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第43話 霧散残火! 消えゆく覚悟、散りゆく翼

 

「ふざけんなよ!! っ、ぐっ!?」

 叫び散らした瞬間、セレスタは再び口から黒い液体を溢して力が抜ける。ガーデルに至ってはクマのヌイグルミを抱きしめたまま眠りから覚める気配は無い。

「だから結構身体に来るって言ったじゃんかー。あんまり無理しない方がいいよ」

「このクソ野郎……!!」

「俺、一応顔は女の子だから野郎じゃないですー」

 と、フローラは横目で別のテーブルを見る。そこではモルオンとリシアが向かい合っていた。

「あの闇の錬生術師を相手にして健在とは。中々やるね君」

「あのままやっても勝てそうだったけど」

 リシアはつまらなさそうに呟く。

「ねぇ、君達の手伝いっていつまでやればいいの? 早く子供達を助けに行きたいんだよね」

「もう好きにして大丈夫さ。手伝って欲しい時は呼ぶから、その時に来てくれればいい」

「へぇ、結構自由なんだ」

 嬉しそうに笑うと、リシアは席を立つ。何も言わずともその目的はモルオンへ伝わった。

「何処に行ってもいいけど」

 先程まで優しげだったモルオンの目が冷たく光る。


「あまり調子に乗るなよ」


 その声色は、戦う時の姿のものと同じ凄みを放っていた。それを感じ取ったリシアの目もまた鋭くなり、舌打ちを放つ。

「その目、二度と向けないでよ。殺しちゃいたくなるから」




「アォォォォォォン!!!」

 《コマイヌアトラム》は鉤爪を振り上げ、《リーパー》へと襲い掛かる。

 《リーパー》は両肩のプロペラを回転させて飛翔。左腕の避雷針から大量の雷を大地へ降らせる。

「ギャワン!?」

「あぁワンちゃーん!」

 《レヴァナント》は身体を分離しながら回避。空へ飛んだ《リーパー》を捉えるべく四肢を向かわせ、頭だけで《コマイヌアトラム》の身を案じる。

 《リーパー》は避雷針の雷を《レヴァナント》の四肢へ差し向けるが、軌道を全て読み切っているかの様に回避。《リーパー》の身体を拘束する。

「行けぇワンちゃん!」

「ガォルルァ!!」

 《コマイヌアトラム》は一気に跳び上がり、遂に《リーパー》へ抱きつく。

「ガルルルゥゥゥ!!」

「だったら……!」

 爪を振り下ろそうとする《コマイヌアトラム》に対し、《リーパー》は全身から電撃を放出。

「ギャババババババ!!?」

「あばばばばばば!!?」

 飛散した電撃は《レヴァナント》の頭部へ直撃。《コマイヌアトラム》もろとも感電する。

 《リーパー》は再びプロペラを回転させて飛翔。体勢を立て直して着地する。しかし、

「うっ、ぐぅ……!」

 フラグメントゲート、そして《リーパー》の身体から大量の火花が散り始める。限界が近いのだ。

「一気に、決める……!!」


《E リアクション!!》


 左腕の避雷針が分離、右腕のレールガンへ装填されると、両肩のプロペラが雷光を放ちながら高速回転。全てのエネルギーを集結させる。

「……ったく、遅えっての」

 未だ電撃が纏わりつく身体。分離しての回避を行うにはほんの少しばかり時間が足りない。《レヴァナント》は一瞬の内に最良の手段を選ぶ。

「犬ぅ!! お前じゃあ!!」

「ギャン!?」

 《レヴァナント》は《コマイヌアトラム》を思い切り蹴り飛ばした。


《サラマンダー・シルフィーネ!! アルケミックエレクトリックブレイク!!》


 光の炸裂と共に、音すら置き去りにする速度で放たれた避雷針。それは《コマイヌアトラム》を難なく貫いた。

「アキャオオオオン!!?」

 爆散する中、僅かに勢いが殺された避雷針。《レヴァナント》は間一髪分離して回避する。しかし、

「やっべ、やっちまった!!」

 避雷針の余波、閃光の様に轟く雷は《レヴァナント》の左肩から先を吹き飛ばしたのだ。


 発射の反動で倒れた《リーパー》は変身が解除される。そして《レヴァナント》は失った左肩を撫でながらそれを見つめる。

「で、このまま俺がトドメを刺さない様に……」


「急げ急げ〜! 先輩を回収しろ〜!!」

「もう! こんな無茶苦茶なの作戦でも何でもないじゃない!!」

「3人はユナカさんを! 《レヴァナント》は僕が!」

 社の裏から4人が姿を現す。


 それが《レヴァナント》の役割だった。


「アンフィス〜!! 助けてくれぇぇぇい!!」

 《レヴァナント》の絶叫が木霊した刹那、空から一条の光が降り注ぐ。

「なっ……!?」

 土煙が晴れた場所には、晶の姿をしたアンフィスの姿があった。

「1人釣れれば上々だと思っていたが……中々使える」


「ねぇ……話が違う……!」

「これは……はは、あのプライドの高いアンフィスが、ねぇ……」

 ザクロは笑っている。余裕の表れではない。この絶望を何としてでも切り抜けるべく、あらゆる手段を脳内で回らせているのだ。

「……詰んだ?」

 だが翡翠が思わず発した言葉。それが何度もザクロの中で弾き出される答えと重なってしまう。


 その時、


「っ!」

 意識を失っていたユナカが跳ね起きる。

「わぁぁぁっ!?」

「ユナカくん!? フラグメントエクテンダーの副作用は……」

 灰簾はそう言ってユナカの手元を見る。その理由は彼の右手の中で輝く、《ヘリオライト・フェニックス》の光だった。

「寝ている時間は、ないので……!」

 皆の前に立ったユナカは、真っ直ぐアンフィスの元へ向かって行く。

「待って下さいユナカさん!! せめて皆、いや、僕が一緒に」

「琥珀くん。残るのは1人、他の皆は逆転の為に力を尽くすべきだ」

 ユナカはフラグメントゲートへ3本のフラグメントを装填。それを見たアンフィスは鼻で笑う。

「無駄な足掻きはよせ。もうその力は通用しない」

「ザクロ」

 しかしユナカはアンフィスの言葉に耳を貸さず、ザクロへ問う。


「アンフィスを倒す手段は、作れるか?」

「当たり前だ。私を誰だと思っている」

「……安心した」


 短いやり取りの中で全てを察したザクロは、3本のフラグメントを投げ渡した。同時にフラグメントエクテンダーを手に、全速力で逃亡。

「ちょっ、待って待って待ってぇ!!」

「ユナカくん置いて逃げる気!?」

「ユナカの意図を汲み取れ!! 少し考えれば分かるだろう!!」

「っ、ユナカさん……!」

 琥珀は寸前までユナカの元へ行こうとしていたが、やがてそれを振り切る様に走る。戸惑いのまま二の足を踏む灰簾と翡翠の背を押しながら。


「逃すものか」

 そんな4人を見逃そうとはしないアンフィス。しかしそれを燃え盛る石門が塞ぐ。

「ここは死んでも通さない」

「言葉通り死ぬ覚悟があるようだな」

 アンフィスは2本のフラグメントを《ステラゲート》へと装填。光り輝く石門に一対の巨竜が融合し、輝きが炸裂する。


「「変身」」


《業火絢爛!! Re バースト!!! イグナイト・リーパー!!!》

《Open the Gate!! Glory and Wisdom intersect!! Twin Dragons dominate The World!!! Perfect Awakening Shining Dragon!!》


《リーパー・サラマンダーの法則!! アペンド・フェニックス!!》

《Open the Dragons Eye》


「シャーマ、お前の仕事はまだ終わっていないぞ」

「うん、左腕ない奴にそれ言うの? しゃーねーなぁ」

 《レヴァナント》は何処からともなくフラグメントを取り出すと、まとめて天へと放り投げる。地面に落ち、砕けた音と共に夥しい数のバデックが現れた。

「これが左腕の代わりって事で」

「巻き込まれてろくに使えるかは知らんがな」


 刹那、バデック達が《イグナイトリーパー》へ襲い掛かる。

「はぁぁぁっ!!」

 《イグナイトリーパー》はヴィトロサイズを出現させ、周囲を一閃。瞬時にバデック達が焼き払われる。

「通じるわけないかぁ!」

 その爆発に紛れ、《レヴァナント》の右腕が迫る。《イグナイトリーパー》は右足での蹴りで迎撃するが、

「ふんっ!」

「うっ!?」

 周りのバデックを蹴散らしながら《アンフィス》が接近。光を纏った蹴りが《イグナイトリーパー》の胸部を捉え、大きく吹き飛ばす。


《カーボン・ゴーレム!!》


《アペンド・リアクション!! カーボン・ゴーレム・バースト!!》


 残る1つのスロットへ《カーボン・ゴーレム》のフラグメントを装填。右腕に巨砲を纏い、炎の翼を広げる。

 炎を纏った油の塊を空爆の様に降らせ、《アンフィス》とその周囲にいるバデックを焼き払わんとする。

「届かんな」

 周りで次々と爆散していくバデックを横目に、《アンフィス》はイリガルヴィトロガンで《イグナイトリーパー》を狙撃。

 巨砲で防ごうとするも、防御と回避の隙間を的確に縫った弾丸が《イグナイトリーパー》に数発直撃してしまう。

「ぐっ、まだ、だっ!!」


《フェルム・アルミラージ!!》


《アペンド・リアクション!! フェルム・アルミラージ・バースト!!》


 両足にギアとシャフトを備えた装甲を装着。炎で形作った陣を足場にして空中で跳躍する。

 跳躍した先へ次々と陣を形成、それを踏み台に高速移動、、炎の翼を武器に《アンフィス》、《レヴァナント》、バデック達を打ちのめす。

「いって!? ちょっ、待てって、おい!?」

「自棄になった攻撃など」

 造作もない様子で回避する《アンフィス》に対し、《レヴァナント》は飛ばした右腕を戻す余裕もない。蓄積していたダメージは明らかに彼の動きを鈍らせていた。

(こりゃ相棒の方がやばいな。俺を貫通したダメージが溜まってきてる。適当なとこで退散しねーと)

「当たる筈がない」

 《イグナイトリーパー》が擦れ違う瞬間、《アンフィス》はその頭を掴む。勢いを急に殺された《イグナイトリーパー》は身体だけが前に出ようとする形になり、そのまま地面へ叩きつけられてしまう。

「その程度か。初代はこんなものではなかったぞ」

「期待に応えられなくて、何よりだ!」

 しかし《イグナイトリーパー》はそれを蹴りと共に跳ね除け、勢いそのままに左回し蹴りを叩きつける。《アンフィス》はそれを防ぎながら、至近距離からイリガルヴィトロガンを発射。それを側転と共に《イグナイトリーパー》は回避し、畳んだ状態のヴィトロサイズを投擲する。

 《アンフィス》はそれを掌底で弾き飛ばすが、その隙に《イグナイトリーパー》が急接近。


《マグネシウム・ケルベロス!!》


《アペンド・リアクション!! マグネシウム・ケルベロス・バースト!!》


 左腕に重なった3匹の大狼の装甲に白炎を灯しながら、《アンフィス》の胸部を打つ。

「んぬぅ……!」

 僅かに仰け反る《アンフィス》へ、今度は装甲を右足へ移動させ、更に巨大な炎を纏ってぶつけようとする。

「うぉぉぉ危ねぇアンフィスゥゥゥ!!!」

 が、そこに割って入った《レヴァナント》へ直撃。身体がバラバラに弾け飛ぶと、

「わ、悪いが俺はここまでだぜー! 頑張れアンフィース!!」

 そのまま逃げ去る様に彼方へと飛翔、戦線離脱してしまった。


「壁程度の役には立ったか」

「うぁっ!!」

 《アンフィス》の閃光の如き正拳突きが《イグナイトリーパー》を突き飛ばす。装甲が消失し、代わりに炎が大きく燃え上がった。


 両者の間に距離が開く。


 両者は無言のまま、


《クリティカル リアクション!!》

《リアナライズ》


 最後の一撃を決めにかかる。


「まずは、炎のフラグメント」

「渡しはしない!」


 両者は大きく跳び上がった。



《サラマンダー・フェニックス!! アルケミック・イグニッションブレイク!!》

《シャイニング・ドラゴン ルミナス・ブライトスティング》



 業火と極光の蹴りが空中で交錯。その余波はバデック達を根こそぎ薙ぎ払い、神社を吹き飛ばす。


「ここで終わりだ、炎の錬生術師!!」

「俺は……ここで終わる気はない!」


 その時、《イグナイトリーパー》のフラグメントゲートから炎が迸る。それらは《イグナイトリーパー》の身体を包み込み、やがて彼自身を炎の不死鳥へ変えた。


「これは……まさか」

「うぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!」



 炎と光は交わり合い、やがて一体を巻き込む爆発へ変貌する。神社の周りを覆う森は吹き飛ばされ、焼け野原となった地に1つの影が立っていた。


「自爆……とは」


 変身が解除されたアンフィスの前に焼け焦げた《イグナイトリーパー》の残骸が落ち、灰となって風に運ばれて行く。その跡には3本のフラグメント・Vが遺されていた。


「愚か……とも言い切れまい。あの一撃は流石に応えた。散り様まであの男を……フランを彷彿とさせる。実に不愉快な男だった」


 《イグナイトリーパー》の要である、リーパー、サラマンダー、フェニックスの3本は見当たらない。肉体の消滅は魂の消滅と同義。彼の消滅と同時にそれらが消えたのは当然だろう。


「ならば炎のフラグメントは奴に……フランの弟子に戻ったか」


 アンフィスは歩き始める。今の自分に時間は余すほど残されているが、無駄にするほど悠長な気質ではない。



 道中にあった《イグナイトリーパー》の右腕を踏みつけると、塵となって消え去った。



続く

Next Fragment……


《アトリビュータム・ウィザード》

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