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第42話 轟雷爆鳴!! 手がかりは属性に

 

 水の中に落ちる感覚からしばらくして、水底に背中が着く感覚が伝わる。

 息は苦しくない。しかし両手足は錘がついているかのように重く、もがくことすら出来ない。


 ほんの少しの光もなく、ただ暗い闇だけが広がる世界。果てがあるのかさえ分からないこの場所で、恐怖が晶へ覆い被さろうとする。

(……ダメだ! 呑まれたらきっと、本当に……)

 帰れなくなってしまう。動かない手足に力を込め、死にかけた魚のように、少しずつ浮上しようとする。

(ここはきっと、アンフィスの中……なら僕と同じように、あのお姉さんも……!)

 やがて小さく波打つように身体が動き始め、仰向けからうつ伏せに体勢を変えることに成功する。指先で這うように先の見えない世界を進みながら、もう1人の継承者である少女を探す。

(口も、開けない……呼ぶのは無理だ)

 宛もなく進み続けるしかないと思ったその時だった。


 晶の右眼から微かな光が零れ落ちる。種火の様に小さなそれは暗闇の世界を照らした。


(っ!! あれは……!)


 項垂れたまま宙に浮かぶ、少女の姿が目の前にあった。相変わらず声は出せないが、晶は必死に手を伸ばした。

(見つけた!)

 晶の小さな手は力無く垂れた少女の指に触れる。刹那、僅かに少女の瞼から瞳が覗いた。

 晶の右眼から溢れた光の力か。触れた指先を掴み、更に彼女の意識を取り戻そうと足掻く。

(お願い、目を……)


「君、も……」


 少女の唇が言葉を紡ぐ。顔を上げた晶は、あまりの恐怖に思わず息を呑んだ。


「君も、一緒に、溶けよう……ね」


 瞳には光など無く、、一切の色を失った灰色のみ。晶が掴んだ手を掴み返すと、引き摺り込む様に自らの元へ抱き寄せた。

「ぁ……ぁ……!」

 ようやく理解した。晶は自身の意思で動いていたのではない。


 2人は引き寄せられていたのだ。アンフィスが力を完全に吸収し、調和させるその為に。




「はっきり言おう」

 ジュエルブレッドへ帰還し、皆が傷ついたへ応急処置を済ませた後。誰もが無言の空間を割ったのはザクロだった。

「今の私達には時間も、そして晶くんを救う手段もない」

「ほんとにはっきり言ったねぇ……」

 その発言に翡翠は苦笑いを浮かべる。普段は前向きな彼女でも、ユナカとザクロから聞かされた現状を前にしてはその思考が出来なかった。

「アンフィスは力を取り戻し、加えて姿の見えない敵……これ、繋がってると考えた方がいいんですか?」

「偏見で済まないが、アンフィスは誰かと協力するほど他人を信用していない。利用する、ならまだしもね。余裕がある時ならいざ知らず、復活前のいつ消えるかも分からない状況で他人を宛にする事はないだろう」

 琥珀からの問いに、考えの整理を兼ねてザクロは答えた。

「ならあのアトラム達は陽動として利用されていたってこと? いつもと違う姿に変わったのは、アンフィスからなにかしらのフラグメントを……」

「前半は合ってるだろう。だが後半は違う気がするねぇ。陽動に使うならわざわざ強化する必要はないし、むしろ時間稼ぎだけして消えてくれた方が好都合だ」

「それもそうか……」

 灰簾は再び考え込む様に俯いた。

「うわぁぁぁマァジで八方塞がりぃぃぃ!? 結局黒い剣出すアトラムの正体も分かんないし、分かってもアンフィスに勝てないんじゃ意味ないよぉぉぉ!!」

「ちょっ、うるさい! それをなんとかする為に考えてるんでしょう!!」

「あー2人ともうるさい!! 少しは静かに出来んのかね!?」

 進退極まった状況で遂にザクロ、灰簾、翡翠が苦悶の叫びを上げ始めた。どうしたものかと思いつつユナカが落ち着かせようとした時だった。


「もぉぉぉこうなったら晶くんだけでもアンフィスから弾き出せればぁぁぁ!!」


「弾き……っ!!」

 ユナカはその言葉に何かを閃き、懐からあるものを取り出した。


 フラグメントエクステンダー。属性反発を出力に変える為の装置。


 そしてそれを目にしたザクロは一切の動きを止める。

「フラグメント、エクス……それだぁ!!」

 飛びつくと同時に天へ掲げ、ザクロはユナカの閃きを言語化していく。

「異なる属性同士は反発し合う、それは光も同様だ! いくつかの属性を合わせてアンフィスにぶつければ、アンフィスの属性、その源たる晶くんと少女だけを弾き出せる筈!!」

「そうか! なら俺がフラグメントエクステンダーで」

「いいや、それは無理だ」

 しかしユナカの言葉は、他でもないザクロによって遮られてしまう。

「2つ使ってバテる程度じゃ厳しい。少なくとも手元にある4属性を使いこなせなきゃいけない」

「そんなの無理に決まって」

「おーいおいおい」

 ザクロの言葉を否定した灰簾へ、彼女はニヤけた顔を向ける。


「君なら出来ると思うぞ? レヴァナントに身体を入れ替えられた時、自分とは異なる属性を使いこなした君ならね」


「なっ……!?」

 灰簾は思わず言葉を詰まらせる。

「おぉー! 灰簾ちゃんが希望の星かー!」

「君ら2人も可能性がないわけじゃないが、今回は確実性が高い方を取るよ」

「そうですね。僕や翡翠ちゃんの素質を確かめてる時間はなさそうですし」

「ちょっ、待って待って!!」

 何の疑念も持たずに同意し始める琥珀と翡翠に対し、灰簾は声を張り上げて制止する。

「2人はともかく、貴女は分かってるでしょう炎の錬生術師! 複数の属性を扱った例なんかないし、そもそもそんなのどうやってやるつもり!?」

「方法は思いついている」

 ザクロがその方法を伝えようとした時だった。


『ゴァッ、ゴァッ、アトラム出た、アトラム出た!!』


 カウンターに立てられたカラスの置物が鳴き始める。怪我が完全に癒えていない中でのアトラムの出現。ここで迎え撃ちに行くのは厳しい状況だ。

「ユナカ、そして風の錬生術師」

 そんな中、ザクロは2人へあることを依頼する。

「フラグメントエクステンダーで試していない組み合わせは炎と風の2種だ。それが揃えば、晶くん達を助けられるかもしれない」




「おっほ、釣れたぜぇ相棒!」

 神社の物陰から様子を見ていたレヴァナントが透へ語りかける。透の首には外出許可証が下がっており、付き添いの看護師の目を盗んで神社に来ていたのだ。

 狛犬の置物を物珍しそうに眺めているアトラム。他でもない、狛犬を怖がっていた幼児からフラグメントを掠め取り、バデックと混ぜ合わせた個体である。

 頭の上には剥いた目玉を模した飾り、その下には小豆に似た眼が付いている。冬毛の様なふくよかな毛に全身を覆われ、その上から更にコートの様な布を纏っている。一見愛嬌すら感じる見た目だが、四肢の指先には木の根に似た太い爪が伸びていた。


 そこへ駆けつけたユナカに気づいたアトラム。ゆっくりと向き直ると、

「ワフ〜」

「……?」

 ただ一言、犬に似た鳴き声を上げる。

(このアトラム相手に使うのは、なんだか勿体無い気もするが……っ!)

 首輪と鎖がないことに気づいたユナカの脳裏に、少し前の金識中央病院で現れたアトラムが過ぎる。

「レヴァナント! 近くで見ているんじゃないのか!? 出て来い!!」

「はっ、中々鋭いじゃねぇか!」

「どうも〜、炎のお兄さん」

 ユナカの呼び声に対し、透とレヴァナントは呆気なく姿を現した。

「今度は何をしようとしてる?」

「見てわかんねぇかよ、って分かんねぇか」

 レヴァナントが話した瞬間、アトラムは狛犬像を引き抜き、

「ワォルガァァァ!!!」

 ユナカ目掛けて投げつけた。後ろへ飛び退いて躱すものの、既に透の手にはミッシングゲートが現れていた。

「ごめんね、炎のお兄さん。少し僕達と遊ぼう?」


《ゲート カイホウ》


《Open the Gate!! Resurrected from the DEAD!! Unleash Tenebrae Revenant!!》


「そういう訳だ。後ろの見物客を楽しませるよう頑張ろうぜ」

 《レヴァナント》が指差した先、自らの背後に建つ小さな社の方へユナカは僅かに視線を逸らす。

 社の陰では不測の事態に備え、ザクロ、灰簾、琥珀、翡翠が見守っているのだ。

「《レヴァナント》に、《コマイヌアトラム》……やれる限り、やるしかないな」

「《コマイヌアトラム》ってお前」

「ヌガァルフ!!」

 何の捻りもないネーミングに《レヴァナント》はずっこけ、《コマイヌアトラム》は気に入らないと言わんばかりに地団駄を踏む。

 だが彼等に構う事なく、ユナカはフラグメントゲートを出現させる。そして、


《フラグメントエクステンダー!!》

《イグニスサラマンダー・フラグメント!!》

《ヴェントスシルフィーネ・フラグメント!!》


《E リアクション!!》


 フラグメントエクステンダーに加え、炎と風のフラグメントを装填。

 石門と共に現れたのは、炎の蜥蜴と、それを揶揄う様に飛び回る風の妖精。炎蜥蜴が怒って妖精を食べようとした瞬間、2体は石門へ吸い込まれる。

 ひび割れた石門から迸る電光に構わず、ユナカはそれを蹴り開けた。


《ゲート・カイホウ!!》


《イグニス プラス シルフィーネ!! イコール……エレクトリック! エレクトリック!! エレクトリック・リーパー!!!》


 深紅の装甲にメタリックグリーンのエネルギーラインが走る。両肩からは風力発電の風車に似たプロペラが備わり、左腕には避雷針のような針、右腕にはレールガンに似た砲身を装着。頭部にはスコープに似たバイザーが現れ、その身体からは絶えず雷光が宙を裂いている。


《バリバリバリバリィ……ドッガァァァァァァン!!》


「ほぉん、そっちで来るか……足りんのかよ?」

「十分すぎるくらいだ」



続く

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