11、告白
「ご機嫌よう、セイフィード様」
私はいつものように挨拶した。
今日は図書館ではなく庭園にあるガゼボに、セイフィード様がいる。
ただ、セイフィード様の周りには、いつもにも増して本が山積みになっていた⋯⋯。
何か調べ物をしてたのだろうか。
「なんだ、アンナ。ケーキ持ってこなかったのか、俺、結構、頑張ったはずだけどな」
「ご、ごめんなさい⋯⋯」
やっぱり、ケーキ手作りするべきだった⋯⋯。
次回は作って来よう⋯⋯、って次はないかもしれない。
「まぁ、いいや。座れよ」
セイフィード様は、自身が座っているすぐ隣の場所をトントン叩き、そこに座るよう催促した。
私は素直に従い、セイフィード様と触れるか触れないかの距離に腰を下ろす。
「わっ、わたし、今日は3つ、セイフィード様にお話しすることがあります!」
私は威勢良く、セイフィード様に宣誓した。
「奇遇だな、俺も3つある」
「えっ⋯⋯、なんでしょうか⋯⋯?」
「俺から話していいのか?」
「えぇ、どうぞお願いします」
もしかして⋯⋯、いきなりオリヴィア様のことだろうか⋯⋯。
緊張して手が汗ばむ⋯⋯。
「1つ目はジークのことだ。魔法陣学の助手のジーク、アンナが懐いていたジークだ」
「別に⋯⋯、懐いていません⋯⋯、けど、ジークさんがどうかしたんですか?」
「舞踏会の爆発の犯人はジークだ。それと6年前に魔法壁の亀裂をさせたのもジークだ。ただ、今はジークは行方不明で、魔法騎士団が必死に探索中だ」
「そんな⋯⋯、どうして⋯⋯」
「ジークは、貴族を憎んでいる。首都は貴族が多く集まっているから、魔法壁に亀裂を生じさせ、魔物に貴族を襲わせようと目論んだんだろう。第2王子は個人的に恨まれているそうだ。だから第2王子主催の舞踏会が狙われた。その詳細はまた後日聞けるだろう」
「ジークさん、私のことも嫌いだったのかな⋯⋯」
「さあな。ジークに好意を抱いていたのか?」
セイフィード様はじっと私の目を見つめる。
「抱いてません、好意なんて抱いてません。ただ、先生になって欲しいと応援してただけです」
「ふーん。次、アンナの番だ。話したいことって何?」
「あ、はい。1つ目は謝罪とお礼です!」
と私が話し始めると、突然セイフィード様は体勢を変え、後ろから包み込むように私を抱き寄せた。
「謝罪とお礼って、1つじゃなく2つなんじゃないか。まあ、いいや。続き話せよ」
セイフィード様は私の肩に頭を乗せながら呟いた。
「⋯⋯、ええっと⋯⋯、私の魔法陣ノートを見せた日ですけど⋯⋯バカって言ってごめんなさい」
私は、ちゃんと謝りたかったのに⋯⋯、セイフィード様が近すぎて⋯⋯胸が高鳴りすぎて⋯⋯、うまく言葉が出てこない。
「なんだ⋯⋯、そのことか⋯⋯。忘れてたよ」
セイフィード様は私の耳元で囁く。
「それとお礼ですが⋯⋯、舞踏会で転んだ時、助けて頂いて、ありがとうございます。それに拉致された時も助けて頂いて、本当にありがとうございます」
「あぁ」
セイフィード様は今度は私の髪を弄りだす⋯⋯。
その行為が、クスぐったいけど、気持ちが良くて⋯⋯、そして⋯⋯、私の体は、ほのかに熱を帯びた。
「俺の2つ目は、拉致の件だ。話をするというより、アンナに聞きたいことがある。なぜあの店に行った?」
「ええッと⋯⋯、それはジークさんに私の腕輪と同じものがその店に売っていると聞いて⋯⋯⋯⋯」
私は事細かくセイフィード様に説明した。
私が自分の腕輪を外してしまったこと、黒ずくめの不審な人物が私のノートを探してたこと、店の地下に監禁されたこと⋯⋯全部話した。
「アンナは、俺が近づくなと言ったジークの言葉を信用したんだな」
私の腰に手を回しているセイフィード様は、更に強く私を抱きしめる。
「ごめんなさい」
「俺の腕輪も、外したんだな⋯⋯」
「ごめんなさい⋯⋯、セイフィード様。本当に、本当に反省しています」
「その黒ずくめの不審な人物は、恐らくジークだ」
「ジークさんが、なんで、私なんかの魔法陣ノートを、そこまでして奪いたかったんでしょうか⋯⋯」
「それは、アンナが作る魔法陣は奇想天外なものだからだ。魔法壁にしろ、シールドにしろ、どんな攻撃魔法陣がくるか想定して作るんだが⋯⋯アンナのは想定外すぎるから通り抜けできてしまうんだ」
「そうなんだ⋯⋯」
「あの城での舞踏会も、アンナの魔法陣が一部使われていたせいで、魔法壁がうまく働かなかった」
「私⋯⋯、捕まったりしませんよね⋯⋯」
「大丈夫だ。そんなことは俺がさせない。で、アンナの2つ目の話って何?」
とうとう、とうとう、オリヴィア様のこと⋯⋯、話す時がきた。
緊張で体が汗ばむ⋯⋯。
怖い。
とても怖い。
でも、今日の目的は、オリヴィア様の婚約の件が主だ。
アンナ⋯⋯覚悟を決めるんだ!!!
頑張るんだ!アンナ。
私は自分自身を奮い立たせた。
そして、私は意を決っして、大きな声を上げた。
「オリヴィア様のことです!!!」
「オリヴィアがどうかしたのか?」
セイフィード様はオリヴィア様を呼び捨てにした⋯⋯。
仲いいんだ⋯⋯。
そう思ったら⋯⋯涙がこみ上げてきた。
でも、泣いちゃダメだ。
最後まで、話し続けなきゃ!
「オリヴィア様と婚約したって本当ですか?」
とうとう、私は言ってしまった⋯⋯。
セイフィード様の顔が怖くて見られない。
「⋯⋯⋯⋯」
セイフィード様は無言だ。
どうして、無言なの⋯⋯。
不安で胸が苦しい⋯⋯。
「どっ、どうなんですか?」
私はもう一度訊いた。
するとセイフィード様は私の手から、私のメモを奪い読んでしまう。
ーーメモーーーーーーーーーーーーー
1、セイフィード様に謝罪&お礼
2、オリヴィアさんの婚約のことを聞く。
3、婚約してたら別れる/婚約してなかったら告白
ーーーーーーーーーーーーーーーーー
「ふーん、婚約してたら別れるね」
セイフィード様はメモを読み上げながら私を横目で見る。
「婚約してるんですか⋯⋯?」
「婚約? オリヴィアと? してるわけがない」
「えっ⋯⋯、婚約してないんですか?」
「していない」
「お父様から聞いていないだけとか?」
「それはありえない。うちの父は縁談とか、そういうめんどくさいことには極力関わらないから、すぐに俺へ話が来る」
「⋯⋯⋯⋯そうなんだ。オリヴィア様はセイフィード様と婚約するって言ってたのに」
「アンナは、俺とオリヴィアが婚約すると思って、違う腕輪を購入しようとしたのか? 俺から離れるために」
「⋯⋯⋯⋯そうです」
「いいか、アンナ、何があっても俺から離れることは、許さない、わかったな」
「⋯⋯⋯⋯はい」
「で、俺は婚約してなかったわけだが」
「そうですね⋯⋯、はい⋯⋯⋯」
「このメモには婚約してなかったら、告白するって書いてあるぞ」
セイフィード様は、わざわざ私のメモを、私に見せながら、言葉を発した。
そして、セイフィード様は私の髪の毛をくるくると自身の指に巻きつけ口元に寄せる。
もう⋯⋯、これは⋯⋯、告白するしかない。
逃げられないし、今言わなければ、チャンスはもう巡ってこないかもしれない。
最後の踏ん張りだ、アンナ、頑張るんだ⋯⋯。
私は自分で自分自信を精一杯応援した。
「わっ、わたしは⋯⋯、セイフィード様のことが⋯⋯⋯⋯、だっ、だっ、大好きです」
私は言い切った。
ちゃんと告白ができた。
「そうか、わかった」
「え?」
わかったって⋯⋯⋯、どういうこと???
告白の返事で、“わかった” なんて想定外なんだけど⋯⋯。
「そうそう、俺の3つ目の件は腕輪だ。改良しておいたぞ」
セイフィード様はそう言うと、私に腕輪をはめてくれた。
「えっ⋯⋯⋯⋯、ええっと⋯⋯」
お礼を言わなきゃいけないのに、セイフィード様の “わかった” 発言で動揺している私は、うまく言葉が出てこない。
「この腕輪、俺しか外せないようにしたからな。色々と調べたが、アンナを守るためには、それが一番確実な方法だ」
セイフィード様は満足げに話す。
⋯⋯⋯⋯、なんかそれって私の脳裏に束縛という文字が浮かんだんだけど⋯⋯。
私がなんと答えていいか、戸惑っていると、メイドさんが迎えにきてしまった。
時間ですから帰りますよと言われて⋯⋯。
「じゃあ、アンナ。またな」
帰り際に、セイフィード様は珍しく、少し笑みを浮かべていた。




