商人マルコ
この作品は、フィクションです。作品に登場する人物名・団体名・その他名称などは架空であり、実在する人物・団体・その他名称などとは一切関係ありません。
悪魔がいた。
いや、悪魔が検問の列にすんなり並んでいるというのもおかしな話だ。しかし、悪魔がいるとすれば、ああいう姿をしているに違いない。全身黒尽くめで、恐ろしい顔をしている。あんな恐ろしい顔は、見たことがない。
ちらりちらりと見ていると、何度か目が合ってしまう。なんと恐ろしい目をしているのだ。思わず顔を背けてしまう。まさか、あの悪魔のような奴は、町へ入ろうとしているのだろうか。もう一度見てみると、ハッキリと目が合った。自分を見ているのだ。しくじった。こちらが何度も見ていたからか、捕捉されてしまった。恐ろしい、もう見られない。神さま。
早く町へ、という願いと、後ろの悪魔のような男も一緒に町に入ってしまったら、という不安が混じり、とにもかくにも、神へお祈りするしかなかった。
その内、前で並んでいた男が、通行手形を落としたとかで、揉め始めた。
早く諦めて、通行手形の紛失を届け出て、再発行を申請するなり、落としたという通行手形を探しにいけばいいのに、なんとかならないか、と喚いている。何とかなるわけがないだろう。今は特に、そんな状況じゃないのは、町中のみんながよくわかっている。再発行の料金をケチって、ゴネている時間がもったいない。夜になる前に、早くみんな町へ入りたいんだ。
しかし、文句を言っているのは、らんぼうもののヨゼフだ。下手に口を出して、面倒に巻き込まれるのもいやだ。ああ、何とかならないだろうか。ヨゼフは偏屈で、揉め出すと長い。日暮れまでに、自分たちだけでも入りたい。ああ、神さま。
そこへ現れたのは、神さまではなく、悪魔だった。
悪魔が列から離れ、揉めているヨゼフを見ている。
もしかして、これから恐ろしいことがはじまるのではないか。商人マルコは、必死で神に祈った。




