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9、無視

 毎日、毎日、セイフィード様は私を真綿に包み込むように優しく、世話をしてくれている。

甘々で、少しエッチな毎日。

私の怪我も体調も魔法ですぐに治っていたのに、私はその快適な生活に浸かり過ぎて、抜け出せないでいる。


 特にセイフィード様が私の髪の毛を洗ってくれた時には、天にも昇る心地良さだった。

ついでに髪も拭いてくれ一瞬のうちに魔法で乾かしてくれる。

しまいには、薔薇の香油を髪につけ、上手に梳かしてもくれた。

まぁ、セイフィード様が私の体を洗う洗わないで一悶着は合ったけど⋯⋯。


 今、私達は執務室にいて、セイフィード様は仕事をしている。

守人の仕事は、魔界を封じている魔法陣に魔力を注いだりする事なのかと私は勝手に想像していたが、それはどうやら違うらしい。

守人は、その魔法陣の鍵的な存在で、開かぬよう、開けられてしまわぬように鍵を掛けるのが守人らしい。

だから守人は別にその魔法陣に魔力など注がない。

ただ、守人が魔界にいるだけで鍵が閉まる。


 守人の仕事は主に調整役がメインらしい。

魔界と人間界の人や物の流通の調整役。

もちろん守人の自国を最優先にするが、その他にも国はいっぱいあるし、魔界にも色々な種族がいるから、とても大変らしい。


 だから私は仕事の邪魔をしないよう、執務室の隣にある図書室に行くことにした。

この図書室は執務室と繋がっているため自由に行き来出来る。

また、この城の図書室の蔵書量はとても多い。

無限に本があると言っても過言じゃない。

私は気になった本を手に取ったが、腕輪がないため本が開かなかった。

さすが魔界にある本だけに、魔力がなければどれも開くことができない。


「セイフィード様、腕輪ってまだ改良できてないのでしょうか?」


「⋯⋯⋯⋯」


「セイフィード様?」


「出来ている」


「そうなんですね! 早く下さい。お願いします」


「アンナ、腕輪をつける前に約束するんだ。第1に絶対に無謀なことをしない事。第2に何かあったら俺に言う事、第3に俺の言うことは守る事、第4に城の領地、門から絶対に出ない事。第5に魔界の草花に触れない事、第6に城の地下には絶対に行かない事。全て守れなければ腕輪は渡せない」


「守る事いっぱいありますね。でも、地下には何があるんですか? 絶対に行くなと言われると、逆に行きたくなってしまいます」


「城の地下には牢屋がある」


「ぜっ、絶対に行きません。6項目全て守ります。だから腕輪下さい」


「わかった。必ず守るんだ。」


「はい。セイフィード様」


 セイフィード様は私に腕輪を付けてくれた。

以前、付けていたセイフィード様でしか取り外す事が出来ない腕輪。

セイフィード様って、束縛魔で心配性なんだな⋯⋯。

もう、魔界には私とセイフィード様二人きりなんだし、束縛する必要ないと思うのに。

でも、これでようやくダラけきった生活から脱出できる。


「それと、アンナの部屋も俺の部屋の隣に用意させたから、あとで行くといい」


「はい。ありがとうございます。早速行ってきます。あと、台所にも行きたいです。お菓子とか作ってもいいですか?」


「構わない。材料はあるだろうから好きなだけ使うといい」


 私は執務室を出て、早速、私の部屋に向かうことにした。


 城って大きい。

こんなに大きいと思っていなかった。

でも、隅々まで掃除が行き届いている。

ゴブリンさん、凄い真面目だよな⋯⋯、意外。

しかし、私は気づいてしまった。

私はゴブリンさん達に嫌われているという事を⋯⋯。

なぜならゴブリンさんにすれ違う度に私は「ご機嫌よう」と挨拶しているのに、無視される。

それも、私を見る目つきが明らかに、セイフィード様と違く、馬鹿にしたように私を見る。

仲良くとまではいかなくても、普通に接して欲しい。


 私は気を取り直し、セイフィード様が用意してくれた私の部屋に入った。

私の部屋は、隣のセイフィード様の部屋に行き来出来るように扉がついている。


 この私の部屋って、どことなくコルベーナ家の私の部屋に似ている。

白いテーブルに、白いソファー、白のドレッサーに、白の壁紙。

部屋全体が真っ白になんだけど、所々にライトグリーンの蔦の絵が描かれている。

懐かしい。


 違う点といえば、部屋の大きさが、コルベーナ家の部屋より3倍ほど大きいという事。

あと、ベッドが何故か無い。

そして大きな衣装部屋があるということ。

驚いたことに、衣装部屋には数々の私のドレスや服が用意されていた。

恐らく、ゴブリンさん達が仕立てたに違いない。

靴や、髪飾り、鞄や帽子などの小物も全て用意されている。

セイフィード様がこれらを用意してくれたかと思うと胸が熱くなる。


 私はドレスを手に取り夢中になって見ていたら、突然、背後から話しかけられた。

話し掛けてきたのは、ゴブリンさん。

このゴブリンさんは、ゴブリンさん達のリーダー的存在で、人間界でいう執事にあたる。


「おい女、お前はご主人様のなんなんだ?」


 いきなり凄い質問だな。

でも確かに、私ってセイフィード様の何だろう。

もう婚約者でもなくなっているし⋯⋯。

うーーん⋯⋯。


「元婚約者でしょうか⋯⋯」


「なんだそれ。そんな、なんでもねえ奴にこんな良い部屋を⋯⋯」


「なんでもなくないです。セイフィード様は私の事、愛してるって言ってくれました」


「ふーん。じゃあ愛人か? 娼婦か?」


 娼婦じゃないよね……。

そんな技術持ってないし。

てことは、愛人なのかな。

愛する人だし、そうなのかな。

うーん。なんか違う気もするけど。


「愛人でしょうか」


「ふーん。愛人か。なんで俺らが愛人の世話をしなきゃいけねえのか。いやだ、いやだ」


「ごめんなさい。自分でできる事は極力したいので、色々教えてください」


「ふんっ。なんで教えなきゃいけねえんだが。嫌だね。言っとくが俺らはご主人様の言う事は聞くが、愛人の言うことなんて聞かねえからな。そこんとこ立場わきまえろよ」


 執事ゴブリンはそう言うと、部屋から出て行ってしまった。

これは、前途多難。

確かに厄介者が突然一人増えちゃったんだもんね、嫌だよね。


 私は再度気分を取り直し、今度は台所に行くことにした。

もちろん台所に来たからには、お菓子を作る。

台所も、とても広く、効率的に出来ている。

ただ、ゴブリンさん仕様なので、全てが小さめに出来ている。

仕方がなく、私は座ってお菓子を作る事にした。

今回は肩慣らしの意味も込めてクッキーを作る。


 上手にクッキーが完成したら、ゴブリンさん達にもあげたい。

そうすれば少しでも仲良くなれるかも。

そんな考え、甘いかな⋯⋯。


 クッキーの生地が完成し、あとは焼くだけになった。

けれど、窯に火が入らない。

どうやらこの窯は魔法で火を起こさないとダメらしい。

もちろん、私は魔法ができないので、近くにいるゴブリンさんにお願いをしてみた。

物凄く丁寧にお願いしたのに、無視。

3人ほど声を掛けたが、その全員に無視される。

流石に心が折れかける。


 しかしその時、私の洋服を誰かがツンツンと引っ張る。

誰だろうと見ると、好奇心旺盛の目をした小さなゴブリンさんだった。

どうやらそのゴブリンさんは子供らしい。


「それ、焼きたいの?」


「うん。焼きたいんだけど、窯に火が起こせなくって困っているの」


「火を起こしてあげようか?」


「凄い、出来るの? 是非お願い」


「いいよ。その代わり、そのお菓子ができたら僕にも頂戴ね」


「もちろんあげるね。あ、私はアンナ。あなたのお名前も教えてほしいな」


「僕は、ルンだよ」


「素敵な名前ね。よろしくね、ルン」


「うん。アンナ、よろしく」


 ルンはそう言うと、窯に火をおこしてくれた。


「ありがとう。ルン。焼きあがるまで時間があるし、私と少しお話ししない? ルンのこと知りたいな」


「うん。いいよ」


 ルンは、色々お話ししてくれた。

ルンは8歳で母親はメイドさん、お父さんはコックで、城で働いている。

兄弟はルンを入れて3人で妹と弟がいる。

妹と弟は小さいので家でお婆ちゃんが面倒を見ているが、ルンはこうして度々城に来ては探検をしている。


 その後、クッキーも焼き上がり、少し冷ましてから、小分けにし袋に入れる。

合計で10袋ぐらいになったので、その内の3袋をルンに手渡した。

ルンは喜び、早速家に帰って皆んなで食べると言う。

残りの7袋を持ってとりあえず、私はセイフィード様の元へと戻ることにした。


「セイフィード様、ただいま戻りました。台所でクッキーを焼いたので、後で食べましょう」


「いい匂いがする。仕事がひと段落したらお茶にしよう」


「はい。それと私のお部屋、とても素敵で感動しました。ドレスも洋服も小物もいっぱいあって、とても嬉しいです。ありがとうございます」


「どういたしまして」


「でも、お部屋にベッドがありませんでした。待っていればそのうち設置していただけるのでしょうか?」


「ベッドはこれからも、俺のベッドを使うんだ」


 そう、そうなのだ。

最初こそ、一緒に寝ていなかったが、今は一緒に寝ている。

だいたい私が先に寝ていて、知らぬ間にセイフィード様が横に寝ている。

寝ている時には、セイフィード様は私にちょっかいを出してこないので、ぐっすり寝られる。

けれど、それが逆にもどかしいと言うか⋯⋯。

欲求不満じゃないけれど、私はHに興味があるし、いつかは、セイフィード様とHしたい。

いつ、私達はHするのだろう。

いっそのこと聞いてみたいが、自爆しそうなので躊躇われる。

うーーん、あっ、そうだ。

魔界の図書室だからHな本、一冊ぐらい置いてあるかもしれない。

それを読めば何かわかるかも。

私が早速、図書室に行こうとすると、執務室のドアを大きく叩く音が聞こえた。


ドンドン、「ご主人様、至急の要件がごぜえます。入ってもよろしいでしょうか?」


「あぁ、入れ」


「失礼します」


 執務室に現れたのは、執事ゴブリンだ。


「至急の要件とは、なんだ?」


「それが、それが、火竜の一族がお見えです。今、門の所で待っていて、ご主人様に御目通りしたいそうです」


「わかった。謁見の間に彼らを案内するんだ」


 火竜って、あの大きい火竜だよね。

私よりも10倍も大きい火竜だよね。

謁見って、どうやって城に入るんだろう⋯⋯。

あんなのが城に入ってきたら壊れちゃうよ。

一体全体どういう事だろう⋯⋯。




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