謎の女性 Ⅸ
そのカルタナの言葉に私は押し黙る。
私もまた、あの時の出会いが衝撃だった自覚はあったが故に。
……何せ、私はあのとき騙されて傷心のカルタナを強引に、この家に連れてきたのだから。
「よく思い出しますよ。あのときのことは。何せ、泣いてる僕を強引に立たせて、いきなりこの屋敷に連れてきたんですから」
その言葉に、私の記憶がさらに蘇る。
それはちょうど、シャルルがいなくなってすぐ、領地で働いてくれる魔術師を求めて方々を駆け回っていた頃だった。
その際、私は地面にうずくまってなく、その当時はまだ少年と呼ぶべきカルタナの姿を見つけたのだ。
そして私はその少年を見捨てられなかった。
結果、私は衝動的にカルタナを屋敷に連れ帰ってしまったのだ。
……絶賛修羅場中の屋敷に。
「強引に連れてこられたと思ったら、厳しい指導の日々が待っていて、気が滅入る毎日だったのを覚えていますよ」
そのカルタナの言葉に、私はただ肩を縮こまらせてうなだれることしかできない。
我ながら、自覚はあったのだ。
あの日々は、あまりにも理不尽な物だと。
故に私は、素直に謝罪しようとする。
「その、あの時は……」
「でも、どれだけ厳しくてもマルシア様は私のことを見捨てることはなかった」
「……カルタナ?」
私が反射的に顔を向けると、カルタナの顔に浮かんでいたのは怒りではなかった。
それどころか、浮かんでいたのは優しげな微笑だった。
「今なら分かります。あの時の厳しさは、私への優しさだったのだと。本来ならあの時、マルシア様は私を見捨ててもよかった。けれど、どれだけ文句を言おうが、マルシア様は私を導いてくれた」
「……それは全て貴方のやったことの結果だわ。私はなにもしてない」
「マルシア様ならそう言うでしょうね。けれど、私には断言できます。あの時マルシア様に出会っていなければ、今の私はいなかったと」
そうカルタナは……現魔術開発長たる魔術師は笑って告げる。
それに、私はなにも言わず顔を背ける。
これを言い出したら、カルタナは譲らないと知っていたが故に。
「相変わらず、こういう話題は苦手なんですね」
「……うるさいわよ」
それしかいえない私に、苦笑しながらカルタナは告げる。
「とにかく、私の前ではマルシア様の優しさを隠さなくて良いですよ。あの、アイラという女性をマルシア様が見捨てられないのは分かり切った話だったんですから」
その言葉に、私は唇をかむ。
本当にかわいげがなくなったものだと。
とはいえ、カルタナ相手に内心を隠しても仕方ないのは当然の話だった。
「厳しくするのは当然の話だわ」
「……それだと、また勘違いが」
「勘違い? 私がやっていることは独断の自己満足よ。勘違いもなにもないわ」
私は真っ直ぐカルタナの目を見て告げる。
「自己満足を優先させたなら、その責任をとるのがセットよ。私がしているのは、ただその責任を果たしているだけよ」




