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ファンタジーな世界に転生したのに魔法が使えません  作者: 花が咲く
第4章<アンナ特製魔方陣ノート>
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2、王子

 私は家に戻ると誰にも見つからないように、すぐに自分の部屋に(こも)った。


 泣いている姿なんか、見られたくない。

誰かに見られたら心配をかけてしまう⋯⋯。

私はベットの上で、顔を枕に埋め、必死に泣き声を()らさないようにした。


 セイフィード様、何も燃やさなくてもいいのに……。

燃やすなら、あのページ、ウラン爆弾のページだけ燃やせばいいのに、なんで全部燃しちゃったんだろ。

今回ばかりは、いくらセイフィード様でも、許さないんだから⋯⋯。




………でも、わかってる。

本当は、わかっている。

私が悪いって、わかってる。

でも、どうしてもセイフィード様のこと、許せない!


 私は泣き疲れ、しばらくの間、ベットの上でふてくさっていた。

近くに、潰れかかったチーズケーキの箱を眺めながら。


 あーぁ、チーズケーキどうしよう。

私、一人で食べるしかないよね。

太りそう……。

また、セイフィードに重いって言われちゃうかな。

……でも、そういう機会さえ、もうないかもしれない。


……どうしよう、これから。

セイフィード様から魔力を、もう貰えないかもしれない。

そう考えたら怖くて、悲しくて、また涙が(あふ)れた。


 舞踏会があと数日に迫っているのに、ダンスの練習もせず、私はダラダラと、だらしなく過ごした。

ゾフィー兄様から舞踏会用のドレスを頂いたのに、気分が一向に晴れない。

はぁ、こんな私、私自身嫌だ。

いっそのこと、素直にセイフィード様に謝ろうか⋯⋯、と何度も思った。

けど、どうしても“アンナ特製魔法陣ノート“を燃やされた光景が浮かび上がり、そのたびにセイフィード様を許せなくなってしまう。


 そして、とうとう舞踏会当日になってしまった。

セイフィード様も出席するってシャーロットは言っていたけど⋯⋯、私は、会いたいような会いたくないような複雑な心境だった。


 舞踏会は城の中にある”ラー神の()”で華やかに開催される。

ラー神は美の女神で、“ラー神の()”はその美しいラー神の彫刻や絵画が飾られている。

そのラー神の()の中央奥に第2王子様がいた。


 第2王子は、21歳で噂通り、筋肉隆々のダビデ象みたいな人物だった。

身長も2メートルぐらいあり、肩幅が広く、王子というより屈強な戦士に見える。

また、この舞踏会が気に食わないのか、だらしなく椅子に座ってイライラし、周りを威嚇(いかく)しまくっている。


 王子でなおかつ21歳で婚約者もいないなんて珍しいと思っていたが、本人を見たら納得した。

こういう貴族社会が、ほとほと嫌いに見える。

シャーロットが絶対に好きにならないタイプだ。

それに私も、もっと王子様らしい王子が見てみたかった⋯⋯。


 しかし、シャーロットの父親、コルベーナ侯爵の策略で事前に第2王子とシャーロットはダンスすることになっているらしい。

なので、第2王子はシャーロットに気づくと、めんどくさそうにこっちに近づいてきた。


「シャーロット、大丈夫?」


私はこっそり訊いてみた。


「何がかしら? わたくしは、何も問題ありませんわ。それよりアンナのその暗い顔の方が心配ですわ」


 やっぱりシャーロットには、私に何かあったってバレているんだ。


「はぁ、めんどぃ。俺、君と踊らないとこの場から退去できないんだよね」


 第2王子は、頭をボリボリ()き、面倒くさそうにシャーロットに声をかける。

なんだ、この王子っ、失礼すぎる。

私が王子に一言、文句を言いそうになると、シャーロットが制してくれた。


「それは、お気の毒ですこと」


 シャーロットは貴族らしく優雅に笑みを浮かべながら応えた。

すると第2王子は、私なんか気にもとめず、シャーロットの手を強引に引き寄せ、ダンスフロアに足を進める。


 第2王子は壮烈に、スピード感がある踊りをし、みんなの目を惹きつけた。

シャーロットも、第2王子の速さに難なく合わせ、キレのある踊りをしている。

運動音痴の私には到底できないダンスだった。


 私は第2王子とシャーロットのダンスに魅入っていたら、遠くの方にセイフィード様が見えた。

セイフィード様は濃い青色のベルベットのジャケットを羽織っており、気品に(あふ)れ、いつも通りカッコいい。

しかし、いつも一人でいるセイフィード様の隣に、女性がいる。

その女性は、燃えるような赤い髪に、陶器のような肌を持つ美しい女性だ。


 私が思っ切り、セイフィード様とその女性をじっと見ていたら、その女性は私をバカにしたようにクスリと笑った。

セイフィード様は、私と、私の腕輪を一瞥(いちべつ)すると、すぐにそっぽを向いてしまった。


 今すぐ、シャーロットにあの女性は誰なのか聞きたい。

なんなら、セイフィード様に直接問いただしたい。

別に私は彼女じゃないけど、この女性は誰なんですか、セイフィード様とどういうご関係なんですかって問いただしたい。


 私がずっとガン見してたら、その女性とセイフィード様は連れ立って、事もあろうか、ダンスをし始めた。

そして、セイフィード様とその赤い髪の女性は優雅で、セクシーに踊った。

こちらも皆んなの目を惹きつけた。


 私は嫉妬のどす黒い感情に支配され、赤い髪の女性に呪いの念を送った。

転けろ〜、転けろ〜、転けてしまえ〜と。


 でも、転けるわけなく⋯⋯、赤い髪の女性は満面の笑みをセイフィード様に向けている。

セイフィード様は無表情だ。

何考えているか全くわからない。


「私も踊りたい……」


私もセイフィード様と踊りたいと思ったことが口から漏れた時、後ろから話しかけられた。


「では、私とご一緒にしていただけるかな」


 和かに私を誘ってくれたのは、ラウル先生だった。

魔方陣学のラウル先生だ。


「ラウル先生! ラウル先生もいらしていたんですね」


「まぁ、私も独身貴族だからね。人数合わせで、たまに呼ばれるんだよ」


「私、あまりダンスが上手じゃないんですが、大丈夫でしょうか」


「問題ない。私も下手だから気にすることないよ」


 私とラウル先生は、ダンスフロアに向かい、ぎこちないながらも音楽に合わせ、踊り始めた。

私達は、シャーロットやセイフィード様と反対で、下手すぎて皆んなの注目を集めてしまった。

あちこちから、せせら笑う声が聞こえてくる。

ダンスの練習を、もう少し頑張るべきだった、と私は今更ながら後悔した。


 私は恥ずかしくて、早くダンスが終わらないかと気を揉んでいたが、ラウル先生は、私よりド下手なのに、周りを気にせず笑顔でダンスを楽しんでいる。

そんなラウル先生を見ていたら、こっちまで愉快になってきた。

お互い笑顔になった私たちは調子に乗って、ちょっと難しいターンをしてしまった。


 ターンをし始めた瞬間、ラウル先生の足が絡まり、足を(ひね)り、私を道ずれにして倒れ込んだ。


「バターン!」


 大きな音が、ラー神の()に響き渡った。

その瞬間、みんなの目線が集まり、嘲笑(ちょうしょう)の声があがった。


 私は恥ずかしさと、身体を打ち付けた痛さで茫然自失(ぼうぜんじしつ)になってしまった。

遠くの方で、シャーロットが心配な面持ちで駆け寄ろうとしてくれてるのが目に入り、急いで体を起こそうと試みた。

その時、私の目の前に一本の手が差し出された。


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