地獄の旅路
マストと帆とロープ類を取り外した
「つぎはぎ丸」は、
貧弱な推進機関しか持たないショボい船に
なってしまった。
恐らく、燃料は、「リバーサイド同盟」への
片道分しかないだろう。
他の機帆船たちもそれぞれの役割があるので
燃料を頂戴するわけにはいかない、
まさに一発勝負なのだ
取り外した装具類は「わくわくポート」に
置いていくことにした。
やがて、一通り作業を終え、
「つぎはぎ丸」は川を上る準備が出来た
そして、出発前のミーティングだ
換気のために”海側”の窓を開けている
わくわくポートの2階、
食堂の隣にあるスタッフルームの畳部屋に
子供たちが揃っていた
部屋の真ん中の小さなちゃぶ台の上には、
小さいほうのタブレットPCが置いてある
ジジイが言った
「島の連中は海賊どもの要求通りに物資を
用意して、奴等がおとなしく
去ってくれるのを期待していた
これが、それに対する海賊どもの答えだ」
タブレットPCに、港の建物から望遠レンズで
映したと思われる写真が表示される
子供たちは息を飲んだ
港の端のほうにある荷役クレーンに吊るされた
二人の人物、小柄な老人と中年の男....
クレーンのジブは海側に向いている。
ジブから伸びたワイヤーの先端のフックには、
縛られた二人と一緒に
コンクリートブロックの重りが
吊り下げられていた
ジジイが言った
「このままクレーンを下げたら、
村長と山崎さんは海中に沈んでしまう。
結局、島の連中は折れて、
海賊どもに全面降伏した」
長身で禿で白い髭のジジイは、まるで感情が
無いかのように淡々としゃべっていた
しかし、ヨッシーは、昨日の取水場での
出来事を思い出していた
(ジジイがこんな口調になっているってことは
本気で怒っているってことだな。
人型に対するように、あの海賊どもも
機会があれば淡々とブチ殺すつもりだ)
それはヨッシーも同じ気持ちだ
ジジイは続けた
「村長は、クレーンから解放されたが
山崎さんは吊り下げられたままだ...
彼は怪我をしていて、島の連中の懇願にも
関わらずそのまま放っておかれている。
そして、村長は倉庫の一つに監禁され、
海賊どもは新たな要求をしてきた
それは、村長が監禁されている倉庫内を
”全て満たす”だけの量の物資を
集めること...
石油に食料、そしてご丁寧にも奴等は
英文翻訳で欲しい製品リストを作り上げた
発電機、船舶用機器、工作機械、PC、などだ
これらを取り上げられたら、
島は丸裸にされたも同然だ。
今後の暮らしが成り立たなくなってしまう
・・・・・・・・
俺はどんな手段を使っても、海賊どもを
皆殺しにしてやりてえ」
ヨッシーが言った
「ジジイ、だからついに川を上って
リバーサイド同盟にも接触しようって
決意したわけだな。
実は、俺達もそう思っていたんだ
もう、いつまでも過去の因縁に
捕らわれている場合じゃねえ!
あの海賊どもに対抗するためなら、
取れる手段はなんでも試してみるべきだ」
しかし、プリンスが反論した。
ウェーブのかかったロン毛を左右で分けた
嫌味な外見だ
「おいおい、ヨッシー!
あいつらが大洪水を引き起こしたおかげで
俺達がどんな被害を受けたか
分かってるだろ?
俺の水産加工場は、もう復興の望みは
無くなった。
そして、あいつらのせいで
島に人型が上陸したんだ、許せるわけねえよ
こんな悪魔の所業を行う連中なんだ、
海賊どもよりも危険な「サイコパス集団」に
違いないぜ。
まだ、チョコボーラーに助けを求めるほうが
数段マシだ」
3馬鹿少年たちもプリンスに同意する
「そうだそうだ、自衛隊ならきっと海賊を
追っ払ってくれるよ」
「工場で働くことになっても、
白飯が食えるなら俺は構わないよ」
「何よりも今後、命を脅かされることが
ないだけでも大分マシじゃね?」
ようやくジジイも人間らしい口調に戻って
答えた
「まあまあ、お前ら落ち着け!
プリンスもヨッシーも正しい
だから、俺達はヨッシーの言った通り
取れる手段を全て取ることにしたんだ
俺達はこれから3組に分かれる
チョコボーラーの本部である原発の半島に
向かう組と、ここで待機する組、
川を上ってリバーサイド同盟の地に
向かう組だ」
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「つぎはぎ丸」は川を上っていた
河口であるこの辺りは、川幅もとても広く
水の色は深い青色で水深も深そうだ
右舷側には、先ほどまで自分達が居た
「わくわくポート」が見える。
目の前には、国道が通る背の高い巨大な吊橋、
周囲は壊滅した漁港町だ
そして、Tシャツとジャージのボトム姿のリナが、
ジジイに話しかけていた。
ブリッジの右舷側の入り口から
操舵室で舵を取るジジイに向けて、
腰に両手を当てた格好でがなり立てている。
船のディーゼルエンジンの音に負けないように
大声で話しているのだが、
まるで怒鳴っているみたいだ
「だからジジイ、私たちの水泳能力がこの先
必要になるかもしれないでしょ?
他の組と違って、
まるっきり未知の旅なんだから
それに、スミレだって船を動かすのに必要な
クルーだし
大体、ジジイとヨッシーの二人だけで
川を上ろうだなんて無茶もいいところだわ!
心配なのは分かるけど、
何でも自分達だけで抱え込もうとするのは
ジジイの悪い癖だよ」
リナの後ろには、
妹のリサとスミレが立っている
そして、先ほどからリナは、
まったく”同じこと”をジジイに言い続けて
いるのだ
最初は苦笑いをしていたジジイも、今や
苦悩に満ちたような表情で俯き、ただひたすら、
リナの言葉を受け流している
「大体、私たちを置いていこうとするなんて!
今まで一緒に頑張ってきて、
皆が仲間だと思ってたのに
女だからと言って甘く見てるの?
それとも、
私たちがそんなに頼りないっての?
私とリサはね、多分、島の中で一番
水泳が上手いと思うし、
スミレだって船のクルーの一員なんだよ」
...本当に、なんで同じことをエンドレスに
ここまで言い続けることが出来るのか?
左舷側の入り口付近で佇むヨッシーも
ジジイと同じく、
苦悩に満ちた表情で俯いていた
(今までジジイのことを無視していたリナが
やっと話すようになった....
最初は嬉しかったんだけど、
こりゃあ、あんまりだ!!)
ヨッシーは、苦悩に満ちた表情で耐えながらも
頭の中で、これからの旅のことを
シュミレーションしはじめた
・・・・・・・
出発前に、ビーグルマップで川を上って
確認したところ、
障害になるような箇所はないように見えた。
所々に掛かる橋は大部分が無事みたいだ。
中には大洪水で倒壊してしまった古い橋も
あったが、なんとか船の通行は出来そうだ
....まあ、実際に行ってみないと分からないが
しかし、一つの橋だけどうも嫌な予感がする
倒壊して船の通行を妨げているわけでは
ないのだが、明らかに他と違って
上空から見た光景が異様だったのだ
ヨッシーは、片手を背後に回して
背負った小さなリュックの底を掴んだ。
リュックの素材ごしに、
固い鉄の塊の感触を感じる....
それは、昨日、取水場で警官の人型を倒して
手に入れたリボルバー
昨夜も、さらに2体の人型を倒した
ちなみに、それ以降、「わくわくポート」に
人型は来ていない
「大体、ジジイは禿げてるし、目つきも悪いし、
長身に白い髭を生やした姿は悪役っぽいし。
ヨッシーにもそれが遺伝してて
あんたたちの外見、どちらかというと
悪役サイドなのよ!
それでもスミレは、
将来、クールビューティーになれる可能性は
大だけれども、ジジイとヨッシーは
チョイ悪になることも出来ないくらい
悪人面なんだから!」
ついに、単なる悪口になってしまったリナの
怒鳴り声が耳に入り、ヨッシーは再び
顔を苦悩に歪ませたのだった




