門番サイモンの災難
この作品は、フィクションです。作品に登場する人物名・団体名・その他名称などは架空であり、実在する人物・団体・その他名称などとは一切関係ありません。
老人は、唸った。
川島は、今にも森に向かって歩き出しそうだ。川島の説得が困難なのは、これまでのやり取りから、性根に入っている。川島を引きとめられる若者が、川島から離れてはならなかった。しかし、そうでなければ、状況を知り得ることはできなかった。
門番に命令すれば、と考えたが、事情を知らぬ門番が、川島をどう引きとめるのか、やり方次第では、乱暴な捕縛になってしまう。川島も、大人しく捕まりはするだろうが、それでは川島が、不信と疑念を抱いてしまう。それは、最後の手段だ。この段階では、よろしくない。
川島を無理やり引きとめる。
川島をひとりで森に向かわせる。
川島と誰かを森に向かわせる。
誰を?
川島も重要人物だが、この若者も、この町の要人だ。危険な場所に行かせるわけにはいかない。これは、もう自分が行くしかないのか。むむむ。悩む老人の視界に、川島と男をその場に留め、後ろに並んでいた者たちを順番に検問して、町へ通している、本来の仕事を忠実に務めている門番が、目に入った。
「あの門番、名前をなんと言ったか。」
「サイモン、だったかと。」
「サイモンか。」
老人は、最後の1組を検問し終わったサイモンのもとへと、歩み寄った。
「これは、魔術師様。」
かしずく門番へ、老人は、ひと言述べた。
「サイモン、ひとつ仕事を頼まれてくれぬか。」
「は?」




