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第60話 頑固一鉄!! 砕けぬ曲がらぬ鉄の意志

 光が消え、その中心で立っていたのは、

「ユナカ……!」

 拳を打ち出した格好のまま、変身が解けたユナカだった。デーモンハートの輝きは以前よりも遥かに増している。

 そして何より、近くにいたザクロと灰簾に何の影響も与えていない。デーモンハートのエネルギーを制御できた何よりの証拠だ。

「よくやった! 君はデーモンハートを使いこなし……」

 駆け寄ったザクロに笑顔は、ユナカの顔を見た瞬間に消える事となる。


 紋章が刻まれた瞳の色は灰色へ変わり、肌は生気が抜け落ちたように白くなっていた。


「そう、だな……気絶していないだけ……進歩、かも、な……」

「っ……」


「そーそー。これじゃ攻略が難しくなっちゃうよ」


 呆然としかけていたザクロを現実に引き戻したのはフローラの声だった。

「あちゃー……もうダメだねこりゃ。一発くらいなら耐えてくれると思ってたのに」

 その足元には灰色の霧を立ち昇らせる《ガーデル》が倒れていた。色は抜け落ち、動く気配はまるでない。

 爪先で《ガーデル》を突くと、フローラはザクロへ問いかける。

「ねーねー、今からもう一回アレに変身することって出来るの?」

「っ……」

 思わず顔を伏せる。フラグメントゲートのセーフ機能により変身までにインターバルが必要なこともあるが、何よりユナカの身体が保たない。その事実を呑み込むために。

 だがフローラにとっては十分すぎる回答だった。

「あー、はいはいはいはい。分かった」

 するとフローラは懐から何かを取り出した。

「じゃ、ガーデル。もう少しだけ頑張ってね〜」


 それは以前ガーデルに渡した黒いフラグメント。だがその色はより濃く、深淵の様に怪しく蠢いている。


《ダークマター・フラグメント》

《ゲートイン》


 イリガルヴィトロガンへ装填すると、倒れた《ガーデル》へ向けてトリガーを引いた。


《モディフィケーション・リアクション》


 漆黒の渦が銃口から解放され、《ガーデル》を包む。その身体が糸で吊るされる様に浮き上がり、色を吹き込んでいく。

 失った両腕が再生、蹄から無数の棘を生やした棍棒へ変化。折れた角は螺旋を描きながら不自然な程に巨大化。左肩のヤギは舌をダラリと垂らし、腰の翼は鎖帷子のように硬質化する。


「ブェェ……ブェェェェェェ!!!」


 けたたましい鳴き声を上げる《ガーデル》。気怠げに会話をしていた姿は完全に消え失せ、文字通りの怪物へ成り下がる。

「ま、パワー上げたら理性は飛んじゃうよね……自分には使わない様にしよ」

「ブェェェ……!!」

 両腕を振り上げ襲い掛かろうとする《ガーデル》。


《ゲート カイホウ!!》


《アトリビュータム・フュージョン!! イグニス! アクア! テラ! ヴェントス! イコール! イコール!! エレメンタル・レイス!!!》


《レイス・ウンディーネの方程式 アディション・ウィザード》


 そこへ割って入ったのは、《エレメンタルレイス》へ変身した灰簾だった。

「水の……」

「早くユナカくんと逃げて!!」

 ユナカを守る。それは灰簾の考えを知っていれば当然の行動だろう。だがその役割を自分へ託した。ザクロは一瞬行動が遅れてしまう。

「早く!! ユナカくんの師匠でしょ!!」

「っ、あ、あぁ!」

 更なる叫びでようやく我に帰り、ザクロはユナカを背負って撤退する。


《サモンリアクション イグニス・サラマンダー》


 フラグメントシェイカーの刃へ火焔を宿し、《ガーデル》へ叩きつける。

「ブェ!」


《サモンリアクション アクア・ウンディーネ》

《サモンリアクション テラ・ノーム》

《サモンリアクション ヴェントス・シルフィーネ》


 更に水、土、風の力を入れ替えながら叩きつけていく。《ガーデル》の身体には深い傷跡が刻まれ、動きが鈍っていく。

 とは、ならなかった。

「ブェェェェェェ!!!」

 咆哮を上げたかと思うと、《エレメンタルレイス》の斬撃を浴びながら突進。攻撃の嵐を突っ切る。

「効いてない!?」

 足へ風を纏い《エレメンタルレイス》は飛翔。回避しようとしたが、

「うぐっ!」

 異様に伸びた角が足を打ち、《エレメンタルレイス》は落下。追い打ちをかける様に腕を振り下ろそうとする《ガーデル》に対し、《エレメンタルレイス》は土の防壁で対抗。

「ブェ、ブェ、ブェ、メェェェ!!!」

「違う、効いてないんじゃない!!」

 その隙に距離を取り、


《E リアクション!!》


 フラグメントゲートを開閉。フラグメントモンスター達を融合させ、巨大なドラゴンを造りだす。


《ウンディーネ・ウィザード!! アルケミックスパイラルブレス!!》


 ドラゴンから4色のブレスを放った。多属性のエネルギーに晒され、ズタズタに引き裂かれていく《ガーデル》。


「感じていないだけなんだ!」

「ブメラァァァァァァ!!!」


 刹那、《ガーデル》の左肩から何かが射出される。

「あっ、が!?」

 それはヤギの舌。幾多もの棘がヤスリ状に並ぶそれは《エレメンタルレイス》の左肩を貫き、引き抜くと同時に身体を斜めに削り取る。

 元々以前の戦いでエネルギーを消耗していた《エレメンタルレイス》はダメージが重なり、変身が解ける。

「迂闊……だった……」

 未だに血が流れる左肩を押さえ、灰簾は《ガーデル》を睨む。変異が解けてもおかしくないほどのダメージを負っているにも関わらず、《ガーデル》は変わらずこちらへにじり寄ってくる。


「めちゃつよだなぁ。頑張れガーデル〜」

「ブメェェェェ!!!」

 フローラの声援に応える様に吠えると、《ガーデル》は無防備な灰簾へ襲い掛かろうとする。


「ブッ」


 それは叶わず、《ガーデル》は飛来した棒状の何かがぶつかり、その足を止める。

「間に合った……!」

「琥珀くん……」

 《ガーデル》を止めたのは《ファントム》。自らのフラグメントメイスを投擲したのだ。

「灰簾さん、ユナカさんは!?」

「大丈夫……だと、思いたい……何とか逃げて貰った」

「分かりました、あと少しだけ待って下さい」

 《ファントム》は手にしたものへ目をやる。


「すぐに終わらせます」


《フラグメントアンプ・テラノーム》


 テラノーム・フラグメントをフラグメントアンプの内部へ接続し、フラグメントゲートの下部スロットへ装填。


《オスミウム・ガネーシャ!!》


《ハードニングリアクション!!》


 更に空いた横のスロットへ、珊瑚から渡されたフラグメントを装填。


 鋼鉄の扉の前で鎮座する巨大な象と門。そしてそれらを大量の土の精霊達が取り囲む。

 《ファントム》は拳を握り締め、身体を大きく捻る。


「変身!!」


《ゲート カイホウ!!》


 フラグメントゲートが開き、同時に《ファントム》は門と象を一気に殴りつける。

 砕けた門と象を、土の精霊達が拾い集める。瞬く間にそれらを装甲へ作り変えていく。



《ガッチガチ ガッキーン!! ビルディング・ザ・メタルアーマー!! ダイハードファントム!!》



 精霊達は装甲を《ファントム》へ溶接。最後に飾り気のない無骨な鉄の面を、巨大な釘と共に頭部へ打ちつけた。


《ファントム・ノーム結合 オーバーラップ・ガネーシャ!!》


 胴体、拳、足に纏う分厚い鈍色の装甲。黄褐色のインナースーツは白金色へ変化し、岩肌の様に不規則な凹凸が目立つ。頭部には鉄板の様な装甲が張り付き、従来まで見えていた赤いモノアイを窺い知ることは出来ない。


「ブェェ……」

「来い」


 《ダイハードファントム》は、静かに歩み出す。

「ブメェェェェェェェ!!!」

 強大な力を感じた《ガーデル》は空気を震わせる雄叫びを上げ、棍棒となった腕を振り上げる。

 《ダイハードファントム》は避ける素振りを見せず、むしろ真正面から受け止めるべく更に前へ出る。


 鈍い音が鳴り響く。振り下ろされた《ガーデル》の両腕が、《ダイハードファントム》の頭部に衝突したのだ。


「……終わりか?」

「ブメェ……?」

「なら次は」

 《ダイハードファントム》は変身する時と同じ様に身体を大きく捻ると、

「こっちの番だ!」

 力任せに拳を振るった。

「メッ!?」

 鋼鉄の拳は《ガーデル》の頭部を捻じ曲げ、衝撃波で空気を震わせた。僅かに仰け反り、距離が開く。

「メ、ブ、ェ……」

「次はお前の番だ」

 致命傷ではない様だが、視点が定まらないのか右往左往している。それを誘導するべく《ダイハードファントム》は呼びかける。

 声を聞きつけた《ガーデル》は、再び両腕を振り上げて突進。今度は《ダイハードファントム》の胴体を打ちのめした。

「そして次は」

 だが、装甲には傷一つ付かない。

「僕が!!」

「ゴメッ!?」

 対する《ダイハードファントム》の一撃は、《ガーデル》の胴体を陥没させる。


「ブェェェェェェェェェェェ!!」

「ふんっ!!」


 それを口火に、拳の応酬が幕を上げる。いくら殴られても傷つかない《ダイハードファントム》、殴られる度に身体の部位がへし折れ、破壊されていく《ガーデル》。その勝負の行方は誰の目にも明白だった。

(琥珀くんが使ったあの装置……まさか、ソウリストユニオンの……)

(あー……まだまだ改良の余地あり、だね)

 灰簾とフローラが逡巡した時、《ガーデル》が大きく吹き飛ばされた。ダメージを感じないとはいえ、身体に負った損傷は再起不能な域にまで至っている。


「もう逃さない。ここで」


《クリティカル リアクション!!》


 《ダイハードファントム》はフラグメントゲートを開閉し、静かに歩き出す。

「ブ、ェェェェェェァァァァァァ!!!」

 損壊し、まともな迎撃手段を失った《ガーデル》は、残された攻撃を選ぶ。左肩のヤギから伸びる舌が《ダイハードファントム》を叩く。

 ヤスリ状の舌は、その装甲を削ることも、穿つことも叶わない。


「仕留める!!!」


《ノーム・ガネーシャ!! アルケミックヘビーインパクト!!》


 振りかぶった右拳の装甲へ、左拳の装甲が分離、合体。一気に圧縮され、黒く染まったそれを、



「ブッ、ギャァァァァァァァァァ!!!」



 《ガーデル》へぶつける。隕石の衝突にも似た衝撃波が走ると、圧縮されたフラグメントエネルギーが爆発。


 《ガーデル》は爆炎に飲まれた。




「ダルストンズ……まずは1体……撃破」

 《ダイハードファントム》はいつの間にか姿を消していたフローラへの警戒は解かぬまま、灰簾へ肩を貸す。

「ごめん……琥珀くん……」

「応急処置を済ませたらユナカさん達を追いましょう」

「うん……!」



「なんか……イマイチだったなぁ」

 2人が去ったことを確認し、フローラは爆炎の跡を探る。砕け散った《ガーデル》の肉片を拾い集め、容器の中へ納めていく。

「こんなのでも勿体無いからね〜っと……あれ?」

 フローラはあることに気づく。一番の目的であるものが見つからない。

(フラグメントとグラインドゲートがない……? ……あっちゃあ)

 大きく溜息を吐き、頬を指でなぞる。


(そろそろ縁の切れ目、かな)






 想像通り、辿り着くことは叶わなかった。


 高架橋の下で壁を背に座り込んでいる今も、身体の崩壊は侵攻している。灰色の霧が放出される度に意識が薄れていく。


 完全体になった時の事が走馬灯の様に駆け巡る。


 自分の宿主は、課せられた責任、周りからの評価、自身の価値にいつも苛まれ、誰にも頼る事が出来ないまま孤独に消えていった。

 寄生していた身でありながら、その姿があまりにも哀れで、何度も言い続けた。


 お前がいくら頑張ったって、世界も周りも変わらない。全部投げ出しちまえよ。楽に生きようぜ。


 だがその言葉は宿主にとって、余計に首を絞めるものだったらしい。おかげで完全体となれた。



 そんな自分も、全てを投げ出して生き延びることは選べなかった。

(だってしょうがねぇじゃん……彼奴とは、違う)

 宿主とは違い、自分には仲間がいた。理不尽な扱いを受けたりもした。痛い目に遭った回数は数え切れない。それでもたった1人、散らかった部屋で消えた宿主の人生よりも。


(命賭けてやってもいいってくらいには……楽しかったんだから……)


 情報はフローラが伝えてくれるだろう。《メルトリーパー》の攻略法、そして《ダイハードファントム》の存在。それだけあれば、モルオンとセレスタなら上手くやってくれる。身体が崩壊し、魂が消えても、力であるフラグメントとグラインドゲートは遺される。


 自分がいなくても、アトラムが生きていける世界はきっと出来る。

 きっとモルオンは呆れても笑ってくれるだろう。セレスタは無能だバカだと楽しく騒いでくれるだろう。



(十分すぎるな……アトラムの、終わり方に、しちゃ……)



「……っ」

 モルオンが駆けつけた時、そこには誰もいなかった。


 フラグメントとグラインドゲート、そしてそれを覆う黒い結晶の破片が散らばっているだけ。


 こうなる事を想像していなかったわけではない。だがガーデルが自身の状態について何も言わなかった時点で釘を刺すべきだったのだ。

 きっと行動を起こすなら、自分かセレスタに打ち明けるだろうと。


 そう信じて追及しなかった結末が。



「………………」



 ガーデルの予想とは裏腹に、モルオンは笑っていなかった。



続く

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