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リバーサイド同盟へ

いつの間にか、川を両側から押しつぶすような

鬱蒼とした深緑色が無くなったように感じた。

徐々に周囲の色が、解放感のある空の色に

変わっていく。

遂に、渓谷が終わり平野が出現したのだった


皆がおしゃべりを辞めて、黙って周囲を

見渡している


遠く前方に見えるのは、灰色のビル群だ。

さらにはるか遠くに青みがかった連山


近辺は、典型的な地方都市の郊外といった

感じで、元々は田畑だったのだろうか?

伸び放題の雑草や、漂着物で荒れ果てた

平坦な土地が続いている


目を凝らすと、

かつて全国にチェーン展開していた馴染みの

ファミレスの建物が見えた。

隣に同じく全国チェーンのコンビニの看板、

そこはかつて幹線道路が通っていた場所だった



やがて、ちんかわむけぞうが言った



「後、2,3キロほど川を遡ると防壁が

 出現する。

 そして、それを越えると

 我らが『リバーサイド同盟』の地だ


 俺は、ちょっと小島さんと話をしたいので

 失礼するよ」



ヨッシーは思った



(ええっと、ゾンビウイルス耐性の話から

 なぜか、謎のシンボルマークの話になって。

 ....頭の中がごっちゃになっちまった)


 

むけぞうは、再び「つぎはぎ丸」のブリッジの

操舵室へと向かった


船の船首に残されたのは、

見張りの白装束1人とヨッシー一行4人、

そして2人の子供たちと4人の屑人間ども


リナとリサとスミレが、一斉にヨッシーに

話しかける


Tシャツ一枚の下に競泳水着を着け、

フワリとしたショートボブの髪に

パッチリとした目のリサが言った



「...いろいろとお疲れ様、ヨッシー

 おかげ様で、こうして無事に

 目的地にたどり着けそうね。

 よくやったわ、ありがとう...」



同じ格好に、

フワリとしたセミロングの髪に

切れ長の目のリナが言った



「ま、結果オーライじゃない....

 あんたは、悪党どもを倒した上に、

 あの二人の子を救ったのよ。

 あんたがやったことは間違ってなかったわ」



しかし、ヨッシーは言った



「いや、俺は橋の上の連中を

 皆殺しにしようとしたんだ...

 その事実だけは、

 決して変えることはできない


 あの二人が救われたのは、

 俺のおかげじゃない。

 二人の運が良かったのと

 何よりも、ちんかわ氏が来てくれたからだ」



Tシャツにショートパンツ姿、

長い髪を無造作に後ろに束ね

こすからい鋭い目の妹のスミレが言った



「でも、にぃが行動を起こしてくれなかったら

 私たちも酷い目に会ってたよ。

 あの時点では、

 ちんかわ氏が来てくれるなんて

 誰も知らなかったんだし」



そして、2人の子供たちのほうを向いて言った



「あのぉ、こんにちは....


 私はスミレ、こちらが兄のヨッシーで、

 リナねぇとリサねぇだよ


 あなたたちのお名前はなんていうの?」



薄汚れた服装と伸び放題の髪に

身体中にアザを作った少女と、

その側に寄りそう小さな男の子


そして、少女のほうがおずおずと言った



「ウチは、キララ...この子はトシ坊


...ウチら、地元の方々とあなた方に

 色々とやらかしてもうて、

ほんまにすいませんでした....」



次々と、キララとトシ坊に話しかける少女たち


しかし、ヨッシーは、二人の姿を

直視することが出来なかった。


こうして、無事にリバーサイド同盟の地へと

たどり着ける感じになって安心感に

満たされると同時に、自分のやったことが

改めてのしかかってきたのだ



「俺は、結局、人を殺してしまった....

 もう二度と取り戻すことの出来ない行為だ」



ふと、自分達の向かいの船縁に固まる橋の上の

生き残りたちを見やる。

1人の男と、3人の女たちは、ロープで縛られ

サブマシンガンを持った白装束に見張られ、

黙って下を向いていた



「あいつらは生きている限り

 俺を憎み続けるだろうな

 

 ちんかわ氏が人型を駆除したこととは

 わけが違う。

 俺がやったことは、

 本来なら許されざることだ」



ヨッシーは、思いを言葉に出して呟いていた


すると、白装束がこちらに寄ってきた。

サブマシンガンを4人に向けながら、

ヨッシーのほうを向く


ヘルメットにゴーグルにフェイスマスクを着け、

彼の発した声はくぐもっていた



「君は、自分のやったことを

 気に掛けているのかね?

 でも、むけぞうさんや俺達も、

 君と同じようなことを過去にやっているんだ


 決して、人型だけを

 相手にしてきたわけじゃない

 

 特に、むけぞうさんは、

 俺達が想像できないような地獄を

 くぐり抜けてきた人だ。

 そして、あの人は、今やリバーサイド同盟の

 英雄と呼ばれている」



筋骨隆々の白装束は、ごつい手をヨッシーの

肩の上にポンッと置いた



「俺達が、こうして団結を保って

 任務を続けていられるのは、

 人々を守りたいという想いと


 この”シンボル”があるからなんだよ」



彼の肩にも、”小さなブラックホール”の

シンボルが描かれていた


ヨッシーは、まるで吸い込まれるように

そのシンボルを注視した。



(このブラックホールの先には、

 俺にとっての救いがあるとでも言うのか?

 まるで、中に入り込みたくなるような誘惑に

 駆られるとは!)



すると、ふいに、ブラックホールから

とんでもない悪臭が漂ってきた。

ヨッシーだけでなく、全員が鼻をつまんだ


ハッと頭を上げて前方を見ると、

川の先に橋が見えた



「この臭いは、ブラックホールから

 漂ってきたものじゃない、人型だ!

 周囲に恐ろしい数の人型が群がっているんだ」



1キロほど先の橋の周囲には、壁があった。

それは、橋の両側から陸へと続いており、

さらに周囲の建物と合体しているように見える



「そうか、残存する建物をそのまま壁の

 一部にしているのか...


 さらに、橋から鉄柵のようなものも

 落とされているな。

 人型の侵入を防ぐためか?」



もう、はっきりと全貌が見えてきた


あの橋と同じように

橋桁から川の中に落とされているのは、

ちゃちな網ではなく、しっかりとした鉄柵だ。

周囲の壁も、造りは非常に堅固だった


鉄柵は、橋桁から下に伸びた数本のチェーンに

よって繋がっている 


そして、先導するモーターボートを

迎えるように、真ん中部分のチェーンが

巻き上げられて、その部分の鉄柵が上がった


白装束が説明してくれた



「この橋は、さらに先の橋で二重防壁に

 なっている。

 基本的に、人型は

 川に入っていくことはないが、

 念には念を入れているんだよ」



今まで体験したものとは次元の違う悪臭....


そう、周囲には無限とも思われる数の人型が

群がっていた

 

 

ヨッシー達は、恐怖に身がすくんでいた



「これが、ゾンビパンデミックなのか」





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