Last mission ウエディングドラゴン
私はエージェントドラゴン。
種族はエンシェントドラゴン。
ゲザー帝国の偉大なる皇帝、カレーナル=ド=ゲザー陛下に仕える一人のエージェントだ!
………………
エージェントだ!
と、いう訳で、今日は待ちに待った結婚式の日だ!
勿論、私と主の結婚式だぞ!
先日、主は無事に皇帝の位に就き、ゲザー国もゲザー帝国になった。
後は、結婚式を大々的に行えば一段落だ。
結婚式という事で、私の家族は勿論の事、竜族の主だった面々もゲザー帝国に訪れている。
「これで厄災が片付くぞ!」
来るのは良いのだが、この言葉は無いと思う。
言うに事欠いて、花嫁を厄災呼ばわりだ。
とりあえず殴りに行こうと思う。
人間の姿だが、殴り倒すのに問題は無い。
アイツらも、私を厄災呼ばわりしているのだから、殴られても本望だろう。
「待て」
殴りに行こうとしたら兄に止められた。
何故、止めるのだ?
殴っても許されるだけの事を言っているだろ?
「私が殴り倒してくるから、お前は大人しくしておけ」
そう言い残して、兄が失礼なドラゴン共に殴りかかった。
悲鳴が響き渡る。
流石は兄だ。
失礼なドラゴン共が、まるで相手になっていない。
見事なまでの一方的な蹂躙だ。
ひとしきり暴れた後、兄が帰ってくる。
「せっかくのウエディングドレスを汚すなよ」
なるほど。
相手の心配ではなく、私のウエディングドレスの心配をしていたのか。
考えてみれば、この後に婚礼の儀式があるのだ。
このドレスを汚す訳にはいかなかったな。
「いいか。ゲザー皇帝を絶対に逃がすなよ」
そう言った兄の目は真剣だった。
真剣なのは良いのだが、私が普通にしていたら、主が逃げ出す様な言い方はどうかと思う。
一応だが、主との関係は上手くいっているぞ。
「主は、私の事を全力で愛してくれると言っているぞ」
自分で言っておいてなんだが、かなり照れるな。
事実ではあるのだが、かなり恥ずかしい。
「……なら良い」
そう言って、兄が溜息を吐く。
なんとなく引っかかる反応だな。
言いたい事があるなら、ハッキリと言ってくれ。
だが、兄は、それ以上、何も言ってこない。
なら、此方から話しかけよう。
「主とは、もう話したのか?」
「……ああ」
「何か言っていたか?」
「……『これから、家族として宜しくお願いします。義兄さん』と、言われた」
「……何故、浮かない顔なのだ?」
「『義兄』を強調された。絶対に厄介事に巻き込むつもりだ……」
……なるほど。流石は主だ。
私との結婚を既成事実化された意趣返しに、兄が義理の家族である事を最大限利用するつもりだな。
まあ、なんだ……。
兄よ。自業自得だ。受け入れてくれ。
「まあ、私が望んだ事だ。甘んじて受け入れるつもりだ」
そう言って、兄が、何処か遠くを見つめる。
まだ、胃薬が手放せない生活を送りそうだな。
「ところで……」
「俺様は認めんぞぉぉぉっ!」
私の言葉を遮る様にして、突然、怒声が響いた。
まあ、聞き覚えのある声だ。
正直、今日という、めでたい日に聞きたい声ではないがな。
「アイツも来ていたのか……」
幼馴染が空で荒れ狂っていた。
どうせ、私の結婚を認めないとか言うつもりなのだろう。
だが、アイツの許可など必要としていない。
いったい、アイツは、私の何のつもりなのだ?
正直、面倒でしかないので、帰ってほしい。
「こんな式など、滅茶苦茶にしてくれる!」
幼馴染が、そう叫んで、ドラゴンブレスの態勢に入る。
アイツは、何を考えているのだ?
ここには竜王のオッサンも来ているんだぞ。
暴れたら、後で、こっ酷く怒られるだけだ。
それに……
「グギャァァァッ!」
それに、ここにはゲザー騎士団も警備にあたっているのだ。
幼馴染が、ゲザー騎士団の攻撃を受けて、当然の様に墜落している。
まあ、ゲザキャノンとゲザ粒子砲の集中砲火を浴びたら、アイツでは耐えられんからな。
目に見えた結果だった。
「うぅ……」
地に落ちた幼馴染が、呻き声を上げ、何かを求める様に此方を見つめている。
……どうしろというのだ?
私がお前にしてやれる事など何もないぞ。
祝う気が無いなら、大人しく帰ってくれ。
「お前は、本当に、あんな奴で良いのか……?」
……本当に失礼な奴だな。
主以上の相手などいる訳ないだろう。
「主で良いのではない。主が良いのだ」
私がそう言うと、幼馴染は、妙に悲しそうな目をする。
………………
何だ、その目は?
此奴が何をしたいのかが分からん。
「……分かった。大人しくする」
「分かったなら良い」
まあ、知らん仲ではないし、大人しくするなら、式の見学くらいは許してやろう。
そう思っていると、幼馴染はノソノソと去って行った。
大分、気落ちしているな。
本当に何なんだ?
「アイツも、何故、お前に惚れていたんだろうな……」
兄が小さく呟く。
その呟きに、思わず胡乱な者でも見るかのような視線を兄に向けてしまった。
「アイツが、か?」
「ああ。気づいていなかったのか?」
「気づく訳ないだろう。私のやる事を馬鹿にしてばかりだったぞ」
「……好きな娘に意地悪をしてしまう心理だろうな」
「……アイツ、私と年齢が近いから、三百年以上生きているんだぞ。三百年、思春期を持続していたのか?」
「………………」
兄が黙った。
事実を言っただけなのだがな。
まあ、何と言うか……
「痛い奴だな」
「……アイツが、三百年、思春期を拗らせ続けたと考えると反論もできん」
兄が深々と溜息を吐く。
正直、溜息を吐きたいのは私だ。
何故、結婚式の日に、こんな思いをしなければならないのだ。
そう思っていると、新たな来客があった。
「来たぞ」
「久しぶりだな」
守護竜のオッサンと不死鳥のオジさんだった。
幼馴染と違って、人化している。
ドラゴン連中が多いから、そうしてもらえると場所を取らなくて助かるな。
「手土産を持ってきた」
「私達からの結婚祝いだ」
そう言って、何やら小瓶を差し出してくる。
妙な力を感じる代物だ。
一体、何を持ってきたのだ?
「不死鳥である私の心臓と……」
「世界樹の葉やら樹液やらを調合してきた」
………………
随分、血生臭い物を持ってきたな……。
普通、結婚祝いに、自分の心臓を抉りだしてくるか?
「飲めば、寿命に縛られる事は無くなる」
「老いや、病とも無縁になるだろう」
「「末永く、幸せにな」」
二人が声を揃えて言ってくる。
なるほど……。
末永く、主に私を押し付ける算段か。
だが、まあ、主との寿命の違いが懸念点だったから、有難く使わせてもらおう。
不死鳥のオジさんの肉を食べてしまったとは言え、主は人間だ。
千年かそこらでお別れは悲しすぎるからな。
「有難く受け取っておこう」
「そうしてくれ」
「ゲザー皇帝に飲ませる時には手伝うぞ」
此奴ら、主に無理やり飲ませるつもりだな。
そこまでして私を片付けたいのか?
「ところで、ゲザー皇帝はどうした?」
「姿が見えないが……」
二人が訊ねてくる。
どうやら、主に会えていない様だな。
「向こうで、私の家族に挨拶していたぞ」
私の両親と話していたはずだ。
初対面ではないのだが、主の神速の土下座に、両親も感心していたな。
主の一族も来ていて、とんでもない土下座力になっていた。
兄まで土下座を始めたら、土下座力が高まり切って、ゲザ・ビッグバンが起き、新たな土下座世界が創造されそうだ。
「それなら、ゲザー皇帝にも挨拶してくる」
「分かった。主の一族も来ているから、素晴らしい土下座集団が見れるぞ」
私の言葉に、不死鳥のオジさんと守護竜のオッサンが苦笑する。
?
何か、おかしな事でもあったのか?
「お前は変わらんな」
「相変わらずの土下座好きだな」
当たり前だ。
土下座に勝るものなど、この世に存在しない。
「まあ……、なんだ……」
「一応言っておくが……」
「何だ?」
何が言いたいのだ?
言い淀むような事なのか?
内容によってはぶん殴るぞ。
「……お前の幸福を祈っている」
「色々と迷惑も掛けられたが、お前は、手の掛かる親戚みたいなものだ。幸せにな」
⁉
此奴ら……⁉
「素直に他人の幸福を祈れたのか⁉」
吃驚した。
此奴らから、こんな言葉を聞けるとは思ってもみなかった。
「当たり前だ!」
「流石に失礼すぎるぞ……」
そう言われてもな……。
口を開けば小言ばかりの二人だから、そう思うのも仕方ないだろう。
そんな事を思っていたら、今度は二人が急に笑い出した。
実に愉快そうだ。
「いや……、お前は、それで良い」
「そうだな。変わらずにいてくれ」
「……どうした? 急に? 悪い物でも食べたのか?」
流石に心配になるぞ。
今までにない反応だ。
「何、思い返せば、お前に振り回されるのも良い思い出だという事だ」
「今日で解放されると思えば、今までのお前の蛮行も許せるというものだ!」
どういう意味だ?
貶されている気がするのだが、それだけではない様なので、殴って良いか判断に困るな。
………………
まあ、めでたい日だ。
勘弁してやろう。
「では、ゲザー皇帝の所に顔を出してくる」
「ドレスを汚さんようにな」
そう言って、二人が去って行く。
「私も、来賓に挨拶してくる」
兄も、そう言って、その場を離れた。
一人きりになる。
そうすると、自然と主との思い出を思い返した。
主の土下座に惚れ込み、ゲザー国のエージェントなった事。
主の指示の下、色々な任務にあたった事。
エージェントとしては、本当に色々な事があった。
そう、色々と……。
色々と……。
………………
……ん?
冷静に考えると、私、言うほど、エージェントとして活動していないのではないか?
主の土下座を観察してばかりだった気がする。
……いや! 思い出せ! 何かあるはずだ!
エージェント……。エージェント……。
ん~~……。
……駄目だ。まったく思い出せん。
何かしらはあった気がするのだが、主の土下座の記憶に塗りつぶされている。
……まあ、それだけ主の土下座が素晴らしかったという事だな!
そうに違いない!
「お待たせしました」
考え事をしていたところに声を掛けられる。
振り返ると、そこには主が居た。
新郎らしい、白を基調とした礼服を身に纏った主。
その主が、相変わらずの美しい土下座をしている。
礼服も相まって、主が輝いて見えた。
こんな事は、流石の私も初めてだ。
何というか……
……実に素晴らしい!
礼服にも関わらず、躊躇なく土下座をする精神は、紛れもなくゲザリストのものだ。
あまりの素晴らしさに魂が抜けた様な感覚だ。
呆然と主の土下座を眺めていたら、不意に主が立ち上がった。
立ち上がった主の顔には、柔らかな微笑みが浮かんでいる。
「式が始まります。行きましょう」
そう言って、主が、私の手を取る。
その手は優しく、私の手を包み込むようだった。
「式は、我が国伝統の土下座結婚式です」
そうだった。
楽しみにしていたのに、主の姿を見たら、嬉しさのあまりに忘れていた。
「皆、待っています」
「ああ」
「土下座で」
「素晴らしいな」
嬉しさのあまり、笑みがこぼれた。
主も微笑んでいる。
互いに顔を見合わせ、もう一度笑う。
暫しの後、主に手を引かれ、神殿の扉に向かって進んだ。
神殿の中には神の気配を感じる。
おそらく、創造神様も見届けに来てくれたのだろう。
世話になった相手だ。それも嬉しかった。
主と共に神殿の扉の前に立つと、荘厳な音楽が流れ始める。
式の始まりだ。
主の手が、私の手を優しく握る。
私も、主の手を握り返した。
良く晴れた空から暖かな日差しが降り注ぎ、風は、流れる音楽を穏やかに運ぶ。
世界が、私達の門出を祝福してくれているようだった。
僅かな緊張を胸に、主と共に前を向く。
神殿の扉が開き、数多の土下座が私達を迎えてくれた。
両親が、兄が、ゲザー帝国の者達が土下座している。
前に進む。
今日の為に用意された祭壇。
そこには、当たり前の様に創造神様が居た。
創造神様は、穏やかに笑っている。
そして、そんな創造神様を発見し……
主が、凄まじいまでの速度で土下座をぶちかました。
やっと、土下座から解放されます。
本当に、この話は書いていて気が狂いそうでしたw
最後まで御付き合い頂けた方、ありがとうございました。




