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第14話 暗中模索! それぞれの計画

 

「まるで示し合わせたみたいじゃないか。正直あのタイミングで来てくれなければ、私達は全滅だった」

「光の右眼を覚醒させる事は手筈通りだ。そうすればアンフィスは大人しくしていられない。あの男の恨みは相当なものだからな」

 夜明け前、最も闇が深い時間。ジュエルブレッドの前でザクロと話している人影があった。

 黒い外套に、時計の短針と長針の様な装飾が施された仮面を被った背の高い男。酷く異質な雰囲気を纏った男は、静かに右手を差し出した。

「風の錬生術師を手引きするのは苦労した。なにぶん、奴も初代によく似ている」

「……仲介料としては安いかな?」

 男の手へ、ザクロはフラグメント・Vを3本手渡した。それらを見つめる男は小さく頷く。

「ホウ素、ヘリウム、パラジウム。残るフラグメントも少なくなってきたか」

 男がフラグメント・Vを静かに落とすと、何処からともなく現れた白装束の人影が地面に落ちる前に受け取り、再び消えた。

「2500年も掛けたんだ、それくらい行っていなきゃねぇ。まぁでも、ここ最近のペースは絶好調だ。心配しなくてもいい」


「輝蹟ユナカ。彼はこれまでの錬生術師の中でも逸材だ。だが同時に、酷く不安定でもある」

「……否定はしないさ。だが今はそれを気にしている場合でない事も事実だろう? アンフィスが目覚めた以上、当面の目標は彼の再封印、或いは完全なる消滅だ」


「構わない。必要なのは光の力を継承した2人の子供達だ。アンフィスの魂は好きにすればいい」

「簡単に言ってくれる。直接手伝ってくれる事なんか期待してないから良いけど」

 すると男は、先とは別の白装束の人影からあるものを受け取る。そしてそれをザクロへ投げ渡した。

 黒一色のフラグメント・Vの上に、更にフラグメント・Vを装填出来る部品が組み込まれたデバイスだった。

「好きに使えば良い」

「相変わらず手先が器用だ。水の錬生術師と土の錬生術師の武器を作ったのも君だろう?」

「必要だからやったまでだ」

 それだけ言い残すと、男は去って行く。昇り始めた日の光が一瞬差すと、既に彼の姿は無かった。


 あの男は《レイス》のヴィトロスタッフ、そして《ファントム》のフラグメントメイスの作成者。今現在、錬生術師が振るう武器を作製できる技術を持つのはザクロと彼しかいない。つまりザクロが手がけたヴィトロサイズ以外の武器は彼にしか作れない。

 だとするなら、不完全とはいえあのアンフィスが一瞬怯む程の威力を出した、風の錬生術師の武器も。

「……頼りになるスポンサーだ」

 ザクロは身を翻し、店内へと戻る。


「おいユナカ、怪我人が怪我人の看病をするんじゃない」

 ベッドで静かに横たわる灰簾の様子を見守るユナカをザクロは見咎める。彼自身も包帯を巻いており、万全な状態とは言えない。

「フラグメントゲートの機能で身体の回復能力は跳ね上がっているんだ。水の錬生術師も夜明け頃には目覚める。無駄に動き回っている君の方が回復が遅れているまである」

「あくまで簡単に死なないだけだ。怪我の処置を正しくしないとそれこそ復帰が遅れる」

「ユナカさん、替えの包帯ってこれですか?」

 すると別の部屋から晶が現れる。右眼の眼帯は騒ぎの中で無くしてしまったのだが、代わりに謎の紋様が刻まれた布で覆われていた。


 アンフィスから逃げ果せた直後、ザクロが晶に巻いたものだ。曰く、眼の力を感知されないレベルまで抑え込む代物。右目の視界が完全に塞がる上に悪目立ちするが、あんな怪物に追い回される事より何倍もマシだと晶もすぐに承知した。


「ありがとう晶くん。ザクロ、替えてくれ」

「なぁんで私が……最初に巻いたのも君が何度も言うから……」

「頼む」

「はぁ……仕方がないな」

 包帯を受け取ったザクロは、眠ったままの灰簾を起こして包帯を解き始める。

「あの、ユナカさんは大丈夫なんですか?」

「……」

「ゆ、ユナカさ、んん!?」

 椅子に座った姿勢のまま、ユナカは眠っていた。やはり身体のダメージが回復しきっていないのだろう。晶は近場にあった毛布を膝に掛ける。

「晶くん、今後の事だがね」

「は、はい、ザクロさん、っ、うわっ、と!」

 ザクロからの呼び掛けで危うく振り向き掛けたが、灰簾の包帯を替えている最中だということに気がつき、慌てて目を逸らした。

「しばらく学校、いや、自宅にいるのも控えていて欲しい。理由は分かるね?」

「はい。あんな危ない奴に狙われてるなら、当たり前ですよね。元からそうするつもりでした」

「学校やご両親には、まぁ上手く説明しておく。2500年も生きていれば自然と色々な伝が出来るからね、心配はいらないよ」

「分かりました。じゃあ、しばらくはここでお世話になるって事ですか?」

「その方が良い。警察に保護して貰う案もあったが……いや、やっぱり見知った顔しかいないここがいいな」

 その口振りに晶は首を傾げるが、それ以上何も言わないザクロの雰囲気を感じて問わなかった。

「まずは休もう。店は2人が回復するまで臨時休業だ」




「その様子じゃ、右眼の確保は失敗したようで」

「気配も完全に途絶えた。炎の錬生術師の弟子が、姑息な手を使ったか」

 部屋の中心で話し込むモルオンとアンフィス。それを部屋の隅から伺っているのは、セレスタとガーデル。


「ねぇ、彼奴何で普通に居座ってんの?」

「別に良いでしょ、モルオンが言うには協力者なんだし」

「嫌いだから消えて欲しいんだけど」

「こら、そんなこと言っちゃいけません」


 隅で言い合う2人を気に掛ける素振りも見せず、アンフィスは続ける。

「だがこの街の何処かにはいる筈だ。計画を進めつつ、右眼を取り返す」

「その手伝いをする見返り、僕達には果たしてあるのかな?」

 すると、アンフィスは懐から何かを取り出した。フラグメント・Vなのだが、キャップは無装飾の黒いもの、反して中のフラグメントの結晶と液体は白色に輝いている。

「今までは人間の心にフラグメントの素を植えつけ、それを刈り取っていた様だが……私はより効率的にアトラムを増やす手段を知っている」

「驚いた、錬生術師がそんな方法を知っているなんて」

「フラグメント抽出の技術は応用すればアトラムの生成にも使える。今までのフラグメントの抽出方法は非効率だ。それを元にしたアトラムの製法も同様。人間の心の傷を糧にする必要などない」

 アンフィスはヴィトロガンを取り出した。ザクロ達が持つものとは形状が異なっており、銃口に3本の爪が備わっている。


「人間の心そのものを媒体にすれば、より純度が高く、より多くのフラグメントが手に入る。そしてそれはアトラムにも同じ事が言える」

「……なるほど。ただ、少し実験したいな」


 モルオンはスマートフォンの画面をアンフィスへと向ける。最初、見慣れない装置にアンフィスは訝しむような表情を浮かべたが、そこに記されたサイトを見て理解した。


「好きにすればいい。そのヴィトロガンを貸し与える」



続く

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