性犯罪者の物語1
3年前、まだまだ寒い季節にそれは起こった
東京駅を出発した時は、
まだ何も起きていないようだった。
数人の私服刑務官と6人の囚人は、
新幹線に乗って西へと向かった
つつがなく名古屋へとたどり着き、
同行の私服刑務官たちは、
刑務所から迎えに来た制服刑務官たちに
バトンタッチ
後は護送バスに揺られて
刑務所まで数時間の旅のはずだった
高速道路は凄まじい大渋滞.....
ついに、車列がピタリとも動かなくなり、
やがて、止まった車の間を人々が
走り抜けていった
護送バスの制服刑務官は、
融通の利かない奴だった
「落ち着け、テロか暴動だという話だが、
このバスは頑丈だ。
騒ぎが収まるまでの辛抱だ。
ほら、水を持ってきてやったから、
小便したい奴は
空いたペットボトルの中でしろ」
護送バスの前部席と後部席は、
金網と鉄格子のドアで仕切られている。
刑務官は、鉄格子のドアを開けて
こちらに入ってきた
その手には、数本のペットボトルの水を
抱えていた
(ここに留まるのはヤバい....)
本能が凄まじく警告してくる
窓の外から見えるのは、車をすり抜けて
逃げ惑う人々、
その表情を見て、瞬時に行動を起こした
「ゴンさん!!!」
そう叫ぶと、サトシは刑務官に飛び掛かった。
即座に、ゴンさんが開いたドアから運転席に
侵入する
ゴンさんは、強盗殺人で無期懲役を
食らった男だ。
熊のような体格から繰り出された両手パンチは、
運転していた刑務官を一瞬で静かにさせた
サトシは、手錠を掛けられたままの両腕で
刑務官の首を絞め続けた
ぐったりと力を失くして倒れる刑務官。
サトシは、刑務官たちに対して
心から申し訳なく思った
「多分、二人とも死んではいないと思う...
本当にすいません」
すると、後ろから囚人の声が言った
「おい、レイプ野郎、
手錠の鍵だ、はやくこっちにも回せや」
何もしていないくせに偉そうに
指示してくるのは、
関東の半グレ集団のリーダーだとかいう男だ
奴を無視して、気絶した二人の刑務官から
拳銃と手錠の鍵を奪った
ゴンさんと、素早くお互いの手錠を外す。
サトシとゴンさんは、それぞれの手に
警察のリボルバーを持っていた。
ちなみに、刑務官は予備弾は持っておらず
装弾数は5発だ
そして、運転席の窓から見える前方の光景に
しばし固まる二人....
護送バスのすぐ前の車から、
2人の制服刑務官が飛び出してくる
しかし、彼らは護送バスの横を
通り過ぎて行った
「おい、レイプ野郎と殺人熊、
聞こえてんのかよ!!手錠の鍵をはやく回せ。
それと、拳銃は俺達が持つから寄越せ」
サトシとゴンさんは顔を見合わせた。
そして、振り向くと
両手に構えた拳銃を囚人たちに向けた。
『半グレリーダー』と『ヤクザの鉄砲玉』と
『振り込め詐欺師』
少し離れたところで縮こまっているのが
『凄腕ハッカー』
「ちょっおいっ、何のつもりだ!!
お前ら、俺が誰だか分かってんのか?
お前らと違って、俺らには大勢の仲間が
居んだぜ!!
クソ、ふざけた真似しやがって、
俺の仲間が黙っちゃいねえぜ」
抗議する半グレリーダー
刑が確定しているので頭髪は丸坊主だが、
服は私服で、それがまた酷い
タトゥーを見せびらかすようなノースリーブ
とか、そういう類だ。
ヤクザの鉄砲玉と、振り込め詐欺師も同じ。
自分達がどういう集団に属しているのか
周囲にアピールしている
サトシは言った
「ゴンさん、こいつらと一緒に居てもダメだ。
この3人はアウトで、
ハッカー先生だけはセーフってことで」
ゴンさんはすぐに悟った
そして、二人は拳銃を発砲した
ズダンッ、ズダンッ!
ズダンッ!
ゴンさんは、ヤクザと詐欺師に
1発ずつ撃ち込んだ。
サトシは、わざと急所を外して
半グレリーダーの顔に弾を命中させた
「ぐぼぁっ、ごぶっ」
唐突に、頬から顎の部分が大きく抉れて、
床をのたうち回る半グレリーダー
サトシは、彼を見下ろして言った
「おい、イケメン....
そんなに頼りになる仲間が居るなら、
すぐにでもここに連れ来てみろや、タコ」
時間が無い、楽しんでいる場合ではない
「とっとと死ねアホ」
サトシは、倒れている半グレリーダーの頭を
思いっきり蹴とばした。
赤い粘液と、数本の白い歯が空を舞う
「ますますイケメンになったなオイ!
だがな、お前が今まで苦しめてきた人たちの
感じた痛みは、こんなもんじゃねえ
やっぱり、すぐに死なすのは優しすぎる、
じっくりと苦しんで死ね」
サトシは、身を屈めて大きくジャンプすると、
半グレリーダーの頸の辺りに着地した
破壊された口の中から、
ドロドロとした血の塊がドビュッと噴き出す
他の2人は、床に倒れてピクピクと
痙攣している。
半グレリーダーもまだ死んではいないようだ
サトシは言った
「ゴンさん、ハッカー先生を連れてすぐに
ここから出よう!」
ゴンさんは、真っ青になって
腰を抜かしていたハッカー先生の襟首を掴むと、
ズイっと引き寄せた。
ブルブルと震える先生の手から、
鍵で手錠を外す
バスから出た3人は、すぐそこまで
”この世の終わり”が迫っているのを見た
「一体何なんだ、ちくしょー」
血まみれの男女が、人々を襲っている
凄い怪我をしているみたいだが、それでも
その動きは獰猛で....
いや、もう人間を超越しているように感じる
血まみれの男の放ったパンチが、
数台ほど前の車の窓ガラスを割った
隣前方のトラックの側、
作業服を着たガタイのいい男が、
大きなレンチを振りかぶっている。
それは、血まみれの女の肋骨に食い込んだ
しかし、女は全く構うことなく男に取り付いた
違和感....それは、
襲撃側がまったく声を発していないことだ
興奮の叫びも、悲鳴も、声も、
全く発していない
襲撃側に取り囲まれた人々の、
くぐもった獣のような唸り声だけが
聞こえている
3人は、クルリと背を向けて走った
「やっぱり、俺の本能の警告は正しかった」
高速道路に乗り捨てられた車の列の間を
走り抜けていくと、
ようやく人々の叫び声が聞こえてきた




