絵島の調査
この作品は、フィクションです。作品に登場する人物名・団体名・その他名称などは架空であり、実在する人物・団体・その他名称などとは一切関係ありません。
川島から経緯を聞いた絵島は、仮設材が間違って搬入された現場に、仲の良いオペレーターがいるのを知って、電話をかけた。
「うちに持ってくるはずだった足場、そっちに持って行ったらしいな。」
「そうそう、ごめんなあ。」
「で、どのバカがおろせなんて言ったんだ?」
「いやそれがな、そんなことを言った奴、いないんだわ。」
「まあ、名乗り出たら怒られるのは分かっているから、黙っているだけだろうな。」
電話を切った。
絵島は、体調の悪くなった運転手と仲のいいリース屋の営業を知っていたから、連絡を取り、どんな風に体調が悪くなったのか聞いてもらえないか、と頼んだ。
「怖い話、聞いちゃいましたよ。」
と営業は運転手から聞いた話を教えてくれた。
明け方、テレビが点けっ放しになっているのに気づいて、リモコンを手探りで見つけて、テレビを消してから、寝返りをうった。間もなく、またテレビがついた。寝返りの時に、リモコンに当たったのか。またリモコンを探して、ノールックでもう一度消した。リモコンを離れたところに置こうとしたら、またテレビがついた。壊れているのか、とテレビを見ると、砂嵐だった。デジタル放送ではあり得ないが、アナログ時代からテレビを見ているから、別に不思議とも思わず、リモコンでテレビを消した。すぐついた。消した、ついた。消した、ついた。消せない、消せない、消せない。
そして、消えなくなった。
狙いを定めて、強くボタンを押し込んでも無理だ。こうなったら、プラグを引っこ抜くしかないな、と身を起そうとしたら、画面の砂嵐から、じょじょに、人の顔が浮かんできた、ように見えた。
灰色の顔だ。
と思った瞬間、金縛りにあった。長かったのか、短かったのか、とにかく、うんうんと唸っていると、家人がその様子に気づいて、救急車を呼んだ。
「本当に怖い話じゃないか。」
と驚いた演技をして、その運転手は、もしかして最初に現場を間違えた奴と同じか?と問うと、同じだ、と答えたので、じゃあ、その運転手に、もうひとつ聞いてもらえないか、と頼んだ。
3日目に、仮設材を運んだのは、新田組の積載型トラッククレーンだった。運転していた鳶は良く知る人物だったので、そいつにも電話をかけた。
「絵島さん。当て逃げや当たり屋は聞いたことあるけど、当たりそうになり逃げは初めてっすよ。」
冗談交じりに、鳶の若い衆は、事故について語り始めた。
山下からきつく、朝イチに確実に現場へ届けろ、と厳命を受けていたから、その日は早く出社した。駐車場のど真ん中に、宵積みされたトラックは止まっていた。颯爽と乗り込み、出発した。バイパスを直進し、右折左折を繰り返し、見通しの悪いカーブに差し掛かり、カーブミラーを確認しながら慎重に曲がった瞬間、目の前に突然、人が現れた。道路の真ん中に、人が居た。いる筈のない人が居た。慌ててハンドルを切って、斜面にぶつかる。車は横転、しかし幸い、大きなケガはなかった。
「山下さんに相当怒られたんすけど、カーブミラーには本当に、人間なんかうつってなかったんすよ!」
「そうかそうか。で、そいつは、どんな色の服を着ていた?」
「え?ああ、えーと、たぶん、グレーすかね。」
灰色。
リースの営業からも回答がきた。
「グレーの作業服きた奴って言ってました。」
灰色、か。
絵島は、得体の知れない、不穏な何かを、感じていた。




