大久保の無信心と怖がりの山田
この作品は、フィクションです。作品に登場する人物名・団体名・その他名称などは架空であり、実在する人物・団体・その他名称などとは一切関係ありません。
比嶋開発に、大久保という、信心のない男が居た。罰当たり、という概念が存在しない男だ。
例えば、ある家の塀に酔っ払いが立小便をする。家の人が困って、その対策に、小さな鳥居を置いてみた。それだけで、被害に合わなくなった。そういう話をよく聞くだろう。大久保は、そういうところに平気で立小便をしてしまう。他人の家に立小便をしてはいけない、というモラルはある。もよおして、トイレが見つからないまま限界に達し、やむなく塀に立小便をする選択をした場合、そこに鳥居のあるなしは、大久保に何も及ぼさない。
内装解体でも、たまに神棚が残っていたりする。大久保は、嫌がる他の作業員を退けて、躊躇なくバールで引きずり落とす。
そういう男だから、きちんとしたい川島の現場では、出入禁止扱いになっている。
運転手の身内に、急な不幸が起こる。運搬中に荷崩れしてしまう。仮設材は、まだ搬入できていなかった。まだ続いていた。こうなると、運転手も嫌がり始める。運び手がいなくなる。
新田組の山下は、川島に断りを入れた上で、比嶋開発に大久保を運転手として出せないか、と打診した。大久保は、内装解体だけでなく、産廃を運搬するダンプの運転手も兼ねていた。免許はある。ただ、移動式クレーンの資格はない。車とクレーンの有資格者は、新田組が出すことになった。大久保の隣には、新田組の若い衆の山田がちょこんと座った。
会社の命令だから、仕方ないが、本音は関わりたくない。山田は、内心ひやひやしながら、大久保の横で、こじんまりと座っていた。
大久保は、信心はないが、荒くれものというわけではない。余所の会社の車を、ぶつけたりするわけにはいかない。安全運転で、現場へ向かった。
運転中、時折横で、「わっ」とか「ひゃっ」と叫ぶ新田組の若い衆を、始めは無視していたが、現場に近づくにつれて、うるさくなってきた。
「静かにしてくれ。運転に集中できない。」
山田は、そこからは、目をつむった。
先入観で、怖い怖いと思い込んでいるからか、目の端に映るもの、動くもの、すべてが何かに見えてしまった。その都度、驚いては小さく叫んでいた。バス停の案内表示板が人影に見えてしまい、「うわあ」と叫んだところで、大久保に睨まれた。
そこからは、目をつむり、口も噤んだ。
ここまで小心者だとは、山下も知らなかった。新田組は、それなりの社員数を抱えた会社だ。山下は、若い衆の隅々にまで、その性格までを把握しているわけではない。怖がりと分かっていれば、乗せなかっただろうが、怖がりだったからこそ、逆に良かったのかもしれない。怖がりが度を過ぎると、恐怖の対象をシャットアウトするからだ。
山田は、シャットアウトした。
大久保は、神仏を信じていないのだから、当然、オカルトに類するものも信じていない。
どちらも、超自然を拒絶した者となった。
仮設材は、やっと現場に搬入された。




