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第26話 暗躍病棟!! 入れ替わり喜劇

 

 日が昇るより早く、ユナカの1日は始まる。店の準備、そして自分とザクロの朝食の支度がある為だ。

 いつもならば目覚ましをセットしているのだが、今日に限ってそれが鳴ることはなかった。普段から早起きが習慣づいていた故に寝坊はしなかったが。

 身体を起こし、目を開く。だがここでも違和感がユナカを襲う。

「ん、目が……?」

 視界がボヤけている。未だ寝ぼけていると思い、何度も目を擦るが、視界は変わらない。

 そしてすぐにもう一つの異変に気づく。それはユナカの顔から冷や汗を流すに値する事態。

「……っっっ!?」

 見慣れない青のジャージ。だが問題はその下、その更に下。自身の身体にあるべきもの、本来存在しないもの。それらが存在せず、そしてある。

 傍に置かれたメガネを手に、ベッドを飛び出す。見覚えのある間取り、見覚えのない内装。だが身体は知っているかの様に鏡がある洗面台へ駆け出す。

 鏡の前に立ち、本来自身には必要ないメガネをかける。ボヤけていた視界が鮮明に映し出された。


 青みがかったセミロングの髪、ディープブルーの瞳に刻まれた紋章。その全てをユナカは知っていた。

「どうして、灰簾さんの、っ!!」

 自身の口から飛び出す灰簾の声を、ユナカは思わず片手で押さえてしまった。



「何なんだね、これは一体」

「「「「こっちが聞きたい」」」」

 嫌な予感を察したユナカが皆へ連絡した所、同様の現象が起こっていた。

「で、誰が誰なんだね?」


「俺が灰簾さんの身体で」

「私がユナカくんの身体」

「僕が翡翠ちゃんで」

「私が刑事さんでぇ〜す」


 容姿と喋りが微妙にズレているような錯覚に陥り、晶は首を傾げてしまう。

 纏めると、ユナカは灰簾、灰簾はユナカ、琥珀は翡翠、翡翠は琥珀の身体に入れ替わってしまっていたのだ。ザクロと晶は何故か無事だったものの、主戦力である4人へ知らず内に策略を仕掛けられていた。これに危機感を持ったザクロが招集をかけたのだった。

「ダルストンズの仕業……とも考えづらい。魂と肉体を入れ替える、そんな高度な技術を奴等は持っていないだろうからねぇ。かと言ってアンフィスがこんなしょうもない策を仕掛けるとは考えられない」

「しょうもないとは言うが、早く何とかしないことには」

「うるさいな、今それを考えているんだろう水の……いや、中身はユナカだったな」

「そーだよー! なんか自分の身体じゃないと落ち着かないし、自分が違う喋り方だと落ち着かないよー!」

「落ち着きたまえ土の……違う、風の錬生術師。なるほど、確かに面倒だなこれは」

 深くため息を吐くザクロ。こちらまで混乱しそうになり、晶は先程から黙っている他の2人へ目を向ける。

「あの……ユナカさんと翡翠さん……違う、灰簾さんと琥珀さん、どうかしたんですか?」

「うん……その、なんというか……僕の身体が翡翠ちゃんのテンションで話してるのが不気味、じゃなくて、不思議な、気分で……」

「ユナカくん、せめて……コンタクトレンズ付けてジャージじゃない服装で……あぁでもそれじゃ着替えなきゃいけないわけで……」

 こちらの2人は違った意味で応えている様だった。この策を講じた敵が一体どんな目的なのか想像も出来ないが、状況を混乱させる事は成功している。

「まったく、誰がこんな悪戯を……ん?」

 次の瞬間、窓ガラスを突き破り、何かが晶の頭の上に降り立った。

「うわぁっ!? え、な、なになに!?」

「これは……カラスの置物?」

「にしては……」

 ジュエルブレッドに置かれたものとは異なり、目は吊り上がり、派手に逆立った鶏冠が揺れている。

 するとカラスの嘴がバックリと開く。


「ゲームの会場は、金識中央病院。制限時間は今から日が暮れるまで。それまでに俺を探し当ててみろ。出来なきゃお前達の魂は肉体に定着して一生そのままだ」

「何だと……!?」

「それと条件が一つ。光の片割れの坊主も連れて来い。でなきゃゲームは無効だ。頑張れよ、現代の錬生術師ども」


 一通り喋り終えると、カラスは再び飛翔。棚を貫通しながら壁を突破し、飛び去って行った。

「ああああああぁぁぁ!!? 私の実験道具がぁぁぁ!!?」

「金識中央病院……」

 散らばった道具へ駆け寄り泣き叫ぶザクロを尻目に、ユナカはカラスが飛び去って行った先を見つめていた。

「それに、どうして晶くんの事を……?」

「どう考えても罠です。応じるのはやめた方が」

「でも、それじゃあ私達一生このままって事じゃん!」

「けど晶くんを危険に晒すなんて……誰が、どんな目的で……あーもう分からない!」

 4人が頭を悩ませる中、晶は俯く。また自分が足を引っ張っている。そんな想いが胸を縛る。

 しかし、ならば、どちらにしろ足手纏いならば、せめて皆にメリットがある選択を取るべきだ。

「連れて行って下さい!」

「晶くん……?」

「邪魔だけはしない様にします! お願いします!」

 4人は沈黙する。だがそれも束の間、ユナカが晶の肩へ手を置いた。

「お願いするのは俺達の方だ。約束する、晶くんを危険な目には絶対遭わせない」

「はい!」

「よし、早く向かおう。時間がな……」

「その前に!!」

 灰簾はユナカの目を布を巻いて塞ぎ、肩を掴み、凄まじい力で引き摺っていく。

「着替えさせる! そんな格好で私の身体を外に出せないから!」

「……翡翠ちゃん」

「どうしたの、刑事さん?」

 琥珀は自ら目を布で塞ぐと、両手を差し出した。

「僕の着替えもお願い……」

「えー、別にそのままでも」

「お願いします……」

「ちょ、待っ、敬語やめて! 分かったから!」

 ゲームの開始は、それぞれがいつも通りの姿に戻すことからだった。



 訪れた金識中央病院は多くの患者達が行き交っていた。が、しかし、この中の誰が策を仕掛けた者なのか。まずはそれを探らねばならない。

「本日はどのような……」

「失礼、実はある事件の捜査を行なっていまして」

 受付の看護師へ、琥珀の姿をした翡翠が話しかける。周りには見えない様、警察手帳を見せながら。

「患者さんや看護師さん達の邪魔は致しませんので。院長にも連絡頂けると」

「は、はぁ……どういった事件で」

 すると、翡翠は口元に人差し指を添える。琥珀の顔を活かした、優しい笑みを浮かべ、

「犯人は凶悪です。下手に外へ詳細を漏らせば皆様を危険に晒す事になります。どうか、ご内密に」

「は、はぃ……!」

「ありがとうございます」

 頬を赤らめる看護師に更に優しく笑いかけた。


「もう遊んでるでしょあれ」

「……」

「琥珀くん、顔が青いけど」

「大丈夫、です……ちょっと目眩が……」

 青ざめる琥珀をユナカと灰簾が心配する。が、それに構わずザクロが病院内を歩き始める。

「待てザクロ」

「猶予はないんだ、さっさと探し当てようじゃないか。でないと一生そのままだぞ」

 どんどん奥へと行ってしまった彼女を追い、ユナカも続く。

「私はユナカくん達について行くね。晶くんも私達について行った方が良いかも」

「は、はい、分かりました」

「じゃあ僕と翡翠ちゃんで別ルートから探します。何か見つけたら連絡してください」

 こうして6人は2チームに別れ、病院内に潜む黒幕を探しに向かう。


(とは言っても、どうやって探すんだろ……?)

 晶は行き交う患者達を注意深く観察するが、当然見た目で判別出来る筈がない。他の皆は目の紋章の有無で探すのだろうが、晶はそれが使えない。布を取ってしまったが最後、アンフィスに居場所を気取られてしまうからだ。

(うーん……あれ?)

 その時、晶は少年の姿を見かけた。車椅子に乗り、自販機の取り出し口へ懸命に手を伸ばしている。ガタガタと揺れているのを見ると今にも倒れそうだ。

「ん、しょ……ん〜!」

「はい、これ」

 晶は駆け寄り、少年へ缶ジュースを手渡す。少年は一瞬不思議そうに晶を見つめる。

 不思議な雰囲気だった。背は晶よりも低く、癖っ毛の髪が空調で僅かに揺れている。瞑っている様に細い目と、白い肌。同性であるにも関わらず、一瞬心臓が跳ねる程に儚げで美しかった。

「ありがと〜。君、優しいね」

「いやぁ……一人なの?」

「うん。お父さんとお母さんはもういなくなっちゃったから」

「そう、なんだ」

「でもここのお姉さんが優しくしてくれるから、全然寂しくないよ。……お名前は?」

「あぁ、晶。天河晶」

「晶くん。僕は黒華くろはなとおる。これでお友達、だね」

「うん、よろしく、透くん」

 2人は手を繋ぎ、笑い合う。歳が近いのか、それとも何か惹かれ合うものがあるのか。何処か晶の心は温かくなっていく。


「晶くん、どうかしたの?」

 背後からかかる灰簾の声。否、中身はユナカなのだが、とにかく晶は振り返る。

「あ、ユナカさん」

「ダメだよ、勝手に離れたら」

「いつ何処で敵が狙ってるか分からないからねぇ」

「灰簾さん、ザクロさん、ごめんなさい……この子が」

 と言って再び振り返ってみると、


 透の姿は無かった。


「あ、あれ? さっきまで……」

「「きゃぁぁぁ!!!」」

 次の瞬間、看護師達の悲鳴が響き渡る。

「っ、灰簾さん!」

「あれは……アトラム!」

 廊下の奥でフラフラと歩きながら、ワゴンや椅子を跳ね飛ばしていく巨影。逃げ惑う医者や看護師を追い回すその姿は、


「オチュウシャ〜」

 白衣を何重にも着込んだ様な分厚い身体に、かぼちゃパンツの様に膨らんだ下半身。胸にはピンクの十字が浮かび、破れたナース帽の隙間からまつ毛を蓄えた目玉が覗く。その右腕は巨大な注射器と化していた。


「いや、違う」

 しかし灰簾がアトラムと呼んだそれを、ザクロは否定する。

「よく見たまえ、首輪がない。完全に成長しきったにしては力も不完全で、おまけに知能も低い。これはどちらかというと……バデックにアトラムのガワを被せた感じか?」

「よく分からないが、取り敢えず奴は《ナースアトラム》ってことにするぞ!」

「だからアトラムじゃないと ──」

 ザクロの訂正を無視し、ユナかとザクロはフラグメントゲートを出現させる。そしてフラグメント・Vを装填。だが、


《《ノー リアクション》》


「何!?」

「えぇ!?」

 フラグメントゲートは何も反応しない。するとザクロが呆れた様子で語り出す。

「まぁ当然か。変身に使うフラグメントの内、《リーパー》や《レイス》は本人の心を基にしたもの。使用者の魂が違えば反応しな ──」

「オチュウシャ〜」

 突然《ナースアトラム》が右腕の注射器から薬液を噴射。ユナカはザクロを、灰簾は晶を抱えて回避。薬液がかかった手摺や花瓶は煙をあげて崩れていく。

「ならどうすればいい?」

「2人でフラグメントを入れ替えたまえ。《リーパー》と《レイス》をね。属性は肉体に刻まれた紋章に呼応するからそのままで良い」

「それをここに来る前に言いなさい!」

 ユナカと灰簾はフラグメントを交換。再度装填する。


《リーパー・フラグメント!!》

《レイス・フラグメント》


《アクアウンディーネ・フラグメント》

《イグニスサラマンダー・フラグメント!!》


《《リアクション??》》


 2人の前に立ち塞がる石門。死神と水の精霊が顔を合わせ、首を傾げ合う。威嚇する炎の蜥蜴に亡霊が驚き小さくなる。


「「変身!!」


《水渦・バースト!! アクア・リーパー!!》

《炎舞・カタラクト!! イグニス・レイス!!》


《リーパー・ウンディーネの法則!?》

《レイス・サラマンダーの方程式?》


 《リーパー》は《レイス》のヴェールとドレスアーマーを、《レイス》は《リーパー》の燃える外套を纏う。その様は何処かチグハグだった。



続く

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