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ファンタジーな世界に転生したのに魔法が使えません  作者: 花が咲く
第4章<アンナ特製魔方陣ノート>
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5、災難

 ラウル先生のお茶会への招待は、私とシャーロット宛だった。


「ラウル先生は、大変な美食家らしいから、楽しみですこと」


 シャーロットはとても嬉しそう。

私は、ラウル先生が美食家だなんて、今、初めて知った。

パーティー関連のシャーロットの情報網は、ほんと凄い。


「誰が、来るんだろ⋯⋯」


私は一番気になることをシャーロットに尋ねる。


「さぁ、日にちも迫っているから、調べようがないわね。でもきっと今回のお茶会で、ラウル先生は舞踏会で転んだことの名誉挽回(めいよばんかい)を、目論んでいるのですわ。だから舞踏会にいた人達が招待されていることと思うわ」


「セイフィード様、来るかな?」


私は、今度は直球でシャーロットに訊いてみた。

私の今の関心ごとは、セイフィード様だけだ。


「それは、難しいでしょうね。あの事件のせいで忙しいらしいもの。でも腕輪の魔力は、まだ大丈夫そうなのでしょう」


「うん。腕輪の魔力はまだ大丈夫」


 大丈夫だけど、十分ではない。

余裕はあまりない感じだ⋯⋯⋯。

はぁ⋯⋯、セイフィード様と会えないんだ。

だったらお茶会になんて行きたくないな⋯⋯。


そして私は、セイフィード様と会えないまま、ラウル先生のお茶会日を迎えた。


「ご機嫌よう、ラウル先生。招待して頂き、有難うございます」


「ご機嫌よう、シャーロット、アンナ。来てくれてとても嬉しいよ」


 ラウル先生は満面の笑みで、私達を出迎えてくれた。

ラウル先生のお茶会は庭園で(もよお)され、その庭園には素朴な花々が咲いており、とても心地が良い。

また、お茶菓子や軽食がそこかしこに配置されている。

どうやらビュッフェ形式のようだ。

参加人数は20人程で、(ほとん)どが舞踏会に出席していたメンバーだ。

セイフィード様はやっぱりいない⋯⋯。

しかし、あの赤い髪の女性、オリヴィア様は招待されていた。

オリヴィア様は舞踏会で私を(にら)んでいたし⋯⋯、ちょっと苦手意識があったので、私は見つからないように、シャーロットの影に小さく隠れていた。


 挨拶を済ませ、私とシャーロットは可愛らしい小さなケーキを2、3個選び、メイドさんに席まで運んでもらう。

席に着くと、香り豊かなハーブティーが、ティーカップに注がれる。

すると、ラウル先生も私達の席に着き、話しを始めた。


「この前の舞踏会では、すまなかったね」


 ラウル先生は頭を()きながら私に謝罪した。


「いえいえ、私も申し訳ございませんでした。転んでしまったけれど、ラウル先生とダンスできて楽しかったです」


 楽しかったけど、やっぱりもう転ぶのは勘弁して欲しい。

きっと、もう誰も私をダンスには誘ってくれないはず。

でも、別にダンス好きじゃないからいいけど⋯⋯ね。

でもでも、やっぱりセイフィード様に1回くらいダンスに誘われたい。


「そう言ってもらえて、私も嬉しいよ、アンナ」


 ラウル先生は本当に嬉しそう。

なんか、ラウル先生を見ていると和むなぁ⋯⋯。


「ウフフ、でもラウル先生とアンナが転んだおかげて、わたくしと第2王子は怪我しなくてすみましたわ」


「あはは、確かにそうだ! アハハハハ」


ラウル先生は豪快に笑った。


「そうだ! アンナにお願いしたいことがあるんだ。良かったら、セイフィードが作った腕輪を見せてもらえるかな? どんな魔法陣を施しているか興味津々なのだよ」


「⋯⋯はい、わかりました。どうぞ」


 一瞬、腕輪を見せていいか躊躇(ちゅうちょ)したけど、ラウル先生なら問題ないよね。


「これは⋯⋯、うーーん、残念だ。どんな魔法陣を施してあるか見れないようになっている⋯⋯。無理やり(のぞ)くこともできそうだが⋯⋯、嫌な予感しかしない」


 私の腕輪を乗せたラウル先生の手の平がほのかに光っている。


「ラウル先生にも覗けない魔法陣があるんですね」


 魔法陣学の助手のジークさんが突如現れ、私達に話しかけてきた。

ジークさんもお茶会に招待されていた。

私は、ジークさんとはなるべく近づきたくなかったのに⋯⋯。

もしジークさんと楽しくお茶を飲んだことが、セイフィード様にバレたら、セイフィード様の機嫌を損ねそうで怖い。


「では、ラウル先生やジークさんも、この腕輪に魔力付与することはできないのかしら」


 シャーロットがラウル先生に尋ねる。


「うーん。残念ながら、そのようだ」


 たとえ、この腕輪にラウル先生やジークさんが魔力付与できたとしても、私はして欲しくない。

私の腕輪には、セイフィード様の魔力がこもっていて欲しい。

図々しいけど、いやなのだ。


 しばらくの間、私達4人でお茶を楽しんでいたが、話がひと段落済むと、ラウル先生とジークさんは、違う人のテーブルに行ってしまった。

その間、私は、ジークさんとお喋りをしないで済むように、常にティーカップを口元に寄せていた。

そのせいで、お茶を飲み過ぎてしまう。

とても、苦しい、ウプっ⋯⋯。

歩いたら、お腹からタプンタプンと音が聞こえそう。

なので、私はお腹が苦しいのを気付かれないように、1人離れ、木陰のベンチで休むことにした。

シャーロットは知り合いの人と、庭園を散策をするという。


 私はしばらく目を(つむ)り、そよ風が頬に当たるのを楽しんでいた。

しかし、目をうっすら開けると、いつのまにか、オリヴィア様が私の目の前にいた。


「ご機嫌よう、アンナ様。わたくしはオリヴィア・フォン・オズロー。わたくしのこと、もうご存知でしょう。舞踏会では災難でしたわね」


 オリヴィア様は不敵な笑みを浮かべ、私の隣に腰掛ける。

まじまじと近くでオリヴィア様を見たけど、本当に美しい。

肌がピカピカしていて、眩しいくらい。

そんなオリヴィア様に対して、私は精一杯の笑顔とお世辞で受け答えした。


「ご、ご機嫌よう。そうですね、クイーンオブハートの呼び名を噂に聞いています。素敵ですね」


「クスっ、ありがとう。アンナ様は……、クイーンオブスリップかしら」


 うん!?スリップって⋯⋯、あれだよね。

転ぶのスリップだよね。

“クイーンオブスリップ” って、つまり “転びの女王” ってことだよね。

凄い嫌味だ⋯⋯。

こ、こわい。

きっと舞踏会で私が転んだ時、セイフィード様が私を助けたから、それを(ねた)んでるんだ。


「わたくし、まどろっこしいのは嫌いなの。なので、単刀直入に言わせて貰うわ。アンナ様、セイフィード様から身を引いて頂けますかしら」


 オリヴィア様は冷たい視線を私に投げ掛け、はっきり言い放つ。

そしてオリヴィア様は優雅に扇子を振りながら、私の返答を待っている。


「どうして⋯⋯、どうして、オリヴィア様に、そんなこと言われなきゃいけないんですか」


「あら、そんなこともお分かりにならないのかしら。私とセイフィード様はいずれ婚約して結婚するもの。だからわたくしには言う権利がありますのよ」


私を見下し、バカにしたように、オリヴィア様は述べた。


「婚約⋯⋯、本当に⋯⋯?」


冷や水を浴びせられたような気分とは、まさに今このことだ。

血の気が無くなり、体が急速に冷える。

信じられない⋯⋯、セイフィード様が婚約なんて⋯⋯。

目が潤み、景色がぼやける⋯⋯。

なっ、泣いちゃダメだ⋯⋯、今はダメ。


「クスっ、今、わたくしのお父様と、セイフィード様のお父様で縁談を進めているところですわ」


「そんな⋯⋯」


「クスっ。それにアンナ様は、聞くところによると、魔力がないんですってね。そんな方がセイフィード様の近くにいらっしゃるなんて、さぞセイフィード様は迷惑に思っていることと思いますわ」


「⋯⋯⋯⋯」


魔力がないことを言われると、私は言い返せない。


「それに、アンナ様は魔力がないことをいいことに、セイフィード様から魔力を搾取(さくしゅ)してらっしゃるとか。浅ましいですわ」


オリヴィア様は軽蔑の目で私を見る。


「搾取だなんて⋯⋯、セイフィード様はそんな風には思っていないと思います」


「まぁ、ではアンナ様は、反対にセイフィード様に何かしてあげられることが、お有りなのかしら」


「それは⋯⋯、何もないです」


 今は、セイフィード様の宿題もできていない。

私には何もない⋯⋯。

私には、セイフィード様にしてあげられることが何1つない。

それどころか、オリヴィア様が言う通り迷惑をかけている。


「クスっ。わたくしには色々ございますわ。わたくしには富もありますし、魔力も強いですわ」


 オリヴィア様は勝ち誇ったように私に言い、席を立つ。

私はもう、何も言い返せない。


「では、アンナ様。この事はくれぐれも忘れなき様お願いします。それでは失礼させて頂きますわ」


 オリヴィア様は手を小さく振りながら、私から去っていった。

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