第24話 白炎噴火!! 常識の開拓者達
「面倒臭え野郎だぁ……俺が直々にぶっ飛ばしてやる!」
《エンプロイヤーアトラム》は両腕の鞭で地面を打ち、《リーパー》へと襲いかかる。厄介な能力こそ封じたものの、それで本体を攻略したというのは早計だろう。
振るわれる鞭を回避すると、銀狼の装甲がついた右足で前蹴りを叩き込む。その瞬間、
「あぁぁっっづぁぁぁそれに目がぁぁぁぁぁぁ!!!」
強烈な閃光が走り、《エンプロイヤーアトラム》を吹き飛ばす。頭を押さえながら転げ回る様を見た《リーパー》は自らの右足を確認する。
「今の光は……なるほど」
騒ぎで逃げ惑う人々に被害がない事を見て理解する。あの閃光はアトラムやバデックのみに効くのだと。
「どんな原理なんだ……」
「あぁぁぁやっと見える様になってきた、今度こそぉ!!」
再び駆け寄り、鞭を叩きつけようとする《エンプロイヤーアトラム》。今度はそれを、右腕の装甲で受け止めた。
「いんぎぁぁぁぁぁぁうるせぇぇぇぇぇぇ!!!?」
《エンプロイヤーアトラム》の聴覚を破壊する爆音。当然人間には聴こえていないが、悶え苦しむ様子から相当な音量だったらしい。
「はぁっ!」
「おげっ!?」
そして《リーパー》の右拳と右足が連続で叩き込まれる。迸る閃光、吼える爆音、弾ける火花。《エンプロイヤーアトラム》の感覚は最早崩壊していた。
「あんぎゃぁぁぁぁぁぁ!!」
締めにジャンプ回し蹴りを刺され、吹き飛んだ《エンプロイヤーアトラム》はビルの壁へとめり込んだ。
「オラァ死ねぇ!!」
狭いオフィスを飛び回りながら爪で切り裂こうとする《セレスタ》に対し、《ファントム》は堅固な装甲で受け止め、反撃の拳を振るう。
「っ、捉え、られない、うわっ!?」
「すっとろいんだよバーカ!」
《ファントム》の拳は空を打ち、《セレスタ》の攻撃ばかりが当たり続ける。決定打にこそならないものの、このままではジリ貧になることは明白。
「キリがない!」
「きっちり急所は守りやがって、とっととケリつけたいのに、きゃあっ!?」
そこへ、宙を駆け回るセレスタを的確に撃ち抜く射撃。バデックを捌きながら、《スピリット》がフラグメントマグナムの硝煙を吹き消す。
「きゃあっ、だって! 結構可愛い声出すじゃん!」
「……ターゲット、変ーえた!!」
起き上がった瞬間、《セレスタ》は《スピリット》へ飛びかかる。
「ちょおい!? そんな怒んなよぉ! 刑事さーん、バデックよろしく!」
「わ、分かった……」
不用意な挑発で意図しない交代が起こったものの、《ファントム》はバデック達を食い止める役割を担う。
「ば、化け物どもが……」
そんな様子を、座り込みながら見ていた月永。しかしそんな彼の目の前に、またしても人影が現れた。
「あ……? ぇ、な、なんだお前!?」
「モルモットとしてはそこそこか」
「ひぃっ!?」
女子中学生に首を絞め上げられている自身の状況が理解出来ないまま、月永は連れ去られる。
そんな彼を、《ファントム》は視界の端に捉えていた。そして彼を連れ去った異様な気配を放つ少女も。
「まさか……!?」
《クリティカル リアクション!!》
「ま、待て! 交渉だ、要求があるなら何でも……」
《エンプロイヤーアトラム》の命乞いなど意に介さず、《リーパー》は駆け出した。イヤーマフと右腕の装甲が、右足へと移動。白色の炎を纏った足は、蹴りつけるアスファルトから大量の火花を撒き散らす。
《サラマンダー・ケルベロス!! アルケミックストライク!!》
一撃、二撃、三撃。3つの首を持つ銀狼の牙が獲物を喰らう様に、《リーパー》の蹴りは《エンプロイヤーアトラム》の首、胸、腹を切り裂いた。
「完全週休二日制、給料見直し、お前の解雇だ」
「出来るわけねモガァァァァァァ!!!!」
爆発に呑み込まれた《エンプロイヤーアトラム》の断末魔を聞き届け、《リーパー》は小さく溜息を吐いた。
「あとは……」
「役立たずなアトラムだが」
しかしその声を聞き、《リーパー》はすぐに振り返った。
「アンフィス……!?」
「実験材料が揃っている以上は試してみるか」
「な、な、ななな何を……!?」
アンフィスはヴィトロガンの銃口を、先程まで《エンプロイヤーアトラム》がいた場所へと向ける。すると黒ずんだ粒子が吸い込まれていき、後部に装着されたフラグメント・Vへ充填されていく。
そしてそれを、片手に掴んだ月永の頭へ突きつける。
「何をする気だ、やめろ!」
「たずげ、べぇっ!?」
躊躇いもなく引かれた引き金。フラグメント・Vに溜め込まれた黒い粒子が月永へと注ぎ込まれる。
瞬く間に月永の身体から黒い水晶の様な物体が突き出す。
「あ、ゴ、ゴバゥゥゥゥ!!?」
「アンフィス、何をした!?」
「フラグメント・Vの中身を考えれば分かるだろう。少しは自分で思考したらどうだ」
それは水春が受けた苦痛、心の傷。それは純度が高い状態の負のエネルギー。
やがて月永の身体は水晶に埋もれ、見えなくなる。長い様な、短い様な沈黙を経て、水晶が砕け散った。
「な、に……!?」
《リーパー》は思わず絶句する。中から姿を現したのは、先程の《エンプロイヤーアトラム》、否、身体が所々欠損し、代わりに大量の黒い水晶を生やした謎のアトラムだった。
「ナ、ナン、ナ、ナンダコレハァァァ!?」
「月永……なのか……?」
「可能かどうか疑わしい面もあったが……まずは一例だ。悪意に満ちた人間は直接アトラムに変化させる事が出来る、その証明に必要な」
アンフィスは口元に指を添え、思考を巡らせる様に目を閉じる。対する《リーパー》は状況を未だに理解できず、謎のアトラムに釘付けとなっていた。
「人間を、アトラムに……」
「ウォォォ……ォマエ……ナンデ、ゴゴニイルゥゥゥ」
謎のアトラムは、片方しか無くなった水晶塗れの鞭を振り下ろした。咄嗟にヴィトロサイズで防御した《リーパー》だったが、諸共弾き飛ばされ、街灯へ叩きつけられる。
「うぅっ!? この力……さっきとは……!」
「サッサトハタラケェェェ!!」
自身の姿を見て動揺していた時とは打って変わり、《エンプロイヤーアトラム》の思考に染まった様な叫びを上げている。身体から突き出した水晶は先程よりも黒く染まっていく。
姿こそアトラムだが、元は人間。元に戻るのかなど《リーパー》には分からない。だが確かに人間だったのだ。立ち上がりこそするが、構えを取ることが出来ない。
「ハタラカネェナラ……ツブシテヤル!!」
謎のアトラムは鞭を引きずりながら《リーパー》へ迫る。もう一度《リーパー》を打ちのめすべく、鞭を振り上げた。
「……ここまでか」
「ゲボッ!?」
アンフィスが小さく呟いた時、謎のアトラムは痙攣と共に歩みを止めた。水晶から黒い粒子ではなく、ヘドロの様な黒い粘液を垂れ流し始める。
「ハ、ハタラカ、ネー、ヤツハ、ハ、ハ……!!」
やがて身体が完全に崩壊。全てヘドロとなった末、それすら風に溶ける様に消えていった。この世界に何の痕跡すらも残さず。
「月永……」
「悪意は足りていたが、心の器が足りなかったか。このバランスを見るのは中々に難儀するな。悪意に身が染まった人間は相応に器が小さい、この問題をどうするか」
変わらず自らの思考を口にし続けるアンフィスを《リーパー》は睨む。それに気づいたのか、アンフィスは閉じていた目を薄く開き、《リーパー》を見つめ返す。
「何だその目は。人間一人が消えた所でどうだというのだ。この世界に数十億と持て余した資源、有効に使わない他ないだろう」
「よく喋るな。自分の研究のことになればあいつにそっくりだ……いや、全然そっくりじゃないか」
あくまで冷静に、落ち着いて言葉を吐く。《リーパー》があいつと言った、少女との約束を守る為に。
「どんなに研究に夢中でも、あいつは誰かを犠牲にする選択なんか絶対に取らない」
「随分師匠を買っているようだ……昔の炎の錬生術師の弟子の様に」
すると2人の会話を遮るように、アンフィスの背後に影が降り立った。
振り返ったアンフィスは小さく息を吐く。
「土の錬生術師か」
「会うのは初めてだね。話には聞いていたけど、随分可愛らしい姿だ」
「上にいる風の錬生術師は放って良いのか?」
「大丈夫」
《ファントム》は両腕で掴んだバデック達を放り捨てる。
「取り巻きは全部倒したから」
「……」
するとアンフィスは、宙へ視線を向けた。
「炎、土、風……」
瞳の紋章が一層輝きを増した。
「1回で全てを奪えば釣り合うか」
《ルクスドラゴン・レフト》
《アナライズ》
《リーパー》と《ファントム》は一気に駆け出す。しかしアンフィスの動きは速かった。
「変身」
《ゲート・カイホウ》
《Open the Gate!! Glorious the Legacy!! Half Awakening Lux Dragon!!》
一瞬の内に姿を変えた《アンフィス》は、《リーパー》を拳で、《ファントム》を蹴りで迎え撃った。
「うぐぁっ!!」
「くっ、おおお!!」
吹き飛んだ《リーパー》に対し、《ファントム》はそれを受けつつ、拳を振るう。攻撃の隙を狙った一撃にも関わらず、《アンフィス》はそれを難なく回避。更に光の拳が《ファントム》の胸を打つ。
「がっ、ぉああ!」
しかしそれすら耐え、その拳を掴む。
「捉えた!」
そこへすかさず《リーパー》が炎を纏った蹴りを放つ。寸分違わず背へ突き刺さった、筈だった。
「時間が惜しい」
《ファントム》が受け止めた拳を更に深く押し込んで吹き飛ばし、振り返りざまに《リーパー》の顎を蹴り上げた。
「がはっ!」
「あぐぁ!!」
地面に叩きつけられた衝撃で《マグネシウム・ケルベロス》が外れ、《リーパー》の装甲が消え去る。
「まずは土の紋章から頂く」
《アンフィス》が先に狙いを定めたのは、装甲がヒビだらけになった《ファントム》だった。
「そう簡単に、渡すわけない……!」
「そんな状態で」
影を纏った足で胸部装甲を蹴り付けると、一気に砕け散る。土の力が《ファントム》の身体から離れ、フラグメント・Vが地面へと転がる。
「何が出来る」
「ぅ、ぐぅぅぅ……くっ!!」
《ファントム》はフラグメントを掴むが、《アンフィス》の腕から放たれる光を浴びた途端、それを取り落としそうになる程の激痛が両目を襲う。
「うわぁぁぁ!? あ、が……!!」
遂に変身も解除され、琥珀の瞳が異常な輝きに満ちていることが露わとなる。
「琥珀くん!!」
「ユナカ、さん……そうだ……こいつに渡すくらいなら!」
琥珀は最後の力を振り絞り、《リーパー》へ自らの《テラノーム・フラグメント》を投げ渡した。
「それを持って逃げて下さい! 紋章を奪われてもフラグメントさえなければ、ぐぁっ!!」
「無駄な事を。あの男がそんな賢しい選択を取れると思っているのか」
《アンフィス》は琥珀へ光を浴びせながら《リーパー》へと振り向く。
「それとも本当に逃げ出してみるか? そうすれば損失は少なく済む。身を隠せば時間は稼げるだろう」
「……いや」
《リーパー》は手にした《テラノーム・フラグメント》、そして新たな装置を見つめながら、ザクロの言葉を思い出していた。
── この《フラグメントエクステンダー》を使う時は、属性を司るフラグメント・V、例を挙げるなら水の錬生術師が使う《アクアウンディーネ》を使うんだ ──
── 待て、それじゃ1人戦力を失う事になるぞ ──
── そうするだけの価値があるのさ。それに、意外とそういう機会は巡ってくるかもしれないぞ? ──
「今が、そういう機会だ」
「何?」
《リーパー》は自らの《イグニスサラマンダー・フラグメント》を抜く。そして新たな装置を代わりにフラグメントゲートの下部へ挿し込む。
《フラグメントエクステンダー!!》
装置が展開、フラグメントゲートの天面に装置の扉が重なる。今度はフラグメントゲート右部に《イグニスサラマンダー・フラグメント》を挿入、更に左部へ《テラノーム・フラグメント》を挿入する。
それを見た《アンフィス》は、呆れたように息を吐く。
「馬鹿な、フラグメントの原理を理解していないのか。異なる属性は反発し合うだけ、変身など出来ない。錬生術師の常識だ」
── 普通なら属性を持つフラグメントは反発し合う。だがこの《フラグメントエクステンダー》は、その反発力を力に変える役目を担っている。いやむしろ、その反発力が強いほど、変身した際により強大な力を得られると言っても良い ──
《イグニスサラマンダー・フラグメント!!》
《テラノーム・フラグメント!!》
《E リアクション!!》
燃える外套が消え、代わりに《リーパー》の目の前に石門が出現。炎の大蜥蜴の背に乗る大地の精霊が吸収され、石門は噴火直前の火口のようにマグマを散らし、ヒビ割れる。
フラグメントゲートを開くと同時に、《リーパー》は石門へ回し蹴りを叩き込み、こじ開けた。
「変身!!」
《ゲート カイホウ!!》
《イグニス プラス テラ!! イコール……イラプション! イラプション!! イラプション・リーパー!!!》
溶岩の様に無骨な深紅の装甲を纏う。拳や肩、膝、足には噴火口を模したブースターを装着、頭部を《ファントム》のものと似たフェイスアーマーで覆う。
古代の意匠を感じさせる2人の姿とは趣が異なる、ロボットの様な姿。
《ズガドーン!!! ズゴゴゴーン!!!!》
「……何が起きている?」
姿、そして何よりも《リーパー》から放たれる力を前に、《アンフィス》は紋章を奪う光を止める。その隙すら危ういと感じた為だ。
「この世の常識を覆してこそ、錬生術師だ」
全ブースターから炎を吐き、《リーパー》は《アンフィス》へ構えを取った。
続く




