暗黒騎士
この作品は、フィクションです。作品に登場する人物名・団体名・その他名称などは架空であり、実在する人物・団体・その他名称などとは一切関係ありません。
新太郎は、正義の味方ではなく、敵方に愛着を持つ子どもだったらしい。
パンでできた顔を、お腹が空いた友達に分け与えるヒーローの話では、ばい菌を模した敵を応援していたらしい。短い間しか戦えない巨大宇宙人や、仮面を被ってバイクを走らせるヒーローは、ちょうど中断していた時期だから、これらについては、分からないという。
ただ、それぞれ色分けされた5人が活躍する特撮ヒーローで、新太郎が夢中になっていたのは、真黒な鎧を身に纏った、敵の幹部だった。誕生日かクリスマスのプレゼントに、その暗黒騎士が乗っていた宇宙船が欲しい欲しいと駄々をこねて、どうしようもなかったらしい。
ヒーローの乗るマシンやロボットは、近所のおもちゃ屋に置いていたが、敵幹部の乗り物なんて、置いていない。困った父親は、弟に相談した。
叔父は、そっち系の仕事に片足を突っ込んでいたから、合点承知と市販のプラモデルやおもちゃを改造して、その宇宙船を作った。
これから、毎年のプレゼントによわるなあ、と家族が笑った次の年、新太郎は、かえらぬ人となった。
その手作りの宇宙船は、棺桶の中に入れられて、一緒に灰になった。
母は火葬場に行かず、帰ってきた祖父の肩を掴んで、こう言った。毎日、お墓を掃除して、きれいにして、花を挿して、線香を上げているのに、子どもを守ってくれないようなら、そんな先祖なんていらない。今後二度と、墓参りはしない。お墓は別に建てる。
祖父は、そうか、とだけいって、母親のいないところで、こっそりと、勇次郎に、
「お前は、次男だから大丈夫だ。」
と言った。
まさかな、と川島は思った。
霧から出てきた幽霊船は、暗黒騎士の宇宙船だったし、それに乗って現れた幽鬼王は、まさに暗黒騎士の恰好をしていた。いや、暗黒騎士の恰好をしていたから、兄だとすぐ判断できた。あんな恰好をしているから、幽鬼王なんて呼ばれているのか。身内のことだけに、少し、恥ずかしくなった。
兄は、きっと暗黒騎士でいることを楽しんでいる。
なんとなく、なんとなくだが、これは、説得に時間がかかるぞ。なんて思っていると、新太郎が、めざとく勇次郎を発見した。
「おまえー!なーんかみたことあるかおだな!だれだ!?」
「勇次郎だ!弟だよ!新太郎兄ちゃん!」
「うそだ!ゆーじろーはもっとかわいい!」
「40年くらい経ってるんだ!俺はもうおっさんになったんだよ!40年も遊んでるんだろう?もういい加減、家に帰ろうや!兄ちゃん!」
「ひゃー!おこりかたがままそっくりだ!ひとまずひくぞ!たいきゃくー!たいきゃくー!」
幽霊船が後進し始めた。
「待てよ!」
声は届かず、幽鬼王には、逃げられた。霧の向こうに幽霊船が引っ込むと、そのまま霧も引いていった。あたりは薄暗く、もう間もなく、日が沈むところだった。
ため息を吐いて、横に立っている魔術師に尋ねた。
「前回は、どうやって対処したんだ?」
「一旦、港に帰りましょう。そこで落ち着いて話しませんか?」
川島は、あっさりと同意して、船の縁に腰を下ろした。
「これは、ひょっとして長期戦かな。」
計画して前段取りをしっかりやっていても、いざ作業がはじまると、計画通りにはいかなくなる。よくあることだ。腹を括ろう。川島は、腕を組んで、天を仰いだ。
始まれば終わる。
どんな形でも、始まれば終わる。始まったんだ。終わらせるしかない。兄を連れて帰ろう。連れて帰っても、母親には帰ってきたことがわからないだろうけど、それでも、兄を連れて帰ろう。
潮風が、川島の頬を撫でた。




