第1章 プロローグ 突然の来客①
巡回を終えて、門亜は庁舎の車庫に白バイを入れていると、同じ小隊の隊員が呼びに来た。
小隊長が呼んでいる、とだけ言って去っていく隊員を見ながら、門亜は「何かやったかな?」と思ったが、とりあえず運行後の点検に集中することにした。
――緩みやすいボルトを中心に、緩みがないか点検していく。違反者を見つけたときに、急加速するその車体は完璧でなくてはならない。
白バイと心中なんて、冗談でも言えない。
その後は、ボディの傷の有無を兼ねてクロスできれいに拭きあげる。
ここまでが、庁舎に戻ってからの仕事。疲れていようが、お腹がすいていようが、やらないといけない。
たまに、閉口するときがあるが、そんな時、門亜は『白バイ隊員としての矜持だ』と自分に言い聞かせている。
……小隊長の呼び出しなんだから、運行後点検に時間をかけるなんて分かってるでしょ。
門亜は、焦らずにいつも通りに点検を行った。否、いつもより念入りに点検をした。
車庫を出た門亜を、先ほど呼びに来た隊員が様子見に来た。
そして、これから小隊長の所に行く、と言うと『来客と一緒に応接室で待っている』との小隊長からの伝言を伝えた。
心なしか、目線が何か言いたげだった。強い反感のようなものではなかったが、決して好意的とは言えなかった。
……何なんだ?しかも来客って。嫌な予感しかしないな。
考えながら歩いたが、応接室までの廊下はあっという間だった。
門亜は応接室の前の扉に立つと、静かに3回、ノックをした。そして
「工藤です。遅くなりました」
と言うと、中からどうぞ、との小隊長の声がした。
利き手でドアノブを回し、扉を開けると、
「失礼します」
と、軽く会釈をした。そして顔を上げると、ソファに座る男の顔を見て心臓が殴られたような衝撃を受けた。
……伯父さんだ。何で、県警の刑事課の刑事がここにいるんだ?
門亜は表情に出さないように必死だった。
オレオレ詐欺を捕まえたとき、よくやったと言われなかったどころか、青森署でめちゃくちゃ怒られたんだぞ!しかも、同期の奴に見られるってもう……。
すん、と、目線を少し下に下げた。そして、静かに深く息を吸い込むと、音もたてずにゆっくり吐き出した。
「工藤、立っていないでこっちに来て座れ。だいぶ待ったんだ」
小隊長が門亜の顔を見ないで言った。
門亜は一礼すると、伯父の向かいのソファに座った。
「こちらは……紹介しなくても分かるだろう。お前の伯父さんだ」
ふぅ。ため息をつきながら小隊長は言った。そして
「来週から、刑事課の応援に入ってもらう」
詳しくは伯父さんからだ、と小隊長は続けた。
は?今なんて?
待ってよ。一体いつまで?来月の末には雪が降り始めるんだよ?戻ってきたら覆面パトロールカーでの巡回だよ?
門亜は突然の辞令に困惑した。返事が出来ないでいる門亜に小隊長は続けた。
「期間は3か月を見ている。状況次第で1,2週間延びることがある。ただし、それ以上は延びることはない」
3か月か……。戻ってきたらもう雪で白バイに乗れないじゃないか。でも一体何で?
門亜は顔を上げると、伯父の顔をじっと見た。伯父は素知らぬ顔をしていたが、一言、ぼそっと言った。
「薬機法違反」
それを聞いた門亜の背筋がわずかに強張った。
ドラッグか、いわゆるハーブか。
伯父は一瞬口を閉じると、廊下の音に耳を傾けた。こちらに来るのではなく、遠ざかっていく音を聞くと再び続けた。
「ゾンビたばこだ。先日、昏睡した大学生が病院に運ばれたが、どうもゾンビたばこをやっていたようだ。まだ意識が戻らない」
「巣になっている店に客として行け、と言うことですか?僕ではあまりにも素人すぎるでしょう?」
門亜は静かに言った。オレオレ詐欺犯を見つけた時に、伯父に連絡しようとして音環に連絡をしたボクだ。犯人に筒抜け、なんて想像に難くない。
お目に止めてくださりありがとうございます。
この章は2つに分かれております。
久しぶりの投稿でちょっと手間取っていますが、上げるときは1章分ずつ挙げていきますのでよろしくお願いします。




