表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
49/67

第47話 光竜再来!? 双色の刃

 

「んー……少しは慣れてきたかなぁ?」

 変身を解いたリシアは後ろを振り返り、自らの作品を改めて眺める。

 影から突き出た黒い刃に飾られた子供達の無惨な姿。凄惨な様相を呈しているが、その全員がまるで眠るように安らかな表情だった。

「あぁ、よかったね……こんな辛い世界とさようなら出来て」

 骸と化した子供達の頭や頬を撫でるリシア。彼の顔は涙を浮かべながら、あまりにも歪に笑っていた。

「向こうの世界は、もっと……」


 次の瞬間、子供達の体は黒い刃ごと崩壊。跡形もなく消えてしまった。


 それはリシアの仕業ではない。彼の目線の先に立っていたモルオンによるものだ。

「はぁ……何のつもり?」

「あまり調子に乗るなって、結構強めに言った筈なんだけど」

「自由にしても良いとも言ってなかった? そもそもさぁ」

 表情には出さないように振る舞っているリシアだったが、その声色から漏れ出す殺意をモルオンは感じ取っていた。

「人間なんか敵じゃないのに、なんで僕達がコソコソしなきゃいけないのさ? 窮屈じゃないの? 僕がそうだったけどさ……今は違う。もう堂々と暴れたって良いんじゃないのかな」

「そう言って暴れた奴等はみんな錬生術師に狩られたよ。残念なことに」

「錬生術師が怖いんだ?」

「あぁ、とっても怖い」

 挑発のつもりで放った言葉に対する、想像していなかった回答。リシアの顔から笑みが消える。

「ずっと怯えて、見つからないように生きてきた。その恐怖は仲間が増えてからも変わらなかった。僕はいつまでも、錬生術師に怯えながら戦っている」

 やがてモルオンはリシアへと笑みを向けた。それを見たリシアの肩が僅かに震えた。


「だから確実に勝つ為の方法を探してる。君もその1つだからさ……分かるよね?」

「……分かったよ。あぁもう久々だよ、怖いって思ったの」


 不貞腐れたようにそっぽを向いたリシアへ、モルオンは軽く肩を叩いた。

「ちょうど君にピッタリな標的がいる。お願いしてもいいかな?」




「完成が近づいてきたな」

 聳え立つ石門。それは錬生術師が変身する際に出現するものとよく似ている。

 明確に違うのは扉に刻み込まれた無数の穴、そしてそれらを囲むように六方形で刻まれた一際大きな穴。


 石門の前に立った時計面の男は、一つ一つ、何かを噛み締めるように穴へフラグメント・Vを差し込んでいく。


 ほぼ全てのフラグメントが揃い、悠久に近い時を経て完成を目前としている。

「残すフラグメントはあと3つ、そして属性のフラグメント」

 115個のフラグメントが石門へ嵌まる。錬生術師が戦いへ用いるもののほとんどはそれらの複製品。オリジナルのフラグメントでなければこの石門は完成しない。

「だが、優先すべきは……」

「ラプラス様」

 時計面の男 ── ラプラスを呼ぶのは、白装束を纏った人物。その少し後ろには同じ装いをした者達が何人も並んでいる。

「遂に計画を始動されると聞きました。我々も、例の儀式を開始いたします」

「了解した。成功を祈る」

「我々、ソウリストユニオンの悲願を叶える為に」


 ソウリストユニオン。6属性の錬生術師達とは異なり、様々な生まれの錬生術師達が同盟を組んだ派閥である。


 去って行く同志達を見送り、ラプラスは再び優先すべきものへと目を向ける。

「初代炎の錬生術師の最高傑作であり……封印された悪魔の力。これを完成させればソウリストゲートへの道は拓ける」


 2つに別れた心臓を挟むように大腕で掴む悪魔を模した装置。燻んだ灰色の中、赤い悪魔の瞳だけが濡れたような輝きを放っていた。




「……はっ!?」

 短く吐かれた息と共に晶は目を覚ました。どうやら自習の時間に居眠りをしてしまったようだった。意識が途切れる前に書いていた数式が途中から古代文字と化している。

 何か嫌な夢を見たような気がしたのだが、もう思い出す事は出来ない。

「晶くん」

 隣に座っていた少女、文香が小さく声を掛ける。

「寝ちゃダメだよ」

「うん、ごめんごめん」

 何はともあれ、晶の日常は戻って来た。いつもの様に学校へ通い、家へ帰り、夕飯を食べ、宿題とゲームをして寝る。そんな当たり前の日々も、少し前までの戦いの日々を思い出せば幸せなものだと感じる。

(でも、これは残ったままかぁ……)

 片目を閉じ、紋章が刻まれたままの右眼だけで教室を見る。以前とは違い、自分の意思とは関係なく他人の心の傷が可視化されることはない。それは確実に、晶が錬生術師としての力を制御している証だった。


「……」

 あの日以来、光結とはSNSで多少はやりとりを交わしていた。だがある日を境に、パッタリと連絡が途絶えてしまい、それ以降は晶が一方的に挨拶の言葉を送り続けるだけとなっている。

「光結さん……大丈夫かな……」

 帰り道、歩道の端でスマートフォンを見る晶。未だ既読がつかない朝の挨拶に若干の寂しさを感じながらも、帰路に着くべくスマートフォンをポケットへしまった。


「なるほど……確かに僕にピッタリな仕事だ」


 若い男の声、そして右眼に走る熱。それらに充てられた晶は反射的にその場から飛び退いた。

 刹那、先程まで晶が立っていた場所へ黒い刃が生える。晶を貫き損ねた刃は電信柱とポケットから落ちたスマートフォンを切り裂いた。

「っ、誰、ですか!?」

「僕の名前は知らなくていいよ」

 黒い刃の主、リシアは切なそうに目を伏せながら笑っていた。

「可哀想に……そんな小さい身体に、錬生術師なんて重すぎる業を背負わされて」

 リシアが纏う冷たい気配に、晶は思わず震え上がる。錬生術師の紋章が残っていたとしても、晶は変身など出来ないのだから。

「動かないでね。痛い思いしないように、楽にしてあげるから……」

「うわっ!!」

 そう言った矢先、座り込んでいた晶を狙って無数の刃が突き出してきた。走り出した衝撃で脱げた靴、放り投げられたランドセルが斬り裂かれる。

「あーあ、悪い子だなぁ。でも、悪い子になっちゃうのは、親とか、教師とか、大人が悪いからなんだよねぇ」

「こ、の、人! 何を1人で!?」

 独り言を呟きながら黒い刃で晶を狙い続けるリシア。だが尚も躱し続ける晶を見たリシアは、あることに気づく。

「君……もしかして力使ってる?」

 晶の右眼の紋章が輝いている。無意識のうちに能力を解放し、攻撃を回避していたのだ。

「じゃあこっちも使わないと。遊びはフェアじゃなきゃいけないからね」


 真の姿、《マーダーアトラム》へ変わる。逃げ続ける晶の行手を塞ぐ様に刃を出現させ、檻のようにして取り囲む。以前に《リーパー》へ使ったものと同じものだ。


「うっ……!」

「あぁごめん。これじゃ全然フェアじゃなかったや。まぁ互いに出せる全力を尽くすって意味で」

 檻を形作る刃は回転しながら晶へ近づいてくる。それらに触れた途端に自分が細切れの肉塊へ変わるのは明らか。

 ユナカ達へ助けを求めることも出来ない。

「どうすれば……!」

「これで1個完成 ──」


 黒い檻が晶を斬り刻む、




 事は、なかった。



 それとは真逆の、白の刃が檻を一瞬で破壊した為だ。

「え、何、今の!?」

「あれ?」

 晶も、《マーダーアトラム》も、あまりの速さにその正体を認識出来なかった。だが幸い、答えは2人の間に降り立った。

「な、なん、で……!?」


 そこに立っていたのは、金と黒の装甲に身を包んだ戦士。初めて邂逅した時のその姿を晶は忘れていない。忘れられる筈がない。


「アンフィス!? そんな、だってユナカさん達が……!!」


「んん? 死んだって聞いたんだけど……もしかしてフローラ、適当なこと言ってたのかな?」

 《マーダーアトラム》は小さく首を傾げる。しかし《アンフィス》はそれに対する返答として、小さく首を振ってみせた。


「私はアンフィスじゃない」

「えっ、その声……!?」

 晶には聞き覚えがあった。同時に、《アンフィス》とは異なる点に1つ気づく。

 《アンフィス》の左手に備わっていたのは、扉の片側が欠けたミッシングゲートと呼ばれる装置だった。だが目の前にいる者の左手には、見た事のない装置がついていた。


 全身に刀剣のような棘を持った左向きの竜が、フラグメント・Vを抱えている意匠が施された装置。


「私はウィスプ。光の錬生術師を継いだ者として、晶くんは必ず守る」


 《ウィスプ》と名乗る新たな光の錬生術師。その声の主は、



 白刃光結。かつてアンフィスに囚われていた少女だった。



続く

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ