葉巻
ヨッシーが瞬時に確認した人型は7体だった
50メートル先から、真っすぐにこちらに
向かってくる
後ろから、むけぞうの声が響く
「奴らがここに到着するまで約30秒だ、
頑張って生き残れ!!」
ヨッシーは、
レバーアクション銃『アウトロー』を構えて
サイトを覗いて狙いを定めた。
今は、左右に動くのではなく
こちらに向かってくるので狙いが付けやすい
リアサイトの凹とフロントサイトの凸を
合わせる。
標的は、今はまだ粒のように小さい人型の頭部
ヨッシーはトリガーを引いた
ズダァァンッ!!
地下室内では銃声が大きくこだまする。
ヨッシーは、銃を構えたままの姿勢で
右手でレバーを操作した
ガチャンッ
ファイアリングピンのケツがハンマーを
起すと同時に、機関部上部の排出口が開いて、
11.5ミリ弾の空薬莢が飛び出す。
すぐにレバーを戻して、再び射撃
ガチッ、....ズダァァンッ!!
一番先頭の人型が倒れた
再びレバーを操作して弾を装填する。
ガチャンッ、ガチッ、....ズダァンッ!!
ガチャンッ、ガチッ、....ズダァンッ!!
ガチャンッ、ガチッ、....ズダァンッ!!
ようやく、2体目が倒れる
残った人型の塊が、
30メートルラインにまで迫っている。
弾はすでに5発消費して、残りは7発
「さて、シン・レッド・ラインだ!
恐怖に負けさえしなければ、
驚くほどよく当たるぜ!!」
そう言いつつ、ちんかわむけぞうは
背負っていたステンもどきを取り出した。
前方では、レバーを操作する音と射撃音、
空薬莢が床に落ちる音が連続している
こちらから30メートル内、
いわゆる”シン・レッド・ライン”に
突入した人型が、次々と倒れている
ステンもどきのコッキングレバーを引きながら
むけぞうは、小さくつぶやいた
「本当に、大した少年だ....
ウチに欲しいくらいだぜ」
倒れた人型は、6体だ
そして残りは2体.....
最初は全部で7体だと思っていたが、実は、
遅れてもう1体がやってきたのだ
それは、小型の個体だった
その残り2体は、ついに10メートルラインに
迫ってきた。
濃厚な耐えがたい腐敗臭が漂ってくる
カンッ!
ついに、『アウトロー』のハンマーが
空撃ちした。
....12発全てを撃ち尽くしたのだ
ヨッシーの後ろで、
ウメさんとむけぞうが、それぞれの銃を構えた
しかし、ヨッシーは、レバーアクション銃を
隣の机の上に戻した。
ゴトッ
ズンズンと迫ってくる2体の人型....
ヨッシーは、カーゴパンツの膝ポケットから
短銃身のリボルバーを取り出したのだった
それは、スミス&ウェッソンの
M360J 『SAKURA』という警察用の拳銃
手を伸ばしたら届きそうな距離に思える
人型の頭部に向けて、両手でリボルバーを構え
親指でハンマーを起こす
ズバァンッ!!
艶のある泥人形のような顔の、その額の部分に
小さな穴が空く
人型は前のめりに倒れた
そして、遅れてやってくる”子供の人型”
ヨッシーは、
リボルバーのハンマーを起しながら前進した
ズンズンと前に進むヨッシー
昔、子供だったであろうその人型は、もはや
性別の判定も出来ない。
色の抜けた衣服は
表皮とほとんど一体化していて、頭髪も
ベッタリと頭部に張り付いている
ヨッシーは、リボルバーを片手に持って、
3メートル程先の頭部に向けて発砲した
ズバァンッ!!
子供の人型は、ヨロヨロと数歩だけ歩いて
すぐ目の前でバタンッと倒れた
...こうして、ヨッシーは8体もの人型を
全て自力で倒したのだった
ちんかわむけぞうが、驚嘆の声を上げる
「なんてこった!!
この訓練を始めて、侵入してきた人型を
全て自力で倒したのは君が初めてだ!!
君は一体、何者なのだ?すげえぜ」
ウメさんは、構えていたグロック17を下げた。
そして言った
「凄いわ...本当に大したものね。
うん、恐怖で錯乱することは無かったけど、
でも、私たちに怒りを感じてないかしら?」
ヨッシーは、片手に持ったリボルバーを
ダランと下げたまま振り向いた
「なぜ私が怒るんです?
ムケチン作戦では、もっと危険な場面に
遭遇する可能性もあるでしょう?
それとも、目の前の人型が、
かつては罪もない善良な人たちだったり、
もしかしたら
自分の親族や知り合いだったり...
そんなこと、関係ありませんよ。
人型に対しては、何の感情も抱くな。
憎しみも、哀れみも、感じるだけ無駄だ
ってジジイが言ってましたからね」
ヨッシーは、再び前を向いた
そして、すぐ目の前に倒れている子供を
じっと見つめたのだった
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二人で作業したのと、思っていた以上に
サトシがテキパキと働いてくれたので、
荷物の積み込みはすぐに終わった
川の土手に座り込むジジイとサトシ
目の前には、マストを外した「つぎはぎ丸」が、
穏やかな川面の上にプカプカと浮いている
二人は、ペットボトルのお茶を飲んでいた
ふいに、サトシはジジイに向けて
人懐こい笑みを浮かべた。
灰色の作業服のポケットをゴソゴソと探る
彼が取り出したのは、小さな黄色い箱だった
厚紙で出来た手のひらサイズの薄い箱だ
さらにその箱の中に入っていたのは、
白い紙に包まれた細長い長方形の
バーのようなもの。
2本だけ残っているみたいだ
サトシは、箱ごとジジイにそれを差し出した
「ん?それは、お菓子か何かかね?」
しかし、サトシは言った
「いいえ、これは、
『ビリガーエクスポート』っていう
葉巻ですよ
おっと、俺がどこからかパクったわけじゃ
ないっすよ!!
前のセル作戦で、人型から土地を
取り戻した時に、
タバコ屋に保管されてたやつでさあ。
セル作戦の参加者に配られたものっす
小島さん、一本、どうっすか?」
それは、かつて
スイス軍で支給されていたとかいう葉巻で、
キューバ産の葉をふんだんに
使用しているらしい。
ジジイは、差し出された箱から一本取り出した
まるでお菓子のような白い包み紙をほどくと、
長方形の葉巻が姿を現した
自分も、最後の一本を咥えてサトシが言った
「葉巻ってのは、肺まで吸い込んじゃ
ダメですからね!!
ゆっくりと煙をくゆらせるように
楽しむものっす」
そして、ポケットからマッチを取り出した
ジジイが言った
「ふむ、貴重な一本を俺にくれるのか?
ありがとうなサトシ」
「いえいえ、今から命がけの作戦を
決行するんですから、景気付けっすよ!!
それと、小島さんにお会いできた
記念の一服でもあります!!」
3月中旬の空は、雲一つない快晴....
風も無く穏やかで、
二人の葉巻の煙が真っすぐに立ち昇る
ジジイは、ロングコートをゴソゴソとして
タブレットPCを取り出した
そして、お馴染み”リバーサイドラジオ”を
聞く
そろそろ、連続ラジオドラマの時間だ
サトシが言った
「あ、今からやるラジオドラマ、
俺も大ファンでさ!!
あの、めちゃくちゃ声のいいマサルって奴、
いい加減にヨシコちゃんに
想いを伝えろって思うんっすよね!!」
「同感だな....」
穏やかな青空の下で、
絶品の葉巻をゆっくりとくゆらせながら、
楽しみのラジオドラマを聞く.....
嗚呼、これ以上の至福の時があろうか?
いや、ない!




