2、方法
セイフィード様が人間界を去って早2ヶ月、刻々と日々が過ぎ去るだけで、私は魔界に行く確実な方法を何一つ得ていなかった。
気づけば、もうメデオ日の前日。
メデオ日は、国が管理している道は必ず魔界に行けるよう、予め、守人と取り決めをしている。
それ以外の場所では、どこに魔界の道が開かれるかは、予測ができない。
予測出来ないが、至る所に魔界への道が開かれる。
だから、私はもう覚悟を決めていた。
首都を出て、魔界の道を探し、徒歩で行こうと。
きっと魔物に襲われたら、私は簡単に死んでしまう。
でも、もう、それでも良かった。
セイフィード様に会えないなら、もう、生きている意味がない、だから死んでも良かった。
それなのに⋯⋯、私の考えを見抜いていたのか、メデオ日の当日、私はずっと眠らされてしまった。
一日中ずっと。
その間、呪縛のように、幸せな夢、セイフィード様の夢を見た。
でも、目覚めれば、セイフィード様はいない。
なんて、残酷なんだ。
「ゾフィー兄様、どうして、どうして私を眠らせたの?」
「アンナ、もうセイフィードの事は忘れるんだ」
ゾフィー兄様はどこかの魔法使いに頼んで私を眠らさせた。
どうしてそんなことをするのだろう。
酷い、酷いよ。
もう、皆んな大嫌いだ。
私は家を飛び出し、セイフィード様の図書室に向った。
そこには、珍しく、セイフィード様のお父様が憔悴し、ぐったりと椅子に腰掛けていた。
「ごっ、ご機嫌よう。ネヴィリス伯爵」
「御機嫌よう、アンナ。ゾフィーから聞いたが魔界に単身乗り込もとしたらしいね。きっとセイフィードが知ったら激怒したよ」
「でも、激怒しようにもセイフィード様はいません」
「そうだね⋯⋯。セイフィードが君の体に何か魔法を施さなかったかい? 印が残るような、魔法を」
「はい、以前、体に印が残る魔法を私に施しました。まだあります。セイフィード様はその魔法について何も教えてくれませんでしたけど」
「それはね、おそらく身代りの魔法だよ。アンナが亡くなるような事が起きた場合、セイフィードが身代わりとなって死ぬ魔法だ。まぁ、その魔法は禁忌魔法だから成功する確率は低いけれど、セイフィードのことだ、必ず成功するだろう。だから君は生き続けなきゃいけない、命を大事にしなければならないよ」
「セイフィード様は、ずるいです」
「そうだね」
「あの、ネヴィリス伯爵は、昨日のメデオ日に、セイフィード様にお会いになったのでしょうか?」
「会ったよ⋯⋯」
「私、魔界に、セイフィード様がいる魔界に行くの諦めません。でも、私一人ではきっとすぐに魔物に殺されてしまいます。だから、お願いです。力を貸してください。私が魔物に殺されたらセイフィード様が死んでしまうんですよね。だったらセイフィード様のために力を貸してください」
「アンナも、ずるいね」
「ずるくても、何をしても私、セイフィード様に会いに行きます」
「そうか⋯⋯。だが、魔界に行く国の一団に、アンナを同行させる事は出来ない。他の方法を考えなければいけないよ」
「はい。私、ここにある魔界の本で、私が開けるものは全て読み尽くしました。でも、まだ何冊か私が開けない本があります。どうかお願いです、私にその本を読ませて下さい」
セイフィード様のお父様は椅子から立ち上がり、上級者向けの魔界の本を取り、また椅子に座るとその本を開いた。
私も、セイフィード様のお父様の隣の椅子に腰掛け、その本を読む。
セイフィード様のお父様はゆっくりとページをめくってくれる。
しかし、突然、セイフィード様のお父様のページをめくる手が止まり微かに震えだした。
私は、セイフィード様のお父様の顔をそっと覗き込むと、涙を流していた。
「アンナ、すまない⋯⋯」
私は、セイフィード様のお父様の背中を、優しくさする。
そうだよね⋯⋯、私だけじゃなく、セイフィード様のお父様だって悲しんでいる。
息子のセイフィード様が突然、いなくなってしまったのだから。
「アンナ、お願いだ。魔界に行ってセイフィードを救って欲しい。セイフィードの孤独を癒せるのは、アンナだけだ」
「はい、私、必ずセイフィード様の所に行きます。そしてセイフィード様が笑ってくれるように、幸せを感じてくれるように頑張ります」
「ありがとう。私もアンナが無事に魔界に行ける手立てはないか考えてみる」
「よろしくお願いします」
こうして私とセイフィード様のお父様は、一丸となって私が魔界に行く手立てを模索し始めた。
セイフィード様のお父様は、何かと時間を作り、図書室に顔を出してくれる。
ただ、上級者の魔界の本を読んでみても、やはり私が一人、魔界にたどり着けるのはかなり困難に思えた。
メデオ日には、セイフィード様のお父様は、国を代表して魔界に行く一団に加わり、セイフィード様に会う。
その一団は、全て見知った人しかおらず、まず、潜り込めないとのことだった。
もちろん、他の国も魔界に行き、セイフィード様と色々交渉するのだが、そちらもまず潜り込めないらしい。
セイフィード様のお父様に防御の魔法を施して貰って、私が魔界に行く方法も考えたけれど、その防御の魔法は強力だが一回限りで、もし多くの強い魔物に襲われたら対処できないとのこと。
戦士に依頼して魔界に行く事も考えたが、私を守りながら行く事になるので、かなりの屈強な戦士でも難しいらしい。
そもそも勝手に魔界に行く事は許されないので、そんな依頼を受ける戦士がいるかわからないとのこと。
もちろん、私は、天界の神殿に行き、セイフィード様と会えるよう祈願したけれど、奇跡は起きなかった。
そうして魔界に行く手立てが何も見つからないまま、何日も、何ヶ月も過ぎ去っていった。
その間、私は、毎日のように夜になると泣き続けた。
疲れて眠るまでずっと⋯⋯。
自分でもよくこんなに泣けるもんだと感心してしまうが、どうしても夜は寂しくなり、セイフィード様が恋しくなってしまう。
特に今は、メデオ日が近づいてきている、あと、一ヶ月もない。
それなのに、まだ私は魔界に行ける確実な方法を見つけ出せていない。
もしかしたら永遠にセイフィード様と会えないかもしれないと思うと、涙が滝のように流れ出てくる。
誰にも、この暗い思いを話せないので、私は毎晩、精霊が眠ると言われている杖に八つ当たりしまくった。
杖に向かってパンチしたり、頭をうちつけてみたり、念仏のようにセイフィード様の恨み辛みを言ったり、泣きながらセイフィード様への思いを口にしたり、時には抱きかかえながら寝たり、もう色々と⋯⋯。
そして今宵も私は杖に向かって八つ当たりをしていた。
「セイフィード様のバカバカっ」
「バカって言ってごめんなさい。グスっ、もう二度と言わないから、セイフィード様、ヒックっ、私を魔界に転移して下さい⋯⋯」
「会いたいよ⋯⋯、グスっ、会いたいよ⋯⋯、セイフィード様⋯⋯、グスっ」
「ええーーーーい、いい加減、煩いわい!!!」
「⋯⋯⋯⋯っえ?」
いま、なんか、声がしたような⋯⋯。
私は暗闇の中、キョロキョロと辺りを見回した。
けれど、何も、誰もいない。
気のせいかな⋯⋯。
「こっち、こっちだわい」
やっぱりなんか聞こえる。
とうとう、私、変になっちゃった?
「おーーい、おーーーい、うん? お前さん、もしや見えておらんのか?」
もしかして、もしかして⋯⋯、杖の精霊かも。
私は急いでセイフィード様から頂いた眼鏡を取り出し、掛けてみた。
すると、精霊らしき人が杖の上に立っている。




