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ムケチン作戦~私鉄線路

数台のバッテリー式スタンド照明を抱えて

線路までやってきたジジイとサトシ


二人は、線路わきにそれを下ろすと、

ウメさんとヨッシーのほうを向いた


長身に禿頭に白い髭のジジイは、ウメさんに

言った



「それでは、ウチの孫をよろしくお願いします。

 貴方もどうかお気をつけ下さい...


 本当に、重ね重ね、

 どう感謝申し上げればよいのか」



そして、深々と頭を下げたのだった


性犯罪者サトシは、ジジイの3歩後ろに

奥ゆかしく佇んでいる。

そして、こちらに向けて小さく微笑みながら

ウンウンと頷いていた


あたふたと頭を下げ返しながらも

ウメさんは言った



「あ、いえ、そんな大仰な...

 総一郎さん、頭を上げてくださいな。

 こちらこそ、頼もしい若者が一緒に

 居てくれて心強いのですわよ。

 

 すぐに、神社から大砲を持ってきますからね。

 総一郎さんたちも、どうかお気をつけて

 準備をなさっていてくださいまし...


 で、ででは、行ってまいります」



そして、ウメさんはクルリと振り返ると、

線路わきに鎮座しているバギーのほうへと

向かった


あわてて後を追うヨッシー


二人とも、拳銃や軍刀やライフル銃などで

完全武装だ。

ちなみにヨッシーは、ヤキタコから貰った

重箱を二人分、風呂敷に包んで背負っていた


バギーは、小型のオフロードバイクの車体に

巨大な4つのブロックタイヤを付けたような

外見だ。

排気量は90cc、人が一人乗るのがやっとという

サイズ感だが、座席の後部を金具で無理やり

延長させており、

なんとか2人乗りできるようにしてあった


これでも重量は125キロほどあって、

飛行船ドローンで運べる限界の重さだった


ウメさんは、バギーに跨るとエンジンを掛けた


ブオオオンッ


そして勢いよく線路に突っ込む。

バギーは左側のレールをグワンと乗り越え、

線路を跨ぐ形となった



「それじゃあジジイ、行ってくるぜ!

 ええっと、矢之板さんも

 皆をよろしくお願いします...」



ヨッシーは、ジジイとサトシに

小さく手を振った。

2人はこちらに手を振り返している


ちらりと下のほうを向くと、アーチの鉄骨の

隙間から「つぎはぎ丸」とモーターボートが

見える。

スミレとリナとリサが「つぎはぎ丸」の

船尾のほうに集まってこっちを見上げていた



(それじゃあ、また会おうな)



ヨッシーは、バギーに乗って待機している

ウメさんのほうへ向き直ると、

無理やり延長された後部座席に乗った



ブオオオオオオッ



線路の片側を跨いだバギーが順調に走っていく


思った以上に乗り心地は悪くないのは、

オフロード用のサスペンションのおかげか?

速度は、時速30キロを少し下回るくらいだ


線路は、一本だけのいわゆる単線と呼ばれる

タイプで、砂利を敷いた基礎の上に

2本のレールと並んだ枕木の列が真っすぐに

伸びている


左から右にかけて傾斜した山の麓を通っており

周囲はひたすら木々だ


バギーを運転しながらウメさんが言った



「懐かしいわねこの感じ......

 実は私、趣味でバイクに乗っててねぇ。

 『隼』っていうのに乗ってたんだけど


 そういえば、

 チームアルファのちんかわ君の相棒の

 あのマッシュルーム眼鏡の技術者、

 彼もかつて私のツーリング仲間でね

 

 いい年してマッシュルームカットの

 ネガティブな青年を気取った坊やだけど、

 有名企業のエンジニアだけあって

 高給取りでさ、

 なんと『ドゥカティ』に乗ってたのよ」



「すいません、バイクにはあまり

 詳しくないんですが、隼って名前、

 なんか聞いたことがあるような気がします。

 それとドゥカティってバイクの名前ですか?

 それともメーカー名っすかね」



「ああ、イタリアの高級バイクメーカーよ」



「今度こそは、

 イタリアの本場ロサンゼルス製っすか」



「ああいうのって生産地は色々な国の

 場合があるけど

 多分、イタリアの準本場のイタリア本国製 

 だと思う」


 

実は、『隼』もとんでもないバイクなのだが

ヨッシーにはよく分からなかった。


バギーは順調に線路を走っている。


気持ちのいい森の中を走っている様子は、

まさにツーリングといった感じだ。


ヨッシーは、前方のウメさんの両肩を

しっかりと掴んでいる。

そして、漂ってくる優しい匂い....



(亡くなった俺の婆さんを思い出してしまうな。

 このまま密かに背中に顔を埋めたいぜ、

 まあセクハラになるんでやらないけど)



ふいに、前方の線路上に”障害物”が出現した



ウメさんはブレーキを踏んでバギーを止めた


2人の目の前には、黒褐色と白の毛皮を纏った

ズングリとした体形の動物の群れ。

左側の山の中から出現した彼らは、

線路を横切って麓に降りていくのだろう


ウメさんの肩越しに前を見ながら

ヨッシーは言った



「ウメさん、アレって鹿じゃないですよね?」



ウメさんが言った



「ええ、多分、ニホンカモシカよ。

 この地方では珍しい動物だったけど、

 順調に個体数を増やしているのね」



出現したカモシカたちは、足早に線路を

横切っていった。


ヨッシーはつくづくと言った



「海と同じく陸でも、人間以外の生命たちが

 繁栄しはじめていますね。

 多分、これが本来の世界の姿なんでしょう」



ウメさんはこう返した



「まさに、私たちが

 子孫に残したかった世界の姿ね。

 

 でも、道中、その”立役者たち”に

 遭遇しないことを願いましょう」



....ウメさんの願いが叶うことは無かった


再び走り出したバギーは、森を抜けて

開けた場所に入っていった。


左側は相変わらずの森だが、右側は

なだらかに傾斜した段々畑の残骸が

連なっている。


そして、その先には漁港町と海が見える


近くには、

瓦屋根の家がポツポツと並んでいるが

この辺りは高台なので、大洪水の被害はない。

しかし、当然ながら家はすでに廃墟で、

蔓草が屋根まで這い上がっていた。


ヨッシーは、右側に並ぶ家々の隙間に

カモシカかもしくは鹿のような動物の姿を

認めた。

かつては人間を避けていた動物たちが、

今や我が物顔で漁港町を席巻しているのだ



「まあ、好きにしやがれ」



ヨッシーは、故郷である漁港町を眺めていた。

すると、急にバギーが止まった



「んっ?どうしたんすかウメさん」



ウメさんは、線路の前方を

じっと見つめている。


そして、ヨッシーも気が付いた


2体の人影が、まっすぐな線路上をこちらに

向かっている


ウメさんは静かに言った



「放浪型ね....多分、行き来しやすい線路上を

 延々と彷徨っているのよ。

 私が始末するから」



ウメさんは、バギーを静かに発進させた


2体の人型も速度を上げて

こちらに向かってくる


お互いの距離が100mを切ったところで

ウメさんはバギーを止めて、運転席から降りた


ヨッシーも後部席から降りて、

背負ったライフルホルダーから

レバーアクション銃「アウトロー」を取り出す


ウメさんは、左腰に95式軍刀「魔剣」と、

右腰にホルスターに入れた「グロック17」を

装備している。

しかし、銃を強く握りしめているヨッシーと

違って、武器を取ることなく

ストストと2体の人型のほうへ歩いている


ウメさんの後を追いながらヨッシーは言った



「あの2体、若い男女みたいだ.....

 元は恋人とかだったのかな?

 それとも、何の関係性もない他人同士かな」



ウメさんは振り向かずに言った



「もしも前者だったとしたら哀れね。

 でも、彼らの生前なんて関係ないわよ


 それとヨッシー君、

 私の後をついてこなくていいから。

 あなたは、バギーのところで待機してて」



ヨッシーは立ち止まった



活性化して速度を上げた2体の人型は

比較的に綺麗な個体で、よく生前の姿を

とどめている。

ゾンビパンデミック発生からしばらくは

生き延びるのに成功していたのかもしれない


2体ともに、まだ服はボロボロではなく

丈夫そうなジャケットとズボンの姿だ。

外見も、若い男女だというのが

はっきりと分かる


男のほうの人型が、女のほうよりも

速度が速く、先頭を行っている


ヨッシーはいたたまれない気分だった



「もしかしたら、

 俺達が行きつく先かもしれない」



風に乗って、凄まじい腐敗臭が漂ってくる



(彼らと自分たちの運命を分けるラインは)



ウメさんが、左腰の鞘から軍刀を抜いた。

「魔剣」の刀身は、キラリと力強く輝いている



(そう、これしかないんだよ)



濃紺色の出動服の小柄な老婆の後ろ姿と、

先頭の人型との距離はもう、あと数メートルだ


ヨッシーから見たら、本当に

身を摺り寄せるほどの距離に思える


ウメさんが動いた


若いカナエのキレのある斬撃と違って、

どこか余裕をもった動作....


しかし、その一撃は、あまりにも正確に

人型の首を撥ね飛ばした。



ザンッ!!



ウメさんは、斬った人型をスッと避けて

そのまま進みながら、刀身をクルリと返した


後続のほうの人型へ、下から上へと切り込む



バシッ!!



ウメさんが通り過ぎた後には、

首を失くした2つの身体が前のめりに

倒れていた


ヨッシーは呆然としていた


こちらに戻りながら落ちた首にトドメ刺しを

するウメさんを、間抜け面で見つめる



「やっぱり、俺には刀は無理だわ」





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