第15話 神出鬼没! 闇サイトに渦巻く計画
アンフィス襲撃から2日が経った日。明日からの営業再開に向けて準備を進める灰簾達の元に来客が訪れた。
「失礼します」
「琥珀さん?」
カウンターの拭き掃除をしていた晶が気づくと、琥珀は小さく笑う。
「ユナカさんかザクロさんはいる?」
「えっと、ユナカさんは買い出しに行ってます。ザクロさんは……寝てます」
「そっか。ちょっと間が悪かったね」
「私ならいるけど」
すると店の奥から灰簾が現れる。琥珀は安心したように胸を撫で下ろした。
「2人じゃないと話し辛い事?」
「いえ、錬生術師絡みのお話ですので是非」
「分かった。コーヒーを淹れてくるから少し待ってて」
「ありがとうございます」
このやりとりを聞いた晶はつくづく思う。灰簾は少々変わった面もあるが気遣いもでき、理想的な女性に見える。ザクロは物凄く変わっているが、道を歩けば老若男女が振り返るくらいには美しい容姿。
だがまるでユナカは靡く様子がない。というか異性として意識している節がまるでない。気配りは一般常識というか、当たり前の事のようなのだ。更に言えばザクロに対しては気配りや遠慮すらない。
気になる。晶はユナカの素顔、性格が気になるのだ。
「あの、琥珀さん」
「ん? どうしたんだい?」
「ユナカさんって、恋人というか、好きな人とかいないんですか?」
晶からの質問に、琥珀は一瞬呆気に取られていた。が、直後笑い出す。
「あっははは、気になるんだ? やっぱりませてるね、今の子は」
「いや、えっと、僕、全然ユナカさんの、なんだろう……普段の生活とか、趣味とか、全然知らなくて……」
「ユナカさん自分の事話さないからね、昔から。僕が知ってる限りで良いなら、内緒で教えてあげようか?」
琥珀が小さく手招きするので、晶は耳を傾ける。
「ユナカさんはね、ほたるちゃんが大好きなんだ」
「……ぇ」
「そりゃあもう、甘やかして甘やかして。ほたるちゃん本人がこのままだと自分がダメ人間になるからって拒否されたぐらい」
「ぇぇ」
意外、いや、意外過ぎる。普段ほとんど無表情なユナカが、妹のほたるを甘やかしている様が全く想像出来ない。
しかし直後、琥珀の表情が寂しげなものになる。
「ユナカさんとほたるちゃんの両親が早くに亡くなってから、ずっと2人きりだったから。周りの助けもあったらしいけど、僕には想像出来ないくらい大変だったんだろうね」
「ぁ……ユナカさんのお父さんとお母さん……」
思いがけない形で知った。両親がいない苦労を晶はもちろん知らない。だが今、自分の両親がいなくなってしまったら。
アンフィスに、殺されてしまったら。
足元が抜けるような恐怖に囚われ、唇を噛み締める。こんな不安とユナカはいつも戦っていたのだろうか。
「大丈夫」
琥珀はそんな晶の様子に気づき、肩を優しく叩いた。
「ユナカさんから連絡は貰ってる。君にも、君の大切な人達にも、アンフィスに手出しさせない。僕達を信じて欲しい」
「……はい、ありがとう、ございます!」
「仲が良さそうで何より」
と、後ろで話が終わるのを笑顔で待っていた灰簾の声が聞こえてきた。カフェスペースのテーブルにコーヒーが置かれる。
「それで、話っていうのは?」
「実は少し前にネット上である闇サイトが見つかったんです。厄介なのが、これを利用している人物の中に子供がいる事」
琥珀がスマートフォンの画面を見せる。そこに刻まれた文字を灰簾は読み進めていく。
「貴方の恨み、晴らします。依頼料は貴方の復讐心……何か、随分と胡散臭い文言」
「詐欺サイトなら僕達警察の仕事なんですけど……このサイトが出始めてから奇妙な現象が起きているんです」
続いてスマートフォンに映し出されたのは動画だった。そこは学校なのだが、数人の生徒がその場で蹲り、絶叫し続けている。
「これは……」
「サイバー犯罪対策課の調べで、サイトに復讐対象として記載された学生達と判明しました。この症状、灰簾さんも分かりますよね?」
「えぇ。これはフラグメントを無理矢理摘出された症状と同じ。つまりこの子達は、誰かに依頼されてフラグメントを抜き取られたって事になる。そんな事が出来るのは……」
「錬生術師しか、いませんよね」
2人の話を聞いた晶の背に緊張が走る。以前ザクロがアンフィスと相対した時に言っていたことを思い出した為だ。
── 正当な継承手段を踏まずに紋章を引き抜く事は、その人間の心を丸ごと引き抜く事と同義だ ──
正確には少し違うのだろう。だがフラグメントは人の心の傷を元に生み出されるもの。謂わばあれも心なのだ。
「恐らくアンフィスの仕業ですが……別の錬生術師の犯行の線も考えておいた方が良いかもしれません」
「まだ出会っていないのは風の錬生術師だけ……っ、いや、ありえないか」
「ありえない、というのは?」
風の錬生術師の仕業ではないという事かと思い、琥珀は聞き返す。だが帰って来た答えは全く異なるものだった。
「闇の錬生術師の線を一瞬考えたけど、絶対ありえないから忘れて。アンフィスと違って、闇の紋章はもう途絶えているから」
明日からの営業再開に向けた材料の買い出しを終え、バイクの荷台に山盛りの荷物を積んだユナカは帰路に着く。
バイクはストライカー形態へ変形したユニコーンストライカーなのだが、ザクロが施した偽装外装によって一般の大型バイクと見分けがつかない様になっている。
「アンフィスの動向も気になるが……行方を知らない以上は受け身にならざるを得ないか」
ザクロの話によれば、晶に施した新しい眼帯によってアンフィスはこちらの動きを見失っている。だが同様にアンフィスの行動パターンをこちらは一切掴めていない。ならば今まで通りフラグメントを集め、アンフィスに対抗する為の力を蓄える事に注力するのが最善策、らしい。
「しばらくはかかりそうだな……っ」
何者かの視線を感じ取り、ユナカはユニコーンストライカーを停止させる。殺気とは違う、奇妙な気が込められた視線。
降りると同時に、視線の距離が近付いたように感じる。無人の公園の方まで歩いていくにつれて、距離は縮まっていく。
そして遂にその時が訪れた。
ユナカの足元の地面が弾ける。歩みを止めると、目の前に影が降り立った。
吹き荒ぶ風を象ったバイザーと、奥で輝く翠色の双眸。暗緑色のインナースーツ、逆巻く竜巻を象った若草色の装甲、僅かな風で棚引く空色のマフラー。その両手にはヴィトロガンと、それよりも一回り大きい銃。
右手のフラグメントゲートを見たユナカは、その正体を看破した。
「何が目的だ、風の錬生術師」
「……」
無言のまま、風の錬生術師は再びヴィトロガンを発砲。だがそれはユナカも読んでいた。
燃え盛る石門が地面から現れ、ユナカへの銃撃を防ぐ。
「変身」
《炎舞・バースト!! イグニス・リーパー!!》
そのまま扉を蹴り開けて変身。続け様に浴びせられる銃撃を《リーパー》は蹴りで叩き落とす。
すると突然、風の錬生術師はヴィトロガンを回転させ始める。何をするか分からず、警戒の構えをとる《リーパー》。
だが更に両手でヴィトロガンともう一つの銃をジャグリングし始めた。そして宙を舞う2丁の銃をキャッチし、軽く一礼。
「……」
「……」
奇妙な間が、2人の間に流れた。
続く




