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ワクワクを100倍にしてパーティーの主役になろう

 ギルド内は打って変わってざわついていた。

 突如やってきたFランクの新米冒険者が、Sランクの冒険者を見付けて声をかけたことが発端だ。

 そのSランクの冒険者は、小柄な少女で、界隈でこう呼ばれていた。


 『双刃のベルセルク』――。


 彼女は二つの剣を扱い、二刀流で戦う剣士として、名の知れた実力者だった。

 その実力は折り紙付きで、たった一人でランクA対象モンスターの、怪鳥フライング・デビルを仕留めたこともあると噂されていた。

 齢にして十四。まだ少女と言って間違いない彼女は、その細身の体からは想像できない高ステータスを持っているのだ。


「あ、あいつ……、双刃のベルセルクに声をかけやがった!」

 どこか近づきがたい雰囲気を持つ、その超級冒険者の少女は、ギルドの中で一人、静かにしていることが多い。

 彼女はパーティーを組んでいないのだ。

 ソロ・クエスターとしても有名で、彼女と共にクエストに出発しても、仲間として務まるものがいないためだと言われていた。


「双刃のベルセルクと組んだ奴は、あの二本の剣の動きについていけず、傷だらけで帰ってくるっていうぜ……」

 二つの剣で舞うように戦う彼女は、その剣の舞を敵味方問わずに暴れ回り、近づくもの全てを切り刻む。

 そのことから、『双刃のベルセルク』と異名が付けられたのだ。


「おめえが一番、強えぇ。オラたちの仲間になってくれ」

 クウゴは、そんな相手に、気さくに話しかけていた。

 エリは後ろで蒼い顔をしていた。周囲の冒険者たちの噂話が嫌でも耳に入ってくる。

 なんという相手に声をかけたのだろうと、絶句していた。


「ボクは、誰とも組みません」

「そう言わないで頼むよ。冒険についてくるだけでいいからさ」

「……ボクの力が目当てなんじゃないんですか?」

「オラたち、早くAランクにあがりてぇんだ。そんで、ドラゴンをこの世界から全部倒すつもりなんだ」

「は……? ドラゴンを、全部、たおす?」

「そうそう。でも、昨日冒険者ライセンスを貰ったばっかで、Aランクのクエストが受けられねぇんだ。でも、Sランクの冒険者がいたらAランクのクエストに行ってもいいって言われたもんでな」


 クウゴは包み隠さず、ありのままを伝えた。

 なんの悪びれた様子もなく、飄々とした態度でそう言うので、少女はぽかんとクウゴを見上げていた。


「もしかして……あなたは、『バカ』なんですか?」

「え……。やっぱり、ヘンなんかな……。オラ、山育ちで常識がねえってよく言われるんだ……」

「……!」

「ク、クーゴ! やっぱり非常識だよ、諦めてFランクの依頼を受けよう?」


 エリがいたたまれなくなって、クウゴを捕まえ、少女のもとから引きはがそうとした。


「待って。クーゴって言うんですか?」

「お、おう。オラ、クウゴ。こっちはエリ」

 少女はエリのほうをちらりと見て、すぐにクウゴに視線を合わせた。


「ねえ、クーゴはバカなんですか?」

「そ、そんなハッキリ言われっと、傷つくんだけど、常識がねぇのは確かかもしれねぇ」


 それは仕方ない話だ。異世界転生してきて、この世界の常識なんか学ぶ暇などなかった。

 バカかどうかは分からないが、非常識なのは確かだろう。


 少女は暫く、じっとクウゴを見つめていた。

 クウゴはたじろいだものの、その目を真っすぐに見下ろしていた。

 エリとは違うくせっ毛で、ふわふわとしたウェーブの髪をしていた。ピンクのリボンをアクセントにしていて、愛らしさすらある。

 黄金色の瞳は琥珀みたいに美しい。

 とても『双刃のベルセルク』なんてあだ名がついているとは思えない。


「……分かりました。付いていくだけでいいなら、パーティーに参加します」

「へっ!?」


 素っ頓狂な声を出して驚いたのはエリだ。


「いいのか? 助かるぞ!」

「ボクの名前は、エマクオン。よろしくおねがいします」


 クウゴは握手を求めて手を差し出した。エマクオンはその手に応え、椅子から立ち上がり、小さな手で握って来た。


「うそだろぉぉぉぉぉっ!?」


 途端、周囲の冒険者たちは絶叫して驚いていた。

 孤高の冒険者のように噂され、隣に立つものを切り刻むような狂戦士であるエマクオンが、Fランクのパーティーに加わったのだ。

 驚かないはずがない。


「んじゃ、早速このクエストに行こうぜ。Aランクの、パーフェクトオーガ退治だ」

「分かりました。でも本当にボクは、いっさい手伝いませんよ。付いていくだけです。あなたたちが死んでしまっても責任は持ちません」

「でぇじょうぶだ。オラが一人で、オーガを倒して見せっから」


 どん、と自分の胸を叩き、クウゴはニカっと笑った。

 ざわつくギルドの中を進み、またカウンターまでやってくると、クウゴは受付嬢に、Aランクのクエストを手渡した。


「これで良いんだよな!」

「あ……はい……。受領を確認しました……」


 受付嬢も何が起こったのか分からないみたいで、狐につままれたような顔だった。

 それは同じパーティーメンバーのエリも同様だった。


 なぜ、急にエマクオンが仲間になってくれたのか分からない。

 そして、本当にAランクのクエストにこれから向かうことになったのが信じられない。


「ね、ねえ!? クーゴ、ほ、本気なの!? エマクオンはいっさい手伝わないって言ってるのよ!?」

「手伝いません」

「ほらぁ!」

「心配すんな。ドラゴンを全部倒してみせっから」

「ド、ドラゴン以前に、パーフェクトオーガなんだけど!?」


 こうして、波乱に満ちたパーティーが出来上がった。

 三人目の仲間、エマクオン。その異名『双刃のベルセルク』。

 二刀流の使い手であり、Sランクの冒険者。果たしてここからどうなっていくのか、エリにはもう想像もできなかった。


 表情の変化に乏しいエマクオンは、何を考えているのかまるで掴めない。

 自信満々のクウゴは、世の中の道理を理解しておらず、ハチャメチャだ。


 そう、ハチャメチャが押し寄せてくるのを実感していた。

 泣いている場合ではないかもしれないが、エリは泣きそうだった。


「ね、ねえ、エマクオン? ほ、本当にSランクなの? ライセンスを見せてくれない?」

 エリは何かの間違いではないかと希望を思い描きながら、エマクオンのライセンスを見せてもらおうと頼んだ。

 エマクオンは、黙ってそっと自分のライセンスステータスを見せてくれた。


◆――――――――――――――――――――◆


 名前:エマクオン

 装備:妖刀『血桜』

    首切り村正

    反逆の衣

    可愛いお花のリボン


◆――――――――――――――――――――◆


「装備こわっ! リボン場違い!」

 思わず突っ込まずにいられない装備に、エリは声を上げていた。

 更にエマクオンのステータスが表示される。


◆――――――――――――――――――――◆


 レベル:70

 HP:739

 MP:470

 力:840

 守:751

 魔:406

 心:598

 速:774

 技能:【二刀流】【不意打ち無効】【先手】

    【状態耐性〇】【二回攻撃】【超級】

    【威圧】【精神統一】【反撃】


◆――――――――――――――――――――◆


 凄まじいステータスだった。

 まず間違いなく、エマクオンはSランクの実力者だと分かる。

 エリはヒクついた表情で、そのステータスを何度も見直すが、間違いない。

 彼女は正真正銘、最強クラスの冒険者だった。

 フライング・デビルを一人で倒したという話も納得できてしまう。

 MPなどの魔法使い系ステータスは低めだが、剣士としての必要な能力はずば抜けている。

 技能も高ランクのものでガチガチに固められているので、この数値以上の実力が、エマクオンにはあるだろう。


「すっげえな、エマクオン。強えぇとは思ったけど、こうやってステータスで見ると、はっきり分かるもんだなあ」

 クウゴは感心していたが、エマクオン本人は、すぐにライセンスをひっこめた。

「ボクは戦わない約束ですからね」

「分かってるって」

「……本気でドラゴンを退治するつもりですか? みたところ、お二人のステータスはしょぼしょぼですが?」

 エマクオンのほうが、怪訝な顔をしていた。

 それはそうだろう。クウゴもエリも、Aランクには到底届かないステータスだし、ドラゴンどころか、本当にパーフェクトオーガを一匹も倒せないような実力のように見えた。

 今回の依頼を、Sランクの力を頼りにしてクリアしようとしているなら、見捨ててやるくらいの考えは、エマクオンにもあった。


「オラは本気だ。この世界のドラゴンを全部やっつけて、のんびり生活してぇと思ってる」

 クウゴは親指を立てて笑みを浮かべた。


「っちゅーわけで、早速パーフェクトオーガの住処に行って、壊滅させに行っか」

「……うう、行くしかないのね」

「パーフェクトオーガの住処は、ここから南西に五日ほどの距離にある山の砦ですね」


 エマクオンが地図を確認し、今回の依頼のターゲットの居城を指し示した。


「五日か……。遠いな。往復で十日……。時間がかかり過ぎだ」

「仕方ないわ。山だし馬は使えない。急いで退治したいのは分かるけど、慌てて体力を減らして戦うなんて危険だもん」

 慎重に行こうとエリはアドバイスしたつもりだった。

 だが、クウゴはうーん、と腕組みをしていた。


「そうだな、仕方ねえ」

 と、言ってクウゴは納得したように頷く。

 エリは歩いていく間に何かしっかりと作戦を練って、戦術で優位を取り、今回の難題を突破しようかと考えた。


「飛んでいこう」

「……な、なに? と、飛ぶ?」

「ああ、ちょっと人目につくとやべぇから、二人とも付いてきてくれ」

「……?」


 エリとエマクオンは二人で顔を見合わせた。

 クウゴが何を言っているのか意味が分からなかったのだ。


 クウゴはスタスタとギルドから離れ、人目につかない場所を探して歩いて行った。

 二人は困惑の中、クウゴのマントを追うのだった――。

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