第7話 土涛地裂!! 土の地縛霊は天才刑事
薄汚れた狭いアパートの中、男は独り言を呟きながら床に並べた仕事道具を見つめる。
バッグや黒い服、目出し帽、革手袋、そして銃。男が幾度となく復唱しているのは、部屋一面に張り出した計画表の内容だ。
本計画が失敗した時を考え、そのリカバリープランをいくつも立て、その全てを暗記した。後は明日、計画を実行に移すだけだ。
「大丈夫、大丈夫、大丈夫、失敗しない、失敗しない、失敗しない」
「いーや、これじゃ失敗するな」
一人しかいないはずの部屋の隅に、いつの間にか知らない男が座っていた。気怠げな視線で男を見ている。
「な、何だお前……!?」
「俺が誰かはこの際置いといて。あんた、強盗するんだろ? こんなに綿密に立てた計画、確実に成功させたい筈だ。また失敗なんて嫌じゃねぇか」
「失敗しない!! 10年前とは違うんだ!!」
「怒るなって。絶対失敗しない計画を、俺はもっともっと確実にしてやる手段を知ってるの」
怪訝な表情を浮かべる男をよそに、ガーデルは変わらずやる気のない目で外を眺めた。
「リカバリーの計画は全部捨てて、本計画の紙に追記しとけ。俺の指示をな。あ、あとちゃんと表計算ソフト使って作れよ、一々紙に書いちゃ無駄だから」
「というわけで、フラグメントの精製は現代の化学においても用いられている方法に一部引き継がれ……っておい晶くん!」
船を漕ぎ始めた晶を叩き起こすザクロの声。思わず跳ね起きた拍子に鉛筆を放り出してしまった。
「まったく、ユナカが煩いから今後使う知識も併せて講義しているというのに。さては勉強嫌いかね?」
「い、いや、別にそんなわけじゃないですけど……」
授業の後に聞く講義にしては、ザクロの話は重すぎる。更には勉強で分からない事を尋ねれば、みるみる内に本題から外れてしまう始末。
一方、最近知り合った灰簾に関しては、
「そこの式はここをこうして……」
「ど、どうしてこうするんですか?」
「え、だってここはこうしないと気持ち悪くない? ほら、ここでこれとこれをこうすれば、はい、解けた」
「っ? ……ぇ?」
どうやら根本的に頭の作りが違うらしい。学校の勉強で分からない箇所を教えて貰う分には、この2人よりもユナカの方が断然分かりやすい。
「晶くん。学校で教わる勉強なんてものは適当にやっても覚えられるものさ。重要なのはどのように物事を捉え、どのように分析するか。その考え方を今のうちに学校で身につける事が ──」
「ユナカくん、お願いだから君と同じ制服にして!!」
ザクロの熱弁すら遮る叫びが階下から響いた。店へと繋がる階段を2人が降ると、そこにはユナカと灰簾の姿があった。
ユナカの方はよく見る制服とエプロン姿なのだが、問題は灰簾だ。
膝丈まである黒いワンピースドレスの上から純白のエプロンドレスを身に纏い、カチューシャをつけた姿は、クラシックなメイドだった。
「ぇ、灰簾さん、すごい綺麗」
「あ、晶くんと、炎の錬生術師!? さっきまで上にいたんじゃ……!?」
「君の煩い叫び声が上がったから何事かとね。授業妨害だぞ」
カウンターに隠れ、顔だけを覗かせる灰簾。それを見たザクロは心底迷惑そうに呟いた。
「大体そんな騒ぐような服じゃないだろう。露出があるわけでもあるまいし」
「だって26歳にもなってこんな可愛い服着るの、やっぱり抵抗が……接客中、ずっとひそひそ声してたし……」
「あぁ、デザインが気に入らない訳じゃなかったんですね。いきなり叫ぶから何かと」
ユナカは何故か安心した様に胸を撫で下ろす。やはり彼は少しずれた面があるのかもしれないと、晶は複雑な表情を浮かべる。
「……意外だったな、ユナカくんがこんな趣味してたなんて」
「俺というか、妹の趣味です。制服のデザインをしたのは妹なので」
「え、ユナカくん妹いるの?」
灰簾と同様、晶も驚く。出会ってからこれまでそんな話を一度もしていなかった上、店に毎日のように通っているにも関わらず顔を見た事が一度もないのだ。
「いますよ。少し前に海外留学に行ったからここにはいないだけです」
「あ、あの、ユナカさん。妹さんってどんな人なんですか?」
晶が尋ねると、ユナカはスマートフォンに出した写真を見せる。
そこには快活な笑みを浮かべながら、兄であるユナカを抱きしめて自撮りしているユナカの妹がいた。ショートヘアと活力が溢れた黒い目はともかく、白い髪や顔の雰囲気はそっくりである。
「綺麗ですね」
「はぁ、晶くん、勉強嫌いと女好きの両立はろくな大人にならんぞ」
「ちち違います違います! そんなんじゃなくてぇ……!」
「残念だけど晶くん、妹……ほたるにはもう恋人がいるから」
「ユナカさんまで……ただどんな人か気になっただけなのに……」
輝蹟ほたる。写真だけではまるで想像がつかないが、いつか会えるだろうか。皆にからかわれて真っ赤になる中、晶は心の片隅でそれを楽しみにしておく事にした。
「そういえばちょうど良かったザクロ。晶くんを送るついでに買い物と通帳記帳しておいてくれ」
「お断りするよ。私はフラグメントの精製で忙しいのでね」
「私とユナカくんが働いてる中で呑気に寝てた癖に何を言ってるんだか……」
悪びれもせずに言い放ったザクロへ灰簾は非難の目を向ける。だがユナカは何も言わず、代わりに懐からあるものを取り出した。
巨大な毒蛇の様なキャップのフラグメント・V。中で揺らめく緑色の液体が怪しさを際立たせている。
「これの事か?」
「お? おぉぉぉ! もう精製が終わっていたのか!?」
「お前が寝ている間にな」
「素晴らしい、今回も完璧に精製出来ているじゃないか! さぁ、早く渡したまえ!」
ザクロが手を伸ばす。だがユナカはフラグメント・Vを天高く持ち上げる。負けじと手を伸ばすザクロだが、悲しい事に身長が全く足りていない。
「俺の依頼を受けたら返してやる」
「ふぎぎぎぃ、それは私が精製したんだぞ! 早く返すんだぁ……!」
「昨日忙しくなるから店を手伝ってくれと何度も言ったのを、生返事ばかりして結局サボった罰だ」
「ぬぐぉぉぉ!」
2人の取っ組み合いを見ていた晶と灰簾は、何の偶然か同じタイミングで溜息を吐いた。
「ユナカめ、こんな事くらい自分でやればいいと思わないかね、晶くん」
「ん〜、えっと……はい」
銀行のATMを慣れた手つきで操作するザクロだが、今の今に至るまで愚痴を吐いていた。それに関しては適当な返事で彼女の機嫌を損ねない様にしつつ、晶はザクロの操作を観察する。
以前の話が本当ならば、ザクロは2518歳。しかし話を聞く限り現代の知識は十分持ち合わせている。少々身勝手で我儘ではあるものの、よくこの手の御伽噺にある時代に取り残された様子は一切見られない。
「……ザクロさん、本当に、ずっと長く生きているんですか?」
「ん、唐突にどうしたのかね。まぁその質問の答えは簡単さ。本当の事だよ。証拠は……」
「ザ、ザクロさん?」
そこで突如、ザクロの表情が一変した。
「……晶くん、私の側から離れるな」
「いや、今も側にい──」
その時だった。空気が破裂した様な爆音が何度も響く。先程まで人々が忙しなく動いていた空間の時間が止まる。
「全員動くなぁ!!! 動いた奴は撃つ!!!」
この怒号で全てを理解した。その瞬間に響く悲鳴すら、一発の銃声が掻き消した。
「うるせぇ、叫ぶのも無しだ!! 全員両手を上げてその場に座れ!!」
「ザ、ザクロさん……」
「面倒だ……人間が相手じゃ、問答無用とはいかないからね」
大人しくしている他ない。2人が指示に従おうとした時だった。
銃声。だが今度は壁を射抜く音ではなく、肉を裂く音。少し遅れて響く呻き声。
「おい、何しようとしたんだお前、おい!!」
「あ、が……!」
通報ボタンを押そうとした女性が肩を押さえて悶えている。猟銃の口から吐き出される硝煙と、止めどなく溢れる血を見て誰もが悟る。この強盗は人間を撃つ事に躊躇いがない事、早く手当をしなければ女性の命はない事。
「ザクロさん、早くしないと職員さんが……!」
「はぁ。後でユナカに言われるのも面倒だ、隙を見て何とか……っ、まずい!」
「え、何、がっ!?」
晶は聞く間もなく、ザクロに突き飛ばされた。直後に鳴り響く銃声と共に、彼女の身体が大きく揺らいだ。
右の腿から噴き上がる赤い液体が床を染める。
「女とガキ、何コソコソ話してんだ!」
「ぅ、くぅ……まったく、気が短い強盗だ……」
「ぁ、ぁ……」
いつもと変わらない表情を取り繕ってはいるが、ザクロの顔は青ざめている。足の出血が止まっていない所を見るに、自分を庇った所為で当たりどころが悪かったのだ。せめて足に布を巻くくらいはしなければと晶は這いながら近づくが、それすら突きつけられた銃に阻まれる。
「俺は別に誰が何人死のうと構わない。1億と逃走用車両、これが用意出来るまで誰一人解放しないからな! 分かったらさっさとしろ!」
その一部始終を見ていた銀行員の男性は、10年前のトラウマを思い出していた。
以前勤めていた銀行でも、同じ様な事件があった。その時の強盗も同じ様に銃を持って脅迫してきた。だが男性は怯む事なく通報ボタンを押したのだ。
その所為で、幼い少年と老人を命の危機に晒した。
「どうしてなんだ……どうしてあの時私は、そんな事すら考えられずに……」
「あ? 俺の言った事が聞こえ ──」
「ダメだ……もう、誰も、誰も、あんな目に遭わせる、訳にはぁ……!!」
男性の首に黒い首輪が生成。更に鎖が伸び始め、やがてその先から黒い霧が噴出。この現象を晶は知っている。
「ヘイ、ブラザー!! 助かったぜ、ミーをここから出してくれてベリーサンキュー!!」
金貨を象った巨大な複眼を持つ頭部、札束に似た肩の装甲とアタッシュケースの様な胴体の装甲。手や足には弾薬ベルトをファッションチェーンの様にぶら下げ、その全てが右腕に備わった機関銃へ繋がっている。
「な、な、何だお前!?」
「おいおい、ミーのマスターから聞いてないかい? ユーがマスターの指示通り、そこの人間を何人かパーンしてくれたおかげで、ミーは晴れてフリーダムになったわけよ!」
狼狽えていた強盗だったが、怪物の言葉を聞いてようやく合点がいった。計画書の中に書いてあったのだ。まずは誰でもいいから一般人を撃つ。そうすれば協力者が現れると。
「じゃ、じゃあ、お、お前が協力者?」
「イエスイエス! ミーもマネーはフェイバリット! 同じくらいにバイオレンスもフェイバリット!!」
そういうと怪物は右腕の機関銃を無差別に乱射。天井が崩れ落ち、出入り口が塞がれてしまった。流れ弾に当たった者はいないが、瓦礫で怪我をした人達がいる。
「ぁぁ、また、また私の所為で……!」
男性の首輪が黒ずむ。気力を失い崩れ落ちる男性を尻目に怪物は叫ぶ。
「フゥゥ! 漲るぜぇ、ハイテンション!! ブラザー、早くマネーをゲットしようぜ!」
「お、おう! 分かったかお前ら!! 早く用意しろ!!」
こうなってしまえば誰も逆らえない。怯えながら金を用意し始める銀行員、勝ち誇った様に肩の力を抜く強盗、からかうように一般人へ機関銃を押し当てて回るアトラム。
何も出来ない。
「止まんない……止まんないよ……!」
手持ちの絆創膏を数枚貼り付けた程度で済む怪我でない事は理解している。しかしやらずにはいられない。何かしなければザクロの命が危ない。
「落ち着きたまえよ晶くん……絆創膏程度じゃどうにもならない。それに、私よりもそこで倒れている銀行員の方が重症だ。これを」
ザクロから手渡されたのは透明な液体が入ったフラグメント・V。キャップには何の意匠も無い。
「本当は私が使いたいが、生憎1本しかなくてね。アトラムが出てしまった今、1人でどうにか出来る状況じゃない。ならばこの中で命が危ない者に使うのが最適解だ」
「ザクロさん……」
「まぁ君を危険な目に遭わせる事になる訳だが。もうすぐ店のカラスがアトラムの気配に気づく筈、そうすればユナカと水の錬生術師が来る。それまでの辛抱だ」
晶はフラグメント・Vを抱き、力強く頷いた。強盗とアトラムは油断しきっている上、金に注意が向いている。
今、自分に出来ることをやるべきだ。
「金弥さん、機動隊到着まで後5分だそうです。それまでは犯人を刺激しない様にと」
「刺激しなくてこの有様? 強盗じゃなくて化け物なんじゃないのか?」
「最近噂になっている、あれですか?」
「さぁな。それより銀一、野次馬を下がらせろ、それこそ犯人を刺激する」
入口が倒壊した銀行の前で2人の若い刑事が話す。背後では他の警察官が野次馬を近づけない様に抑え込んでいるが、あまりに珍しい光景だからか増える一方だ。
「このままだと……っ、あなたは」
「ん? ……あぁ、あんたが来たなら機動隊が来る前に終わるかもな」
2人の刑事の側に1人の青年が現れる。2人よりも更に若い歳でありながら、2人の上司に当たる人物。
「中の状況はどうなっていますか?」
「分かりません。何せ通報があって来てみたら既にこの状況でして」
「爆弾でも使ったってなら話は早いが、崩落を見た一般人の証言じゃ銃声しか聞こえなかったらしい。こんな破壊力を持った銃、あるなら見てみたいものだが」
「……事情は大体分かりました。機動隊を待つより、僕が行った方が良いですね」
青年は入口へ向かう。大量の瓦礫で塞がれているというのにどうやって入るのか。それはこの場にいる中で、金弥と銀一だけが知っている。
「数々の凶悪犯を逮捕し、若くして警視総監に実績を認められ、22歳で警部となった天才刑事。いつ聞いても漫画みたいな経歴ですよね」
「漫画の方がまだ自重する。銃を持った程度じゃあいつからは逃げられない。黄山琥珀にかぎつけられたら、犯罪者はおしまいだ」
「1億、用意したか?」
「……申し訳、ございません。すぐに用意出来たのは、7000万、しか……」
「あ? 足りねえってんならその分、誰かに死んで貰うしかないが?」
「ひ……!?」
「ブラザー、落ち着けよぉ! 待てばマネーは来るんだぜぇ? ティータイムだと思って、な?」
怯える銀行員に銃を突きつけた強盗を諫めるアトラム。自販機を撃ち抜き、中から飛び出したコーヒーを飲み始める。
「待った分の追加プライスも頂きゃグッドラックよ。もうじきミーもパーフェクトになれる。そうなりゃブラザーはあっという間にリッチさぁ!!」
アトラムの足元では寄生主の男性が苦しんでいる。首輪の色から、アトラムが言っている事は嘘ではない事が分かる。
彼も助けなくてはいけないが、それはユナカ達が着いてから。
晶は小さな身体を利用して椅子や物陰に身を隠しながら、撃たれた女性の元へ辿り着く。女性の眼は既に限界が近い事を示す様に光が消え始めていた。
「これを……」
フラグメント・Vの蓋を外すと、溢れた透明な液体が女性の傷口に入り込んでいく。それらはやがてゲル状になると傷口に纏わりつく。
死にかけていた女性の顔が少しずつ穏やかになり、血色も戻ってきた。
「良かった……これで、大丈夫かな」
一息つき、振り返った時だ。
「ハロ〜、バッドボーイ」
「っ!?」
至近距離にあったアトラムの顔。そしてすぐに足を掴まれ、逆さに持ち上げられた。
「よく頑張った、と言いたいがチェックが甘いぜ。へイブラザー、このバッドボーイはどーする?」
「……ガキが舐めやがって。そのまま持っとけ、俺が撃ち殺す」
「フゥゥ〜! ダーティーだがクールだぜブラザー。オッケー、そうすりゃミーもいち早くパーフェクトになれる!」
逆さになった景色の中、自身に向けられる猟銃の口が見える。目出し帽から見える据わった眼が狙うのは、頭か、心臓か。いや、きっと狙いやすい腹を撃たれても逝ってしまうだろう。即死でない分、苦しみ抜きながら。
「まずい、晶くんを死なせる訳には……!」
懐から取り出したヴィトロガンを強盗へ向けるが、大量に失血してしまった所為で狙いが定まらない。猟銃の引き金にかけられた指が動いてしまう。
しかし指が引き金を引く前に、犯人の眼は入口から響いた爆音に引きつけられた。
入口を塞いでいた大量の瓦礫が、まるで爆弾で吹き飛ばされたかの様に跡形も無くなっていた。
「あぁ? 何が起きて……」
入口から現れる人影が1つ。短い茶髪に細い身体付きの優男。本来なら優しいであろう垂れた目が、銀行の惨状を目の当たりにして吊り上がった。
「やっぱりアトラム……強盗と手を組むなんて事、あるんだ」
「……警察なのか? 1人で来るなんて頭がイカれてるんだな」
強盗は青年を見ると、銃口をそちらへ移した。距離はあるが、このくらいなら当てられる。何故なら、
「玖珠岡鉄。クレー射撃元世界大会出場者。腕は良かったが、他の出場者と口論になった末に怪我を負わせ、以降競技資格と銃を剥奪。10年前に銀行強盗を行い、当時銀行員だった男性と小学生だった少年へ発砲、重傷を負わせた末に現行犯逮捕。……懲役10年の実刑を受け、1ヶ月前に出所済み」
「……何で知ってんだよ」
「僕の先輩が以前担当した事件だから。そして逮捕したのも先輩だ」
「そうかよ」
瞬間、何の躊躇いもなく玖珠岡は発砲。胴体に命中し、青年は大きく仰け反った。近くにいた人質達から悲鳴が上がる。
しかし血飛沫が舞わない。玖珠岡はそれが引っかかった。
「防弾チョッキか。だがこいつのパワーなら内臓か肋骨が逝っただ、ろ……?」
青年を見た玖珠岡は思わず言葉を失った。まるで痛みなど感じていない様に、こちらへ近づいてくるのだ。
「だったら次は頭を……」
「ブラザー。お前はマネーを掻き集めとけ。奴はミーじゃなきゃキル出来ん」
手に持っていた晶を投げ捨て、アトラムが青年の前に立ち塞がる。
「ヘイユー、錬生術師だな?」
「話が早い」
青年が右手を掲げた瞬間、その手首にフラグメントゲートが出現した。
「う、嘘……!?」
晶は痛みを堪えながら眼帯を外し、青年を見た。その目に浮かぶ紋章は、ユナカのものとも、灰簾のものとも違う。
「あの刑事さんが、3人目……!?」
《ファントム・フラグメント!!》
《テラノーム・フラグメント!!》
《リアクション!!》
フラグメントゲートに挿し込まれる2本のフラグメント・V。地面から這い出て手を伸ばす地縛霊と、三角帽を被った琥珀色の大地の精霊。
青年の側に現れた2体は、地面から迫り上がった石門へと吸収される。
拳を堅く握りしめ、弓を引くように振りかぶる。
「変身!!」
拳を石門へと叩きつけ、開かれた。
《ゲート カイホウ!!》
《土涛・クラッキング!! テラ・ファントム!!》
《ファントム・ノーム結合!!》
石門から放たれる黄褐色の結晶が青年へ取り付くと、隣り合った結晶同士で結合、瞬く間にボディースーツへ変化。生長し伸び始める結晶の上から、無骨な煉瓦色の装甲を身に纏う。V字型のフェイスアーマーに地割れの様にヒビが入ると、崩壊した中央から赤いモノアイが浮かび上がった。
「犯人1名、アトラム1体、これより確保に移る」
黄山琥珀、土の錬生術師《ファントム》が再び歩み出した。
続く