↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ファンタジーな世界に転生したのに魔法が使えません  作者: 花が咲く
第3章<魔法陣コンテスト>
18/87

7、祭典

 

 汚れを拭うために私の口元、唇に、指で触れたセイフィード様は、魅惑的に微笑んでいる。

私は、セイフィード様の指の感覚が、まだ私の唇に残っていて身動きできない。

すると、セイフィード様は自分のハンカチで指の汚れを拭き取り、私の手を握った。

そして、「いくぞ」とセイフィード様は言うと、私の手を引っ張りながら神殿へと急いだ。

私は恥ずかしいけれど、手を握ってくれたのがとても嬉しくて⋯⋯、私の心は舞い上がった。


 神殿の中も、多くの人がいたが、セイフィード様に特別席が用意されていた。

私も同じくセイフィード様の隣の特別席に座ったが、なんとなく気恥ずかしく肩身が狭い。


 ウー様の誕生日の祭典が始まろうとしている時、私は静かに息苦しさに耐えていた。

苦しい⋯⋯。

とても息が苦しい⋯⋯。

考えないようにしているが、一息つくごとに、変な脂汗が噴出す。

おそらく、コルセットがいつもより数倍きついのに、あんな肉の塊を食べたからだ。

目の前に(かすみ)がかかってくる。


「おい、アンナ。大丈夫か?顔が真っ青だぞ」


セイフィード様は小声で私に話しかけた。


「ちょっ、ちょっと苦しくて⋯⋯」


声を出すのも、苦しい⋯⋯。


「出るぞ」


セイフィード様は私の腕を取り立ち上がらせようとしたが、私は(こば)んだ。


「で、でも⋯⋯もうすぐ、ウー様が来るかもしれないから、待ちたい⋯です」


誕生日にウー様が神殿に現れる確率は70パーセントぐらいだ。

現れないかもしれないが、私はこのチャンスにかけたい。

どうしても、(とど)まりたい。


「ダメだ、出るぞ」


 セイフィード様は、私を担ぎ上げた。

それも、お姫様抱っこで。

苦しくなかったら、天にも昇る心地なのに⋯⋯。


 セイフィード様に抱えられ、私達が神殿の別室に入った時、祭典会場から大きな歓声が聞こえた。

ウー様が現れたにちがいない。

私は自分の不甲斐なさで、涙ぐむ。


「また来年、来ればいい」


 セイフィード様はそう言うと、私を優しくソファーに降ろしてくれた。

でも、来年じゃダメなんだ。

来年になったら、セイフィード様は18歳になって結婚できてしまう。

結婚はしないまでも、婚約ぐらい誰かとしてしまうに違いない。

そう考えたら、涙が(あふ)れでた。


「苦しいのか。コルセットを緩めてやる」


セイフィード様は、私のドレスを脱がせ始めた。

イヤイヤイヤ、セイフィード様、誤解してる。

涙が出たのは苦しいんじゃなくて、悲しいからなのに。

それにしても、この状況は、まずい!

恥ずかしいっていうレベルじゃない。


「セ、セイフィード様。だ、だいじょうぶです。少し休めばきっと落ち着きます」


私はセイフィード様を拒もうとしたが、ドレスを脱がす方が早い。

セイフィード様、手際良すぎじゃないか⋯⋯。

私のドレスは、はだけ、コルセットがむき出しになる。

そのコルセットをセイフィード様は、素早く緩めてくれる。

その途端、私は息苦しさから解放された。


「どうだ? 楽になったか?」


セイフィード様は心配そうに私を見る。

いかがわしい気持ちなんて全く感じられない。


「はい⋯⋯。とても楽になりました」


楽になったけど、恥ずかしい。

とてもじゃないが、セイフィード様を見られない。

とりあえず、落ち着かなきゃ。

深呼吸しよう。

深く、深呼吸しよう。


「そうか」


セイフィード様は、自身のジャケットを脱ぎ、私に羽織わせてくれた。


「⋯⋯今日はせっかくセイフィード様が誘って頂いたのに、迷惑かけて、ごめんなさい」


「慣れているから大丈夫だ、気にするな。何か飲むものを持ってきてやるから少し待ってろ」


セイフィード様は、部屋から出て行った。

静まり返った部屋で私は、再度、大きく深呼吸する。

また、服を着たら苦しくなるし、今のうちに空気を沢山、吸わなければっ。


ふーはー。

ふーはーーー。

私の深呼吸音だけが部屋にこだまする。

ようやく、体も、気持ちも落ち着いた時、部屋の真ん中が、突如光り輝いた。


「ふぃふぉふぉ、久し振りじゃのぉ。乙女よ」


相変わらずサンタクロースのように話すウー様が光、の中から現れた。


「⋯⋯⋯ウー様!!!」


「いやはや、それにしてもお主の格好、どうしたものかのぉ」


「いや、その、これはコルセットがきつくて⋯⋯。何も怪しいことはしていません」


「ふぉっふぉっふぉっ、若いっていいもんじゃ」


「だから、違うんです!」


「まぁ、よいよい。それで元気にしておったかいの?わしゃ、お主のこと、気にかけておったんじゃ」


「元気は元気ですけど⋯⋯、私、魔力がないんです! どういうことですか! ウー様」


「⋯⋯⋯⋯⋯⋯おぉ! 失念してたわ。そうか、お主の世界では魔力がなかったな、たしか⋯⋯」


「そうです! 今からでもいいんで、私に魔力をつけて下さい。お願いします」


私はウー様を拝みながら一生懸命お願いした。


「それは無理じゃ」 


ウー様はアッサリとハッキリ断言した。


「どうして、無理なんですか!? 私はもうこの世界の住人ですし、その神であるウー様なら、なんでも可能じゃないんですか」


私は食い下がる。

このチャンスを逃してなるものか…。


「魔力は魂に宿るもんじゃ。もう、お主の魂は体である物質と融合しとるからのぉ。まぁ、死んで魂だけになったら魔力をつけることは可能じゃ」


「でもでも、神様自身は物質化したり、精神化したりするじゃないですか。私も同じように、一旦私の魂を抜いて、魔力をつけてから再度、私の体に戻してもらうことはできないんですか?」


私はしぶとく、必死に食い下がる。


「そもそも神と人間は、魂も体も、構造がちがうからのぉ。やめておいた方がいいぞ。魂を抜くことはできるが、再度その魂がお主の体に戻る保証はないぞ。体が拒絶する場合だってあるじゃろうし、そもそも、そんなことしたことないからの。危険じゃ、死ぬことになるかもしれんぞ」


「そんな⋯⋯」


「諦めろ、乙女よ。まぁ、今度死んだ時には必ず魔力はつけてやるわい、じゃから安心せい」


ウー様は呑気に笑顔で私を諭す。


「⋯⋯⋯⋯⋯はい」


「そうそう、大事なことを忘れておったわい。これをお主にやろう、お守りじゃ」 


ウー様は私に小さなビー玉のような石をくれた。


「あ、ありがとうございます。でも、なんのお守りですか?」


「少し、気になることがあってのぉ⋯⋯。もしものためのお守りじゃ」


全く持ってわからないお守りということが、私にはわかった。


「そろそろ式典に戻らねば!早く戻って来いと煩いわい。ではな、乙女よ」


「ウー様、来ていただいて、ありがとうございました」


満面の笑みをしたウー様が、光に包まれ消えた。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。