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ムケチン作戦~和解

神社の倉庫の中では、

アホのような死闘が繰り広げられていた


窓の下の穴からニョキっと顔だけを出した犬と、

その首を絞める少年...



「ヒーン、ヒーン」



胡麻毛は悲し気な声を出しているが、頭を捻り

少し横向きになった。

そのままズンズンと穴から侵入してくる


首をホールドしているヨッシーが押される



「ぐぐっ、俺が押されているだと?

 なんというパワーなんだ!!」



やはり柴犬と違って、そこは猟犬の恐るべき

パワーだった


胡麻毛は、胸元近くまで侵入しているが

前脚を出すことは叶わず、

まるでナメクジのような謎の生き物に

なっている


そして、ちゃっかりと床に落ちている肉を

食わんとする


顔の皮は極限にまで引っ張られ、

目はまるで糸のよう。

黒い唇から狂暴な牙を剥き出しにして

ピンク色の舌を極限まで伸ばしている。


伸びた舌が、器用に床に落ちた肉を転がした


それをそのまま口まで持っていき、

ついに胡麻毛は、念願の肉を食したのだった


すでにヨッシーの戦意は削がれ、

首を絞める両腕も力を失くしていった



「これが...これが、生きるということなのか」



ヨッシーは、首を絞めていた両腕を解放した。

そして静かに言った



「分かったよ、仲直りしよう

 

 ぶっちゃけ、あの時は、俺が悪かったんだ。

 かくれんぼに夢中になりすぎて、

 神主の自宅に入り込んでしまったんだからな。

 あの時は、お前も仔犬だったから

 怖かったんだろう?

 正直、すまなかった」



胡麻毛は、今度は穴から顔を抜こうとしている。

行きとは逆に、顔の皮が前部に集中し、

チャウチャウのような風貌になった。



「可愛い犬だぜ、まったく!!」



ヨッシーは、チャウチャウ顔で

口元をモグモグさせている胡麻毛の顔を

両手で掴むと、その額にキスをしたのだった


犬の顔は、穴から抜けて消えていった


残されたヨッシーの表情は、とても清々しく

もはや憎悪の欠片も無かった


そして、ヨッシーはカラカラと笑った


ゾンビパンデミックに遭遇して以来、

ついぞ見せたことのない屈託ない笑みだ。

ふいに、彼の中に15歳の年相応の少年が

戻ってきたかのようだった



「アハハハハ、まさか、

 敵地の真っただ中とも言えるこの場所で、

 こんなに素晴らしい友情を見出すことに

 なろうとは....想像だにせなんだ


 島に閉じこもっていては

 知り得なかったことだ....

 それは、リバーサイド同盟しかり

 神社の旧友しかり

 

 こんな世界にも、まだ喜びが残っている。

 まだこの世界は価値があるものなんだ!」



振り返って、

開いた重箱から肉を一切れ摘まむと、

立ち上がって窓を開く


窓の外から見えるのは、

尻尾を振って口元をモグモグとさせている

胡麻毛。

その後ろに、こちらを見上げる白毛の姿


ヨッシーは、白毛に向けて肉を放り投げた


胡麻毛よりも小柄な白毛は、

しなやかな動作でジャンプすると

肉を口でキャッチしたのだった



「よしっ、これからお前は犬太郎、

 お前は犬次郎だ」



こうして、大柄な胡麻毛は”犬太郎”、

小柄な白毛は”犬次郎”と

名付けられたのだった



と、ヨッシーのポケットの通信機が振動した



//////////////////////////////////////////



ジジイが言った



「ムケチン作戦本部と、チームブラボーの

 ウメさんの許可は得た。


 サトシ、絶対に無茶はするなよ

 

 今回の勇気は皆が認めるだろう。

 生きてこの任務を全うすればきっと、

 罪の軽減も大いに考慮されることになろう」



サトシは白い歯を見せて微笑んだ


そして、ジジイは続けた



「もしも、リバーサイド同盟に居ずらいのなら

 思い切って、島に来ないかね?


 今回の作戦が成就した暁には、

 お前さんは、島の”英雄”になるんだぞ


 過去の失敗も塗りつぶせるほどの称号だ。

 それに、漁師ってのは

 細かいことは気にしねえんだ。

 お前さんは、

 優秀で勇気があって行動力もある、

 いい漁師になれる素質が十分にあるんだ。

 漁師になるのが嫌なら、造船所で働けばいい


 だから....もしも....」



サトシの目は涙ぐんでいた



「小島さん、本当にありがとうございます!!

 あなたに出会えて本当に良かった。


 でも、俺はとりあえずリバーサイド同盟に

 恩を返すつもりでいます。

 なんてったって、こんな俺の命を取らずに

 罪を償う機会を与えてくれたんですから!!


 だから、何年掛かったとしても、

 俺は皆の信頼を勝ち得たいんですよ」



ジジイは頷いた



「ああ、きっとお前さんならやれるさ....」



そして、ジジイとサトシは連れ立って

線路までの小道を登って行った


「つぎはぎ丸」に残されたリサとスミレ



スミレがぼそっとつぶやいた



「ねえ、あの性犯罪者、島に来ないでしょうね?

 正直、私は嫌だなあ....


 ジジイは、やけに奴に入れ込んでるけど。

 まあ、情に脆いところがあるからね」



リサが言った



「今だから明かすけど、スミレちゃん


 スミレちゃんのナウいショートパンツの

 後ろ姿、奴がずっと見てたわよ

 

 そう、この鉄道橋に着いてから

 皆で作業してたじゃん。

 奴は、機会があるたびにずっと盗み見してた


 その時の顔、ほんとうにゾッとしたわ」



「........」



スミレは、トレーナーのポケットに手を入れて

中に入っている拳銃に触った



「密かに奴の後を追って始末しようか?」



スミレの言葉にリサが返す



「ウメさんがやってくれるかもよ」







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