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第25話 噴炎対光!! 激突する死神と竜

 

「こいつ、死ね!!」

「ひぃん当たらないよーん!」

 オフィスは最早見る影もない。パソコンやデスクは部屋の隅へ吹き飛び、書類や筆記用具が宙を舞う空間。空を飛びながら闇雲に爪を振り回す《セレスタ》に対し、《スピリット》はそれを全て回避し、ついでの様に煽る。

 だが反撃で放つ《スピリット》のフラグメントマグナムも、《セレスタ》相手では空を切る。内心《スピリット》は歯噛みしていた。

(さては見た目ほどキレてないな……?)


《クローラリー・バジリスク!!》


《ローデッド デコンプレッション!!》


 フラグメントマグナムのスライドから大量の空気が放出。その銃口を《セレスタ》へと向ける。


《バジリスク!! デコンプレッションスプレッド!!》


 フラグメントマグナムから発射された暗緑色の弾丸、そこから無数の蛇の頭が飛び出し、《セレスタ》を喰らおうと迫る。

「何これ、きっしょ!!」

 光弾を放ち、蛇の頭を全て撃ち落とす。だが、


《クリティカル リアクション!!》


「はぁ!?」

 それは囮。本命は風を纏った両足を《セレスタ》へ押し付ける事。


《シルフィーネ!! アルケミックブレイク!!》


「うぐっ!?」

「おりゃああああああ!!!」

 両足を押しつけたまま、《スピリット》は高速回転。自身が竜巻の様になり、《セレスタ》を壁へと叩きつけた。

「よいしょお! ひぃぃ、疲れた〜」

 《スピリット》は着地。振り返った先で倒れ伏すセレスタは既に変身が解けており、歯を食いしばりながら睨んでいる。

「ダルストンズ、意外と大した事ない感じ?」

「こ、のぉ……!!」

「人間の見た目だとちょっと心が痛むけど、ま、じゃあね」

 トドメを刺すべくフラグメントマグナムを向ける。しかしセレスタは残る力を振り絞り、黒い霧へと姿を変える。

「次会ったら、絶対ぶち殺す……!」

 黒い霧へフラグメントマグナムを乱射するが、散り散りになったそれらは風に乗って消えて行った。

「……逃げられちった」

 変身を解いた翡翠は唇を尖らせる。その目に宿る光はいつもとは違い、何かを思考するように怪しげだった。


「こりゃ、アイツらに任せんのは得策じゃないかも」




 ブースターが炎を吐き出す事をやめた瞬間、《リーパー》は《アンフィス》へと突進。重厚な鎧を纏いながらも高速で自らへ向かう《リーパー》に対し、光を纏った拳で迎え撃つ。変身時間の温存、そして実力を図るべく出力を抑えた一撃を放った事を、《アンフィス》はすぐに過ちだったと気付かされる。

「っ!?」

 右腕の装甲は、《リーパー》の蹴りによってヒビが入る。弾かれるより早く《アンフィス》は自らの腕を引き、瞬時に背後へ回る。

 だが同時に、《リーパー》は右肩と右膝のブースターを噴射。即座に背後を向き、今度はブースターの加速を乗せた回し蹴りを放つ。

 咄嗟に左腕で防御するが、体勢を崩される。そこへ《リーパー》は回し蹴りの勢いに任せて一瞬宙へ浮き、そして両肩のブースターを点火。

「うぉぉぉ!!」

「ぐぅっ!?」

 速度と馬力が乗った飛び蹴りは《アンフィス》の身体を空中で引きずり、反対側のビル壁へと叩きつける。

「貴、様!」

「うぁっ!?」

 しかし《アンフィス》はいつまでも壁に押さえつけられる筈もなく、光を纏った左足を薙ぎ払い、《リーパー》を突き放した。

「フラグメント同士の反発力を力に、というのは出鱈目ではないらしい……小娘如きが生意気な」

 《アンフィス》はミッシングゲートのホルダーからフラグメント・Vを引き抜き、代わりに別のフラグメント・Vを装填。


《アルゲントゥム・ワイバーン!!》


《アナライズ》


 《アンフィス》の背中から、銀色の飛竜の一翼が突き出す。左足の装甲は飛竜の鉤爪の様に変形。

 それを見た《リーパー》はフラグメントエクステンダーの引き金を引き、フラグメントゲートを閉じる。


エクステンド リアクション!!》


 全身のブースターから炎を吐き、装甲から逃げ切れなくなった熱が波動となって放出される。


 2人は同時に駆け出し、その速度は一瞬で目にも止まらぬものへ加速。炎と光が空中でぶつかり合う。



《サラマンダー・ノーム!! アルケミックイラプションブレイク!!》

《アルゲントゥムワイバーン ルミナスクラッシュ》



 交わった2つの蹴りは爆発と衝撃波を生み、離れた位置にいた琥珀の身体をも吹き飛ばそうとする。急ぎ物陰に隠れるが、すぐ隣へ薙ぎ倒された街路樹が倒れ込む。

「うわ……!」

 やがて衝撃波が止んだ時、琥珀は物陰から飛び出し、結末を見る。それは、


「だが理論上、その変身は長くない筈」

「ぅ……!」


 2人は変わらず立っていた。だがそれも一瞬。《リーパー》のフラグメントゲートから《テラノーム・フラグメント》が飛び出し、変身が解除される。

「ユナカさん!!」

「所詮は時間稼ぎにしかならなかったようだな」

「……今はこれで、十分だ」

「なに、うぐぁ……!?」

 《アンフィス》の身体に突如電気が迸る。変身が解けるだけでなく、唇の端から血が流れ始めた。

「馬鹿な……ここまで、消耗する、など……!?」

「アンフィス、お前は確かに強い。でも錬生術師全員を敵にして、何もかも思い通りに行くと思うな」

 アンフィスはユナカを睨む。肉体は少女のものだが、その眼光は全てを圧殺する様に殺気立っていた。

「……この場は退く。やはり優先すべきは、右眼の確保だ」

 独り言の様に呟くと、アンフィスは光となってその姿を消した。


 先程までの激戦が嘘の様に静まり返る空間。それを破ったのは、ビルの上から飛び降りて来た《スピリット》だった。


「お疲れ〜!ありゃ? アトラムは倒しちゃった感じ?」

「あぁ翡翠ちゃん。うん、もうユナカさんが倒したみたい」

「そっかぁ、こっちは逃げられちったからなぁ。ま、んじゃもう安心ってことで!」

 変身を解除した翡翠はユナカの元へ駆け寄り、陽気に肩を叩く。

「先輩、お疲れやした〜!」

「うん、お疲れ」

「にしても、あのブラック企業の親玉どこ行っちゃったんすかね〜? 見つけたら1発ぶちのめしてやらないと!」

「……そうだね」

 振り返った先にあった筈の、月永だったものは既に消えていた。彼の罪は決して許されるものではなかった。だが、それでも、あんな最期を迎えるのはあまりにも惨い。

「せめて、一言でも……」

 その先の言葉を、ユナカは静かに飲み込んだ。



 それから数日後。


「おぉぉぉ、ここがユナカの店かぁ!」

「水春くん、あんまり大きい声出さないの」

「いやごめんごめん、なんか感慨深くて」

 ジュエルブレッドを訪れた水春は、内装を見て声を上げる。隣にいた琉華から諌められ、照れた様に笑う。

「いらっしゃいませ、ようこそジュエルブレッドへ。店内でお召し上がりでしょうか、それともお持ち帰りでしょうか?」

「すっご、本物のメイドさんだよ琉華ちゃん!!」

「あぇ!?」

「すみません〜、店内で食べます〜」

「は、はい……」

 水春の勢いに思わず怯んだ灰簾だったが、なんとかポーカーフェイスを取り戻し、メニューを差し出した。すると横から山盛りの焼き立てパンを運ぶ翡翠が顔を出す。

「そんな幸せな2人には店長から焼き立てパンのサービスでーす! あ、2個目以降と飲み物は別料金っすよ」

「わぁ、ありがとうございます〜。ありがとうねユナカくん」

「サンキューなーユナカ!」

 イートインスペースから手を振る2人へ、ユナカは手を振り返した。


 水春は仕事を辞め、今は体と心を休めている。だが様子を見るに、また歩み出せる日も遠くはないだろう。


「まったく、どうして私まで……」

「文句言うな。アレを使ってからまだ疲れがとれないんだ、手伝って貰わないと困る」

「そりゃ君が貧弱なだけだろー」

 珍しくメイド服を着せられ、渋々パンを運ばされるザクロの姿もあった。

「……まぁ良い、あの青年からフラグメントは回収したし、フラグメントエクステンダーのテストも出来た。その見返りって言うならやってやらないでもないさ」

「これでアンフィスへの対策は一旦終わり、でいいのか?」

「おいおい冗談はよせ。あの男の執着心は異常だ、むしろこれからは余計に襲撃が増えるだろう。それこそ君が言っていた、人間をアトラムへ変える技術を乱用し始める事だって十分あり得る。どの程度実用化しているのかは分からんが」

 ザクロは棚へパンを積みながら続ける。

「まだまだ戦いは終わらない。むしろようやく始まったとも言える。私は彼を倒す為の研究を続ける、君達はフラグメントを集める。敵がどんな手を使ってきてもそれは変わらない」

「あぁ、分かってる。アンフィスの好きにはさせない」

 ユナカは頷く。アンフィスを倒す事、そして自らの目的を達する事。それらは同じ道にあるのだと理解しているから。

「……おい、適当に積みすぎだ。もう少し見栄えを意識してくれ」

「なんだうるさい男だな、見栄えで味が変わるわけでもない。そもそもこのパンの形状が ──」




 日が沈み、闇に包まれた金識町。そのある場所の屋上から、街を眺める影があった。

 枯れ枝のように細い黒棘が伸びる身体は所々が骨に似た装甲で隠され、まるで腐りかけの死体を想起させる姿。月明かりに照らされた口元は、歯を剥き出しにして笑う骸骨。

「なぁ、相棒。こんな遊びを思いついたんだが……お、乗り気だな! あいつらきっと腰抜かすぜ」

 彼はフラグメント・Vを小刻みに振る。彼とその相棒にとってはほんの悪戯だが、錬生術師達はどう受け取るのだろうか。反応が楽しみで仕方がない。


 腕に嵌めたミッシングゲートが同調する様に怪しく輝いた。



続く

Next Fragment……


《テネブラエ・レヴァナント》

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