第十七話 夜の潜入
倉庫の中。
古い地図の上に
ランプの灯りが落ちている。
リディアは
指先で東教会の周辺をなぞった。
「東門側は兵が多い」
「正面は使わない」
クロエは
地図を見ている。
「裏か」
リディアは頷く。
「ええ」
「地下へ続く搬入口がある」
「普段は物資を入れる場所だけど」
「夜は見張りが二人」
アイリスが聞く。
「二人だけ?」
後ろの女が言う。
「表は厳重」
「でも裏は人目が少ないから油断してる」
リディアが続ける。
「そこを抜ける」
「地下に入ったら右へ二つ目」
「牢はその先よ」
⸻
クロエが聞く。
「役割は?」
リディアは迷わず答えた。
「前に出るのは三人」
「私」
「クロエ」
「アイリス」
「サラは戦闘が起こった際のヒール役」
アイリスは
小さく息を吸う。
リディアが地図を叩く。
「他は外」
「見張り」
「逃走路の確保」
「陽動の準備」
「逃走用の馬車は裏通りに準備してある」
「逃げる時は東じゃなく西へ」
別の女が続ける。
「西側の門番にはこっちで揺さぶりをかける」
「少し騒ぎを起こせば」
「教会の兵も散る」
クロエは聞く。
「陽動か」
リディアは頷く。
「派手にはやらない」
「でも逃げる隙くらいは作る」
女が言う。
「時間よ」
ランプの灯りが揺れる。
「一時間後」
「見張りが交代する」
「その瞬間に動く」
クロエは
小さく頷いた。
「ああ」
リディアは
クロエを見る。
「あなたは正面から潰すタイプでしょうけど」
「静かにね」
クロエは地図を見つめる目を細める。
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やがて
準備が終わる。
外套を羽織る者。
短剣を確かめる者。
小さな道具袋を腰に下げる者。
アイリスが
クロエの隣に立った。
「緊張してる?」
クロエが聞く。
「お前は?」
アイリスは
少しだけ笑う。
「してるわよ」
「当然でしょ」
クロエは
静かに言った。
「そうか」
アイリスが
少し呆れた顔をする。
「あなたは?」
クロエは
短剣を確かめる。
「別に」
「やることは同じだ」
アイリスは
大きくため息を吐いた。
「そういうところ、ずるいわね」
⸻
倉庫の扉が
ゆっくり開く。
夜の空気が流れ込む。
リディアが先に出る。
「行くわよ」
クロエとアイリスが続く。
その後ろを
サラが歩く。
表情は固い。
だが足は止まらない。
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夜のアルディアは
昼とは別の顔をしていた。
人通りの少ない路地。
閉じた店。
遠くで響く酔っ払いの声。
教会へ近づくほど
空気が張り詰めていく。
やがて
高い塀が見えた。
東教会。
白い石造り。
昼に見れば清らかに見える建物も
夜の中では
冷たく沈んでいる。
クロエが言う。
「ここか」
リディアは頷く。
「ええ」
塀の向こうには
微かな灯り。
見張りの影。
そして
地下へ続く搬入口。
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四人は
物陰に身を潜めた。
リディアが
小さく言う。
「交代までもう少し」
アイリスが
剣を握り直す。
サラは
唇を強く結ぶ。
クロエは
目を細め教会を見ていた。
あの地下に
ユノがいる。
明日の夜明けには
殺される。
だから
今夜奪う。
それだけだ。
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遠くで
鐘が鳴った。
見張りが動く。
交代の時間だった。
リディアが
低く言う。
「……今よ」
クロエの目が再び細くなる。
夜が
動き出した。
⸻
続く




