狐憑き
この作品は、フィクションです。作品に登場する人物名・団体名・その他名称などは架空であり、実在する人物・団体・その他名称などとは一切関係ありません。
宮田の息子は、ふたりいる。母親似の武大が兄、父親似の雄大が弟。ふたりともやんちゃで、宮田兄弟と言えば、地元ではそれなりの顔だった、らしい。成長して、兄は、飲食の世界に、弟は、塗装屋になった。
弟の雄大と川島は面識がある。川島が担当した旅館の新築工事に、塗装工としてやってきてから、何度か現場が一緒になった。休憩で雑談をしていると、川島さんさー、よくうちの親父なんかと一緒に飲めるよね、と明るく笑っていた。
雄大とは、差しで何回か飲んだ。いつも悪いから、今回は俺が出すよ、などと言われても、親父さんに何度も奢ってもらっているから、そういうわけにはいかない、と突っぱねた。結婚について、相談らしきことも受けた。
今付き合っている女と一緒になりたい。でも、まだ自分は半人前だから、躊躇している、という悩みだった。諭すように言った。一人前になってしまうと、全部、ひとりでできるようになってしまう。片割れがいらなくなるんだ。半人前の内に、半人前同士でくっついて、ふたりで一人前ってのが、きっといいんだ。結婚は勢いだろう。自分は、気づけば機会を失っていて、ここまできて、一人前になってしまった。一人前になってから、なんて言っていると、俺のようになるぞ。
俺のようになるぞ、が効いたのか、その年末には、結婚式に呼ばれた。
複雑だった。
だが、兄の武大については、よく知らない。弟の結婚式で見かけて、お袋さんにそっくりだなあ、という印象を抱いたくらいだ。
その武大が、7つか8つの頃、狐に憑かれたという。目が吊り上がり、手に負えないくらい暴れまわり。家からいなくなっては、あちこち走り回って、ぎゃーぎゃー喚いていたという。病院で診せても、無駄だった。困り果てた頃、宮田の妻の実家、松野家の本家から紹介があった。
それが、大平信子である。
地元では知られた泉質のいい温泉を通り過ぎて、山手に上った直ぐのところにある立派な平屋の家が、大平信子の家である。
大平信子に、何やら唄をうたってもらい、お狐さまを祓ってもらったという。
この土日に、そこへ行こうと思い立った。温泉もある。温泉に入るついでに、ちょっと見に行ってみようと、計画した。せっかく、土日が休みだし、どこかに行きたい気分もあった。




