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チョコボーラー 

・・・・・・・・・・・


その半島はすでに3年前から

自衛隊が占拠していて、

原発と漁港町、そして新たに開墾された

田園地帯があった。

当然ながら、ゾンビの侵入を許していない

安全地帯であり、

いわゆる「チョコボーラー」の心臓部だ


本来の彼等の正式名称は長く仰々しく、

略して「原発政庁」と名乗っているのだが、

誰もが彼等のことを

「チョコボーラー」と呼称していた


・・・・・・・・・・・・



原発を見下ろす丘の上のホテル、そこはかつて

移転してきた県庁の所在地だった


しかし、3年前、”県知事ゴンドウ”は

独断でヘリでリバーサイド同盟の地に

向かったまま消息を絶ってしまった


やがて、県庁を大義名分として

担ぎ上げる必要もなくなり、残った職員たちは

臨海工業地帯に労働者として送り込まれた


今では、ホテルは自衛隊の本部となっている。

その最上階のスイートルームは、

かつては県知事ゴンドウの執務室だったが、

今やそこは、自衛隊の指揮官が使用していた


彼の名は「コバヤシ」


階級は”一等陸佐”だが、もはや軍の階級など

あまり意味がない。

指揮下の部隊も、陸、海、空、と所属が

バラバラの混成部隊だ。

重要なのは、彼が原発を手中にしており、

周辺の半島と、海沿いに新たに出来た開拓地、

そして旧県庁所在市の臨海工業地帯を

支配している事だ。

原発は、東西の大都市圏の

生存者コミュニティーにも電力を供給しており、

コバヤシの影響力は絶大なものだった


コバヤシは、立派な机に座って

ノートパソコンでビデオチャットをしていた


映像の向こうには、アメリカ第七艦隊の

海軍少将が居た。

コバヤシの馴染みの取引相手だ


コバヤシが流暢な英語で言った



「ノーマン、ご心配には及びませんよ。

 今後、新たに数百人規模の新規労働者の

 増加が見込めますから

 

 あなた方が提示なされたレンタル料は

 少々、高くつきましたが...

 まあ、相応の結果さえ出してくれれば

 万事オッケーということですかな」



アメリカ海軍の少将は、同じく立派な机に座り、

大袈裟なジェスチャーでコバヤシに返した



「Oh、ワタル...

 今更、あの連中のレンタル料のことを

蒸し返すのはやめてくれ。


 言っただろ?あの連中を鎮圧するのに

海兵隊のフォース・リーコンだけでなく、

我々のネイビーシールズまで動員したんだ


 かかった手間賃だけじゃなく、

今でも連中は強力な武装組織だ

 

 いいモノには、いい値段が付くのは

当然じゃないかね」



彼の言う通り、今更蒸し返すのは

良くないのだが、

どうしてもチクチクとつついてしまうのが

コバヤシの欠点だ。


そして、コバヤシは、

片手に”チョコボール”を持っていた。


そう、本物のカカオを使用したチョコボールだ 


その黄色い嘴のような蓋を開けると、そこには

”銀色のエンゼル”の当たりマークが

付いていた。

5枚集めると、『おもちゃの缶詰』が当たる

例のマークだ



「確か、かつて武器の密輸商人を

やっていたとか...

 豊富な武器で武装して海賊に鞍替えし、

 東シナ海を根城に

 勢力を広げていたのでしょうが。


 もはや、最新の武器はあなた方に

 取り上げられ、ボフォース57ミリ以外は

 めぼしいものもなく、

 旧式の銃器しかないと聞きましたが」



そう言いつつ、コバヤシはチョコボールの蓋に

描かれた銀のエンゼルマークを、

相手に見えるようにさりげなく

ウェブカメラに向けて掲げて見せた


すると、ノートパソコンの映像に映る

アメリカ海軍少将は、急に席を立って

背後の本棚のほうへと背を向けた


コバヤシに背を向けたまま言う



「それでも連中は、君の目的を達成するのに

 うってつけの手段じゃないのかね?

 

 ....自分の手を汚したくない君にとっては

 結局、それに頼るしかないのだろう」



こちらに背を向け、

本棚の本をゴソゴソとしている少将の後ろ姿に

向けて、コバヤシが見事な英語で答える



「ノーマン、私は東京の二の舞は

 御免ですからね、

 あいつらと同じ過ちはしませんよ。

 自暴破棄になった群衆は愚かだが破壊的だ


 彼等を決して頭から押さえつけてはならない、

 表だって支配してはいけないんです。

 

 例の『島』の人間には、


 ”自分たちのほうから頭を下げて”


 こちらの傘下に入ったという形にすることが

 非常に重要なのです。

 その為には、卑劣と思えるような手段も

 取ります」



アメリカ第七艦隊の海軍少将は、黙ったまま

背を向け、本棚の本をゴソゴソとしている。

そして、ようやく一冊の本を取り出して

こちらに向き直った


しかし、コバヤシの視線は、本棚のほうへと

向けられていた。


なんと、そこには.....



『おもちゃの缶詰』があったのだ!



おそらくは、本を配置換えして

わざと奥に仕舞っていた”それ”を

見せ付けているのだろう


銀色のエンゼルマークを5枚集めるか、

金色のエンゼルマークを1枚で貰える

おもちゃの缶詰...


黄金色に輝くキョロちゃんシンボルが眩しい


コバヤシは密かに歯ぎしりをしていた


そして、それらの事象には全く無関心という

風を漂わせ、海軍少将は取り出した本を開いた



「ワタル、この本は、南米のコンキスタドレス 

 の物語だ。

 大航海時代にスペインからやってきて、

 インカ帝国を滅ぼしたピサロに関しての

 下りなのだが


 ピサロがやってくる以前に、インカ帝国は

 内戦と、旧大陸からもたらされた天然痘に

 よって弱体化していたと言われている。

 そして、ピサロは圧倒的な火力を持って

 皇帝を捕虜にし、彼が幽閉されている

 部屋を全て満たすほどの金銀財宝を要求した


 スペイン人たちは、その財宝を

 手に入れながらも皇帝を処刑し、

 権勢を誇ったインカ帝国は滅ぼされた。


 帝国の住民は殺されるか、奴隷にされた


 歴史は常に弱者には苛烈なものだな」



コバヤシは、チョコボールの箱を

頭上で傾かせた


開いた口に、

人類が生み出したもっとも偉大な菓子である

焦げ茶色の小さなボールが流し込まれる


贅沢なカカオ豆のチョコレートとピーナッツ



「そうですな、強者と弱者の戦いは常に

 凄惨極まりないものです


 しかし、その頃、遠く離れた本国スペインは

 凄惨な争奪で奪った富によって

 黄金時代を迎えた....」



コバヤシは、ゾンビパンデミック以前は

自衛隊の注目の若手だった。

最年少で佐官になり、あと一歩で

最年少の将官に昇り詰めるところだった


3年前までは、それなりにカリスマ性を帯びた

外見だったのだが、今の彼は蓄えられた脂肪が

積み重なり、太ったおじさんになってしまった



(まるで本国スペインの貴族だな、そして

 目の前には王族が居るとでもいうのか?)



コバヤシには、支配下の住民たちが

自分達のことを「チョコボーラー」と

自嘲的に呼称する気持ちが分かるような

気がしていた

 

 



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― 新着の感想 ―
[気になる点] 特定の企業の商品を使い、それを悪役の象徴の様に扱うのは知的財産権の侵害に当たりませんかね? チョコボールや箱の形状までなら問題ないと思うのですがエンゼルマーク、キョロちゃん、おもちゃの…
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