09 源泥〜ウーズペイン〜
転生者、16歳、男
前世の死因、他殺
坑道に魔物が現れて犠牲者が出たらしく、僕達のパーティが依頼を請けおう事となった。
こう言っては何だけど、死人が出てくれたお陰で依頼報酬もかなり弾んでくれるみたいで、他の冒険者が集まる前に即断した。
「報酬は良いんだけどさ、ゲル退治なんて俺達に出来んのかよ」
実弾、魔力弾を撃ち出す古代の遺物である銃を持つガンナーの彼が問い掛ける。
「戦った事があるヒトいるー?」
剣士の彼もまた、僕達を見回して問う。
「俺はない!」
「僕もない」
「ボクもない…じゃあ、大丈夫か」
「何を根拠に大丈夫なんて言えんだよ!」
「まぁまぁ、僕の魔法と君の魔力弾で何とかなると思うよ」
こっちの世界ではゲルと呼ばれるスライムには魔法くらいしか有効打がなく、今回の依頼で頼れるのは魔法使いの僕とガンナーである彼だ。
「ボクは!?」
「オメェはヘイトでも稼いでろ」
まぁ、剣が通用しないのだから仕方ない。
「いつも最前線で頑張ってくれてるんだから、今日は僕達に任せてよ」
「そぉ?そうかなぁー?ボク頑張ってるかぁー」
「おい、あまりコイツに余計な事言わないほうがいいぜ」
「ハハッ、ごめん」
ああだこうだと喋っているうちに、目的地に到着して最終確認を行う。
討伐対象は『アシッドゲル』、打撃、斬撃は通じないので、僕の水(氷)魔法とガンナーが放つ魔力弾で倒していく作戦だ。……剣士は…僕達のお守り役かな。
完璧な作戦なんだけど、僕達は一度もゲルと対峙した事がないのを懸念してしまう。
なんたって某ファンタジーゲームみたいにスライムがあちこちから湧いて出てくる訳でもなく、出現場所は限られてるし個体数も少ないんだって。だから実物を見たことがない。
別の領地にあるダンジョン下層には現れるみたいだけど。
ま、何とかなるでしょの精神で今までやって来た僕達なんだから今度も何とかなるでしょ。
「これは…しくったかも」
「クソッ!!もう魔力が底を付くってのに…コイツ倒れねーぞ」
僕の見立ては甘過ぎた…いや、予測不能だったんだ…だって、目の前にいるのはゲルなんかじゃないし。
ギルド職員からは[緑色の半透明をしたゲルで、纏わり付かれると溶かされるから気を付けてね]って話だったのに…アレは違う。
人の形をしたドロなんだよ…そのドロ人形に剣士は覆い被さられて異臭を放ちながら肉を溶かされ骨にされてしまった。
その時点で逃げれば良かった。
仇なんて取ろうとしなければ良かった。
今になってはもう遅い。
何で魔法が効かないんだ。
何で凍ってくれないの?
「おい!何呆けてやがんだ!前見ろ!ッガ…」
「え?」
ガンナーに顔を向けた。
頭に伸びた泥の腕、ソレが引っ込むと骸骨になって現れた頭部 。
もう、吹っ切れた。
杖を捨てて、殆ど使った事のない剣を握り締めて走り出す。
せめて一矢報いようと。
「情報を修正します!この依頼はアシッドゲルの討伐でしたが、誤りだと判明しました。目撃情報から推測するに『ウーズペイン』だと思われます!」
「なんてこと…既にB級冒険者のパーティが向かってしまったわ…」
「そんな……B級クラスじゃ太刀打ちなんて」
「…逃げ延びてくれてる事を祈りましょう」
B級冒険者達の死亡連絡を受けたギルドは、A〜Bランクの新たな討伐隊を結成して坑道へ向かい、犠牲を払いながらもウーズペインの退治は完了した。
残されていた三人の骸も回収され、二人は遺族の元へ還されたが、もう一人のタグに記入されていた情報を辿っても身内を見つける事が出来ず共同墓地へ葬ると、この依頼を斡旋したギルド職員は判断を下した。
『アシッドゲル』
討伐レベルB
体力B 攻撃力A 速力C
緑色をした酸を含むスライム。
攻撃力Aに相当するが、触られず触らずを意識していれば大した脅威ではない。
『ウーズペイン』
討伐レベルA〜
体力S 攻撃力S 速力A
人型を模した泥のような見た目のスライム。
アシッドゲル同様、対象者の肉を溶かして捕食する。
攻撃モーションは目にも留まらぬ速さだが、足は遅い。
『銃』
この世界にも遺跡から発見された小銃や拳銃が出回っている。
アーティファクトなだけあって買おうとするとべらぼうに高く、数も少ない。
弾丸は大きな街で製造販売されているものの、1発で一日の生活費が飛ぶくらい値が張る。
弾丸の代わりに魔力を込めて魔力弾として撃ち出す事も可能。