ムケチン作戦~神社
ウメさんは、刀をヒュンッと空振りして
刀身に付いた人型の体液を飛ばすと、
それを静かに左腰の鞘に納めた。
駐爪が金属製の鞘をロックするチンッという
音が聞こえる。
彼女の95式軍刀は、量産品ながらも
その中から極稀に現れる超優良個体で、
「魔剣」と称される
まさに、業物を達人が扱う凄まじさよ!
刀を納めたウメさんは、ポケットから通信機を
取り出した。
通話ボタンを押して言う
「こちらチームブラボー、
今しがた2体の人型に遭遇したわ。
すでに私が処理済み、
任務を続行して神社に向かう、以上」
すぐに、返事が来た。
ヨッシーのポケットが振動している。
音声がハモルのが嫌だったので、
取り出した通信機の消音ボタンを押す
ウメさんの持つ通信機から、
空気を切り裂くようなカナエの声が聞こえた
「こちらムケチン作戦本部、了解した。
そういえばヨッシー君、
ウメさんの強さをバッチリ目撃したでしょ、
どうだった?」
ヨッシーは仕方なく、自分の通信機の
通話ボタンを押すと言った
「あ、メチャ凄かったっす...
軍刀でスパッと一発だったっすよ。
確か、十文字流っすよね?
いやマジ強ぇっす、マジ超人っすよ」
カナエが得意げに返した
「ふふ、言っておくけど
ウメさんは私よりも強いからね!
剣の腕は言うまでも無く、
私には扱えない銃も得意だしね!
多分、むけぞうと同じくらい強いと思うわよ
では、健闘を祈る、以上」
ヨッシーは思った
(てか、むけぞうさんとウメさんは
同じ強さなのか?
いや、確かに、あの橋の上での
むけぞうさんの戦いぶりは凄かったけど....
多分、俺達はリバーサイド同盟の最強2人を
お借りしているのだな...スゲエな)
頭部を失くした2体の人型は、
線路のレールの上に被さるように倒れている。
バギーと列車の通行の邪魔になるので、
それらをどうにかしないといけない
ヨッシーは、首なしの身体を足で踏みつけて
動かした。
履いている靴は、ショッピングモールで買った
丈夫で厚底のスニーカーだ
「最低だぜ俺は....元は人間だった存在を
こんな扱いするなんて」
だからと言って、
人型を手で触れるのはリスキーだし
丁重に葬っている暇もない
ウメさんも、同じように人型をどかしている
「割り切って行動できない者は、
外界に出て行く資格はないわ。
今朝の地下室での訓練を思い出してごらん、
アレに耐えられない者は
人々を守る仕事は無理なのよ」
彼女の言う通りだ....
人型に対する恐怖と、この吐きそうな腐敗臭に
耐えるだけではダメだ
元は人間だったものを無慈悲に扱うことに
心理的抵抗を感じそれを捨てきれないのなら、
ここに居てはならないし、
島の人たちを救うなんてハナから無理なのだ
しかし、ウメさんは言った
「でもねヨッシー君、キミが感じたことは
決して間違ってはいないわ。
勝手な言い分だけど、私はキミに
それを感じなくなって欲しくはないな」
2体を線路わきにどかした後、ウメさんと
ヨッシーは、再びバギーに跨った
線路上を走り続けてしばらく....
少し山が途切れ少し家が多くなってきて、
目の前に小さな駅が見えてきた。
単線の線路の右側にせり上がった狭いホーム、
木のベンチに、長屋のような駅舎。
いかにもな私鉄ローカル線の駅といった感じだ
しかし、そのしょぼい駅から海までの道は、
漁港町のいわゆる”目抜き通り”だった
ヨッシーは興奮気味に言った
「ほら、あの『デイリーストア・シンザキ』が
見えますよ!
その向かいにあるのが
漁港町のナウいヤングのたまり場、
『マックス&ドナルドソン・ハンバーガー』
さらに、本場ロサンゼルスの味が堪能できる
『日本料理・海入道』
くわえて、漁港町ならではの新鮮な海の幸を
握ってくれる『ジェンキンソン寿司』
とどめは、なぜか店主の老人が常に
ふんっふんっふんっって荒い鼻息をしている
『竹本雑貨店』」
ウメさんが言った
「ふーん」
バギーは、すぐに小さな駅を通り過ぎた
ヨッシーは続けた
「でも、基本的に買い物は、隣町に行って
そこの大型スーパーかホムセンで
してましたね。
今、チームアルファが任務中の、例の
分岐駅がある町っす
でかいスポーツ用品店もあって、
リナとリサが使っている潜水用具とか水着は、
探索隊がそこから調達したものなんです」
ウメさんが言った
「順調にやっているといいわね、
ちんかわ君とマッシュルーム眼鏡君」
そして数分後....
再び左側に山が迫ってきたと思ったら
ふいに、後部席のヨッシーが叫んだ
「ウメさん、ここっす、神社に到着しましたよ。
ほら、あれはおそらく
ドローンで投下された材料ですね!!」
チームブラボーは、
ついに目的地の神社に到着したのだった
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その神社は、参道を線路が横切っていた
ウメさんはヨッシーを降ろすと
跨いでいたレールをグワンと乗り越え、
左側の登り階段の手前でバギーを停めた。
停めたバギーから階段を挟んだその先には、
ドローンで投下された材料がある。
重そうな鉄骨が2本、厳重に梱包された箱、
モッコに包まれた金具やワイヤー類だ
線路の右側には、下り階段と一の鳥居が見える。
鳥居の先は廃墟となった民家群だ
とりあえず2人は、
線路の左側の、神社への登り階段を上がった。
まさに山の中腹にある神社なので、
階段の両側は鬱蒼と茂った暗い森だ
時刻は午後5時過ぎ、3月中旬の太陽は
すでにだいぶ傾いている。
あと1時間程度で日の入りを迎え、
2時間後くらいには周囲は真っ暗になるだろう
ヨッシーは、背負ったライフルホルスターから
再びレバーアクション銃を取り出している。
ウメさんも、グロック17を取り出して
両手に構えている
先頭で階段を上りながらウメさんが言った
「この階段を上った最初の段に、
目当ての大砲と社務所と神楽殿が
あるのよね?
まずは大砲の確認、
その後に建物の安全の確保ね
社務所か神楽殿は、私たちの砦になるわ。
いわゆる、”アラモ”ね」
ヨッシーは言った
「ええ、迫りくるメキシコ軍をアラモ砦で
迎え撃つんですね?
気分はすっかり
”デイヴィー・クロケット”ですわ」
ウメさんは驚いた
「アラモが何を意味するのか知っているのね?
若いのに大したもんだわ」
ヨッシーは、レバーアクション銃を
握り締めながら答えた
「ジジイが西部劇の大ファンで、
家でよく見てたんです」
階段を上り切り、最初の段にたどり着くと、
すぐ左側に【手水舎】がある
要は、参拝前に手を清めるためのアレだ
そして、その手水舎の向こうには....
「ウメさん、ありましたね大砲が!!
実は俺、5年ほど前にここで犬に噛まれて。
それ以来、トラウマでここには
来ていなかったんですが....
全くもって、あの当時のまんまっすよ」
その大砲は、
神主にたいそう可愛がられていたのだろう。
4本の柱に屋根が付いたお堂に祀られていて、
雨を凌げるようになっている。
さらに、大砲には防錆塗装がされており、
状態は非常に良好だった。
砲座や駐退機は無く、砲身と尾栓だけの姿で
簡易な土台に据え付けられている。
「やっと会えたな...」
ヨッシーは、まるで旧友に出会ったかのような
不思議な気分だった。
砲口は、海のほうを向いている。
ヨッシーとウメさんも、つられるように
そちらのほうを向いた
・・・・・・
西日に煌めく海面は、どこまでも白く美しい
まさに『太平洋』という名の通り、
穏やかで優しく、どこまでも広い
ウメさんは、グロック17をホルスターに
納めると、通信機を取り出した
「こちらチームブラボー、神社に到着して
大砲を確認した。
状態は良好、我々はここにて列車を待つ
....以上」
チームアルファが返信する
「こちらチームアルファ、
無事に確保した『シセⅢ型気動車』なんだが、
特に壊れている部分もなく問題なく
動きそうだ
しかし、色々とやることが多くて
ディーゼル燃料の交換、
エンジンオイルの交換、
ミッションフルードの交換、
バッテリーの交換、
さらにエンジンの試運転も30分ほど
行いたい
発進するのに時間がかかるかもしれない」
ヨッシーは自分の通信機を消音していたが、
ウメさんは通信を続けている。
「!!!」
と、神社の奥から”何か”が姿を現した。
凄まじい勢いでこちらに迫ってくる
ヨッシーにとって、それはあまりにも恐ろしく
おぞましい存在だった
「あ....ああっ....あああっ」
恐怖に立ちすくみ、
情けないうめき声を上げるヨッシー
胡麻毛と白毛の2匹だ
見た目は柴犬に似ているが、それらは
この地方原産の猟犬だった。
柴犬よりも脚が長く、精悍な身体つきだ
2匹の犬は、まっすぐに
ウメさんに襲い掛かっているように見える
「あらあら、人懐こい子らね!!
よしよし、きっと人に飼われていたのね
うんうん、分かった、分かったから」
ヨッシーは、
レバーアクション銃を構えようとして
ハッと我に返った
尻尾をブンブンと振って、開いた口からは
ピンク色の舌を出す猛獣...
しかし、ウメさんと2匹の関係は
良好なようだ
しかし、ヨッシーはすでに気が付いていた
「この黒茶色のほう....あの時、
あの時、俺を噛んだ奴じゃないか!!!」




