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厨房のお姉さん

「俺はマサルだ、今、起きたぜー

 時計を見ると、時間は午前7時かー、

 ベッドから出て湯を沸かして紅茶を淹れて

 飲むぜーそれにしても今日はいい天気だなー

 こんなにいい朝であるにも関わらず

 俺の心の片隅にチクリと刺さるのは、

 昨夜のヨシコちゃんとの口論だぜー

 あれは言い過ぎたかもしれないなー

 テーブルに座って出来た紅茶を飲みながら

 一人思い悩むぜー

 ん?ベッド脇に置いている携帯が

 鳴っているではないか!

 急いで席を立ってベッド脇に移動し、

 携帯を手に取って通話ボタンを押して

 耳に押し当てて通話をすることにする...

 もしもし、俺はマサルだ。

 君はタケルか。

 何ぃ、ヨシコちゃんが行方不明だって?」


 

....とんでもなく酷い脚本だ


起床したとたんに、延々と”独り言”で

状況説明をしているように聞こえる。

そんな人物が居たとしたら、

そいつは気が狂っている


しかし、声だけはいい.....

耳に心地よい、良く通るテノールボイスだった


ヨッシーは淡々とおにぎりを頬張りながら、

ラジオから流れる連続ドラマを聞いていた



(ああ、白飯ってこんな味だったんだな....

 このモチモチ具合は、まるで

 幸福を吸い込んで、そうなっているみたいだ


 魚介類や野菜では決して再現できない、

 この幸福を噛みしめているような食べ心地)



テーブルを囲んで、5人が黙々と

食事を続けている。

部屋は広い応接室のようで、

テーブルとソファー、棚とラジオ以外は

特に何もなくがらんどうとしている。

部屋を挟むように2つのドアがあって、

そして、天井には照明が付いていた


ラジオドラマの登場人物に負けず劣らず、

ヨッシーも独り言を呟くタイプだった



「よく観察してみると、

 ちゃんと電気が通っているんだな。

 島にも一応は、古い火力発電所があって

 魚油でなんとかボイラーを焚いて

 発電してるけど、徹底的に節電してるもんな

 

 この地では、電力はそれなりに豊富なのかな」



誰もヨッシーの独り言に答える者は無く、

リナとリサとスミレとジジイは、黙々と

食事をしながらラジオドラマに

耳を傾けているようだ


15分程でドラマはクライマックスを迎え、

マサルとヨシコのデュエットソングで

幕を閉じた


と、ドアが開いて誰かが入ってきた


一斉にドアのほうを向く5人


両手で盆を持った女性だった。

比較的背が高く、先端が内側に反った

ブラウンのロングヘア。

腕を捲り上げたライトグリーンのトレーナーに

パステルのロングスカートという、

どちらかというとラフな格好だ


そして、何よりも、

ヨッシーが真っ先に目が行ったのが

その美貌だった


女性は、ニカっと微笑むと言った



「どう?ウチの珈琲とおにぎり、

 美味しかった?

 清涼飲料とお菓子と果物を持ってきたから、

 もうちょっとここで待っててね!」



リナとリサが同時にソファーから立ち上がった。

ちなみに、二人とも

Tシャツとジャージのボトムの恰好だ


リナが言った



「あ、本当に美味しかったです!

 こ...こんなに素晴らしいおもてなしを頂き、

 誠にありがとうございました」



律儀に頭を下げる姉妹を見て、

女性は、白い歯を見せてカラカラと笑った



「アハハ、どういたしまして!

 そういえば

 裏の厨房で噂になっているんだけど、

 君たち二人、あの有名な

 ”美月姉妹”なんだってね。

 横浜からこんな所まで来たんだね」



そして、テーブルの側に来ると、

身を屈めて盆をテーブルの上に置いた。

そこには、清涼飲料を入れているであろう

ガラス瓶と、裏返しにした5つのコップ、

そして蓋をした大皿があった

 

しかし、ヨッシーの視線は、女性の

大きく開いたトレーナーの襟の奥の部分に

釘付けになっていた


前かがみになったことで、

重力という頼もしい自然現象が

仕事をしてくれて、

トレーナーの襟の部分が床に引かれ、

つまり感動的な空間が出現し、

ふいに隠されていた豊満な胸の谷間が

暗い影の中、露わになっているのだ!



「お、おおっ...おおおう!」



ヨッシーは慌てて顔を背けて視線を外した。

自らの行いを恥じたからだ


そして、ヨッシーの視線の先には、

まったく同じ動作のジジイの顔があってワロタ



(この人、ここで白装束たちの食事とかを

 作っている人なのかな?

 こんな美人に世話をされてるなんて、

 彼等は、幸せ者だな...)



改めて見ると、本当に美人だ


女性は、今は前かがみになりながら

こちらに横顔を見せて

盆の上のコップを配っている。

そして、ガラス瓶に入った清涼飲料を

それぞれのコップに注いだ


流れるような艶のあるブラウンの長髪に、

口を結んでどこか真剣な表情になった

女性の顔は、高貴さすら感じさせた


と、ヨッシーの視線に気が付いた女性が

彼のほうを向いた。

そして、

結んだ口の両端だけを上げるスマイルを

作ってから言った



「これは、柑橘類の果汁を入れたお冷、

 マジで、メチャ美味しいよ。

 そして、ジャーン!! 

 イチゴとリンゴとおせんべいをどうぞ」



大皿に被せてあった蓋を開ける


ヨッシーはビクッと少し後ろに吹っ飛んで

しまった。

ソファーに深々と沈んだ格好でヨッシーは

呟いた



「す、凄い....

 本当に、イチゴとリンゴとおせんべいだ。


 俺がこれからの生涯で二度と

 見ることがないと諦めていた食物たちが、

 今、ここにある....」



女性は、そんなヨッシーを見て噴き出した



「ププッ、君って面白いね!

 とても表情とか動作が豊かでさ。

 でも君、ここに来る途中に大変なことを

 やらかしちゃったんだってね?

 裏の厨房で噂になってるよ」



と、女性は前かがみの姿勢から、

背筋をまっすぐに伸ばした


背も高く、姿勢も良いので、トレーナーと

ロングスカートの組み合わせが

とてもよく似合っている


そして、片手を顎に当てて少し考え込むような

動作をした後、言った



「もう、昼飯の仕込みは終わってるから

 厨房もしばらく暇だし....

 ねえ、少しここに居ていいかしら?」



そして、ふいに慌てた感じで

ソファーに座るジジイのほうを向いた



「あ、あっ、私、いきなり来て、

 馴れ馴れしくてすいません!

 

 ....改めて、遠路はるばる、

 ようこそおいでくださいました!

 代表の者が到着するまで、

 もうしばらくお待ちくださいね」



ジジイはソファーから立ち上がった



「あ、いえいえ、こちらこそ、

 唐突に伺うという無礼にも関わらず、

 暖かくお招きいただき感謝しております...」



あたふたと頭を下げ合う女性とジジイ



丁度、立っている二人に挟まれる格好で

ソファーに座るヨッシーは思った



(うーん、年齢は30過ぎくらいかな....

 どことなく、20代にはない貫録がある気が

 

 多分、ここの厨房のお姉さんなんだろうけど

 ぶっちゃけ、こんな美人、

 今まで会ったこともないレベルなんだが)



そんな兄の姿をジト目で見ているのが、

テーブルを挟んで真正面に座るスミレだった



「にぃ、なに鼻の下を伸ばしてんの?」




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