46 国王〜アグレアス〜
転移者、26歳、男
前世の死因、事故死
アンデッドのロメロを改良して造り出されたジェフリーの侵攻によって国境街が壊滅に追いやられた国は生存者を確認出来ないとし、街共々消滅させる作戦に出た。
機械兵サージェント及びクリーガァを派遣して徹底的に攻撃を加え、ジェフリーと感染者の排除に成功した。
この作戦によって中央部の国境街を失う大打撃を受け、北部と南部は暫くの間防衛に徹する事となる。
「っとの事ですが、女王よ。如何が致しましょう」
「人間の街などどうなっても良い。が、我が下僕に手を加えるなど以ての外。王に滅びをもたらせ」
「仰せのままに」
この世界で新たな人生を歩む事となった俺は旅をしている時に出逢ってしまった…『ヴァンパイア・バシリッサ』という吸血鬼の女帝に。
その美しさに目も心も全てを奪われ吸血鬼になって眷属として生きる道を選ぶ決意を固め、今は俺も日陰者となった。
「懐かしいな」
ふとその時の事を思い出して口に出してしまった。
「何がだ?」
横を飛んでいる同じ眷属の吸血鬼が問う。
「いや、なんでもない」
「そうか…もうすぐ王都だ。気を張れよ」
俺達は今、女王の命令で闇夜の中王都に向けて飛んでいる。
全てのアンデッドを統べるヴァンパイア・バシリッサは人間と魔物の掟なのだとして下僕たる魔物を倒されても怒る事はない。
しかし、今回は摂理に反した人間の行いが赦せなかったようで、俺達近衛隊率いる吸血鬼部隊28名に城の中でふんぞり返っている王を殺して来いと特命を出したのだ。
機械兵さえ出てこなければ人間に後れなど取らんとし、闇魔法の隠蔽を使って上空から城内部に潜入する作戦をとった。
「警報は鳴っていない、突入するぞ」
女王一の眷属と自称する『ドラキュラ』が合図を送った。
「フフ、私達の恐ろしさを存分に味わって貰いましょう」
上品な出で立ちだが誰よりも気性が荒い『カーミラ』がレイピアを引き抜いた。
「カーミラ…そんな目立つドレスで来やがって何考えてやがるんだ」
「煩いわね!隠蔽魔法掛かってるんだから関係ないでしょ!」
「あれは発見され難いってだけだろ!」
「お前達静かにしろ」
「「はい…」」
(怒ったカーミラ様も可愛いでござるな)
(あの横顔見たでござるか?映写機で残したいでござる)
((うんうん))
カーミラの後を付いて回る四人の親衛隊もボソボソうるさいじゃん…俺は指摘しただけなのにドラキュラに怒られちまったじゃねぇか…気を取り直していっちょやったるか。
城内に先行させた部隊が既に制圧を完了しているはずだが、やけに静まりかえっている。
「やけに静かね。アイツ等ちゃんと仕事したんでしょうね」
「少しは黙ってられねぇのか」
「アンタこそ元人間のくせに私に指図してんじゃないわよ!」
「は?そんなの関係ねぇーだろ!」
「関係あるわよ!!クソ雑魚人間!」
「テメッ、言わせておけば「いい加減にしろ。お前等には緊張感が足りな過ぎる」
「「はい」」
(やはりカーミラ様は怒った姿もお美しいでござるな)
(そうでござるな。拙者惚れ直してしまうでござる)
「お前達もうるさいぞ」
「「男は黙ってるでござる」」「「そうだそうだ」」
まぁカーミラが言うように死体の一つも転がっていない。この先には謁見の間があるのだがこんな夜中に人なんて居ないだろうと思いつつ一応は覗いて見る。
「開けるぞ」
「あぁ」「早く開けなさいよ」
ドラキュラが仕込み杖を、バカ女がレイピアを構え、俺は扉を開けた。
「こんな夜分遅くに失礼だと思わんのかね?ヴァンパイア諸君」
「っ!?」
玉座に座る一人の男が問いかけ、その周りには仲間の死体が積まれている。
「アンタ…私達の同胞を…」
「こんな下等な連中で余を殺めようなどと笑わせてくれる」
「この、人間風情が!!」
「落ち着けカーミラ!」
「「カーミラ様!!」」
俺が止めに入る前にカーミラは王であろう男に飛び掛かってしまった。
「死ね」
カーミラの一声の後、レイピアが王に届くか否かの時、ズンッと音を立てて鋭く尖った王の影がカーミラの片腕を切り落とし、苦悶の表情を浮かべて俺達の元へ下がらざるおえない状況に陥り、口角をあげている王にドラキュラが尋ねた。
「貴様、悪魔の一柱だな?」
「悪魔…だと?」
俺とカーミラは驚いてドラキュラの方を見、王は何の迷いもなく応えを返す。
「そうだが、悪魔だから何だと言うのだ」
「悪魔が何故人間の王の真似事などしている?」
「その問いには応えられないが…名乗りはしよう。我が名はアグレアス、死にゆくモノの手向けとして贈ろう」
アグレアスってあの元悪魔の大貴族だろ…一体なんの目的があって王に…そもそも人間共は知っているのか、疑問が次々と浮かんで来てしまう。
思考している最中、親衛隊が激昂に駆られて王へ刃を向けた。
「よくもカーミラ様を!」「万死に値する!」「死んで償え!」「悪魔如きがカーミラ様に触れやがって!」
「アンタ達止めなさい!!」
カーミラが止めようとするも後の祭り…王はまるで蝿を払うかのように手を振るうと、鎌状の影が四人をすり抜けた。
だが四人は無事だ、コケ威し…な訳がなかった。再び動き出した瞬間、血反吐を吐き胴体が二つに切り離され、四人は悪態を尽きながら息絶えていった。
「最後まで騒がしい彼奴等よ」
もう我慢ならないと、俺は使い魔の大蝙蝠『ムルシエラゴ』を闇の狭間から喚び出すと、ドラキュラ、カーミラの二人もまた『黒血狼』と大鎌を持つ青銅像に宿 る死霊『エンプーサ』を喚んで三体を襲い掛からせる。
ムルシエラゴの岩をも砕く超音波、クリムゾンファングの闇魔法『双血の槍』、エンプーサの鎌イタチが王へ浴びせられる…が、王は平然と玉座に座りっぱなしで居る。
「効いてないのか!?」
「そんなはずない!私のエンプーサは伊達じゃないのよ!」
「二人共、構えろ…来るぞ」
王が立ち上がると同時に三体の使い魔が震え始め頭を垂れた。
「精神支配…」
「は?ドラキュラ、アンタ何言ってんの?アイツに女王と同じ事が出来るって言うの!?」
「そうとしか思えん」
精神支配か、考えたくはないが…振り向いた使い魔が俺達に牙を剝き出しにしてるのをみるとドラキュラの言う通りなんだろう。
今にも飛び掛かって来そうな使い魔達、立ち上がり俺達を見下ろす王…時間が止まっている…誰も動かない。
もちろん比喩だが、カーミラが唾を飲む音すら良く聞こえる。
誰が最初に動く…
「下だ!!」
「「!?」」
ドラキュラの声に視線を足元に落とす。
いつの間にか広がった影、飛び立とうとした俺達三人だが、足に絡みついた影が引き離せない…殺意を感じ視線を上げると、使い魔達が王に放った攻撃を俺達に向けて飛ばして来ていた。
ムルシエラゴの超音波はカーミラに向けられ、耳から血を垂らしながら苦痛に耐え、ドラキュラに放たれた鎌イタチは仕込み杖の刃で受けきり、俺は鋼の翼でクリムゾンファングの攻撃を凌いだ。
だがそれも束の間、足元の闇が俺達を飲み込み始めた。
もがく度に沈む、まるで底なし沼のように…
「もう終いだ。余の糧となるが良い」
もうカーミラは虫の息で抗う事も出来ず、俺も手と翼も影に拘束され身動きが取れない中、ドラキュラだけは何やら呟いていた。
「後は女王に任せる事にしよう」
「あぁ…そうする他ないな」
「アグレアスよ、後悔しろ。我等を倒した事に」
「後悔だと?余が?何故だ?」
「後は任せました。女王よ」
「頼んだぜバシリッサ。カーミラ…良く頑張ったな」
俺達三人は仲良く影の奈落へと沈んでいった。
『カーミラ』
討伐レベルA
体力B 攻撃力A 速力A
白いドレスに身を包んだ女型のヴァンパイア。
レイピアを使用し、魔法より接近戦を得意とする。再生能力はあるが、腕一本生やすのに一日を費やす。
口は悪いが見た目が可愛い故に親衛隊が存在する。
『ドラキュラ』
討伐レベルA
体力A 攻撃力A 速力B
タキシードを着こなす男型のヴァンパイア。
仕込み杖を手に、近、中距離と卒なくこなす。再生能力もあり、腕位なら瞬時に再生可能。
自称、ヴァンパイア・バシリッサ一の眷属。
『ムルシエラゴ』
討伐レベルA
体力B 攻撃力A 速力A
全長六メーターの大蝙蝠。
超音波に吸血と、コウモリらしい攻撃を得意とする。
使い魔は召喚獣と違って死んだら終わりと自然の摂理と同じである(アンデッドタイプを除く)。
『クリムゾンファング』
討伐レベルA
体力A 攻撃力A 速力A
全長八メーターの赤黒い狼。
爪、牙撃に加えて闇魔法も扱い、獲物の肉より血を好物としている。
『エンプーサ』
討伐レベルA
体力A 攻撃力E(本体) 速力A
全長二メーター、大鎌を持った女型の青銅像。
正体は死霊であり、銅像を壊されただけでは消滅する事はないが、本体は攻撃手段を持たない。
『アグレアス』
討伐レベル?
ステータス?
現天使にして元悪魔の大公爵。
今は人間の国で王として君臨し、正体を知るものは一部の側近のみ。




