保健体育
「えぇっ!それじゃ、あの、まさか、え?」
「えぇ、その……私たちは夫である竜と夜を共にして初めて同じ時を生きる権利を得るのですわ」
ソーニャさんが、言いずらそうに、言葉に詰まりながら教えてくれたのは竜の番としてはまぁ基本中の基本らしい寿命について。
夜を共にと言うのは、まぁ、想像にお任せするけど。つまり現在の私は、以前と変わらず成長するし老けるし、怪我も病気もする最弱な生物……人間族と同じ肉体しか持ちえていないと言うこと。
「ですので、きっと氷竜様はマジュ様が心配でならないのでしょう。……マジュ様」
「え?」
「夫婦として、夜を共にすると言うのは必ず通る道ですわ。愛し合う二人はどのみちお互いを求め合うもの。ですので、早めに済ませた方が宜しいかと……」
いやいやいや!!何言っちゃってんの?!愛し合うって……まだそこまで言ってないから!!
私としては、内心強烈なツッコミを入れたい所を必死で我慢したと言うのに……ソーニャさんは本気らしい。真剣な眼差しで、テーブルを挟んだ向かいに座る私の手を掴み熱弁し始めた。
「どのような淑女であっても、初めてというものは怖いものです。恐怖で押しつぶされそうな心を必死で押さえこみ、決死の想いで覚悟を決めて寝所へと横たわるもの。未だ幼いマジュ様にとっては、この恐怖は何倍も強いものでしょう。……けれど!」
「……」
長い……まじかよ。
思わず淑女らしからぬ言葉が飛び出そうになるのをこらえ、心のなかで呟いた私。
「あー、わたし、そーゆうのはまだ良いです」
「まぁ!けれどマジュ様……」
拒否してみたけど、ソーニャさんは止まらない。
「愛し愛されるということはとても幸せなことですし、触れ合うことは気持ちがよいことですのよ」
現在進行形で何かを説明し続けていらっしゃる……いつの間にか取り出した竜と女の子の形の手作りらしい人形を使って。
「保健体育かよ……」
なんだよ、ここは小学校の教室かよ。
第一印象から柔らかな印象が強かったソーニャさんは、強い人だった。
この保健体育も譲るつもりはないらしく、長々と、詳しくはお人形さんで表現しながらその行為がいかに神聖で素晴らしく幸せなものかとアピールしてくる。
「……さて、本日はここまでにしておきましょうか」
そうして告げられた保健体育の授業終了のお言葉に、私は心底安心したけど……ここ窓無いからな。
正直いつの間に終わったの?って感じだけどヤブヘビだから黙っておこう。
あぁ、早くオッサンに会いたくなるなんて私……重症かも。
お久しぶりです。
なんだか物凄く久しぶりの更新なので緊張してます。
もし変なところがあったらご指摘お待ちしております。