生真面目なサイモンと気弱なハリス
この作品は、フィクションです。作品に登場する人物名・団体名・その他名称などは架空であり、実在する人物・団体・その他名称などとは一切関係ありません。
治安維持の為に、町ごとに編成されるルバルフドラードは、古代語で、悪事に備える、という意味を持つ。司法と行政を預かる警察組織のようなものである、というと、小難しい説明を持ってこなければならないが、かつてのテレビ時代劇でいうところの南町奉行所とか、北町奉行所。西部劇なら、保安官事務所。近年では、時代劇も西部劇も下火になっているから、代わりの例えは何か、となるが、これまた、いい例えがない。だが自警団ではない、念の為。
とにかく、警察に毛が生えたようなものだ。
町の人間は、ルバルフドラードなどと、長ったらしい名前で呼んではいない。門番もルバルフドラードの仕事のひとつだが、主な仕事はパトロールだ。町を巡回している姿をよく見かけるので、「おまわりさん」とか「おまわり」なんて呼ばれている。そもそも正式名称をまともに覚えている者は、ほぼいない。かしこまった何かしらの手続きをする際に、そういえば、おまわりさんとこの、あれ、なんつったっけ、という程度の認識だ。単純に警備隊とか、もっと分かりやすい名前を付けておけばいいのに、とよく言われる。
サイモンも、おまわりさんになる試験を受けた時に、はじめて正式名称を知った。
森へ行く道すがら、そんな話をすると、川島は、丸末の小椋のことを思い出し、
「あー、それ、なんかわかるわ。」
と笑った。そして、
「こっちも、おまわりさんって言うんだな。いや、そう変換されて聞こえているだけなのか。」
ぼそぼそと何やら独り言をつぶやいていた。
川島をはじめて近くで見た時は、大袈裟ではなく、心臓を鷲掴みされるほど驚いた。相棒のハリスは、臆病な奴だから、もしかして気絶したんじゃないか、と思ったくらいだ。
この辺の人間とは、顔立ちが少し違う。はっきりいうと、とても恐ろしい顔立ちをしている。行ったことはないが、旅の詩人がうたう物語では、遠く遠く、海の向こうに、姿かたちは似ているが、どこか違った人々が暮らしているという。おそらく、それくらい遠い所からきたのだろう。
魔術師様にお願いされた時は、なんで俺がそんなことを、と目の前が真っ暗になったが、都のように、盗賊がよく出る土地じゃない。昨今噂の幽鬼が怖くないわけではないが、
「盗賊が出ないのなら、怖いものはない。」
と川島が言い切った。何の根拠もないようだが、妙に自信に満ち溢れていた。
何だか、大丈夫な気がして、同行を了解してしまった。ハリスは、自分は関係のないような顔をしていたが、魔術師様に、ふたりで、と言われて飛び上がって驚いていたが、こうして一緒に、森に向かっている。
もし、と川島が、
「もし、盗賊が出たとしても、君たちが何とかするのだろう?」
と言うと、ハンスが
「大丈夫ですよ、カワシマ殿。サイモンは、都の訓練所で一番だったのですから。」
と答えた。
「いや、話を大きくし過ぎだハリス。」
窘めるが、
「心強いな。」
川島は、笑っていた。橋を渡る頃には、ハリスも川島に慣れて、打ち解けていた。
「しかしなぜ、馴染みのない古代語で名付けたんだろうな。」
誰に言うでもなく、川島が呟いた。
「名付けた偉いさんが、考古学が好きだったとか、なんとか。」
ああ、なるほど、と川島は合点した。川島の所属する会社は、大きなグループに所属する建設会社だ。建設会社を創立する際に、グループの偉い人が、ディスティネーション、という言葉が大好きで、どうしても社名に入れたいと言ってきかなかった、という逸話がある。
どこにでも、そういう奴はいるんだな。
月明りと角灯を頼りに、3人は、暗い夜道を進む。




