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ババアヒロイン


「警察だ、そこの男、早く銃を捨てろ!!」



警官の怒声と、

大勢が踏み込んでくる物音が聞こえる。

しかし、ヨッシーは再び俯いて、

じっと眼下を見つめていた


....まるで、ホースに空いた穴から

水が噴き出しているかのようだった。



「聞こえないのか?銃を捨てるんだ、早く!」



ヨッシーは、

アラシヤマ次男の頭部から目を背け、

手に持ったM360リボルバーを床に投げ捨てた



(2度目だな...)



橋の上で、ちんかわむけぞうに降伏した時の

ことが思い出される。

頭を上げると、目の前に長い銃身が何本も

突きつけられていた。


警官たちは、馴染みの水色と濃紺色の服装で、

腰に下げたホルスターに従来のリボルバーを

装備している他、

その手には単発式のショットガンを持っていた



////////////////////////////////////////////



椅子に座ったヨッシーの頬を、

若い女性の巡査が応急手当している



「傷は深くないから絆創膏だけでOKかも。

 それにしても君、大変な目にあったね....

 でも、もう大丈夫だから」



消毒薬を含ませた脱脂綿で頬の傷を拭きながら、

ぎこちなくヨッシーを励ます女性巡査


ヨッシーは、目の前の彼女に向けて

”ニカッ”と笑みを作って見せた。


女性巡査は、あからさまにビクッとなって

後ろにのけぞってしまった


ヨッシーは思った



(無理もねえな、俺って目つきが悪くて

 悪人面だし。なによりも、

 銃で人の頭を撃ち抜いていたんだ。

 頭のおかしい殺人鬼にしか見えんだろう)



3体の死体と、降伏した2人のチンピラは、

警察官たちによって即急に運び出された。


しかし、今だに床に残る赤い血だまり


ウメさんの声が聞こえる



「全く...

 引退した老体をこき使うんじゃないわよ!

 

 ええっと、十文字さんはまた後で...

 まずは、あなたたちだけど。

 

 囮捜査はいいんだけど、ツメが甘すぎる!

 ターゲットが場所を間違えた場合をちゃんと

 想定して、確実に案内するためにね、直前に

 倉庫管理者と接触させるべきだった。 


 ....まあ、3年前に大勢の仲間達が殉職して

 ベテランも大勢失って大変なのは分かるけど


 でも、囮捜査自体は一応はこうして、

 反乱分子の炙り出しに成功したわけだから、

 あなたたちもよくやってるとは思うけどね」


 

両手を腰に当てて仁王立ちのウメさんの前に、

数名の警官とカナエが立っている。


どうやら、ウメさんは叱るだけでなく、

きちんと

褒めるべきところは褒めるやり方みたいだ


ウメさんの前の警官たちとカナエは、

頭を垂れてシュンとしている。

まるで、先生から説教される中学生みたいだ


両手を腰に当てたウメさんは、

若い警察官たちから

今度はカナエのほうを向いた



「えっと、十文字さん。


 十文字さん...


 あなた、私たちリバーサイド同盟の

 最高指導者って自覚あるのかしら?


 今日の捜査のことは、

 ちゃんと伝えていたはずでしょ?

 あなたの軽はずみな行動が、こんな事態を

 引き起こしたのよ。

 無関係な少年を巻き込んでね」



カナエはぐうの音も出ないほどシュンとして

頭を垂れているみたいだ。

その後ろ姿をボンヤリと見つめるヨッシー



「ねえ、お巡りさん、もう聞くまでもないと

 思うけど、ウメさんって元警察の人?」



絆創膏を取り出していた女性巡査は答えた



「ええ、もう、どうせバレちゃってるわね。

 そうよ、あの人は警察学校の元教官殿なの


 引退なさってからは、故郷であるこの市で

 つつがなく過ごされていたのだけれど、

 今は時々、パートタイマーとして

 我々に協力してくださっているわ


 ちなみに、

 十文字流の師範代でもいらっしゃるのよ。

 そう、この土地に伝わる剣術のことね


 3年前のゾンビパンデミック発生時には、

 様々な伝説をお残しになったわ。

 いわく、小学校で子供たちを救出した。

 いわく、ヒャッハーどもを一網打尽にした。

 いわく、日本刀で人型の首を無数に撥ねた。


 いや、マジ、ありえねーってくらい強くて!

 3年前、警察署の闇の倉庫に眠っていた

 とある名刀を手にしてからは、

 まさに勇者って感じで覚醒してさ!

 十文字さんもかなりの業物を持っているけど、

 それに勝るとも劣らない刀を持ってんのさ。

 良くは知らないけど、昔の古刀ではなく、

 旧軍で使われていた”昭和刀”だとか


 いや、あたしはあの頃はヒヨッコで

 大した働きも出来ないで、

 かつ、警察学校にいた頃には、もう、

 あの人も引退した後だったから

 師事したことはないんだけどね~

 本当に、あたしらが目指すべき人だわ」



どうやら、女性巡査は元来、

おしゃべりな人だったようだ。

頬に絆創膏を貼られながら、ヨッシーは言った



「ま、まあ、”先生”だったってのは

 嘘ではなかったわけだ。

 教えていたのが中学生ではなく、

 新米警官だったわけだけれど」



ヨッシーは改めてウメさんのほうを向いた


白髪に、セーターにジーンズ姿


どこにでも居るような小柄な老婆だと思って

あまり気にしていなかったが、

よく見ると美人だった


それと、後で聞いた話によると、

アラシヤマ一味が反乱計画を話し合っていた時、

ちゃっかりと入り口付近に隠れて

スマホで映像と音声を撮っていたらしい


誠に有能なお方であることよ!


そのウメさんは、

警官たちとカナエに一通り説教を終えて、

ヨッシーのほうに歩み寄ってきた


ウメさんは、ヨッシーの目の前に来た


女性巡査は立ち上がって直立不動の姿勢に

なっている


そしてウメさんが言った



「小島君、こんなことに巻き込んで

 ごめんなさいね....

 あなたが銃を発砲して反撃したことは

 まったく気に病むことはないわ。

 それに、その後のことも...


 それで、私個人として、あなたに償いが

 したくて。

 もしも、私の力が欲しいなら、遠慮なく

 私を使ってくれていいわよ、

 どんな危険な事でも協力してあげるから。

 どうせ、私は老い先短いんだから

 遠慮することはないから」



そして、ウメさんは片手を差し出した


その手を握った時、ヨッシーの背中に

電撃のようなものが走った



「僕のことは、ヨッシーと呼んでください」



こうして、ウメさんはヨッシーの

心強い”相棒”になったのだった

 

 

////////////////////////////////////////////



・・・数十年後、核シェルター内にて・・・


 

「おい、ここに来て、

 まさかのババアヒロインかよ!」



老人は、そう呟くと、長く伸びた白いあご鬚を

指で梳かしながら、その言葉をそのまま

目の前のキーボードに打った


モニターに返答が表示される



「あのな、若くて美人なピチピチギャルがよ、

 うまい具合に有能で強いなんて

 そんな、都合のいいことがあるわけねえだろ

 

 やっぱり、それなりに強さを極めるためには

 相応の年月がかかるってこった」



しかし、老人は自分の白髭をいじりながら

考え直した


 

「まあ、今の俺から見たら、ウメさんが

 ヒロインであっても別に悪くはないわけか


 でも、当時15歳だった親父からしたら

 どうだったんだ?」



すぐに返答が返ってきた



「まさに、電撃が走るようだったって言ったろ」




 

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