第18章 終章・王林
「空河、とても嬉しそうだったね」
音環は隣の大河に声をかけた。
県庁脇の、緑が豊かな公園。門亜、音環、すべっタロー、大河の4人は公園のベンチに腰を掛けて軽く空を仰ぎ見た。
街灯がついているせいか、小さな星々は見えなかったが、ふたご座とオリオン座が南から西にかけて輝いて見えた。
カズヤは披露宴が終わるとタクシーを拾って帰京してしまった。
音環は寂しそうにカズヤを見送った。もう少し一緒にいたかったが、大河から
「クリエイターは自由なようで自己責任に縛られているから」
と言われて、真実をついているよな……と、音環は感心した。そして、大河は親戚の応対をしなくていいの?と気になって聞いたが
「俺の結婚話に持っていかれるから……しばらく不在する」
真面目に言うので笑ってしまった。
「それにしてもさ……準備大変だったよね。俺たち」
音環は続けた。
「友人代表に俺たちを選んでくれるのはいいけど……門亜はこれだし。カズヤは目立ちたがらないし。そしたらすべっタローがやりたいと言い出すし」
ふっ。大河が笑った。
「重ね言葉は使う、ふさわしくない言葉は使う。俺、何度添削したことか……」
へへへ、と笑うすべっタローの声が聞こえた。
「だって、分からなかったんだもん。最初作ったスピーチなんて、全部真っ赤になって却って来たよ」
……そんなにひどかったのか。大河は頭を抱えた。ギリギリ空河の奥さんは許しても大人連中は許さないだろう。危なかった……。
大河は心の中で音環に手を合わせた。
その時……くしゅん、と門亜がくしゃみをした。
「ちょっと温かいモノでも買ってくる?自販機あったよね」
音環は立ち上がると公園の外に向かって歩いて行った。
しばしの静寂が覆った。
少しして、それを破るようにすべっタローが口を開いた。
「あの子……桜花さん、って言うんだね」
その時、ホットドリンクを抱えて戻ってきた音環は慌てた。
触れないで来たのに……!ド直球で聞くか?口から出た言葉は消すことは出来ない……。音環ははらはらした。
「おじさんから、オレ、王林さん、って聞いていたんだよ。もし桜花さん、だったら薄桃色のワンピース買って来たのに……」
なんだよ……それ。全部筒抜け。門亜は無言ですべっタローの両肩を握った。圧が……強い。
音環ははぁ、とため息をつきながらホットドリンクを順々に渡していった。
「門亜……どうする?写真焼き増して、またおじさんのかばんにでも忍ばせておく?」
音環の声に、門亜は、ん-とでも言うように首を傾けた。
「世話になったから……いい」
「じゃあ、呪っとく?ん-」
真剣に手を合わせる音環に門亜は笑い出した。
「大丈夫だよ。呪いなんて効かないよ。俺の呪いなんてせいぜいトイレに行きたくて向かったときに、目の前で入られる程度のやつだから」
ぐふっ。門亜は飲みかけたお茶を噴出した。大河は笑い……すべっタローも笑い出した。
その呪い……効いたら地味に痛い。
「そうそう。大河のもってたさすまた、どこで売ってるの?密林?」
ひとしきり笑った後、すべっタローが聞いた。
「持ち手がスコップになっているやつだろ?あれ、密林では取り扱っていないんだ。俺アカウント持ってるから、今度一緒に見ようよ。長さもいろいろあるし」
音環の言葉に門亜は頭を抱えた。
さすまたか……これじゃ、SAKIOTTEじゃなくてSASUMATAMOTTE(さすまたもって)だ。
「そうだな。今度音環んちに行くよ」
――お茶を飲み終えるころ。申し合わせるもなしに立ち上がった。
じゃ。また。
そう言うかのようにタクシーを拾い、めいめいに帰って行った。
「すべっタロー、じゃな」
音環はタクシーに乗り込むすべっタローに言った。……次のタクシーはしばらく待つようだった。寒いけど……春はもう少しだな。
音環は上を見上げて、少し膨らんだ桜のつぼみを眺めながら思った。
終
読んでくださりありがとうございます。
群青ひらです。
第3作目 邂逅はこの章で終了です。
あらすじにも書いた邂逅の意味は実は
「ここで出会った人は、この後の作品でも直接的に、或いは廻りまわってSAKIOTTEのメンバーにつながる」
話でした。
その話を第4作目、第5作目で出来たらと思います。
皆様の足跡が力となりここまで来れました。
心から感謝申し上げます。
ありがとうございました。




