうやら、思っていたのとは全然違う映画を選んでしまったみたいだ……。
でも、今さらどうすることもできないので、そのまま観ることにした。
アイノに選び間違えたことを気づかれないように、僕はなるべく平静を装った。
一方、アイノも映画の内容に気づいたようだった。少し照れた様子で、僕がどう思っているのか確かめるように、こっそりこちらを見た。
けれど、僕はスクリーンを見続けていて、彼女の視線には気づかなかった。
映画は少しずつ面白くなっていった。主人公たちは一緒に過ごす時間が増え、だんだんとお互いに惹かれていった。
ある場面で、戦士は少女にこう打ち明けた。
長い時を生きてきた自分が、この世界に残りたいと思えるほど大切な人に出会ったのは初めてだ、と。
アイノは少し顔を赤くして、目を伏せた。
僕は彼の言葉について考えていた。
不思議だな……。永遠に近い時間を生きてきた人でも、そこまで大切に思える相手に出会うことがあるんだろうか?
スクリーンの中では、少女が戦士の手を握り、二人で過ごせる時間がどれだけ短くても構わないと静かに答えた。
大切なのは、こうして出会えたことなのだと。
アイノはまた僕を見た。今度はさっきより少し長く見つめていたけれど、僕はやっぱり気づかなかった。
その後も、映画には心に残る場面がいくつもあった。アイノはもう照れを隠しきれない様子だった。スクリーンを見ようとしていたけれど、ときどき僕の方にも目を向けていた。
一方、僕はそのまま物語を見続けていた。
映画は思っていたよりずっと面白かった。特に、長い時を生きてきた不死身の戦士でさえ、自分にとって大切な人に出会えたというところが印象に残った。
映画の終わりには、主人公たちは結ばれていた。最後の場面では、雪が降る中、二人が手をつないで笑い合っていた。
やがてスクリーンにエンドロールが流れ始め、館内の明かりがついた。
「どうだった? この映画」とアイノが僕の方を向いて尋ねた。
「思ったより面白かったよ。正直、全然違う内容を想像してたけどね」と僕は答えた。
「チケットを買う前に、あらすじを読まなかったの?」
「うん。ただタイトルが気に入ったから、観てみようと思ったんだ」
アイノは小さく笑った。
「じゃあ、タイトルだけで選んだんだ?」
「そういうことになるね」
「でも、私は気に入ったよ」と彼女は笑顔で言った。
「それならよかった。自分の選んだ映画で、せっかくのお出かけを台無しにしたんじゃないかと思ってたから」
「そんなことないよ。レンと一緒に過ごせて楽しかった」
僕は彼女を見て、少しの間その顔を見つめた。
「それなら、ここに来てよかったよ」
僕たちは荷物をまとめて、映画館を出た。ロビーにはたくさんの人がいたけれど、やがて出口までたどり着いた。
「もう結構遅いね。そろそろ帰ろうかな」とアイノが言った。
「そうだね。駅まで一緒に行こう」
「うん」
僕たちは映画の話をしながら駅へ向かった。アイノは一番気に入った場面について話してくれて、僕も主人公について思ったことを話した。
駅に着くと、一緒に改札を通ってホームへ向かった。
電車はすぐにやって来た。僕たちは同じ車両に乗り、隣同士に座った。
「今日は楽しかったね」と電車が動き出すと、アイノが言った。
「うん。誘ってよかったよ」
彼女は少し笑って、窓の外を眺めた。
僕たちはそのまま、いろいろな話を続けた。話しているうちに時間はあっという間に過ぎ、やがて僕たちの降りる駅に着いた。
電車を降りて、いつもの通りへ向かった。
家に着くと、僕たちは挨拶を交わして、それぞれの家に帰った。




